23 ディアナとレイナは歓迎される
翌日の早朝。
ディアナたちを乗せた馬車は、宿を出発した。
馬車に乗っているのはエドモンド王子と大聖女レイナ、そしてお弟子の聖女という事にしてある。
ディアナの事は、生きていることがソリアーノ王国に伝わるといけないので、名前は一部の者にしか教えていない。
ファビオはというと、本来の従者らしく今回は馬でその馬車の横を並走していた。
そして、その馬車の前後には、馬に乗った騎士が計四十騎ほどで警護をする。
さらにその後ろには、昨晩準備のために来てくれた侍女たちが乗る馬車が三台ほど続いた。
「エドモンド。そういう服もよく似合うわね」
ディアナが、エドモンドの王子らしい精悍な軍服姿を見て。
「君が望むなら、毎日でも着るよ。そういう君こそ、清楚で可憐だ。もちろん豪華なドレスも似合うだろうが」
「エドモンドったら……」
ディアナ用に用意してくれた服は、聖女らしく白い法衣を思わせる服の上に、更に白地に銀の刺繍が入ったマントコートの様な上着を羽織っている。
「ほらほら。二人の世界に入らない。私もいることを忘れないでおくれよ」
と、横からレイナ。
「レイナさんも素晴らしい。大聖女らしく、品があり神々しい」
「はいはい、わかったよ」
エドモンドはレイナも普通に褒めたのだが、レイナはそれをディアナの付け足しのように感じたのはしょうがないだろう。
レイナが続ける。
「しかし、本当ならこんな堅ぐるしい服は着たくはないんだがね」
レイナの方も同じく白の法衣を思わせる服の上に、白地に金の刺繍が入ったマントコートのような上着を羽織っていた。
「城の医師や癒し手たちを黙らせるためですよ。大聖女とわかればあっさりと患者を譲ってくれるでしょう」
耳がとがっているからレイナがエルフだという事は見れば分かるのだが、人間とエルフの交流はここ数百年の間途絶えているので、彼らが本当に不思議な魔法を使えるのか、あるいはただの伝説なのかという事もよくわからなくなっている。
そして医師たちは、どこの馬の骨かわからないような者には自分の患者を任せたくはないものだ。
下手な治療をされて、さらに容態が悪くなったら困る。
患者が国王であればなおさらだ。
しかし相手が大聖女であると分かれば、簡単に引き下がってくれるだろう。
さらに、国王の側近や大臣たちもレイナたちがもし汚い格好で現れたら、王子に面と向かって異を唱える事は無いだろうが、その力を疑い眉をひそめるぐらいの事はするだろう。
それをレイナやディアナが気づいたら、二人に嫌な思いをさせてしまう。
それらを考えてのことだった。
「しかし、外見で人を判断するようじゃ、大したことはないな」
と、レイナ。
「まあ、念のためです」
実は、エドモンドがレイナに大聖女らしい服装をさせたのは、もう一つ理由がある。
それは、王都に入ったら沿道に民衆が待っており、彼らからの歓迎を受けてもらいたいと思っているからだ。
その時はやはり、こういった服の方が民衆も感動し盛り上がるものだ。
昼近くになると、やがてコンフォーニ王国の王都が見えてくる。
王都は直径四キロメートルほどの大きさがあり、この世界では有数の大都会だ。
この王都よりも大きい都は、北にある帝国の帝都ぐらいなものだろう。
ちなみに、ディアナの祖国ソリアーノ王国の王都はもう少し小さく、直径は三キロメートル程だ。
その王都の中心の小高い丘に、白く綺麗なデザインの大きな王城が建っているのが見えた。
やがて一行が王都に到着すると、門の前には王都を守る兵士たちが整列して出迎えた。
さらに王都内に入れば沿道に民衆が出ていて、拍手や歓声が聞こえてくる。
「なんだこれは? 王子が帰還したのを喜んでいるのか?」
レイナが訝し気に聞いた。
「皆、大聖女とその弟子の聖女を歓迎しているのですよ」
と、エドモンド。
「な……」
「手を振ってあげたらどうです」
レイナがエドモンドをジロっとにらんだ。
「ハメおったな?」
「いいじゃないですか。かつての栄光を思い出しましたか?」
「まったく……」
レイナは、約百年前に大聖女をしていた際には、どこに行ってもいつもこういう歓迎を受けていたのだ。
しかしレイナは、自分の夫が老いて他界した後は、後を人間の聖女に任せて森の中で生活するようになった。
それ以来、歴史の中から姿を消していたわけだ。
そして今回、父の病をなんとか治したいと思っていたエドモンドは色々な文献を調べた。
その際に大聖女の記述を見つけ、その当時の様子が書かれた文献を読んで知っていたエドモンドがそれを再現したわけだ。
観念したレイナが笑顔で窓から手を振ると、民衆からどよめきが起こった。
レイナが美しいということもあるだろうが、大聖女と言えば女神にも等しいとも言われているので、みなが感動しているのだ。
「さあ、ディアナも。君も聖女という触れ込みになっているから」
「私も?」
「実際そうだろうし」
ディアナも反対の窓から、にこやかに手を振る。
すると、さらに歓声が大きくなった。
ディアナたちを乗せた馬車は、歓声のなか王城へ到着した。
ところが、そこの門の手前でレイナが馬車を止めさせる。
「ちょっと、止めてくれ」
「止まれ!」
エドモンドが外にいるファビオを通じて隊列を止めた。
そして、レイナに理由を聞く。
「どうしました?」
「こう歓迎されては、応えぬわけにはいかないだろ?」
「それは、皆が喜びます」
「いいかい。やり方を見ておくんだよ」
レイナはディアナにそう言って馬車を降りる。
三人は馬車を降りて、レイナが王城の門の前にあるスペースの前の方に立ち、ディアナとエドモンドがその斜め後ろに立った。
王城の門はスロープを上がった少し高い位置にあるので、城の前の広場に集まった民衆からよく見える。
すると、民衆からさらに歓声が上がった。
レイナは民衆の方を向き、優雅に天に両手を差し伸べるような仕草をする。
「この者たちに癒しと恩寵を賜らんことを。『神恵』」
レイナがそう唱えると空に掛かっていた薄雲が割れて、その上の方からこの王都全体に光が降り注いだ。
民衆の間から、そこかしこでどよめきが聞こえてくる。
「この光は?」
「なんと、神々しい」
「膝が痛いのが治った!」
「私も、調子が悪かったのが良くなったわ」
「ケガがなおったぞ」
「すばらしい!」
「大聖女様!」
それを見て、エドモンドが片膝をついた。
「文献の通りなのですね? 大聖女様。民になり代わりお礼を申し上げます」
ディアナも膝を少し曲げながら、レイナに対して頭を垂れる。
レイナは皆が見ている前なので、大聖女らしく振舞った。
「礼には及びません。王子よ。さあ、お立ちください」
立ち上がったエドモンドとディアナに、レイナはウインクをした。
しかし二人は、レイナがいつもと違い真面目に大聖女を演じているのでおかしくなり、笑うまいと必死のようだ。
城の玄関まではあと二百メートル程だが、三人は再び馬車に乗る。
馬車のドアが閉まると、ディアナとエドモンドはとうとうこらえきれなくなって思わず噴き出した。
「ぷっ」「あはは」
レイナはムスッとする。
「何だい二人とも。せっかく私が大聖女らしく振舞ったのに」
「だって……」
ディアナは、まだお腹を抱えている。
「まあ、確かに芝居がかっていたかもな。あー肩が凝った。だから嫌なんだ。公の場は」
「でも、もうちょっと我慢してください。ほら、玄関に大臣たちが出迎えに出ています」
エドモンドがそう言って窓の外を指した。
馬車はすぐに玄関前に横付けされる。
三人が馬車を降りると、大臣や騎士団長などこの国の幹部たちが整列して出迎えてくれた。
筆頭大臣が代表で挨拶する。
「おかえりなさいませ、殿下。大聖女様ならびに聖女様。ようこそ、コンフォーニへ」
レイナとディアナは、彼らに会釈で返す。
「父の容体は?」
エドモンドが聞いた。
「あれから、変わられた様子はありません」
今度はエドモンドがレイナとディアナに聞く。
「一度、部屋で休みますか?」
「いや。このまま王の寝所へ」
と、レイナ。
「わかりました」




