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17 ディアナは村へ向かう

 魔法の練習を始めてから四日が過ぎ、ディアナはいくつかの魔法を習得することができた。

 五日目の今日は、レイナに付いてこれから近くの村へ向かうところだ。

 

 近くと言っても、森の中を普通に歩くなら半日以上掛かる。

 そこで、習得したばかりの身体強化魔法を使って森の中を走っていくことになるのだが、森の中では木などを避けて走らなければならないのでスピードはあまり出せない。

 それでも、一時間程度で着けるはずだ。

 

 さらに、森の中を行けば途中で魔物に遭遇することもある。

 しかしそれらは、ディアナにとってちょうどいい実践訓練になるはずなので、レイナは連れていくことにしたわけだ。

 そして村に着いたら、レイナがいつもやっているようにディアナも村人のケガなどを治して練習をすることになる。


 この辺りの村でケガ人が出やすいのは、森が近いので魔物が時々やって来るからだ。

 宿場町のような大きめな集落には衛兵が常駐しているのだが、小さな村だとある程度の魔物は自分たちで駆除しなければならない。

 そのため村に住む狩人たちは、この辺りによく出没する魔物の駆除にはある程度慣れているのだが、それでもたまにはケガをすることがある。 


 その場合、もしレイナが来なければ、王都に持って行けば高く売れるような薬草を自分たちで使ってしまう事になる。

 レイナはそういう人々を治してあげて、代わりに食料を得ているわけだ。


 ちなみに、村の狩人たちが手に負えないような強い魔物が出れば、その時は王都から騎士団が来たり国から依頼を受けた冒険者が駆除してくれることになる。

 

 

「そういえば、家の戸口に鍵をかけていなかったみたいだけど大丈夫なの?」

ディアナがレイナに聞いた。


 レイナは小屋を出る際に、鍵を掛けたようには見えなかった。

 そういえば、戸口に鍵穴があったのかも定かではない。


「特別な結界の魔法を張っているからね。魔物だけではなく人間もここに家がある事に気が付かないし、中に入ることもできない」

「便利なのね」

「今練習している魔法が習得出来たら、次に教えるよ」

「ありがとう」


「さて、森の中では気を抜いてはいけないよ。昨日教えたことを実践してみな」

「うん」

 

 レイナが言ったのは、昨日練習した「探索」を試せという事だ。

 レイナ自身はすでに探索を終えて魔物がいることはわかっているが、ディアナの練習のために答えはまだ言わない。

 

 ここで、昨日ディアナが習った探索方法は二種類ある。

 

 一つは相手の魔力を察知する方法だ。

 この世界では人間も魔物も、個体差はあれど皆魔力を持っている。

 その魔力を感じ取る方法だ。

 これは、魔力に敏感でなければ使いこなせないが、練習すればするだけより正確に、そして距離も遠くまで分かるようになる。

 

 もう一つは、精霊に教えてもらう方法だ。

 これは、精霊と交流ができる者にしか使えないが、精霊が探してくれるので、精霊と話が出来れば練習の必要がない。

 

 ディアナは精霊による探索をしてみる事にした。

 つまり、精霊に魔物などがいないか調べてほしいと頼むわけだ。

 さらに精霊といつも交流していると、頼まなくても精霊の方から教えてくれるようになる。

 

 ディアナは精霊と交流を始めたばかりなので、口に出して頼むことにした。

「カーリー? 近くに魔物や人間がいたら教えてね」


 すると、普通の人には聞こえないような声でカーリーが応えた様な気がした。

  

(いいよー)

と。


 耳で聞こえたのではなく、直接頭の中に語り掛けてくるような感じだ。


 そして、探索の結果はすぐに返ってくる。

(いたよ。右の……ニ百キュービッ……ゴブリンが二匹……よ)


 しかし、ディアナは精霊との交流にまだ慣れていないので、途切れ途切れのように受け取った。

 それでも、言っていることはだいたい分かった。


 まず、キュービットという距離の単位は、人間の指の先から肘までの長さを基にした単位だ。

 つまり、百メートルほど離れた場所にゴブリンが二匹いるらしい。


 そしてゴブリンとは、背が小さく小鬼とも呼ばれている魔物だ。

 人のような形をしているが、身長は一メートル半ほど。

 頭には角が一本生えていて、拾ったナイフなどの武器を持っていることがある。


「ありがとう」

ディアナはカーリーに礼を言ってから、受け取った結果をレイナに言う。

「向こうの方向。二百キュービット離れたところに、ゴブリンが二匹いるみたい」

 

 ディアナがそう知らせると、レイナはうなずいた。

 予め自分で探索した内容と合っていたようだ。

 

「近いね。向こうが気づく前に、こちらから仕掛けようか。心の準備はいいかい?」


 普通の魔物は人間の言葉がわからないし、たとえわかったとしても話し合いができるような相手ではない。

 やるか、やられるかだ。

 

 そして、今ここでゴブリンを無視して先に進んでも、帰ってきた時に襲われるかもしれない。

 その時に万全な状態ならゴブリンぐらいは恐れるに足らないが、その時に体調が十分でなかったり魔力を使い切っていることもある。

 それなら先制攻撃をしてしまおうという事だ。

 

 そしてこれが、ディアナの初めての魔物との戦いになる。

 それでレイナは、心の準備ができているかを聞いたわけだ。


「いいわ」


 レイナとディアナは風下から二匹に近づいていく。

 木の間からそっと覗くと、ゴブリンたちは捕まえた小動物を食べようとしているところだった。

 

「じゃあ、やってごらん」

レイナがゴブリンに気づかれないように小さい声で。


「攻魔の玉」

ディアナは先日覚えた、魔物に対して攻撃ができる魔法を放った。


 練習で初めて放った時には、のろのろと飛んでいた玉だが、今はゴブリンに向かって高速で飛んでいく。

 石を投げるぐらいのスピードだ。

 ゴブリンのところに玉が到達すると、その玉が急に膨張して二匹を飲み込んだ。

 ゴブリンたちが気が付いた時にはもう遅い。

 二匹は消滅した。

 

「いいよ。完璧だ」


「やった」 

ディアナは小さくガッツポーズをした。


 

「さて。この向こうには三つの集落がある。一つはここから右の方に進めば宿場町フェレッテだ。真ん中はトゥーフォ村。左の方に行くと、ガポニ村だ。村はどちらも街道から少し奥まったところにある。どこがいい? だいたい距離は同じぐらいだ」

「と、言われても」


「こういう時は、精霊に頼るのも手だよ」

「精霊に?」

「精霊は少し先の未来がわかる。だから、精霊の導きに従えばいい方向に導いてくれる」


 レイナはここでも、精霊との交流法や活用法を教えてくれようとしているわけだ。

 

「聞けばいいの?」


「聞けばいいんだが、お前さんの場合はまだ精霊との対話に慣れていないから、こういう場合にはいい方法がある」

そう言ってレイナは近くに落ちている小枝を拾う。


 レイナはそれを顔の前に持ってきて、ディアナにやり方を教えるために声に出して言う。

「我らを良き方向へ導いてくれ」


 そして、その小枝を軽く放り投げた。


 すると風がさっと吹いて、地面に落ちた小枝が左の方を指した。


「これって、左に行けという事?」

「そういう事だな。左はガポニ村だ。では、自分の体に身体強化の魔法を掛けて走っていくよ。ついておいで」

「うん」  

   


 △▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 その頃エドモンドとファビオは、馬で街道を東南に進んでいた。

 ディアナたちが向かっているガポニ村の近くを通り過ぎ、その先の宿場町フェレッテに向かおうとしている。

 

 ガポニ村やトゥーフォ村は街道から少し離れたところにあるので、この地域に詳しい者でないと知らない。

 だから二人はガポニ村には気が付かず、地図にも載っている宿場町であるフェレッテに向かっていたわけだ。


「ディアナ殿はこっちに来ていると思うのか?」

ファビオがエドモンドに聞いた。


「勘だがな。王都に帰っていないのなら、自分の家の領地の方へ向かうだろう。魔物の襲撃場所とこの街道の間にある大きな森を南に迂回うかいすればフェレッテの近くに出る。とりあえずそこに行けば、何か手がかりがつかめると思うんだ。着いたら、まずは宿屋をあたってみよう」

「領地に向かっているとして、たしかに彼女が森を迂回したならそうかもしれない」

「彼女が、自分から深い森に入る事は無いだろう?」

「そうかな? 彼女は無茶をするような性格に見えたが。でもまあ領地に向かうなら、フェレッテは通るだろうし無駄にはならないか」


 エドモンドたちがそのまま街道を進もうとしていると、前方の脇から人が出てきて道に倒れこんだ。


「人だ」

と、ファビオ。


 二人は少し手前で馬を止める。

 

「盗賊のおとり役かもしれない。私が見てくるから、周囲に注意していてくれ」

エドモンドがファビオにそう言って、自分は馬を降りてその倒れた人に歩み寄る。


 倒れた人を介抱しようと油断して近づいたところを、倒れたふりをしてナイフで急に襲ってきたり、あるいは辺りに潜んでいる盗賊たちが襲ってくることはよくある事だ。

 その場合、おとりに近づいた者と後ろで見張っている者、どちらが安全とは言えない。

 馬に乗っている方が遠くまで見渡せる分、逆に弓矢の的になりやすいとも言える。

 だからファビオは、主人であるエドモンドが倒れた人間の様子を見に行くのを止めなかった。


「わかった」

ファビオは馬の上から、草むらに盗賊などが隠れていないかを探した。

 さらに剣を抜いて、飛んでくるかもしれない矢を警戒する。


 その間にエドモンドは倒れている男に注意深く近づき、男が手に刃物などを持っていないかを確かめてから声を掛けた。

「おい。どうした」  


「た……けて。村……魔物……」


「村が魔物に襲われたのか?」

エドモンドが聞き返したが、その男は気を失ったようだ。

 どこか骨折でもしていて、今まで痛みをこらえていたのかもしれない。


 エドモンドは、その男が出てきた方を見る。

 細い道はあるようだが、その先に村があるのかどうかは確認できなかった。

 

「どうする? 魔物は二人では手に負えない相手かも知れないぞ」

と、馬上からファビオが。


 この付近に出没する魔物の撃退に慣れているはずの村人がやられたのだ。

 何か狂暴な魔物が出たのかもしれない。


「そうかもしれない……」


 エドモンドは正義感が強いから、この二人だけで村に助けに向かうと言い出しそうだ。

 しかし、ファビオは従者だから、まずは主人の身の安全を考える。

 

「フェレッテまで行けば衛兵もいる。そこに俺たちが助けを呼びに行く手もある」

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