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16 アルファーノ家の様子、そしてディアナは身体強化を学ぶ

 ディアナが旅の途中に魔物に襲われたという知らせは、アルファーノ家にももたらされていた。

 

 バルサノ公爵の言い訳として、御前会議でオレガの宿場町の付近に魔物が出ることは知っていたが、その場所はオレガの手前だと思っていたそうだ。

 護衛した兵士たちもそう聞いていたので、オレガを過ぎた場所なら大丈夫だろうと、オレガから半日ほど先に進んだ空き地で昼の休憩をしたということだ。

 しかも出てきた魔物の数は御前会議で聞いていた数の三倍の四十匹ぐらいが出てきたそうで、さすがの精鋭の兵士たちもかなわなかったらしい。

 そして、命からがらバルサノ家に報告に戻った馬車の御者をしていた兵士は、報告を聞いたバルサノ公爵が、ディアナを守らず一人で帰った罰として処刑したという。 

 バルサノ家は謝罪とともにそのことを伝え、ディアナのかたきを討つために兵を百人規模で派遣して、その付近の魔物を徹底的に狩るつもりだと言ってきた。

 

 つまり、護衛をしていた兵士が御者も含めて七人とも死んでしまったという事で、アルファーノ家としてはそれ以上の詳しい話を聞くことが出来なかったわけだ。

 しかし、アルファーノ公爵はディアナが魔物にやられて死んだとは信じられなかった。 

 そこで公爵はすぐに自家の兵士を派遣して、襲われた現場を確認させ、同時にディアナの捜索を命じたのだった。

 


 そして今は、現場を確認してきた隊長の話を公爵が聞いている。

 そこに、ディアナの身の回りを世話していたソフィアも呼ばれていた。

 

「バルサノ家から伝えられた場所には、お嬢様の物と思われる荷物がありました。他には倒れたテーブルや兵士たちの鎧や剣などが数点残されていましたが、それ以外は兵士を含めてお嬢様のご遺体や血の跡などもありませんでした。さらに現場から王都までの途中の村なども確認しながら戻ってまいりましたが、お嬢様の消息は依然不明です。今も現場を中心に二十名で捜索を続けています」

「現場には娘の血の付いた服も、血の跡なども無かったのだな?」

「はい」


 公爵はそれを聞いて、色々な可能性を考えているようだ。

 

 隊長が続ける。

「さらに不審な点があります」


「ん?」


「現場に落ちていたバルサノ家の兵士たちの鎧ですが、少し錆が浮いていますし、付いていた血の跡ももっと古い物のように見えます」

そう言って隊長は、現地から持ってきた鎧を見せた。


 公爵はさらに少し考えてから、今度はソフィアに聞く。

「その荷物は、ディアナの物に間違いないか?」


 ソフィアが隊長が持ち帰った茶色のトランクのところに行き、中身を確認した。

「はい。これはお嬢様のお荷物です」 


「そうなると、荷物だけ置いて魔物に襲われた様に見せかけているのか?」


「現場付近には、たしかに魔物の足跡がありましたので、オオカミ型の魔物が来たことは間違いないと思われます」

と、隊長。


 すると、ソフィアが何かに気が付いたようだ。

「閣下。これをご覧ください」


「どうした?」

「この服は、手で布を切り取った跡があります」

「ん?」

「この形からすると、ほぼ四角に切り取ってあります。盗賊ならこんな高価な物を切り裂かないで売る事でしょう。つまり、お嬢様が必要な物を持ち運ぶために、自ら切り取られて包むのに使われたのではないかと」

「そういう事なのか?」


「入れたはずの庶民の服。化粧道具やお金が無く。さらに他の宝飾品や上等な生地の服は残っていのに、ある方から頂いた髪飾りだけがありません。ご自分が大切にされていた物と、当面必要な身の回りの物だけがないのです」

「庶民の服? ある方?」

「あっ。いえ。それは……」

「それは後で聞くとして。あの辺りは魔物は出るが、盗賊はすべて粛清しゅくせいされたと聞く。つまり、ディアナが持って行ったと考えるのが妥当か」

「お嬢様は出立の際、閣下から頂いた魔物除けのネックレスを首にしていらっしゃいましたから、やはり魔物に襲われはしたのでしょうが、その後逃ることが出来たのではないでしょうか」


「それなら、どうして姿をくらましたのだ……」

公爵は誰にともなく言った。


「私の意見を述べても構いませんか?」

と、隊長。


「聞こう」

「おそらくバルサノ家にハメられたのではないかと。バルサノ家の兵士が魔物と戦ったような跡もありませんでした。おそらくお嬢様はその場から動けない様に縛られるか何かして、魔物が出る場所に置き去りにされたのでないかと。しかし、ネックレスのおかげで難を逃れた。ですから、お嬢様はバルサノ家の兵士に見つかるのを恐れて、身を隠したのではないかと考えられます」


 公爵の顔が険しくなる。

「確かにそう考えると全ての辻褄が合うな。あの辺りはオオカミ型の魔物が出たという報告があったばかりだ。それを利用したという事か。バルサノめ。しかし、どうしてディアナを……」


 ディアナはバルサノ家のジェラルドと許嫁なわけだし、なぜ命を狙われるのかがわからなかった。


「しかし、証拠が何もありません。お嬢様を護送していた六人の兵士が魔物と戦って死んだというなら、そのうちの一人でも生きているのを見つければ、バルサノ家の嘘を証明できそうですが」

「うむ。しかし、生きていたとしても、しばらくは屋敷から外に出ないだろうな。あるいは王都から逃してバルサノ家の所領にでも囲っているか。とりあえず今はディアナの捜索だ。引き続き頼むぞ」

「はっ」



 △▽△▽△▽△▽△▽△▽



 次の日も、ディアナは魔法を学んでいく。

 午前中は、すでに覚えた魔法の復習をし、午後は新しい魔法だ。

  

「じゃあ今日は、実際に防御力強化と筋力強化の練習だ」

と、レイナ。


「いよいよ筋力強化ね?」

「筋力強化は、魔法によってお前さんでも重い岩を持ち上げることができるようになったり、重い剣を振るえるようになる」

「それは、すばらしいわ」

「でも、お前さんが剣を使うのはお勧めしないね」

「やっぱりダメ? 剣を振るえればカッコよさそうなんだけど」

「はは。どうせ、今まで剣を使ったことは無いだろう?」

「うん」

「いきなり剣を持っても、大したことはできないさ。魔法も剣もそうだが、基本が大事だ。もし剣を使いたければ、まずは剣術の稽古をしてからだな」

「それは時間がかかりそうだわ」

「だから当面は、お前さんは魔法で戦うか、剣を持った仲間を強化で補助すればいい」

「それがよさそうね」


「ではまず、昨日教えた魔力で全身を包む方法だ。これが簡単にできるようになっていれば、自分の防御力強化や筋力強化の魔法発動はかなり容易になる。では、練習の成果を見せておくれ」

 

 ディアナは魔力で全身を包んだ。

「こんな感じでどうかしら」

 

「だいぶ効率が良くなっているね。それで、これが筋力強化や防御力強化の基本になる。あとは、その包み込んだ魔力に何をさせるかだ」

「防御力強化や筋力強化、ということよね?」

「そういうことなんだが、魔法はイメージだ。その仕組みをよく理解していれば、より強く、そして細かいコントロールができる。例えば、まとった魔力に物を通さない機能を与えると、剣や矢の攻撃も通さなくなる。あるいは魔法を通さない様にすることもできる。それが防御力強化だ。そして、その強度は包み込んだ魔力の量に比例する。今それを、便宜的にからと呼ぼうか。始めから強力な殻を作ってもいいが、弱い殻をを何重にも重ねるやり方もあるんだ」

「イメージはなんとなくわかるわ。でも、弱い殻を何重にもするメリットは?」

「パターン化出来ることだね。そうすると、魔法の発動スピードが速くなる」

「そっか。守るたびに、この攻撃だったら魔力量をこのぐらい、なんて考えていたら遅くなるから、とりあえず条件反射の様にすばやく弱い殻を一枚まとって、それで持ちそうも無ければもう一枚出すとか」

「そういうことさ。そして『魔法の盾』は、そのやり方で今度は空中に盾を作ればいい。盾の形は丸でも四角でも構わない。自分の体を魔力で包むことができたんだから、単純な形の盾を作るのはそれよりも簡単だ。ちなみに、自分の得意な属性魔法で盾を作る方法もある。例えば風魔法が得意な者は風で盾を作れるし、水が得意なら水の盾を作ることもできるんだ」

「色々やり方があるのね?」

「今日はまずは、この魔法を完璧に使いこなせるようになろう」

「がんばるわ」


「次に筋力強化の場合は、体にまとった魔力を自分の筋肉の補助に使う。腕だけを強化することもできるが、重い物を持つときは全身に負担がかかるから、全身を強化しなければいけないよ」

「わかった」

「慣れてくれば、この防御力強化と筋力強化は合成して一つの魔法『身体強化』として掛けることもできるようになる。それじゃあ、防御力強化を繰り返し練習する前に、筋力強化を一度やってみようか」


「『筋力強化』 こう……かな?」


 ディアナは試しに腕だけを強化しようとしたが、今一つイメージがわかない様だ。


「イメージがわきにくければ、自分の背後に男性がいて、後ろから手を添えてくれるイメージでもいい」


 レイナがそんなことを言うものだから、ディアナはエドモンドをイメージしてしまった。

 顔が赤くなる。

 

 ディアナには許嫁のジェラルドがいたが、バルサノ家からあのような仕打ちを受けた時点で、すでに許嫁は解消だと思っている。

 元々ジェラルドの事はなんとも思っていないし、男性と言われて真っ先に思い浮かんだのがエドモンドだった。


「何を赤くなっているんだい? ははーん。こないだ言っていた、エドモンドだっけ? その人の事を考えたのかい?」

「恥ずかしいわ」

「若いっていいねぇ」


「そういえば、レイナさんは結婚とかは?」

「昔していたよ」

「同じエルフさんよね?」

「いや。人間の男さ」


「あっ……」


 ――そういえばレイナさんは数百歳なんだわ。

  という事は、相手の男性はもう生きてないって事よね?

  だから、こんな森の中で一人で住んでいるのよね。

  聞いたのはまずかったわ。

 

「気にしなくていいさ。相手はとっくに老いて死んでしまったが、私たちの子孫は元気に生きているからね」

そう言ったレイナの目は、子供をいつくしむような目になる。


「そうなのね。よかった」

 

「さて。じゃあ全身を筋力強化をして、そこの岩を持ち上げてみようか」


「うん……え?」

見ると、人の腰の高さまである大岩だ。


 ディアナは焦った。

 

 ――あ、あれを?

 

「なーに、簡単さ。魔力をまとう量を増やせば、どうってことない」  

「が、がんばりますぅ」



 △▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 ディアナが魔法の練習に悲鳴を上げてる頃、王都の南門には心配そうな顔をしたソフィアの姿があった。

 門を通る馬車の中や歩いて入って来る人の中に、ディアナがいないか探しているのだ。

 

 ディアナが魔物に襲われた現場の状況から、公爵もソフィアもディアナが生きてると信じている。

 バルサノ家に見つからないように、今まではどこかに隠れていたかも知れないが、二、三日程おけば大丈夫と思って王都に帰って来るかもしれない。

 それでソフィアは、王都内を歩いて屋敷に戻る際にバルサノに見つからない様に顔を隠すためのフード付きのローブと、あと万が一ディアナがお腹を空かせて帰って来たときの為に、すぐに食べられる物を手提てさげかごに用意して門で待っていたのだ。

 ソフィアの服は、いつものメイド服姿だった。

 

 すると、そこにエドモンドたちが通りかかる。

 馬で出かけて帰ってきたところの様だ。

 

「もしかして、ソフィア殿か?」

ファビオが気づいて話しかけた。


 二人とも馬から下りて、ソフィアのところに来る。


「あっ。これはファビオ様。エドモンド様も」

「こんなところで、いったい」 


 ソフィアは一瞬、ディアナの事を話していいかをためらった。

 公爵家の内部事情は勝手に漏らさないようにいつも言われているし、ディアナに許可をもらっていないのにディアナの素性をバラすのはよくないと思われたからだ。


 現在は公爵家の兵士たちが現場付近を中心にディアナを探してはいるが、もしかしたらディアナは王都へ帰る途中の森の中で倒れている可能性もある。

 そしてソフィアは、エドモンドたちがエルフを探すためにこの付近を森の中まで探し回っていることを聞いている。

 その際に、彼らならディアナの事も気に掛けてくれるではないかと思い、知っていることを話すことにした。


「実は……」 


 ソフィアはデイアナの素性や今回のいきさつなど、知っていることを話した。


「姉殿を守るために、わざわざ悪女のフリを?」

ファビオが聞いた。


「はい」

「ディアナ殿は、優しい方なんですね。それに勇気もおありだ」

「私もそう思います」


「ヴィオラ、いやディアナ……」

エドモンドはディアナを探すかのように、心配そうに南の方に目を向ける。 


 エドモンドは心がここにあらずという感じなので、ファビオがソフィアと話す。

「しかし、現場に血の跡も無かったという事は、やはりそのバルサノ家が嘘をついているという事でしょう。そして状況からすると、当初からそこでディアナ殿を亡き者にしようと計画していた可能性が高い」


 ファビオも公爵や隊長と同じ結輪に達したようだ。


「しかし、魔物が偶然出てくるのに任せたのでしょうか」

「いや。わざわざ森の近くで休憩したことを考えても、魔物の襲撃は偶然とは考えにくいですね」

「そうなると、魔物を操る事ができるのですか?」

「ごく一部の魔物なら。特にこの国の森に多く生息しているオオカミ型の魔物なら、犬笛のようなもので気をひくことも可能です」

「そうでしたか」


 ここで、やっとエドモンドが会話に加わる。

「状況からすると、ディアナ殿は逃げられたに違いない。我々もすぐに探しに行こう」

と、ファビオに。


「今から? せめて夕食を済ませてからにしないか?」

「時間がもったいない。こうしている間にもディアナ殿は、一人で心細い思いをしているに違いない」


 エドモンドがディアナに恋心を抱いているのは誰が見ても明らだ。

 彼女の事が心配で、今は何を言ってもダメだろう。


 ファビオは、ため息とともに首を左右に軽く振った。

「しょうがない。エドモンドは言い出したら聞かないからな」


「それでしたらこれを。お嬢様がお腹を空かせて帰られたときの為に、簡単な食事が入っています」

そう言ってソフィアは、持っていた手提げのかごを渡した。


 ディアナはよく、ソフィアにもいっしょに食べようと言ってくる事があるので、その時の為にちょうど二人分入っている。


「たすかります」

ファビオが受け取る。


「どうか、お嬢様をお願いします」


 エドモンドとファビオは馬にまたがり、ディアナを探しに南へ向かうのだった。

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