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12 ディアナは魔物に囲まれる

 イエローファングというのは、牙が黄色いのでつけられた名前だ。

 体は他のオオカミ型の魔物と同様に灰色の毛で覆われていて、体長は年月を重ねたものはけっこう大きい体格になるものもいるが、今回出てきたのは若い個体の様で一・六メートルぐらいだ。

 それでも鋭い牙で噛みつかれたら、重症は間違いない。


 イエローファングたちは飼いならされているわけではないので、笛を吹いたからと言って必ず来るわけではないが、まずは音で注意を引かれ、そこに食欲をそそる人間の匂いが微かにしてきたのだろう。

 森から姿を現した。

 

 十匹は森から出てくると一度立ち止まり、匂いをかいで獲物の方向を確かめる。

 そして、ディアナの方へ向かって速足でやって来た。

 さらに倒れているディアナを見つけると、そこからは勢いよく我先にと走って来る。

 

 ところがその時、ディアナがつけていたネックレスの魔道具が発動し、周りに結界が張られた。

 ほぼ透明の、ドーム状の結界だ。

 

 先頭の二匹のイエローファングは走ってきた勢いそのままにディアナに嚙みつこうとしてきたが、二メートルほど手前で見えない壁に思いきりぶつかって、その痛みに鳴き声を上げた。

 

 キャン、キャン

 キャイ~ン、キャイ~ン

 

 残りのイエローファングたちは、それを見て手前で止まる。

 しかし、それでもご馳走をあきらめることが出来ずに、結界の周りをうろついて唸り声を発した。

 

 ウー

 グルルル 

 

 どうやら結界の回りを歩いて、どこかに途切れがあって、ディアナに近づける所がないか調べているようだ。


 ところが、そのうちの数匹が先ほど兵士たちが残していった肉料理に気が付いた。

 数匹がそちらに向かうと、他のイエローファングたちもディアナの近くを離れてそちらに向かう。

 テーブルは倒され、草の上に散乱した肉をイエローファングたちは我先に食べ始める。

 

 そうしているうちに、ディアナは自分の体の解毒に成功して意識が戻り始めた。

  

 ――なんとかなったわ。


 しかし、目を開けると少し離れたところにはオオカミ型の魔物たちがいる。

 今までは意識がもうろうとしていたし、残るわずかな意識を解毒に使っていたこともあり、魔物たちに今気が付いたのだ。


 ――ひっ!

  魔物!?


 ディアナは間近で見る魔物にたじろいだが、魔物たちは何かを奪い合っている様だった。

 

 ――もしかして、逃げるチャンスなの?

 

 ディアナは音を立てないように、そっと立ち上がる。

 そしてそのまま後ずさるが、かすかな音がしたのかもしれない。

 イエローファングたちは一斉に振り向き、先ほどの肉にありつけなかった四匹がディアナの方へ向かってきた。


「来ないで!」

ディアナはそう言ったが、もちろん言っても無駄だ。


 イエローファングたちは、今度は立っているディアナに飛び掛かろうとするが、またもや見えない何かにぶつかってしまう。

 

 キャイ~ン

 

 ディアナも一瞬身を縮こませたが、よく見ると魔物たちは何か見えない壁に遮られて、それ以上ディアナに近づけないでいるようだった。


 ――あっ。

  これはお父さまから頂いたネックレスのおかげ?

  助かったのね?


 しかし、それからしばらくの間、そのままの状態が続いた。

 

 やがて落ちていた肉を食べ終えた六匹も加わって、十匹のイエローファングが再び取り囲む。

 結界の向こう側から、よだれを垂らしながらディアナの方を伺っていた。


 ――とりあえず助かったみたいだけど、どうしよう。

  魔物たちはいつまでここにいるの?

  

  この結界は私の魔力を使っていると言ってたわね。

  私の魔力はどれぐらいあるかわからないけど、いつまで持つのかしら。

  切れてしまったらどうしよう。

  

  それとも、走って逃げた方がいいのかしら。

  でも、どこまでも追いかけてきたら同じよね。

  絶対、私の方が先に疲れてしまうわ。


 そのまま少し時間が過ぎる。

 

 ――だれか助けに来てくれないかしら。

 

 そう思った直後だ、イエローファングが一斉に森の方を見る。

 もしかしたら、近くに他の獲物が現れたのかもしれない。

 すると、十匹のイエローファングはそちらに向かって走り去っていくのだった。

 

 それとともに、結界も自動的に消える。


 ――ふぅ。

  やっとあきらめてくれた?


 ディアナは、魔物が去って行った方を今一度確認した。


 ――もう、戻ってこないかしら。


 魔物たちがいなくなると、あれこれ考える余裕が出てくる。


 ――でも、さっきのタッソたちの会話。

  麻痺毒も準備していたわけだから、初めから私を魔物に襲わせるつもりだったみたいね。

  彼らは本当にバルサノ家の兵士なのよね?

  ジェラルドの許嫁の私に、こんなことをするなんて信じられないわ。

 

  まさかこれって、ジェラルドの嫌がらせなのかしら。

  もしそうだったら、今度会ったら本当に許嫁を解消して、殴ってやるわ。


 ディアナはこの時点では、たまたまオオカミの魔物が来たのだと勘違いしていた。

 街道に近い場所だから、普通なら一角ウサギの様な弱い魔物しか出てこないはずだ。

 おそらくタッソはジェラルドから言われて、単に嫌がらせで弱い魔物に襲わせようとしたのだろうと考えていたのだ。

  

 ――あら私ったら、はしたない。

  殴るんじゃなくて、何かじわじわと嫌がらせを……。

  いやだわ。それじゃあまるで、本当の悪役令嬢みたいじゃない。


  まあ、皆の前で悪役令嬢のふりをしたんだから、いまさらよね。

  命拾いしたんだから、これからはやりたいようにしよう。

  

 でもすぐに、先ほどの考えが違っていることに気が付く。

  

 ――待って。

  そういえば、タッソは「笛を吹いたから」とか言っていた気がするわ。

  本で読んだことがる。

  犬を呼ぶ犬笛みたいなものね?

  つまり、あのオオカミの魔物をわざわざ呼んだってこと?

  もし結界がなければ、確実に死んでいたわ。

  つまり、嫌がらせとかではなく、初めから私を殺そうとしていたってこと?


 ディアナはそう考えると急に怖くなってきた。

 王都の方を見て、タッソたちが戻ってこないかを確認する。

  

 ――戻ってこないみたいね。

  そのまま去ったという事は、彼らは私が死んだと思っていると考えていいわよね?

  でもなぜ、ここまでして私の命を狙うのかしら。

  殿下やジェラルドへの侮辱だけでこんな事はしないわよね?

  分からないわ。  

 

  はぁ。

  でも、これからどうしよう。

  王都に戻る?


  途中でタッソたちが見張っているかもしれないか。

  もし見つかったら、今度こそ無事では済まないかも。

  それならバルサノ家に見つからないように、このままどこかに姿をくらますべきかしら。

  でも、どこに?

  

  とりあえず、ここに長居はしない方がいいわね。


 ディアナは、改めて周囲を見回す。

 見える範囲には誰もいないし、魔物たちもまだ戻ってこない様だ。

 

 次に自分の服を見る。


 ――姿をくらますにしても、このデイドレスは目立つわね。

  すぐに貴族だとバレてしまう。

  そうなると、どこに逃げても噂が王都に届いてしまうかも。

  

  そういえば、庶民の服も持ってきていたけど、どうなったかしら。


 先ほど馬車があった付近に目を向けると、茶色のトランクが置きっぱなしになっている。


 ――トランクを降ろしてもらっておいて良かったわ。

  まずは、服を庶民の服に着替えよう。

  それと、あの大きなトランクは持って行けないから、すぐに使わない物はここに置いていくしかないわね。

 

 馬車の後ろに乗せる旅行用のトランクは大きくて、とても女性が一人で持って歩けるものではなかった。

 

 ディアナはトランクを開けて、このあと必要そうな荷物を取り出していく。

 服を庶民の服に着替えてから、次にお金や持って行く化粧道具などを選んでいった。

 

 すると荷物の中から、エドモンドからもらった髪飾りを見つけた。

「あっ。これは」

 

 ――エドモンド様。

  ジェラルドの何百倍も優しいし、アロルド殿下の数倍紳士的な人だったわね。

  今はどうされてるのかしら。

  他の装飾品は置いていっても、これだけは持って行こう。

  ソフィアがこちらのトランクに入れてくれて良かったわ。


 ディアナは持って行くものを選び終えた。

 

 ――さて、持って行くのはこんなものね。 

  でも、どうやって持って行こう。


 荷物はいつも侍女たちが持ってくれていたので、ディアナは小さなカバンすら持っていない。


 ――そうだわ。

 

 ディアナは色々な本を読んでいたので、何も知らないお嬢様よりは考えが回る。

 荷物になるので持って行けない服を切り裂いて、それを広げて風呂敷の様に使うことにした。

 

 ――次の村までどれぐらいかかるかわからないから、食料も必要ね。

  食料が入った袋は、さすがに置いていっては無さそうだわ。

  しょうがない。先ほどの兵士たちの食べ残しを持って行くしかないか。

  私以外の食事には毒は入っていないはずだから。


 食料を探すと、テーブルに出されていた肉の残りは魔物たちが食べてしまったようだ。

 そのテーブルは倒れてパンなどは草の上に落ちていたが、できるだけ綺麗なものを集める。

 他にも水筒や先ほど選んだ化粧道具などを布に包んで、背中に担いで胸のところで縛った。

 

 ――さて。これでよしと。

 

 ディアナは、まずは元の街道に戻る。

 そこから王都のある北の方を見ても南の方を見ても、人は歩いてこないし、やってくる馬車も無さそうだった。

   

 ――農民か商人の馬車も来ないわね。

  どうしよう。

  問題は、これからどこに向かうかよね。

  

  そうか。

  うちの所領に行けばいいんだわ。

  たしか東の方だった。

  でも、何日かかるんだろう。

  王都から馬車で四日ぐらいだったから、歩きだと倍ぐらい?

  ……わからないわ。

  

  この街道と、うちの所領に向かう街道の位置関係はどうなっていたかしら。

  所領に向かう時は、たしか王都の少し南で南東に向かう道に入ったはず。

  この道は南西に向かっているから、もう少し東の方ね。

  

  王都方面に一度戻るのは危険だし、ここから南に行けば、どこかでそちらに向かう道があるかしら。

  うーん。わからないわ。

    

  そうか。それなら、このまま草原を突っ切って東に向かえばいいんじゃない?

  なんか、そんな感じがしてきたわ。

  よし、そうしよう。

  

 ディアナは、自分の家の所領へ向かう道がある東へ向かって草原を歩き始めた。

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