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ある巡回護民官の死

作者: 鷲宇良

 序


 エージェントは女性の形をとっている。少し妻に似ている。

 そのエージェントから語られるのは、遥か昔から続く信じ難い非道な行為だった。一事件ごとに屠られた人の数は、数万から数十万にわたり、それが淡々と語られる。

最初は驚愕と恐怖の入り混じった感情に襲われたが、やがて、その非道の繰り返しに、あきらめの感情がわいてきた。

 続いてきたという事実は強い。自分は何百回と繰り返される事象の途中のほんの一部を占める存在のだと思い知らされる。

 自分の前には圧倒的な歴史の積み重ねがあり、それが後方のはるか向こうまで続いている。その流れを変えることなど不可能ではないか。

 圧倒的な事実に打ちのめされ、自分の無力さをつきつけられた。

 事実に目をつぶり、このまま自分の立場を守ればよい。そう悪い位置にいるわけではないのだから、という誘惑は強くある。

 それでも膝を折ることはできない。

 エージェントは沈黙した。この疑似人格は単に質問に回答するようにできている。

 なんとかしなければ、再び数十万人が殺される。

三週間後の午前零時。

「致死性のガスはどこから運ばれてくるのか」

 まず、事実を把握しないといけない。

 ガスタンクは既に植民衛星の中に組み込まれている。居住区に隣接して建設時から存在している。

「そのような仕組みを作ったのは誰だ」

 二六一六年前の決定自体は、本星の議会で決まった。

「その際の植民衛星の位置付けは?

植民衛星の住民の人権はどう考えられていたのか?」

 エージェントは答えた。

 当時、植民衛星への移民は、少数集団を本星から分離するための措置だった。本星では文化的・宗教的な分断から、少数集団に対してジェノサイドが起こる危険があった。それに伴う本星全体の被害は計り知れないものがあり、それを避けるための措置として移住案が採択された。

 ただし、多数者側からすれば、少数集団を分離・独立させるが、最悪に備え、いつでも抹殺できるようにしておきたかった。その限りで、植民衛星の住民の人権は認められた。

少数集団にとって植民衛星は希望の地だったが、そこにはリセットボタンがついていたというわけだ。 


 一


「この空域には、あまり近づきたくないです」

 二等航海士が独り言のようにつぶやいた。

 機械化が進んでいるのか、イントネーションがおかしい。

 モニターには、巨大な柱が縦横に走っているが、その表面は様々な形で削られ、滑らかなものは一つもない。

船は、ひときわ巨大な傾いた柱の横を潜り抜け、同じような柱がいくつも互い違いに組み合わさってできた空間にもぐりこんだ。

「船の位置は確定できています。目標とする区画にはアクセスできます」

 目標とするのは、三十五ケー区画。船の中には、船長の私と、一、二級航海士、エンジニアの四人しかいない。

 三十五ケー区画の周辺は、放射線や電磁波が信じられない密度で存在し、また、それが不規則に拡散・収束しているため、外部からの船のコントロールは不可能であり、人工知能による操縦もやってみなければわからない状況だった。 通常の通信は全くできない。

「三十五ケー区画に生存者が確認されるとは」

とそこまで言って、私は言いよどんだ。

 奇跡なのか、幸運なのか、迷惑なのか。

 事故が起こったのはもう十二年前であり、区画にいた者といたと思われた者は、全員死亡と認識されている。毎年の公式追悼式典が行われた後、それは十周年を期に、四年に一度の開催となった。だから、去年も一昨年も公式な式典は行われていない。

 しかし、非公式の多くの慰霊の催事は盛大に行われ、メモリアルブックの類も大量に電子出版された。ノンフィクションも深刻なものから周辺事情にわたるものまで、再現ドラマや演劇まで作られた。ただ、肝心の事故原因はどれもわからないままだった。

 区画自体は近づけないよう封鎖され二重三重の物理的電子的な防御措置が取られている。

 区画の中には、もはや誰もアクセスできないはずだった。

 物語はすべて終わった。技術抑制の一環として、先日、建設されたアメリカ二十世紀型シネマ・コンプレックスに例えれば、エンドロールが最後まで流れ特典映像はなく劇場は明るくなり、すべての観客が去り、清掃が入って、もう一度、照明が落とされた状態。エンドクレジットの末端まで終わっているはずだった。

 なのに、ある日、微弱なメッセージが届いた。

 救難信号ならば、まだわかるが、ピザの配達を依頼するメッセージだった。

 マルゲリータとミート・アンド・ベジタブル、それぞれLサイズで、二枚ずつとゼロカロリーのコーラ大瓶を二つ。それと、サラダ。

 健康に気をつかっているようだが、ふざけていないか。最初は何かのはずみで、機器が誤作動して注文が発信されたと思われた。

 ところが、次々と通信販売や宅配、スポーツジムの予約など、生活に関するあらゆる会話が受信されはじめた。

 そのうち、個人間や企業間の通信も漏れてきた。

 ごくありふれた挨拶や愚痴、相談、苦情など、日々の活動の様子がそれらから読み取れた。

 船内スクリーンに受け取ったメッセージを字幕つきで流すようにしたが、ほとんどくだらない日常生活にかかわるものだった。

 子どもが学校に行きたがらない。娘が外泊したが顔を合わせてなんと言おう。義理の母親の機嫌が悪い。ペットの猫の下痢が止まらない。

 「くだらない」

 声に出してみた。

 しかし、それは我々が失い求め続けてきた声なのかもしれない。

 我々は、この過酷事故の影響から生き延びるため、もはや人の形をしていない。 我々は境界人である。


 このようなのんびりとした会話を交わす状況は存在しない。

 神経の先がひりひりと痛むような感覚を覚えた。

 我々は、十二年前の事故の際、封じ込め作業にあたりこのような体になった。

 封じ込めは一定成功し、周辺区画の多くの人が避難できた。しかし、三十五ケー区画は関係者の家族を除きほとんど死亡との状況だった。

 他の住民に先んじて家族を逃がしたことは、区画の住民と関係者にとっては許し難いことだろう。しかし、だからこそ自分たちは身を捨てて封じ込め作業に向えたのだ。英雄と称えられた代償として人の形を失った。 その醜い形で生きながらえている。

 その区画は溶けた金属で満たされ、十二年の間に外側から冷えて固まりつつあった。中心まで冷えたかは外部からはわからない。

 計算によれば、数百年の時が必要なはずだ。

 その中から次々と日常の声が漏れ聞こえてくる。

 穴の奥の金属の壁がモニターに映った。

 記録に残っているのと同じ薄緑色で、絶対零度の宇宙空間にあって固まっている。ここまでは、把握している事実だ。

 ところが、その表面に薄いピンクの模様が浮かびはじめた。浮かんでは消え、鼓動しているようだ。中には人がいるのだろうか。

 記録では十万人以上が三十五ケー区画にいたはずだ。封じ込めの前に外に出られたのは、乱流炉を運転する関係者の家族、数百人だ。周辺区画の住民もより遠くに逃げたが、かなりの数が汚染され我々のように機械化処理がされた。

 二等航海士が言った。

「これは何なのでしょう」

 漆黒の宇宙空間を背景として大量の柱の刺さった巨大な金属球から発せられる意味のない日常生活の言葉。

 その金属球から距離を置いて留まる中古船とそれにつながれた機械人。その一人が私だ。

「そう不快ではない」

 私はそう思った。

 金属の壁から漏れ出る言葉は、私が慣れ親しみ、この十二年間帰りたくてたまらない世界にあふれていたものだった。

 娘は遠く離れた別の植民衛星にいる。

 あの時の事故から逃れたことは確認できている。その事実が私のその後を支えてきた。

 区画を覆う金属球を含むさらに大きな空域が汚染され、他からは宇宙船でも入ることができなくなっている。

 だから、私は娘には会えない。そして、私は半分、体も人格も失っている。

 こうして意識はあるが、それが自分のものなのか人工知能が作り出しているのかわからない。

「音楽のようだ」

 食器が触れ合う音、コーヒーを注文する声、ただの噂話。

 私は、目を閉じて音を聞き入った。

 いつまでもこうしていたい。

 脈拍数と血圧が下がり、だんだんまどろむような気分になった。

 意識は船を通じて他の三人と共有しているので、全員がゆるやかに眠ったような状況に陥った。

 気づくと船は金属球の表面に近づき過ぎている。警報が鳴らないのはなぜだ。

 私は意識を立て直し他の三人にも注意を与えた。

 

 二


 境界の向こうからのメッセージに、表界はざわめいた。

 境界とは三十五ケー区画の周辺の汚染された地区、表界とは境界のさらに外側の無事だった地区をいう。中心である三十五ケー区画は炉とともに金属球の中に封じ込められている。

表界は事故による汚染からは逃れたとされるが、影響がないわけではない。しかし、無理やり「ない」としてしまった地域でもある。

 表界において影響を言い立てることは不穏とされた。その影響を受けた人間は境界送りとなり、境界人としての待遇を与えられた。

 ナノマシンを体に入れられ、様々な機械につながれて自由を奪われるわけだが、もともと宇宙に進出した人類に自由などない。

 生命維持のために重装備が必要ならば、装備をコントロールできる組織か個人の下僕となるしかない。

 イシグロは、考えを整理しながら、選択肢の狭さを嘆いた。

 上級官僚に位置する巡回護民官のイシグロにとっても、この事態は扱い兼ねた。

 三十五ケー区画は、この植民衛星のほぼ一%だったが、その周辺の約三〇%が深刻な影響を受け境界とされた。残りの七〇%の表界まで汚名を着ることは、本星との関係でも避けたい。

 統治者グループのみならず、表界民全ての願いのはずだ。

 三十五ケー区画の金属球の壁がかすかに見える護民官官邸でイシグロは報告を待っている。

 脇のスクリーンから三十五ケー区画から発信されるメッセージが流しっぱなしになっている。

「うるさい」

と思うが、止めるわけにはいかない。

 冷静に現状を把握する職務にあるイシグロさえも揺さぶられてしまうのだ。

「おまえらは、何をしに帰ってきた。何がしたい」

 メッセージに反応して、思わずつぶやいた。

 封じ込めた壁の向こうは、絶対に生命が維持できない状況のはずである。溶鉱炉の中の方がまだましだ。

 なのに、ありふれた日常を送ってくる。そんなのんびりした会話はこの植民衛星では稀だろう。

 三十五ケー区画の存在を消去する。

 本星からのそのような命令を待った。できれば破壊船も送ってほしい。

 いやいや、自分ももう若くはない。ここでひと騒動起こすよりは、さっさと次の任地に向かいたい。

騒ぎは小さくして、責任は次に送るのだ。

 どんぱちやるのは、本星の愚かども達に任せよう。


 三


 封じ込められた空間から日常の声が聞こえる。その奇妙な現象のニュースは、困惑をもって迎えられた。

 悲劇の地とされてきた三十五ケー区画に対して、皆、どのような態度をとるべきかわからなかったからで、為政者周辺でもそれは同じであった。

 被害者と関係者の声を巧妙に封じ込め、その凄惨な記憶が薄れつつある今、いわゆる寝た子を起こすことは避けたかった。

 イシグロの後任人事は、なかなか決まらなかった。

 イシグロが望んだ離任の日は、二度先延ばしにされた後、まるでなかったような扱いになった。

 任期の切れた巡回護民官にどれほどの力があろうか。

 イシグロは嘆いた。

 ただ、敵が攻めてきたわけではなく、また、直接的な罵倒や非難があるわけでもない。

 ひたすら日常の声が入ってくるのだ。

 電波ではある範囲の周波数帯、ネット上では数千ものサイトでその声が拾える。

 動画はなく、声だけだ。

 しかし、人々の動揺は日々に確実に変化をもたらしている。

 あるメディアのコラムニストが書いた。

 部屋に大怪我をした大型動物が寝ているようだ。我々は、その怪我に責任があり罪悪感がある。ただし、言葉を使えない動物なので、その罪を直接的には訴えない。しかし、部屋は狭く、動物の姿は目に入り、その醜い傷は無視できない。

 三十五ケー区画を「醜い傷」に見立てたわけだが、非難があがり、コラムは撤回された。

 それでは三十五ケー区画は何なのか。突き詰めることを避け、触れたくないことを改めて確認した事件だった。といって、何かの対策がうたれたわけではない。

 統計的には、若干、犯罪率が上昇し、それも粗暴犯が。コミュニケーションネットワーク上を飛び交う言葉の柄が悪くなった。

 それでも日々は過ぎていく。

 イシグロの在任期間は伸び、巡回護民官としては異例の長さになった。

 それを問題とする場はどこにもなく、イシグロは日々の務めをこなした。

 声は途切れることはなかった。


 四


「統制はきいているのか」

 わかっていても本星は、聞いてくる。

 副官のルモトが答える。

「資料の通り、七四の指標のうち四〇が満足な傾向を示しています」

 微妙なところで、大丈夫とも大丈夫でないともいえない。

 これは聴聞なのか。

 イシグロはなんとも居心地が悪かった。

 査問という言葉も頭に浮かんだが、形としては、定時報告先よりも構成が上位者の委員会への報告ということになっている。

 資料はすべて事前に報告済みなので、イシグロの能力や姿勢の評価という意味合いが強い。

学位を取る際に、長時間の面接があったが、それを思い出させた。ただ、副官のルモトは有能なので、心強い。

「声の制御については成功していません。現在もてる技術のすべてを使っても、何の影響も与えられません」

聞こうとすれば誰でも聞けてしまうことは、どうにもできない。

ただの日常のやりとりだが。

「不安神経症になる人間が急速に増えています。ある集団が常に不安な状況に置かれると、一定数の発症があるのは避けられないことです」

「声を遮断しない限り、か」

「だだし、状況に対する慣れもでてきています。どうにもならないものには、慣れるしかないですし、安定曲線に向かう過程もたどっています」

「、反応する人間と慣れる人間の間での軋轢も高まっています。ネット上でのやりとりをごらんください」

しばらくは沈黙が続いた。

 沈黙せざるを得ないひどさだ。

こうした非難の応酬が飛び交っているわけだ。

「このままでも、大きな破局はないかと思いますが、事態は改善することはないでしょう」

 低位安定ぐらいならば、受け入れよう。

 それが、本星の総意となってくれるのならば、イシグロにはありがたかった。

「以上で資料A、ブロック七について聴聞を終わります」

 本星側の仕切る声がした。

「ありがとうございました」

 イシグロにルモトも唱和して、それで休憩となった。

 スクリーンが消えて、ルモトが一礼した。

 ご苦労。

 イシグロは、それなりに威厳を保ちながら席を離れた。


 五


「で、結局、統制は受け入れるとしても、ここまでやられなければならんのですか」

 ルモトは、困った顔をした。

 大学での実務家教官としてのゼミである。

 大学内では、学問の自由ということで言論は罪に問われないことになっている。

 その内容が学外に流れたり、学内でも集団行動に移されたりすると別だが。

武術系のグラブに所属している学部生の発言だが、これは気をつけておかねばならない、とルモトは思った。

統制する側としてか、そこを崩そうとする側としてか自問自答したが保留して、とにかく記憶にとどめておこう。

「我々は、宇宙に出たときから装備に支えられてきました。人は三分間呼吸をしなければ死んでしまうのです。そして、人生は長く百年は皆生きるようになりました。この間を休みなく支える装備は、これまた社会全体で支えなければなりません」

 何度繰り返されてきた、そしてルモト自身も繰り返してきた台詞だ。

「一つのミスから崩れた宇宙船、一人の不埒から破壊された植民衛星の例は皆さんよくご存じのはずです。水も空気も漏らさぬ統制の上に我々の生はあるのです」

 大学の教室のつくりは古代から案外変わらない。特にコミュニケーション重視の少人数ゼミでは特にそうなのだろう。

「どのレベルの統制が必要かというのは難しい問題です。しかし、本植民衛星において、三十五ケー区画の事故があり、そこからの復興がまだ途上である限り、より厳しい統制は必要であることは論を待たないでしょう」

 ゼミ生は皆、不満な顔をした。

「非常事態宣言は今も解除されていません」

「しかし、政府は安全だと言っている」

「宣言は、脅威がある、との認識を示しています。脅威とは、安全が脅かされる可能性のことで、それがゼロではないことはおわかりでしょう。一方、今現在、安全であることも事実です」

「それは、政府の見解でしょう。人々の不安はどうなるのですか」

「人が思うことは止められません。植民衛星政府は事実を示し、理解を求める、との態度です」

 ここで、力を抜いて言う。

「皆さんの不満もよくわかります。私も政府の公式見解だけを述べるためにここにいるわけではありません。植民衛星政府の方針も揺れ動いていることは確かです」

 そろそろ終了の時間だ。

「このゼミは社会学の演習との位置付けもあります。ただ、統制に対して不満をいうだけでなく、統制が適正なのか、過去の事例と比較して論じることも必要です」

「大災害からの復興の過程で、いかなる混乱があり、いかなる統制がなされたが。多くの事例があり、その比較や評価は、論文にまとめられて入手可能となっています。それらと現在の在り様を比べるのも、また学問として求められるものであると思います」

 複数のゼミ生に、用意した論文を割り当て、次回までにサマリーを報告するように伝え、大学を後にした。

「そろそろ限界か」

 ルモトは思った。

「急がねば」


 六


「で、どうしろって」

 この下層区画の人間は扱いづらい。植民衛星の歴史の中でも、常に周辺に追いやられてきた区画ではある。

 それが、三十五ケー区画の事故のおかげで、いきなり植民衛星の中心が移動してきた。

 そうでなくとも、継ぎ足し積み足ししてきた植民衛星の下層地区に、さらに上乗せする形で政府機能の区画がのしかかっている。

 くすんだ銀色の球体に、琥珀色の立方体が突き刺さっている構造となっている。

 ルモトは球体と立方体を貫く柱の中のエレベーターで下層地区に降り立った。

ネット経由でなく、物質伝導で直接、グループに連絡をとった反応がこれである。

「やるなら今だろうが。勝手に頭の上に来られて、いらついている人間が山ほどいるぜ」

「決起には時機を計る必要がある」

「待てねえな。今にも走り出しそうなグループがいくつもある」

陽動として、いくつか騒ぎを先行させるのも作戦のうちだが。

「コントロールを一気に奪わねばならない。そのための中央制御を乗っ取るには、もう少し時間が必要だ」

「先走りはどうする」

「二か所ぐらいならば大目に見よう。制圧されることを覚悟して動くならばな」

「貸しのような口ぶりだな」

「今、動いてもマイナスにしかならない。君たちの都合で起こるマイナスだ。貸し以外の何物でもない」

「どれくらい粘れるか、見て驚くなよ」

「お手なみ拝見」

 声は途切れた。

 機械化兵一個大隊とどこまで張り合えるかだが、このグループの全滅は織り込み済みだ。

 話した相手も、その周りにいた人間も、明後日まで生きているとは思えない。

 そういう戦いをルモトはしているのだ。

 長い時間をかけて、本星と植民衛星政府の物理的な戦力を削り取らねばならない。その過程で少しずつ本星中枢を侵食するのだ。


 七


 ようやく立ち直ったのに悪い夢が蘇るようだ。

 あの事故の時はひどかった。植民衛星が全て吹き飛ぶような騒ぎだった。

 周辺から見舞いの電子メールが数多くきたが、乱流炉の状況うかがいも多かった。

 そんなものを使っている植民衛星にいるのが悪いみたいな話もネットワークを流れた。人の不幸を笑いたい人間はいつの時代にもいるということだ。

 ともかく避難を優先し財産の八割を失ったが、自分と家族の命だけは助かった。

 あの場にいたならば、良くても境界人になっていたろう。境界でこれまでの生活と切り離されて生きるのは耐え難い。

 三十五ケー区画は最も乱流炉に近く、メンテナンスのための様々な人とモノが行きかう場所だった。

 それに惹かれてさらに人が集まりモノも集まったが、乱流炉の危険性は前々から指摘されていた。

 大きな事故を起こした植民衛星もあったが、それは人為的なミスで、最先端のこの植民衛星では起こりえないと宣されていた。

 乱流炉のメンテナンスのために集まる人のための小商いの積み重ねで事業を大きくしたのに全て崩れた。

資産のほとんどは境界に置いてこなくてはならなくなった。

 それでも、次のビジネスの場だと思って慣れない表界に拠点を移した。

 何かがあれば、人もモノも動く。その上澄みを取る。それが彼のビジネスの哲学であり、三十五ケー区画の事故とそこからの復興でも、最大限の利益を引き出した。

 ようやく事故前の財産を回復し、他の植民衛星に避難させていた妻と娘を戻した矢先だった。

 三十五ケー区画の日常の声が響き渡ったのは。

 聞き流せばいいはずだが、逃れられなくなってしまった。

 失われた日々の音や人の声は、彼を捕まえて離さなかった。

 この音、この会話の感じは、三十五ケー区画にいた人間でなければわからないはずだ。

 物売りの声、レストランの会話、子どもの遊ぶ声。みな、なつかしい。

 植民衛星の反対側のこちらとは、人の発する声が微妙に違う。

 しかし、それは悪夢でもある。失ったものをつきつけられ、胸がかきむしられる気がする。

 三十五ケー区画からの声が聞こえ始めてから、約三か月。彼は、妻と母の声を聴いた。

「え」

 あの世からの声というのならば、その方が腑に落ちる。

 母は亡くなったが妻は生きているのだ。今日も、職場に出かけて行った。

 ならば、この声は何なのだ。

 その会話に男の声が混じっている。

声の感じに聞き覚えはないが、内容でわかる。

 それは、自分だ。

 自分の声は録音したものを聞いても、なかなか自分の声とはわからない。

 ただ、妻と母の間に入って、この内容で話しているのは、自分しかありえない。

 自分の声が三十五ケー区画から表界に流れてくる。

 なぜだ。


 八


 

 乱流炉技術者としては忸怩たるものがある。

 技術としては単純な原理を応用した単純なモノである。

 結局のところ人と組織の問題なのだ。危なくなったら停止することができない。

 停めれば大きな損失が発生する。社会的な非難も受ける。

 それを避けるため、機械を騙し、自分を騙し、組織を騙しているうちに大事故につながった。

 乱流炉は大きなエネルギーを高効率で発生させるための最適な手段だが、その高効率の魅力に人々は勝てなかったのだ。宇宙は人には過酷すぎる。重い装備と大きなエネルギーが必要である。それを得られる最短距離にあったのが乱流炉だ。

 その魅力には抗えない。一度使ってしまったら、使ったことをあらゆる手段で正当化しようとする。

 私も、その理屈を百も並べられる。乱流炉と過した時間が長ければ、それだけその時間を無意味や有害とする非難には、多弁に反論するようになるのだ。

 もはや自分の人生と乱流炉は一体化している。

 乱流炉から離れた表界でこうやってアルコールを飲んでいると、その一体化の息苦しさから解放される。何かにとりつかれていたのだが、それからか逃れられるようだ。

「博士」

 バーの入口に迎えが来ている。

「委員会がはじまります」

 この研究員は、まだ研究所にいたのか。見切りをつけてさっさと他の植民衛星に移ればよいのに。

「補償のことなど、技術屋の自分にはわからん。欠席でいいだろう。酒を飲んでしまっているし」

 出席委員が足らないのです。

「みんな逃げたか」

 本星の指名です。委員長も今回限りで退任になります。委員会を成立させなければ被害者への補償も滞ります。

「痛いところを突くな」

 どうせろくな額は出ない。

「待ってくれ、ちょっと顔を洗ってくる」

 洗面所に行き上着を脱いで顔を洗った。髭が伸びているな。もう一度、両手で受けた水で顔を洗おうとしたとき、後頭部が押さえられた。

 洗面台のシンクの表面に顔が押し付けられ、抵抗すると、さらに力が加えられた。

 足が払われ、手を突っ張ると、一度頭ごと後ろに引っ張られ、力を込めて洗面台に額からたたきつけられた。

 その後は、彼にとって全てが失われた。


 九


 三十五ケー区画からの日常の声に時間差があるのは確認されていた。

最初の発信があったのは、事故から十二年後であるが、そこでの声は、事故から十二年前のものだった。

 その後の声における時間の推移は植民衛星の時間の推移に一致している。

 すなわち、二十四年前の声が表界に聞こえてくることになる。

それは公式には発表されなかったので、気づく人間もいたし、そうでない人間もいた。

 しかし、三年も経てば、概ね誰もがそれを知る状況になった。

 声は続くが、それが事故の日に向かっていることも、みんな知っている。

 日常の声がそうでなくなる日が、やがて来る。

 それは確実なことのような気がした。ちょうど人生に死が必ず訪れるように。

「事故の原因が明らかになるのは」

 うまくない、との言葉をイシグロは察した。

 長官から巡回護民官の任期切れの連絡かと思ったが、本星からの秘密回線連絡だった。

「避けなければならない事態だ」

「本星の威信がかかっている」

 都合の良い言い回しだ。

 今は、事故から十五年目である。聞こえてくるのは、事故から九年前の声だ。

「関係者の処分は全て終わっている」

 逃げた者も多い、と心の中でつぶやいた。とばっちりを受けた人間は多いが、長官は逃げ延びた方か。

「情報はすべて封鎖した。にもかかわらず、中核から情報が堂々と拡散されるとは」

 科学的な原理はわからないのですか。

 長官は、わからない、と答えた。

「あと、九年で地獄の窯の蓋が開く」

 こいつは九年後も権力の座にいる気か。イシグロはちょっと驚いた。本星の人間の感性はわからない。

「君も他人事のような顔をしていられないぞ。植民衛星ごと消すことも選択肢に入っている」

 それはひどいが、ありえないことではない。


 十


 三十五ケー区画からの情報拡散は驚くほど対策が打てないまま、時が過ぎていった。ほぼ、万能と思われる科学技術をもつ本星がなぜ放置しているのか。

乱流炉事故については強引に封じ込めたのに、その足元からの声が消せないとは。

 三十五ケー区画のアーカイブスさえアクセスが可能である。穴は閉じたり開いたりしているが。

 アーカイブスは完全に本星の支配下にあるはずだが、それにアクセスできるとは、信じられない事態だ。

 徹底的な情報統制は、植民衛星統治の基本中の基本である。イシグロは、本星の士官学校で、そう叩き込まれた。

 ならば、本星は、わざとこの状況を放置しているとみていい。

「その意図は?」

 イシグロは考えた。

 ルモトも考えた。

 三十五ケー区画の事故の際には、別の型の炉が二基、瞬時に立ち上がった。

 あれは、本星の能力を植民衛星全体に知らしめ、本星の権威を一気にとりもどす行為だった。

 ただ、その後の処理は期待外れだった。情報は錯綜し、戦線はずるずると後ろに下がり続けた。

 同一の主体が指揮をとっているとは思えなかった。そして、今に至る。

 どうしてしまったのだろう。


 十一


 乱流炉は既に時代遅れであることはわかっていた。不可拡炉という新型の炉が既に主流であり、技術体系が違うので乱流炉技術者は不可拡炉の導入された植民衛星では不要となる。

 廃炉をして、その廃棄物を近くの恒星に向けて射出すると、後はすることがなくなる。

 ただ、廃炉の過程で大量の放射線を浴びることは避けられないので、ロボットをうまく使う必要がある。その作業に従事したロボットは最後に射出される廃棄物と運命をともにする。

 廃炉事業者である俺は、自ら廃棄物の貨物庫に乗り込み内側からドアを閉めるロボットの姿を見て泣くわけだ。

 一応、作業完了時には儀式っぽい形で最後の積み込みを行う。射出は数十回に分けて行われるため、一つ一つの貨物庫は、そう大きなものではない。

 ロボットは汎用のものを数百台、一年間連続稼働させれば、それなりの大きさの乱流炉は解体できた。実際は、さまざまな手順があるので、それほど集中的に稼働はさせないが。

 ロボットも使い捨てだから高度な知性をもたせる必要はなく、廃棄前提でぎりぎりまで使うのが通例だった。

 新しく不可拡炉の区画を追加した後、乱流炉を切り離し区画ごと恒星へ向けて送り出すということも検討されたが、多くの植民惑星の乱流炉は中心部に深く組み込まれていてそれができない。

 結局、小分けに解体して貨物に積んで射出する形となる。

 俺は乱流炉の解体屋として、汎用ロボットを引き連れて植民惑星を渡り歩いた。

 乱流炉一つの解体期間は平均二年半で、今の炉が二〇炉目である。さすがに疲れてきた。そろそろ引退したい。

 乱流炉の技術は数百年前にピークを迎えたが、その解体技術は約八十年前に確立された。細かい工夫はあったものの、直近三十年はほぼ同じことの繰り返しである。

 まあ、繰り返しで飯が食えたことはよかったか。

そう思う。

 乱流炉に未来はない。

 尻ぬぐいとしての解体・射出も、この宙域での数をこなすだけで終わる。俺と同じような商売をやっている者の数もわかっている。 

 新規参入はない。今あるものをなくせば終わりである。次の技術的な展開はない。

 引退する人間がいて新規参入する人間がいなければ、産業として終わりである。

 まだ効率化をすれば、さらにコストダウンができるのだろうが、その効率化投資をする意欲がどこにもない。人もいない。

 だからこそ、俺みたいのが生き延びられ、そして逃げ切れたのだ。

 まあ、アメリカ西部開拓時代の馬車の車輪屋みたいなものだ。鉄道が通り、自動車が走るようになれば、もはや出番はない。

 後は、歴史家の研究対象だろう。

 遮蔽はしているはずだが完璧とはいかず、長年の間には少しずつ浴びた放射線の影響もでてきている。

 いつのまにか体の六割が機械化されてしまった。

 最初は、指先とか踵とか、末端にナノマシンを入れていたが気づいたらそうなっていた。

 会うほとんどの人間の機械化率が自分より低いことがわかるようになってから何年もたつ。

 意識もしっかりしていると自分では思っているが、もはや違う位相に入っているのかもしれない。

 あのロボットたちのように、自分の棺桶の蓋を内側から閉じるから、誰か射出してくれないか。

 そうした思いを抱えて廃炉作業と飲んだくれの日々を過ごし、最後にロボットたちを射出した日の夜、バーのカウンター越しにエージェントが立ち上がり、乱流炉事故を起こした植民衛星に導かれた。


 十二


 宇宙は不自由だ。本星は答えない。

 巡回護民官のイシグロは異動を待たされて続けている。

 ルモトの反乱計画は進んだろうか。

 情報は全て入手できており、いつでも逮捕できる。

 だが手はださない。表界と境界においての不穏な動きでも、すぐ弾圧できると思われるものは泳がせておく。

むずかしいな。

 ルモトの反乱計画を潰してから異動となるか、そのまま後任に引き継ぐか。

 弾圧を徹底すれば本星の受けがよくなるわけでもない。

 本星は答えない。

 時には慈悲深く、時には残虐で、過剰に介入するかと思えば、今回のように放置が続く。仕打ちを受ける側は、ただただ翻弄されるしかない。

 本星は神に等しい。

 実際のところ、ほぼ全能なのだから。

 ただ、全能なだけで公平でも公正でもない。悲劇的な結末を招いた例は多くあるが、それでも糾弾はされない。糾弾されても答えない。文字通り無答責ということだ。

 この植民衛星が一年後も、一秒後も存続するかは、まったく本星の意思にゆだねられている。

 イシグロは、心を許す部下がルモトだけなのを寂しく思っている。反乱計画への注意喚起は、本星からの定期通達とともにあった。扱いは緊急ではなく、対処はイシグロに任された。

 本星がイシグロの処置に不満を抱けば時を置かず介入がなされるはずなので、気は使うものの、本当の危機は招かないということである意味では安心である。

 ルモトをどこまで泳がせるべきか。接触する範囲は次々と広がり、思ったよりも大きな事件となりそうだが、事件化するかも本星の思惑次第だ。

 三十五ケー区画や境界から表界に流れた不満分子が組織化されつつある。影響を大きくしないためには、そろそろ介入したい。

 植民衛星の民には、自由と基本的人権が保障されている。議会もあり、選挙もある。

 ただし、本星による恣意的な介入に対していかなる抗弁もできない。

 衛星政府に意見を言うことも、デモをかけることも許されている。

 衛星政府の建物を植民衛星の人口のほぼ三十分の一が囲んだこともある。

 あの時は、本星が黙認した。

 ただし、次のデモが起こる前に、デモの首謀者と目されるグループのメンバーは全員、行方不明となった。

 イシグロが動く必要はなかった。


 十三


 乱流炉事故で放出された放射性物質は微量であり人体に被害を与えるほどではない、というのが当局の公式見解である。

 巡回護民官を委員長とする統治委員会で、科学者グループの調査結果に基づき公的な見解としての位置づけもされている。

 そもそも、乱流炉が稼働している限り、少量の被曝は避けられない。それでも、境界の人は百歳近くの平均寿命を保っている。

 何が問題なのだ。

 乱流炉放射線に限らず様々なリスクにさらされるのは、宇宙にいる限り避けられない。

 ルモトの妻は、そのように何度もルモトから聞かされた。

 理屈は、わかる。

 植民衛星の内部は地球各地を模している。

 ルモト夫婦が住んでいる地区は、最上級とはいえないが、それなりの自然と都市的な環境が整っているところだ。

 カネさえかければ何とでもなるのが人工の空間だが、そのカネが植民衛星全体として足らないのだ。

 同じ衛星の中で格差が広がっている。

 内部空間では、むき出しの宇宙空間を想像させるものは隠されている。のどかな農村風景の中の街ということで二十世紀のアメリカの地方都市を模倣した風景が広がっている。

 技術抑制の目標は、二十世紀末の日本なのに、景観や気候は必ずしもそうではない。アメリカ二十世紀型シネマ・コンプレックスも街道沿いに建築されたばかりだ。ただ、シネコンと呼ばれるそれは、日本にも輸入されたので、目標とそれほど離れているわけでもない。

 かつては、あらゆる生活の場で最新技術が採用されたが、それによって生じた社会的な混乱の反動で技術抑制が唱えられ、携帯電話はあっても仮想現実眼鏡は使われないレベルの技術で街が構成されるようになったという。

 この町もなんとなく一九八〇年代のイメージが支配している。

 技術抑制は法制化され制度として定着したが、目標レベルに厳密な定義がなく、ばらばらな水準に落ち着いてしまった。

 ニセモノではあるが、日々暮らしていれば、気にならなくなるものだ。

 自分は、ルモトといられることで十分、幸せだったと思う。しかし、その幸せな生活を続けることはできなかった。

 すべてが人工的ですべてが誰かの意図でコントロールされている。その誰かの意図が理不尽で、さらに複数の意図が矛盾してものごとをコントロールする。

 ルモトと自分は、そのような状況に、それぞれ違うアプローチで反抗していた。

 その微妙な違いが、すれ違いとなり、別れざるを得なくなったのだが、お互いに理解していないわけではなかった。むしろ、理解していたからこそ許しあえなかった。


 十四


 私は難民だった。

 思い出すのは、難民船の中にぎっしりと詰め込まれて、不愉快な加速と減速にあおられていたことだった。皆、何日も体を洗えていなかったから、その臭いも耐え難かった。

 父とは別れてしまい、母が守ってくれた。

 船腹の倉庫は、重力も空気も十分ではなかった。温度管理もできていなかった。体の弱い老人と子どもが何人も亡くなったが、その死体さえ動かすことができなかった。

 様々な種類の携帯食が、思い出したように不規則な時間に配られていた。

 母親にしがみついていたが、母親の衰弱も進み、私を抱いて壁によりかかっていたのが横たわるようになってしまった。

 水も食糧も足らなかった。

 難民船の上層部では、高齢者の宇宙への放出も検討されたらしい。一部の高齢者は自らを放出するように船員にかけあったという記録が不思議なことに残っている。

 幸いにもそれをする前に、この植民衛星に到着した。到着した宇宙船デッキの周りに難民キャンプができた。水と食料の心配はなくなったが、金属がむき出しの格納庫内での生活は厳しい。

 それでも、栄養が足りたため、少しずつ体力が回復してきた。

 それから私たちは、この町に連れてこられた。

 街は白く煙っていたが、それが解毒剤だったということを知らされたのは、ずいぶん後だった。

 力のあるものたちが白い霧の中の作業に駆り出された。

 致死性のガスで亡くなった人々の死体を家から広場に運び出すのだ。男もいた、女もいた、老人もいた、子どももいた。

 街の全員が丸々殺されていた。

 そうして死体が引きずり出された後の家に私たちは入った。

家は全く日常の姿を残していた。冷蔵庫の中の食べ物もそのままで通電はしていた。

多分、致死性のガスは私たちがデッキで震えていた時にまかれたのだろう。それから二十四時間も経っていない。

 解毒剤が濃密に(それは、私たちのためではなく、撒く側の面倒を省くためだったろう)散布されていたが、 解毒剤のもつ刺激臭や致死性の成分のため、また、解毒剤の散布や濃度の偏りから、残った毒性に触れて少なくない数の難民が中毒の症状を示した。

 その経緯からわかるように、私たちは乱暴に植民された。

 いつの間にか死体は消えたものの、前の住民の生活の跡は、私たちにとってはなじみのないものであり、彼らの文字さえ読めなかった。

 ただ、私が母と入った家では、小さな子どもがいたのだろう、多くの絵本があり、私は幼少時それらに親しんだ。

 全く違う文化の生活の跡に入り込むことは大きなストレスであり、それ以前にその生活者の死体を廃棄する作業をさせられたことで大人は男も女も大きな心理的な傷を負った。

 そうして私の新しい生活はスタートした。 

 与えられた家は母と私の二人には広すぎて台所と居間と寝室のみを使い他の部屋は封印した。文字通りテープで目張りして入らないようにした。

 母としては残留したガスを恐れたのかもしれない。

 封じられた部屋の中には子ども部屋もあり、私は最後にそこで見たぬいぐるみや、絵本がうらやましかった。とはいうものの、その部屋を開ける度胸もなく、母とその家に居られるだけでうれしかった。

 前の住人の家屋敷をはじめとする財産にただ乗りする形で私たちの植民衛星での生活ははじまった。

 他に選択肢はなかったので当初には罪悪感はなかった。

 罪悪感が生まれるのは、もっと後である。

 しかし、屈辱感は最初から大いにあった。

 私のいた難民集団はあちらこちらを転々とさせられ疲れ切っていた。 

 どんな土地でも落ち着いて暮らせる場所が欲しかった。難民として宇宙をさまようことは、少しずつ何かを失うことだった。しかし、殺戮のあった街に無理やり押し込められることは、さらに別の何かが削られることだった。

 我々は尊重されていない。その事実は集団もその構成員も深く傷つけた。

 屈辱の上に、どのような社会が築けるというのだ。


 十五


 青年は、本星から、その後の社会構築の状況を記録・分析をする役割を与えられていた。肩書としては独立研究所の社会調査担当客員研究員ということになっている。

 今、この区画にいる住民である難民集団が難民となった経緯とこの植民衛星にたどり着くまでの詳細は、研究対象外だった。難民集団のそれまでは積極的聞いてはいけないことになっていた。そして住民は、そのことについて全く話さなかった。

 難民集団がこの区画に入る前にいた集団、ここでは消滅集団と呼ばれていたが、なぜ消滅させられたかは、一切記録に残っていない。致死性のガスで殺された死体と難民集団が邂逅するところから社会構築ははじまったが、なぜ、その死体がそこにあったのかは、何も記録がない。そもそも消滅集団の人種、文化、歴史、思考など全く記録がなかった。

 また、消滅集団の死体はどこにいったかも記録はない。難民集団が消滅集団の死体を街の各所に集めたところまでは記録がある。その後の記録はない。

宇宙空間に捨てられた、多分、コンテナに詰められ射出されたと容易に想像できるが、誰がどのような手順でそうしたのかは不明である。

 調査計画には、そこを除外した範囲しか示されていない。

 消滅集団の残したものは、その死体を除いても、難民集団の社会形成に多くの影響を与えたはずだが、そこは触れてはいけないことになっている。

 それでも、難民集団の一人ひとりを丁寧にインタビューしていくと見えてくるものがある。

 疲れ果ててたどり着いた先に、それなりの人のぬくもりのある生活の跡があったことは、たとえようもなくありがたかった、と誰もが回想した。

 しかし、そのぬくもりを残した人々が誰一人生きておらず、その死体の片付けを強制されたことは、屈辱と怒りを生んだことも付け加えられた。

 さらに、死者の財産の上に生活する罪悪感も生まれた。 

 すなわち、この社会は安堵感、屈辱感、そして罪悪感の混沌の中に生まれている。

 この三つはバランスがとれているわけではなく、人や小集団によって強調される部分が異なっている。

 どれだけ安心したか、ありがたかったかを回想する人は、後二つを無視しやすい。そして、構築された社会に肯定的である。

 本星を神のよう崇め、消滅集団は滅ぼされて当然、我々は安堵を与えられ、ここで社会を築くよう選ばれたとの論理も生まれている。

 二つめは、力により異なる文化に無理やり接続された集団の屈辱感、そして怒りである。本星が全能であるほど、もっとやり方があったのではないかという疑問が生まれ、本星に反抗的となる。

 三つめは、消滅集団の資産の上に自らの幸せを築いていいのかという懊悩であり、罪悪感である。 

 安堵と怒りと後ろめたさ、この三つの感情が、互いに結びつき様々な形で噴出するのが、この区画の社会だと結論できる。そして、本星の恣意的、圧倒的な抑圧があるため、その噴出も歪んだ形で現れる。

そこまで書いて、青年は後段の部分を残すかどうか考えた。

 本星から与えられた学問の自由である。これは本星が許可するその範囲内なのだろうか。 

 事態の改善のためには、本星の抑圧を緩めるか、少なくとも筋の通ったものとすべきである。これは本星への批判ではなく、正しく、事態を改善し、本星の統治も円滑に行えるようになる。

 誰にとってもマイナスではない提案なのだ、と青年は確信した。

 数多くのインタビューとともに、難民集団がこの区画に入植して以来、記録にある限りの会話から自然言語分析を詳細に行った結果でもある。様々な変数がかかるが、安堵と怒りと後ろめたさ、概ねこの三つの感情に分解できる。

 それは、本星への忖度のない純粋に調査から導かれた結論だった。

 論文は本星に送られたが、反応はなかった。

 青年には、論文の発表の機会もなかったが、別の植民衛星の大学で終身教授の地位が与えられた。

 そして、二度とその植民衛星を訪れる機会もなかった。

 記録を手元に残すことも許されなかった。


 十六


 ルモトの妻には、その論文を読む機会があった。

 もちろん正当な方法ではない。ネット上の暗海と呼ばれる領域に整理されていた。

 暗海をつくったのは、ルモトの妻である。ネット上にミラーアーカイブスをつくり本星のコンピューター上のアーカイブスから可能な限り情報を吸い上げた。その中に、その論文はあった。

 本星は、ルモトの妻の育った区画を特別統治地区として、他の区画との交流を禁じた。論文には直接触れられていないが、他の区画と比較して、怒りの感情が強すぎたのだ。

 他の区画との交流はできなかったが、教育は奨励された、

 ルモトの妻は特待生扱いで教育を受け、本星の科学アカデミーに進み科学者となり、ルモトと出会い結婚した。

 ルモトは、この植民衛星の他区画の出身であり、妻に会うまでこの区画のことは知らなかった。この特別統治地区にルモトが住まいを構えたのは、妻がいたからだった。

 そして、ルモトが本星にいたときにはじめた本星への抵抗運動の新たな拠点となった。この植民衛星の中でも、最も本星に翻弄されたこの地区がふさわしい、と思えたからだ。

 家の窓から外を見れば、のどかな田園風景が広がっている。植民衛星の内側は、地球とそっくりだ。

 ここで約三十年前、いかなる地獄が展開されたか、この景色からは想像さえもできない。

 目には見えないが、致死性ガスの影響はまだ残っている。ただ、その被害が人々の話題に出ることもない。

 せっかく得た安住の地に難癖をつけることは許さない。そうした思いが惨禍の記憶を抑圧したのだ。

 それは、ここに致死性のガスを撒き、次いで宇宙難民を押し込めた本星への批判も封じ込め、さらなる屈従を招いている。かつて難民だった、この区画の住民がそれを選んだのだ。


 十七


 機械化といっても、義手、義足をつけるようなものではない。かつてのサイボーグ化とも違う。

 ナノマシンを注入し、その自己構成能力に身を任せることだ。ひとつひとつのナノマシンには、ごく単純な命令が与えられているだけなのに、人体に数万単位で注入されると、人体の細胞から学習して最適化の行動をとる。ある程度まで自己増殖もするが、どこまで増えるかは人との相性による。

 ナノマシンを入れられた人間は、一定程度、肉体的に強化されるが、精神にも影響を受ける。長寿命となるが、最後はナノマシンが意識を支配する。その段階になると肉体が壊死し、ナノマシンの塊が皮膚から透けてみえるようになる。さらに状況が進めばナノマシンを残して人の部分はなくなる。

 寿命は、記録されている限りでは百八十年というところで、通常の人間の二倍は、生きるということになる。 ただ、百年程度で、人とは呼べない何者かになるらしい。

 その姿がどのようなものか、植民衛星にいる人間には知らされていない。

 境界人として機械化された人の数が爆発的に増えた三十五ケー区画の事故から、まだ十五年しか経っていないのだ。

 東アジアの国に、こういう小話がある。

 男が、竹林でウワバミ(大蛇)が人を丸のみするのを見た。人の形が外からわかるほど、ウワバミは膨れ上がり、人を消化できずに苦しがっていた。ところが、ウワバミがある草を食べると、不思議なことに、あっというまに人の形は崩れ、もとの太さにもどった。

 すごい消化薬だ、と男は思って持ち帰った。

 男はソバの大食い大会に出場し、胃がはちきれるほどソバを食べた。これ以上、入らないところで満を持してくだんの草を食べると、男は溶け、後にはうず高く積まれたソバが残った。

草は、消化の促進ではなく人を溶かす作用があったのだ。

 この逸話の教訓は何か、とルモトは大学院生に問うた。

「勘違い」

「人を助けなかった天罰」

「思い込みは怖い」

「都合のよい薬はない」

「事前確認が大事」

 まあ、そんなところだろう。

 機械化のようですね。ある院生は言った。

 最後に残るのは、人ではなくナノマシン。人が溶けて、うず高く残るソバはナノマシン。

 

 十八

  

 私は、乱流炉事故や、この地区の有毒ガスの残滓に触れたことを原因とするのでなく、全く個人的な意思により望んで機械化処理を受けた。

 その件について後悔はないが、ただ、ルモトに対して罪の意識はある。

 ルモトとは本星への反逆の意思を持つ者としても共にする思いはある。しかし、ルモトはルモトの方法で、 私は私の方法で、それをなさねばならない。

 同じような抑圧を受け、同じような屈辱に苦しんできたとの確信はあるが、それでもやはり、彼と私は別の人間なのだ。

 この窓から見える景色について思う。

 人工であることが、その価値を減じるのかという問題である。

 人類が地球にいた時代の様々な書物を読むと、自然がまずあり、そこへ人々の活動が影響を与え、その風土は固有の性格をもつようになったと考えられていることがわかる。

「地球は人間の条件の本体そのものであり、おそらく、人間が努力もせず、人工的装置もなしに動き、呼吸できる住処であるという点で、宇宙でただ一つのものであろう」(ハンナ・アーレント「人間の条件」)という  時代は、はるか昔に終わっている。我々は人間の条件をとりはらってしまった。

 ここは最初から人が造ってきた空間だ。しかも、その歴史はところどころで分断されている。

 この植民衛星は数十世紀前に建造されたことはわかっているが、本星が介入し、人も入れ替わっている。記録も途切れ途切れにしかない。

 しかし、内部空間は広く、海はなくとも川はある。山も丘もある。森や果樹園もある。ただし、食料生産のための工場はこの空間外の宇宙空間に浮かぶ球形施設群の中にある。

 生態系はいびつであり、数年に一度、新しい感染症が発生する。壊滅的な被害は発生しないが、最新の技術をもってしてそのような事態は避けられない。

 薬漬けの自然といえば、その通りである。代替可能かといえば代替可能であり、何か課題が持ち上がると、区画ごと捨て、新しい区画を使うかどうかの議論がすぐにはじまる。

 しかし、そこで暮らした日々に価値があるならば、その暮らしが営まれた場所にも価値があるはずだろう。

 疑似空間はどこにでも展開できるので、ここと同じ空間はどこにでも作れるだろう。

 それは、人間にも言える。

 ある時代に、どこかの植民衛星で、生体記録技術と仮想物質現実化技術を組み合わせ、ある個人を完全に再現することが可能となり、実際にそれを展開して社会が混乱した。

 人の複製が作れるようになったが、作った人間が自分の複製をコントロールできなくなり混乱を招いた。また、他人の複製や、自分の多数の複製をつくって罪を犯す集団まで現れ、その技術は禁止となった。

 社会的な混乱はもちろんだが、人としての同一性のゆらぎに誰もが恐怖した。だから、その恐れは、技術抑制の動きにつながった。どの技術をどの程度進めるかの社会的な合意形成は不可能となり、かつてあった社会の技術レベルにとにかく合わせることとして、それは技術抑制と呼ばれた。

 すべての植民衛星で、科学技術はコントロール不能ということになり技術抑制の権限は本星のものとされた。本星が、一つ一つの植民衛星の科学技術水準の目標を定めるのだ。

 この植民衛星の目標は、地球の二十世紀末の先進国と呼ばれた国々の技術レベルである。ただし、実際に個々の技術がどのようなものであったかは不明であり、本星からの指示に合わせて様々な技術が禁止/推奨されるので、そのたびに混乱する。

 例えば、ある日突然、無線小型端末の利用が違法になったりする。代わりに有線電話が町や家庭に配備される。しかし、タブレット型端末は規制されず、これまで通り無線でネットにアクセスできたりする。

厳密な目標が確定されていないうえに、本星からの指示は揺れ動き、曖昧で解釈も一定ではない。

 一方、人の生命に関する技術は、ある程度、抑制の対象外となっており、ナノマシンによる機械化も広く許されている。

 衛星内の在り様は所詮フェイクであり、新しい目標が示される度に、マスコミは騒ぎ、新たな流行のような扱いで社会に受容されている。

 その中でも、風土を複製すること自体は禁止されていない。小さな範囲を複製して人を呼び込み詐欺的な行為がなされることはあるが、それは詐欺的な行為をする人物を罰することで、技術の利用自体は不問とされている。

 死期が迫った患者に、その技術を利用して過去を体験させることも許されている。

 しかし、風土を複製することは、人を複製するに等しいのではいかとの疑問はある。なぜなら風土は人の同一性と深くかかわっており、それがどのようにでも操作できるのならば、人もまた操作できることになってしまう。

 一方で複製物は愛着する対象として劣るのかとの疑問もある。

 唯一無二であることは尊く、入れ替え可能なことは価値が低いということが歴史上当然とされてきた。

希少性の原理である。

 科学は希少性を減じるために発展してきたといえる。より多く生産しより広く配る。その技術において、どれだけの人々が科学の恩恵を得てきたろう。

 それどころかごく少数の人しかできない経験を多くの人に開放してきた。

 音楽をあらゆる人が低コストで楽しめるようになったのは録音・再生技術が発達したからである。二〇世紀末には媒体を使わずに配信されるようになった。

 音楽の形が変わるわけではないが、いつでもどこでも無制限に楽しめるということで、その絶対的な価値は下がったといえる。

 ならば、人の価値は。

 人が複製できる技術は禁じられたが、一度それが可能となったことで人の価値は下がったような気分が広がったという。その感覚はこの植民衛星の社会にも引き継がれている。

 私も抑鬱傾向があるが、落ち込んだ時に思うのは、自分の代わりはいくらでもいる、ということだ。

 詰まるところ、どこにでもある植民衛星の複製可能なわが身、わが心、である。

 唯一無二であることは、自分の経験でしかないが、それさえもどこかで仕込まれたのかもしれない。


 十九


 妻と娘が生きていて、自分もようやく再び人を使うような身分になれた。

 それで満足しよう。

 三十五ケー区画から脱出して表界への避難民として過ごした日々はもう遠くなってきている。今更、事故の責任者を責めようとは思わない。

 同じ人工の空間の中で生きていかねばならない同志ともいえる立場ではないか。

 自分は、もう、三十五ケー区画からの声をなつかしみはしない。植民衛星の中心が移ったあおりで発生した巨大需要へ流れ込む物資とカネの上澄みをいかに取るかだ。

 正論などこね回している間があったら、とにかく動いて稼ぐことだ。

 どうせ本星と巡回護民官にはかなうはずがない。

 とにかく、うまく立ち回らざるを得ない。

 娘が生まれた時、心に刻みこんだ台詞がある。

 神様…私は二度と餓えません!私の家族も飢えさせません!その為なら…人を騙し、人の物を盗み、人を殺してでも生き抜いてみせます。

 二十世紀中ごろのアメリカ映画「風と共に去りぬ」の名台詞だ。

 人種差別的ということで封印されて久しいが、自分はその映画が好きだった。

 この娘を守るためだったなら何でもしようと思った。

 しかし、いきなり犯罪に手を染めることもなく、次々と表界で商売を広げた。 その過程では権力者に対する配慮もそれなりにしていた。直接的な見返りを求めてのわいろなどではなく、日頃から広く薄く水や肥料のように、ある種の社会的つながりに広く恩恵を撒いた。社会貢献といえなくもない。

 後から乱暴にそこへ割り込んできた人間もいたが好きなようにさせた。そして時を見計らって追い落としをするのだが、その際も自分は先頭に立たないようにした。

 目立たなくていい、一流でなくてもいい。

 すべてはこの子のために。


 二十


 技術抑制というのは、よくわからない。

 父はとにかく従えという。

 モデルは、二十世紀末の地球の日本という地域で、アーカイブスを参照してはまねている。

 ただし、私たちとアーカイブスにある日本人は姿形からして違う。当時の日本人の身長は私たちの七割ぐらいしかない。無理やり女子高生のユニフォームを私たちが着ても、なにか間延びがする。

 私は陸上部で短距離、百メートルの選手だ。百メートルという単位も当時の距離の測り方だが、それを全力で走るのだ。

 この植民衛星での最新の最高記録は、女子で十六秒。全然、アーカイブスの彼女らに届かない。

 この女子高生の生活というのは、自分でも気に入っている。父は難民でこの植民衛星にたどり着いて、大変な苦労をして一家を支えている。それには感謝しかないけれど、ちょっと上にぺこぺこしすぎではないかと時々思う。

 技術抑制ではモデルが決まっており、そこに向けていろいろなものを調整している。私の言葉遣いもそうだ。

 変なのは、わかっているけれど。

 それはわかるけれども、いや、ぶっちゃけわからないのだけれども、何のためにしているのか、モデルは誰がどうやって決めているのかさっぱりわからない。

 モデルを選ぶ人のセンスが悪い。まあ、いろいろなところをつまみ食いしているのだろうが、パチンコ屋が図書館の中にあるという設定はどうなのか。少し調べればわかるのだが、誰もそれが変とは言わない。言わないからどんどん変になっていく。

 すべての自動車に長い排気管をつけるとの命令がでたが、動力は電気なのだがどうなのか。女子高生は全員ルーズソックスにということなのだが、それは一時の流行で、似合うユニフォームとそうでないのがあるのだけれど、誰に苦情を言っていいのかわからない。

 父に言っても従えというだろうし、父は何を着ても私をほめることしかしないから、おかしいかどうかを相談する気にもなれない。

 自分としては、モデルに変なリボンとか髪の色とかならないようしてほしいのだけれど。

 この植民衛星のこの区画の歴史は三十年前からはじまって、モデルは二十世紀末の日本。それでやってきた。

 ここに来る前の文化も言語も全部ちゃら。公には言い出せない。その条件で難民の身分から脱出できたらしい。

 しかし、文化も言葉も奪われたら、人としてはもうおしまいなのだろう。

 そうした集団の子どもたちを集めて、二十世紀末の日本の、それも高校生ごっこをさせるというのは、誰が考えたことなのか。なにか信念か確信があってやっているのか、それともただの遊びなのか、どうなのかね。

 でも、私も女子高生でそう悪くないと思っている。他に選びようがないのだから。

 この間、百メートルの練習中にアキレス腱を切ってしまって、最低二週間は、練習を休みになった。

 父は、びっくりするほどおろおろして、機械化するかと言ってきた。

 高校スポーツは、機械化の部と非機械化の部と別れていることを父に教えた。非機械化は、機械化率ゼロパーセントでなければ出場できない。検査があって、ナノマシンが体に入っていることがわかったら、即、機械化の部に入れられる。

 私は、非機械化の部でやりたい。一年の時のインターハイで競い合った別の地区の選手と非機械化で次も戦おう、と約束していた。

 ところが、この間、植民衛星の別の区画の陸上競技場で会ったら、その子はばりばりに機械化していて、別のレーンで走っていた。

 もう目も合わせない。でも、帰り際にそっとメモを渡された。

 ごめんね。

 やはりアキレス腱を切って、片足だけ機械化したら、反対側も切れたとのことだ。で、どうせ機械化するならば、ばりばり、という。

 仕方がない。私は、その時は出場せずに、うちの学校の部の付き添いだったのだけど。

 機械化のためのハードルはどれくらいなのだろうか。費用からいえば、視力調整のために機械化をするのと眼鏡をつくるのでは、機械化の方が少し安いくらいか。

 機械化はずっと当たり前からされてきたが、眼鏡はこの前、モデル指定されたので普及し始めたところだ。最初に眼鏡をかけた人間を見た時の違和感といったらなかったけれど、近頃ようやくなれてきた。一方で機械化による視力調整も相変わらずされている。

 いい加減だ。

 足を機械化するとなれば、目と違った量のナノマシンが必要だから、もう少し費用はかかるかもしれない。でも、父が払うし、気にしない。

 ただ、やりすぎると、やはり人格がゆがむらしい。くわばら、くわばら。

 なぜ、こわい、避けたいという時にくわばらと言うのか、よくわからないが、まあ、そう言っておこう。これも技術抑制のうちなのだ。

 少しの間、不便だけれど、自然に治るのを待とうと思う。


 二十一


 乱流炉科学者殺人事件。

 まあ、そう呼ぶのだろう。

 こいつは憎まれていたからな。

 犯罪者がつかまらないなどということは、ありえないのだが。

 この植民衛星内では、あらゆる記録が採られており、罪を犯して逃げ切ることは不可能なのだ。

 だから捜査官はいない。記録をチェックして犯人を確保する捕縛官はいる。

 それが私だ。

 殺人現場はわかっている。死体もある。殺人の映像記録もある。音声付きだ。なのに犯人は特定できない。

冗談だろう。

 目の前に林檎を差し出され皆で食べているが、林檎など見たことがないと皆が言っているような、そんな感じだ。

 映像では、何者かが博士が洗面台で手を洗っている床を後ろから近づき、後頭部をつかんで叩き付けることが確認できた。足払いもかけている。

 犯人はコートを着て帽子をかぶり襟を立てている。顔は見えない。コートは男物だが、中身は男か女かもわからない。

 温度分布や酸素の呼吸・二酸化炭素の排出を見れば人間だが年齢はわからない。代謝はこの区画の標準的な成人のものだ。あえて判断すれば男だろう。

 データベース照合では、この植民衛星にいる人間にはいない。しかし、事件発生後に、その外に移った人間にもいない。

 映像を立体化し、ぐるりと回してみたが、顔は見えない。DNAを採取数できる毛髪や体液も落ちていない。 落ちていても被害者のものだ。

 現場の映像から犯人を映像で追っていくと、犯行現場のトイレから出たところでいきなり画像が消えている。

どこからの干渉かというと本星からである。明確に捕縛の邪魔をしている。ならば放置しておくか。

 被害者は、それなりの有名人だから、そうもいかないだろう。上司は、そういうことで問い合わせをしたらしい。

したらしい、というのは、上司は何も言わなくなってしまったからだ。

 部署のデータベースからも記録がすべて消えた。どこかに残っているのかもしれないが、私にはアクセスできない。

 もはや我々の手が届くものではなくなってしまった。

 記録に基づいて動くのが我々の原則で、記録がなくなってしまったならば、動けないのは道理だ。

 次の案件も来ている。今日やることも、明日やることも決まってきている。 そこからはずれることはできない。

 社会の安寧を保つということならば、我々はその役割を果たしている。それで満足すべきだろう。

 正義はまた別だ。


 二十二


 我々には歴史がない。

 ルモトはいつも嘆いていた。

 私のいる区画の歴史は、難民としてたどり着いてから三十年だが、ルモトの生まれ育った区画は八十年で、どうはじまったかの記憶をもつ者はいない。みな、第二世代でそのはじまりを知らないのだ。第一世代はいることはいるが、何も語らない。

 ルモトの嘆きに、これからが問題なのよ、と私は答えた。難民の歴史など振り返りたくもない。

 ただ、難民になった経緯が全く不明なのは本星の強固な意志によるものだろう。ルモトの区画のルーツがわからないのもそうだ。たかだか一世代で、忘却がされるとは思えない。

 その歴史の切断の跡に技術抑制との名目で二十世紀後半の日本の再現が強制される。様々な抑圧を伴ってだ。

 私は、その全体を憎む。全体を憎むとともに、それが隠す私が属する集団の歴史を知りたくてたまらない。

 機械化とともに動きの鈍くなった体は不自由だが、ネットへのアクセスが直接できるようになった。

 それは、ナノマシンへの命令をある種のものに変えることで可能となった。

 本星のアーカイブスへのアクセスは困難を極めたが、迂回路を何重にも輻輳させることで可能とした。

 我々は何だったのか。それがわかれば、あらゆるものが嘘の世界に適応しなくてもよい。適応に適応を重ねる姿は滑稽なのだが、そのように客観視することもできなくなっている我々を救える。おかしなことはおかしい、と言えるようになるのだ。

 自分では戦っているように感じているが、仮想眼鏡をかけ生体認証装置に神経系をつなげているだけの私は、 客観的にはただ座っているだけだ。モニターさえ目の前にはない。

 足元には猫がじゃれつく。飼い猫のミケだ。

 ミケの毛皮の柔らかさを感じながら、全精神をアーカイブスの記録の中にのめりこませる。

 急に視界が開ける気がした。

 植民衛星では遠くまで見渡すということができない。昔の地球時代の小説を読むと、山の頂上ではるか下界を見渡すとともに地平線、そして遠くの空を眺めるという光景の描写があるが、そのようなことは閉ざされた空間内ではありえない。

 巨大な円筒の中での世界であるから、人工の雲により反対側が見えないようになっているのがデフォルトで、地平から視線を走らせると、円筒の円盤部分が一部見える。

 円筒がいかに巨大であっても、開放感とはほど遠い。生まれてからそういう環境だったので、そのようなものだと思って慣れてはいる。

 それがこの開放だ。あらゆる世界の頂点に立ったような感覚。末端の末端まで私がみなぎっている。

銀河の果てまで自我が拡張する感覚の一方、足元の猫のじゃれつきは心地よい。

 小さな生き物の感触と拡張する自我のバランスはこれでよい。猫がいないと自分はどこまでも拡散してしまったかもしれない。

猫が重しとなって世界は安定した。

 猫とともに、今こそ世界のすべてを把握できるという確信が満ち満ちてきた。


 二十三


 丸焦げ。

 そう丸焦げ。

 自動消火システムが作動して鎮火の後で放火犯を捕縛したので呼び出された。そういうことだ。

 放火犯は現場で捕縛されている。あとは移送で終わり。そのプロセスに人の関与が求められているので休日だが呼び出された。そういう仕事だから仕方がない。

 酸素カプセルサービスショップに恨みがあったとの自白も得ている。放火犯は呪いの言葉を吐き続けている。

 人の客をとりやがって。

 同じような商売をしていたらしい。

 100%捕まるとしても、罪を犯す奴は犯す。己の信念に基づく確信犯というやつだ。逃げもしない。逃げても無駄だからだが。

 商売上のトラブルで、よくある事件だ。

 丸焦げの人物は、巡回護民官の周辺の高官の関係者らしい。

 スキャンダルになるかどうか。

 まあ、酸素カプセルサービスは効果が怪しい健康法だが、そこまで害もないようだ。規制の外だろう。そちら方面からの捜査はなし。商売敵が憎くて、火をつけた。単純な事件だ。

 巻き込まれた中年女性客が一名死亡。

 書類仕事は今では一瞬で終わる。

 そこは技術抑制の対象外なのでありがたい。

 さあ、飲みにいこう。


 二十四


 妻の訃報が届いた。

 形式的なメールではあったが、これで決定ということだ。

 ルモトは思いを巡らせた。

 さて、暗海にいつアクセスしたものか。

 妻が文字通り命をかけて集めた情報が入っているアーカイブスだ。とはいうものの、当局が把握し罠を仕掛けている可能性は十分ある。

 妻は、どこまでたどりつけたのだろうか。

 あの気の強そうな横顔を思い出す。

 ふと、みせるまなざしのやさしさとはちぐはぐではあったが、どちらも彼女なのだろう。

 もう会わないと思っていたが、もう会えないこととは大きく違うのだ。


 二十五


 イシグロはルモトに声はかけなかった。

 イシグロがルモトの上司となった時には、既にルモトと妻は離れていた。籍は抜いていなかったらしいが、詳細を聞くのを避けた。

イシグロはルモトの妻と面識がないことになっていた。

 しかし、ルモトは知っている。いかにイシグロと妻があらゆる局面で激しく戦っていたかを。

 イシグロがいなければ妻は死ぬことはなかったろう。

 ルモトはイシグロにその話はしない。イシグロも普段通りの職務を続けているだけだ。

 イシグロはルモトの手のとどくところにいる。手ごろな鈍器など、いくらでも執務室にある。

 イシグロは全く気にせずルモトに後ろを見せる。

 ルモトは思った。

 イシグロを打擲する。息の根は必ず止める。

 するとあの捕縛官が来るだろう。妻の死に際して聞き込みに来たやつだ。一応、別れた夫が政府高官ということで確認に来たのだろう。

 間抜けな顔だが仕方がない。人工知能が指し示す、あきらめきった犯罪者ばかりを捕まえる楽な仕事だから。

 自分の仕事はどうか。

 敵はイシグロだけではない。

 しかし、そうやって全ての敵、大本の敵をみつけるまで、どれだけ敵を見逃し、その横暴を結果的に容認してきたとはいえまいか。

 次の一人が殺されても、自分は動かないだろう。

 ならば、どれだけ殺されれば、動くのか。

 妻はそう言って、自分から去っていった。

 あれは、夏の季節だった。人工の夏だったが。


 二十六


 ばりばり。そうばりばり。

 友人から聞いた。裏ネットでは流れている話らしい。私は禁じられているからアクセスできないけれども。

 機械化の話ではない。三十五ケー区画からの放射性物質の話である。

 いや、封じ込めは成功したのでは。

 表界にまでむちゃくちゃ漏れているが、みんな知らないふりをしているだけだ。

 いや、知っている。数値はちゃんと公表されているのだもの。

 簡単に手に入る数値が、事故の際にあれだけ大騒ぎした数値よりも高い。

 騒がなくなっただけ。私たちは落ち着いたのだろうか。冷静になったのだろうか。

 ただ疲れて慣れただけ。

 みんな騒いでいたから、私も騒いだ。

 みんな騒がないから、私も騒がない。

 それでいいのだろうか。

 後悔は後ですればいい。父は吐き捨てるように言ったが、母はそれに我慢できないらしい。

 父もわかっている。母が弟と私を連れて別居するのをすぐに許した。父は残った。

 三十五ケー区画からの距離から考えると、表界のここがだめならば、大丈夫なところは、この植民衛星にはほとんどない。

 そのわずかなところに、父はそれなりの犠牲を払って家族を移した。

 そこは、高原の避暑地に設定されていて、文句のつけようのない環境だった。

 高地トレーニングができるぐらい、気圧も調整され空気も澄んでいた。

 ただ、私たちの元居た場所の数値はここでもみられる。

 おかしいでしょう。他の植民衛星ならば全員退避ですよ。

 そういう言説は立ち上がっては、消えていった。


 二十七


 難民がようやく定着して生活も軌道に乗ったところだ。ここでまた難民化するのはたまらない。

 元難民も難民を受け入れた側も、また、シャッフルされるのは耐え難かった。

 目の前の数値は高止まりしている。

 とりあえず目に見える病変はない。集団としての健康管理は万全だ。

 元の基準が厳しすぎたのだ。

 イシグロはそう思おうとした。

 イシグロが何と思おうと、本星がそういうのだから、そうなのだ。科学的知見は数値までだ。解釈は権力が行う。そして、権力とは本星のことだ。

 巡回護民官では何もできない。

数値がどうあれ、健康被害がない、ということにして植民衛星内の平穏は保たねばならない。

 平穏さえ保てれば、少々の健康被害は看過しよう。

 そう、言葉には出せないが、混乱は健康被害以上の実害をもたらす。

 我々の前にあるのは、健康被害か混乱の害かの選択肢だけだ。

 限られた選択肢を示され、それを選べば、その責任を押し付けられる。損な立場だ。弱者とはそういうものだ。

 イシグロは、毎日のように数値をチェックし、健康被害の報告を受けた。

 疑わしい症例は増えるが、因果関係はないと結論付けた。

 あの殺されてしまった乱流炉学者がいれば説明させるところだが、まあいいだろう。

 あの男も、専門外のことまでよくしゃべった。

こちらが期待していないことまで、いろいろと泥をかぶってくれた。

 誰が手を下したか詮索する気もないが、イシグロが出会った数多い下劣な人間の中でも、殺されて当然な人物の一人と言えた。

 まだまだ、被ってもらいたい泥はたくさんあるのだが。

 そういう意味では、惜しい人材をなくした。


 二十八


 下層民の反乱が鎮圧された報告を受けた。

 それほど粘れなかったか。

 ルモトはモニターを消してため息をついた。

 蜘蛛の糸、という小説があったな。

 地獄の血の池から蜘蛛の糸を伝って脱出しようとした悪人が失敗して落ちていくのを、釈迦が蓮の花の咲く池を通して見て、悲しそうな顔をして終わる物語だ。

 自分は釈迦か。

 這い上がろうとする亡者が落ちるのを何度も何度も見ている。

 釈迦と違い、彼らとそう超絶した立場にいるわけでもない。

 鎮圧ということは、虐殺ということだ。死体は、宇宙に放り出してしまえば、大方の事は済む。空間の貴重さが地球のような惑星とは違う。

 中は圧倒的に管理されているが、汚物が生じたら外に出してしまえばそれで済む。

 宇宙船だろうが植民衛星だろうが、宇宙に浮かぶ人工物としてはそういうことになっている。

 乱流炉も放り出したいところだが、三十五ケー区画に接続しているそれはあまりにも植民衛星と一体化していて、切り離しができなかった。

 放射性物質の類が大量に漏れている。あの日常の声は、それと同一なのだ。 日常の声が聞こえるようになってから漏出が激しくなった。

 日常の声は、あの事故の日に向かって、毎日更新されている。

カウントダウンをはじめてもいい頃だが、あの事故がなぜ起こったか、直後にどのような判断がなされたか、それが明らかになるのはやはり避けねばならない。

 どうやって。

 本星の動きが見えない以上、植民衛星側では先手を打ちにくい。

 もうしばらく様子をみるか。

 そうやって時はじりじりと過ぎていく。

 

 二十九


 この植民衛星から出ることも考えないといけない。

 商売上の問題もないことはないが、とにかく安全上、とてもいられないということだ。

 妻と娘は逃がす算段はついた。その段取りをつけるため、彼自身は強く植民衛星に縛り付けられることになった。

 あまりもうからない公的な仕事を、先手を打ってかきあつめることになったのだ。

 そういう動きをしていれば、逃げるとは思われないだろう。

 ただ、どうしても逃げなくてはいけなくなった時には、多くの負債を背負い、社会的な信用も失うだろう。

 そういうリスクをとったから、家族の安全とこの植民衛星での信頼のバランスをとることができるのだ。

 ただ、良心が痛まないわけではない。

 仕事柄、若い部下やその家族と会う機会も多い。直接、子どもの多くいる施設を訪れることもある。

 自分は、彼らを見捨てるのだ。それを黙っていつまでも居るようなふりをしている。

 いつまで居る、ということは口では言っていない。うそを積極的についていない。

 しかし、外形的には、自分がここにいつまでも居るということを前提に動いている。その自分の動きを前提として多くの人が日々を送っている。

 それを信頼というのだろう。

 その信頼を自分は裏切る。そう強く心に決めている。 

 日々、顔を合わせる人が、その時に自分の行動をどう思うだろうか。

 かなり高い確率で、彼・彼女らは生きていないだろう。よくても機械化して境界人として生き延びることしかありえない。

 破綻の時は迫っており、それに向けて周到に準備している集団と、そうでない集団に分かれている。それを階級というのだろう。

 本当の上層部は、既に植民衛星にはいない。最初からいないのだ。

 上品に本星で暮らしている。

 それが真実かどうかわからないが、彼にはある確信があった。

 この事態は前もあった。今度はもっとうまく逃げてやる。


 三十


 ルモトは暗海に直接アクセスすることなく、エージェントを立てることにした。

 疑似人格をもったエージェントプログラムに暗海を探索させ、データを通訳させるのだ。

 今日で三日、エージェントを暗海に潜らせているのだが、与えたいくつかの問いに答えられるようになったら、シグナルが来るはずだった。

 その第一の問いは、

「本星は今どうなっているのか」

 というものだった。

 スクリーンに女性の顔が浮かんだ。それがシグナルだ。

 わかったか。

 エージェントの対人インターフェイスだが、少し妻に似ている。どうしてそのような顔をエージェントが採ったのかといぶかったが、それよりも早く答えを知りたい。

「本星は今どうなっているのか」

 ルモトは再び問いかけた。

 スクリーンの女性の顔は、軽くほほえんだ。

 そのように誰がプログラムしたのだろうか。


 三十一


 「本星は消滅している」

 声は女性だが、エージェントの口調は冷たかった。

 それが暗海から引き揚げたデータの結論だった。

 百年から百二十年前に何らかの破局的な事故があって、本星は滅びた。

 ならば、その後の植民衛星への指令は何なのだ。本星の士官学校へ行った人間も多い。そもそも、ルモトと妻は本星で出会った。

 あの記憶はまがい物なのか。

 本星へ行く際に冷凍睡眠をするだろう。その際に記憶が植えつけられる。

 すべてのデータがそれを示している。それ以外に、事実を説明することはできない。

 では、誰が本星からの指令を下している。

本星から指令を出す長官は、存在していないのか。

 十五ある植民衛星のそれぞれの中央コンピューターが連携して、本星の指令機能を代替している。長官は、疑似人格をコンピューターがつくりスクリーン上に存在させている。

 それで植民衛星群の運用ができているのだから問題ないといえる。

 本星を中心に植民衛星は成り立っていると思っていただろうが、本星はとっくになくなっている。なくなっているが、ある、と皆思い込んでいるから、あるように振舞っている、それだけだ。

 状況は、本星があった場合と変わらない。

 ならば、この統制と抑圧も、かつてのままか。

 技術抑制の件ならば、そのままだ。

 植民衛星の中は、一定の時代の技術に収束するよう社会システムが動機づけられている。

 これは、あるサイクルの一部だ。

 難民として植民衛星間を移動し、新たな植民衛星ではゼロから歴史をやりなおす。その際には目標が必要だ。

 その目標が技術抑制の目指す時代だ。この植民衛星では、地球の二十世紀末の先進国といわれる国々のレベルだ。

 サイクルと言ったな。

 技術抑制が達成できたならば、どうする。

 できてもできなくても、一定の期間、約一〇〇年が過ぎたならば、植民衛星のある区画の住民は難民化するようになっている。

別の植民衛星の区画へ強制移住させるのだ。

 十五の植民衛星がそれぞれに持つ約一〇〇の区画を一つずつ毎年強制移住させるので、ひとつの区画は一〇〇年に一度は移動させられる計算になる。

 まず、十五の植民衛星の一つの区画を移動先として住民を致死性のガスで全滅させる。その区画に別の植民衛星の「コクナン」に襲われた区画の住民が難民として入る。元の「コクナン」に襲われた区画には、さらに別の植民衛星の住民が「コクナン」に襲われ難民化して入る。そうやって玉突きで住民が動く。最後に空いた区画には、近隣の区画から住民を入れて、一サイクルが完了となる。

 「コクナン」とは何だ。

 疑似的な脅威だ。乱流炉の事故でも、隕石の衝突でも、感染症の発生でも、住民を追い出すための理屈付けだ。実際には発生しない。ただし、脅威と混乱を演出するため、住民の一部には実際の危害を加える。

 大量の人命の喪失は殺処分によるが、それは十五分の一の確率でしか発生しない。

 

 三十二


 十五の植民衛星の一つの区画としても、確実にそこにいる十万人近くが致死性のガスにより命を失う。

 なんのためにそんなことをする。

 植民衛星の民を本星に反抗させないためだ。短い記憶と文化しか持てない民は反抗の気力さえなくなる。

 富の蓄積をさせず、ある時代の模倣に集中させることで、本星の支配を貫徹させる。


「本星は消滅しているのにそれを続けるのか」

「続けるように設定されている」


 植民衛星間の強制移住は直接行われるわけではない。ある区画が何らかの「コクナン」に見舞われ住民は、半年の間、難民船で放浪し衰弱させられることになっている。行き着く先は、致死性のガスが撒かれ死体が転がる区画か、もと居た区画と同じように「コクナン」に見舞われ無人となった区画のどちらかである。前者である確率は十五分の一だが。

 難民集団の発生と移動は、すべての植民衛星で一つの区画を選んで毎年実行に移されるが、その実行を知るのは各衛星政府でも巡回護民官のみである。イシグロは知っていたのだろうが、副官であるルモトは知らなかった。

そもそもそのサイクルが開始されたのはいつだ。

 最も古い記録で一五一五年前だ。

 何度、殺処分は行われた。

 記録上は一五五八回。一年に二回という時もあった。

 次のこの植民衛星での対象区画、すなわち「コクナン」に襲われるか、殺処分される区画は、どこでそれはいつ行われる。

 エージェントが答えたのは、この植民衛星の七割にわたる区画が三週間後の午前零時に殺処分されるというものだった。 

 一区画ごとではないのか。

 今回は特例だ。乱流炉事故の影響がある区画に対してのものだ。境界は全て、表界もかなりの部分を殺処分とする。

 このような特例は、過去二十三回あった。植民衛星全区画対象とするものも五回あった。

 今回の場合、三割の約三百の区画が残るだけ「まし」といえる。

 無人化した区画は、長期的には、植民衛星内で増えた人口や他の植民衛星からの難民を分割して入れ、七十年程度で一杯にする。

 全体のシステムには影響はない。

 ルモトの目の前にあるのは、三週間後のこの植民衛星の七割の区画の殺処分だ。

 止めることはできるか

 あなたには手段はない。巡回護民官でさえ、その権限はない。巡回護民官はそれを知ることはできても、介入することはできない。

続いてきたという事実は強い。自分は何千回と繰り返される事象の途中のほんの一部なのだと思い知らされる。

 自分の前には圧倒的な歴史の積み重ねがあり、それが後のはるか向こうまで続いている。その流れを変えることなど不可能ではないか。


 三十三


 三十五ケー区画からの声は何なのだ。

 本星を疑似的に再構成するコンピューター群にも結論は出せないでいる。

 乱流炉事故での時空の歪みが生じたというのが最も可能性が高いとはしている。その歪みを閉じる方法は、見つかっていない。

 その日常の声が届く範囲は、全て致死性ガスによる殺処分対象なので、何の対処もなされず放置されている。

 エージェントの人型が崩れた。暗海からの適切な距離をとって情報を伝え続けることが不可能になったようだ。

 ありがとう。もういい。

 妻の姿形は崩れ、それでも何度かは形を立ち上げる試みがなされた。

 もういい、去ってくれ。

 ルモトは繰り返した。

 スクリーンは消えた。

 もう一度、暗海にアクセスすることはできるだろうか。

 植民衛星は十五あるという。この植民衛星もその一つならば、そのコンピューターはどこにあるか、だ。乱流炉事故の際に衛星政府の中枢機能を移転したから、その区画にあるはずだ。

 植民衛星の住民の生命維持にかかわる部分もコントロールしているはずなので、うかつに手は出せない。

 映画や小説、昔話によくある、敵を倒せばなんとかなる、という構図ではない。敵は自分自身というのもよくあるストーリーだが、それも分離できないという設定のストーリーだ。

 自滅へのカウントダウンは始まっている。ただし、それもトータルに自壊というのではなくて、一部は残るパターンだ。

 すると、とりあえず、一部は残す、そちらに入る、ということも考えられる。戦力の温存ということだ。

 そうやって、逃げをうつところが、妻に愛想をつかされたのだ、とルモトは思った。

 とにかく、三週間後に七割の区画に致死性のガスがばらまかれる。これを止める。

 課題の設定はシンプルにしよう。

 しかし、それを止めたとして、その後どうするのか。

 その一週間後、さらにガスが撒かれたら意味がない。場合によったら、植民衛星ごとなくなるかもしれない。

 植民衛星を今のまま残し、そのコントロールをこちらの手にとりもどすことが必要なのだ。

 可能か。

 

 三十四


 ルモトに武器があるわけではない。妻は、機械化してネットを支配しようとしたが、返り討ちにあった。

 妻がネットに接続するよう機械化を進めたことは知っていたが具体的にどうしたかは全くわからない。ルモトは全くの生身である。

 暗海にエージェントを通じてアクセスする方法も妻から伝えられたが、それは本当に表面的な手順のみしか伝えられていない。再びエージェントが人型を取り戻すかも不明である。

 妻から得たルートはあきらめた方がよいだろう。

 あのいきり立った下層区画のグループも既に潰されてしまっている。

 初めて三十五ケー区画からの日常の声を聴いたという境界人グループの反乱もあったが、これも瞬時に潰されている。反乱の理由は、逃がしたと思った親族たちが、実は汚染地域に留め置かれていたということなので、十分な理由のあることだが、本星がその異議を許されなかった。

 大学院の武術系の学生・研究者グループも謀議の段階で摘発を受け、消滅した。正義感の強い若者の集まりだったが、これも様々な植民衛星にばらばらに飛ばされた。

 ルモトには、巡回護民官政府の高官という立場はあるが、それで何かできるか。

 イシグロが持つ巡回護民官のコンソールから植民衛星の中央コンピューターに何らかのアクセスができるかどうかも極めて疑わしい。

 どうする。


 三十五

 

「あ、それ簡単。切り離しですね」

廃炉事業者は言った。機械化が進んでいるのか、言葉遣いがおかしい。

顔は機械化のためか、どす黒い。

「まあ、廃炉の事前準備でよくやるんですが、コンピューターを騙す、というんですかね。炉と衛星空間を仮想で同時に立てるんです。乱流炉と植民衛星は両方それぞれコンピューターを持っているので、両方を騙すんですわ。ほとんど毎回やっています」

 あまりの安請け合いに拍子抜けした。

「この植民衛星規模だと三日ぐらいで、立ち上げられますか。専用の集積コンピューター船をもっていますので。まあ、古いのですが、新しくしても使いようがないので。私ももうポンコツですし。あははは」

 どうも調子が合わない。

 植民衛星内では、過去に向かって技術抑制がされたが、植民衛星と宇宙との接触面では、あらゆる技術が研究開発され、惜しみなく投入されていた。その違いから、結果として扱う技術レベルがその内外でまるでかけ離れてしまったらしい。

 植民衛星内コンピューターを簡単に欺くだけの技術が小型宇宙船にある。それも中古の。

「それは、あなた個人の船なのか」

「二十年前に、会社を辞める時に買い取りました。それ以降は、個人事業主としてやってきました」

 個人にそんなシステム資源を渡して大丈夫なのか。

「コンピューターの『入口』を閉ざされていたら、なんともできません。普通は、合意の上、アクセスを確保してもらう必要があります」

 でも、この植民衛星は。

「でも、この植民衛星は乱流炉事故のため、そこのところの接点が棄損しているということは奥様から聞いています。そこから勝手にアクセスします」

「私の妻といつから接触をしていたのか」

「もうだいぶ前からです。あなたへの協力を依頼されています。奥様が亡くなられたら、このオフィスを訪ねることは、もうずいぶんと前から頼まれていました」「既に一連の作業の対価としてそれなりの報酬は前払いでいただいています」

「妻は」

「残念でした」

「先にあなたの技術を使っていたら、死なずに済んだのか」

「いえ、奥様がその身を犠牲にしてネットに潜り込んだからこそ、穴は、私がアクセスできるほど大きくなったのです」


 三十六


 本星のコンピューターは既にないので、植民衛星のネットワークを構成するコンピューターだけを騙せばいいということだ。

 廃炉事業者は、それができる十分な技術とシステム資源を保有しているとのことだった。

「まあ、中古なものですから。他の植民衛星のコンピューター群を騙し続けられる期間としてお示しできるのは、三十年というところです。ま、私は個人事業者ですんで、身の丈以上のことはいえません。でも、きっちり三十年は押さえましょう」

「ありがとう。三十年か」

 そこに向かって、人を育てシステム資源をつくる必要がある。三十年とは微妙な長さだ。ルモトならば、当然、迎えることができる期間だが、この廃炉事業者は無理だろう。

「準備はできています。一週間以内にかかります。三日もあれば問題なく、その状態にもっていきます。後は」

 廃炉事業者は、ナノマシンが浮き出て黒くなった顔をなぜていった。

「私は引退です」

「まあ、この植民衛星のどこかで、船のお守りをして、酒を飲んで暮らします。もちろんシステムの運営・監視はやりますが」

 どうも緊張感がない。

「もう一度確認させてくれ。コンピューターを乗っ取った後は、この植民衛星内は繰り返しモードに入るのだな」

「正確には、一七三日間が繰り返されます。中の人の側への対応モードが一定ということで、よほど混乱がなければ、その期間、植民衛星内の人間の生存の維持を前提とした対応がなされるということです」

「モードには致死性ガスの散布など入っていないな」

「調べた限りでは、防御システムによる部分鎮圧が最高レベルに設定してあります。技術抑制は、相変わらず続きますが。植民衛星のコンピューターにとっては去年の四月から九月までが繰り返されることになります」

「本星対応は、いや、他の十四の植民衛星との対応はどうなる」

「これは、乱流炉対応用のシステム資源を振り分けます。もともとないものをあるとしているものなので、それ自体、大した資源は使いません。植民衛星の外に対しては今までと同じです」

「去年の四月から九月までが繰り返されるというわけか」

「同じ時間が繰り返されるわけです。ただし、植民衛星のコンピューターがどれだけの期間、騙されていてくれるか」

「検知システムは働いているのか」

「簡単に言えば、異常の精査はナノミリ秒間隔でなされていて、それに対応するフェイク情報を同じ回数だけ充てている、ということです。時が経つにつれて、それがずれてくる。やがてばれる、異常は検知されます。そのやがて、が三十年ということです」

「確率的には?」

「三十年間は、百パーセント大丈夫です。しかし、四十四年後には九十五パーセントの確率で検知されます」

「検知されたら、どうなる」

「正常なシステムに戻るとすると、そこから数日で致死性のガスが散布されます」


 三十七


「現在、宇宙にある難民船はどうなるのか。致死性のガスが撒かれた後に入ってくる予定だった船団だが」

「一隻当たり三千人ほど乗った船が二十八隻ですな。こちらの植民衛星の区画が空かないと行くところがなくなってしまいます」

「そこは考えていないのか」

 妻は同じような難民の身だった。なんとかして救いたいが。

「まあ、危険ですが、元の植民衛星のコンピューターに介入してみましょう。元々の区画で致死性ガスが撒かれたことに記録を書き換えます。そちらに戻ってもらいましょう」

「そこまでできるのか」

「本星がなくなったのをごまかすために無理をして構成したシステムですので穴だらけですわ。十五個全部騙すのは難しいですが、あと一つくらいなら」

「サイクルは止まるのか」

「それは、無理です。とりあえず、今、宇宙に出ている船団は帰ってもらいますが、また別のサイクルがはじまります。なんとかこの植民衛星は外して十四の植民衛星でサイクルをまわすようにします」

 ルモトのオフィスにいきなり現れた廃炉事業者は、話が終わると古びた人型汎用ロボットを連れて出ていった。

 本人もナノマシンに支配されつつあり、廃人に等しい動作をしていたが話の内容は確かだった。

 なによりも、普通の空間にいきなり妻の面影のあるエージェントを立ち上げたのだから信じないわけにはいかない。

 廃炉事業者が帰った後、オフィスの記録を調べたが何も残っていない。護民官政府のシステムは、やすやすと騙されてしまったらしい。

 システムの切り替えが軌道に乗ったら、また現れるとのことで、ルモトとしては、それを待つしかない。

 それでも、どこかの植民衛星の区画で今年も十万人近くが殺されることには変わりはない。

 

 隣のオフィスでは、イシグロが倒れている。

 頭が鈍器で殴られ割れている。機械化が進んでいるので、血はあまり出ていない。廃炉事業者は、そちらも処理するといっていたが、どうするつもりなのだろうか。

 と思っていると、いつもの清掃用の汎用ロボットが入ってきて生死不明のイシグロを、大きなごみ箱に詰めて去っていった。床はいつもの通りの清掃がされ、まったく痕跡は残っていない。

 また、オフィスの記録を調べたが何も残っていない。

 ルモトは恐怖した。

 この廃炉事業者の力は大きすぎる。

 オフィスのコンソール前で呆然としていると、いきなり目の前の空間にエージェントが立ち上がった。

 エージェントは、微笑んで言った。

「お気持ちはわかります。でも、一週間お待ちください」

 エージェントは、妻に似ている。

 廃炉事業者が今までこんなことをしたことはあるのか、と尋ねた。

 直接手を下して記録を消したのは、御用学者に対して一件だけ。

 科学と仕事を侮辱したから。彼が仕事以外にシステム資源を使ったのはその一件だけ。

 どの乱流炉学者かはすぐに思い当たった。後は廃炉事業者に投げてやればいいんですよ、あいつらはハイエナですから、みたいなことを言っていた。

その答えを信じるとしても、ここまで植民衛星政府のコンピューターをどうにでもできるということは、ほとんど全能ではないか。

 彼が別のなにかの形で敵として立ちはだかる可能性を考えた。

 しかし、敵とするならば、圧倒的に自分が不利である。絶対に勝てない。


 三十八


 植民衛星のコンピューターが繰り返しモードに入り、仮想の本星とのインターフェイスが変わったことには、植民衛星内の誰も気づかなかった。

 ルモトも相当な注意を払っていたが、その前後の日で何らかの差異は認められなかった。

 到着予定だった難民船団は、元の植民衛星に戻ったかどうかは知ることができないが、特に異変も伝えられなかった。

 イシグロは、記録上は本星に異動となり、諸手続きが済んでいた。イシグロに発せられた辞令や引き継ぎ書類は完璧であり、後任にはルモトが指名された。

 それがフェイクであることをルモトは知っていたが、どうすることもできない。

 イシグロのオフィスを継いで、その役割をこなした。

 廃炉事業者は現れなかった。

 致死性のガスの散布は避けられたようだが、乱流炉の事故はなかったことにならない。放射性物質は「ばりばり」漏れている。

 三十五ケー区画からの日常の声は相変わらず続いている。

 ルモトの選択肢がきわめて限られていることは、これも変わらない。

 それでもつかの間の休息は得た。

 破局が最悪ぐらいにまでは改善した。

 これまでに起こったことを反芻して、いくつか納得のいかない点を考えた。

 ルモトと妻は本星で出会った。あの記憶はまがい物なのか。学位を得て、結婚して、この植民衛星に帰ってくるまで、約七年間の記憶がすべて虚構とは信じられない。

 

 三十九


 あの七年間は、自分の人生の中で光り輝くような時期だった。

 本星は、この植民衛星とは全く違った。惑星だから大地と空があるのは当然だったが、技術抑制がされてちぐはぐな植民衛星の風景とは対照的に、どこまでも伸びる移動路が湖沼や河川の間を縫い、森と林の中に白を基調とする建物が有機的に配置されている本星の景観は、その開放感と美しさでルモトを魅了した。

 あれは幻だったのか。

 ルモトは士官学校に入学したが、軍事的な訓練はわずかで、歴史や文学・哲学を古典から学んだ。

 教授陣は男女とも深い教養と品格を備えており、これも植民衛星ではめったに出会わない階層の人々だった。士官学校の学生もまた様々なバックグラウンドをもっていたが、知識を貪欲に吸収し互いに高めあう集団だった。ルモトの植民衛星は、メディアをみる限り高い評価を受けることの少ない、いや、ほぼ最下位の評価しか受けない植民衛星であったが、本星で差別的な扱いを受けることはなかった。

 どうしてあそこに残らなかったのだろう。

 そう何度も悔やむような環境がそこにはあった。

 妻も同じ植民衛星の育ちだが、出会ったのは本星だった。妻は早くから才能を認められ、本星の科学アカデミーで研究職についていた。

 同郷ということもあって、そして、本星と植民衛星の格差に対する複雑な思いもあって、二人が深い感情で結ばれるのには時間はかからなかった。

 それらがすべて虚構というのだろうか。

 妻が植民衛星に戻ることになり、ルモトも本星でのキャリアはあきらめた。

 妻には、何かの確信があり、何かと戦っていた。ルモトは、妻の能力と考え方を尊敬していたので詳細は敢えて聞かなかった。

 妻の植民衛星への帰還は一時の敗北の結果であり、また、態勢の立て直しという意味もあった。

 それも事実ではなかったのか。

 ルモトは妻と一緒にいることを選んだ。

 植民衛星政府の職につけたのは、たまたま欠員があったからだ。

 植民衛星に戻る前に、植民衛星政府の職には申し込みをして、採用の通知を受け取った。

 本星での出来事なのでそれも虚構か。

 植民衛星に到着して冷凍睡眠から覚めた時からが現実とすれば、その前の本星での事象は、すべて実際にはなかったことになる。しかし、ルモトは妻と並んだ二人用の冷凍冬眠カプセルで目覚めたのだ。冷凍冬眠カプセルは、本星に出発した時の単独のものとは異なっており、少なくとも植民衛星の発着場の出発ロビーから到着ロビーに移されてはいる。

 頭の中だけ、操作されたのではないらしい。

 それから植民衛星の生活がはじまり、やがてルモトはイシグロの副官に任命されたが、その時には妻と別れていた。

 植民衛星での生活をはじめて、妻とは様々な行き違いができてしまった。納得して本星を離れたのに、ルモトはやはり不満を漏らさずにおれなかった。また、植民衛星政府に入ったことで抑圧する側に回って思考方法をそれに合わせたことも大きかった。

 なにかと妻とぶつかり、その苦い思い出ばかりだ。妻は、表に出せない人脈も使い本星への抵抗運動を続けた。それはルモトの知りえないルートであり、それがまたルモトをいらだたせた。

 妻のために、本星と離れたのに結局、妻とは別れた。

 妻の機械化がある一線を超えたからだ。電子的なネットアクセスが直接できるとのことだったが、それは麻薬に浸っているようにも感じられた。

 妻と別れて、ルモトはルモトのやり方で本星への抵抗活動を始められた。 

 妻を気にせずに活動できたので、ある種の開放感はあった。

 主導権争いだったともいえるが、いずれにせよ妻とは並び立たなかった。

 ルモトは、そばにいてもとても妻を守れないので、これで良かったのだと思っていた。

 妻はどう思っていたのだろう。

 そしてルモトはやはり妻を守れなかった。


 四十


 決着は三十年後。ルモトは植民衛星の護民官。そして事態は何も変わらない。

 三十五ケー区画からの放射性物質の流出は止まらず、同じく、日常の声も止まらない。

 日常の声の時が、事故の発生時に重なるとき、すべてが明かされる。それは九年後。

 ルモトは一人だ。

 神にも等しい力をもつ廃炉事業者(個人営業)は、バーの隣の席で酔いつぶれている。

 破局が近いと本星や他の植民衛星に逃げ出そうとした人間は、みな発着所に近接するドックの冷凍睡眠カプセル倉庫で眠りに落ちている。

 千人程いるが、それぞれにそれぞれの現実が与えられている。

 これが現状だ。

 目覚めているのは、ルモトだけか。

 バーテンダーは、汎用ロボットに業務用のプログラムを入れただけだが、それなりのカクテルをつくる。

 何か気のきいた会話をしないかと思うが、こちらから話しかけなければ、黙っているようだ。

 他の植民衛星から切り離された孤独な植民衛星。本星は既にない。

 内向きの過去の虚偽データで回され、技術抑制を貫徹しようとしている社会には、どこにも真実はない。

 さて、その頂点に立ってみて、どこから手をつけるか。

 手をつけられるのか。


 四十一


 ドックの冷凍睡眠カプセル倉庫を訪ねてみた。護民官の地位ならばアクセス可能だった。

 副官の立場では、その存在さえ知らなかった。

 冷凍睡眠カプセル倉庫には、完全に動きのない空間が広がっていた。ハチの巣の中の卵に例えればよいだろうが、数が千以上あれば空間としての大きさは、かなりのものになっている。

 かつて、自分もこの中にいた。それも七年間。

本星に移動するためには、冷凍睡眠で約一か月の旅が必要と考えられている。

 通常の宇宙船での移動は不可能ではないのだが、高コストで普通の人間の選択肢にはなかった。

 カプセル利用者の名簿を呼び出した。

 冷凍睡眠で眠りに落ちた後に、カプセルが宇宙船に積まれて本星に向かうと信じてここに来たのだろう。

 旅行でも移住でも本星に渡れるというのだから、植民衛星の中でもそれなりに恵まれた人々なのだ。

 おや、知っている名前があった。

 植民衛星政府への出入りの業者だ。妻と娘も一緒らしい。

 データを見ると目的は本星に旅行となっている。

 この時期に旅行はないな。多分、三十五ケー区画から広がる汚染を忌避しての行動だろう。致死性ガスの件までの情報は入手しているとは思えないが。

 どちらにせよ、当分、このままだ。本星での楽しい生活を夢で見続けるということだ。

 娘の方は、まだ高校生だろう。脳内に送り込まれるイメージで学習は続けられ電気刺激で筋肉も鍛えられる。

 呼吸器系統の臓器の鍛え方はどうなっているのだろう。

 自分の七年間を思い出す。本星で体を鍛え球技のトーナメントでは優勝したことがあるが、あれも虚構だったのか。

 脳内でその経験を疑似的に作り上げるとしても、肉体はどう合わせたのだろうか。

 きっとそれなりの技術はあるのだろう。

 その成果が自分と妻でもある。



 四十二


 三十五ケー区画からの放射能汚染を避けるという意味では、冷凍睡眠カプセルに入るというのは悪くはない。

 ただ、彼らは本星に渡るためと思い込んでいるわけだから、そこは騙されているということだ。

 本星行きの冬眠者は誰が管理しているのだろうか。植民衛星のトップに立ったからには解き明かしたい謎だが、今はとにかく三十五ケー区画からの放射能汚染を抑え込まねばならない。

 一方で、住民の説得がある。これまで安全と言ってきたものを、危険とは言えない。

 しかし、気づいている人間は気づいている。あの出入り業者もその一人だ。

 本星でなく、別の植民衛星に行こうとするならば、リアルな宇宙船に乗れただろう。それでも、冷凍睡眠カプセルには入らなければならない。

 違いは、カプセルが植民衛星に留まるか、運ばれるか、だけである。

 それも外側からの見方で、本人は本星に行ったという体験を疑似的ではあるがしており、その限りでは問題ない。

 逃げられる人間を逃がした、ということでは、ルモトは少し気持ちが軽くなった。

 一方で、逃げられない人間をどうするか、だ。

 選択肢は、どこかに逃がすか、被害を受忍させるかしかないのか。放射能汚染を止めるのが最良だが。それができないから苦悩している。

廃炉事業者に尋ねても無理とのことだ。物理的な作業のために汎用ロボットを大量動員することが必要だが、それは不可能だ。あの放射能汚染の濃さでは、汎用ロボットは数時間も稼働できないとのことだ。

「結局、力技なのですわ」

 廃炉事業者は言った。

「いろいろ胡麻化しても、最後はモノを動かせなければ、現実は一歩も動きません」

 そして言った。

「私も、いろいろ胡麻化す力をもっています。それでうまくやったこともあれば、失敗したこともあります。でも、最後のところは、どうやっても動かない。だから、支配することをやめたのです」

 どうも機械化が進んだ人間の言葉遣いはおかしい。


四十三


 廃炉事業者は「切り離し」以降、どんどん人間から離れていく。ナノマシンがつくる皮膚の黒ずみは、初めて会った時と比較しても濃くなり、動作はすっかり鈍くなった。

 酒だけはよく飲むが。

 ナノマシンで体が肥大化し、人格も定かでない廃炉事業者は、もはや話相手にもならないので、エージェントを立ち上げてもらい、そちらと会話することが多くなった。

 例のサイクルに関する情報もそうだが、護民官には、あらゆる情報が集まっている。

 ルモトは、副官だった時の情報がどの程度、イシグロに把握されたかを知って驚愕した。自分が覚えていない幼児期の出来事までの詳細な記録が提供されていた。

 もちろん、本星に対する抵抗活動や護民官政府の政策へのサポタージュの記録もある。二十四時間監視可能とはいえ、ここまで把握されているとは。

 弾圧されたあのならず者たちが、裏では護民官政府から資金提供を受けていたことも記録に残っていた。最後は、その資金を抱えたまま、宇宙空間に放り出されたわけだが。

 エージェントは、今や廃炉事業者が立ち上げた仮想コンピューターが蓄積するすべての情報を元に、ルモトと会話する。

 それをもってしても、三十五ケー区画からの放射能汚染と日常の声は止めようがないのだ。

 巡回護民官用の人工知能もエージェントに上位をとらせたので、これ以上の情報はないはずだが。

 これも、何か人為的な操作が入っているのか。

 何も信じられない。

 巡回護民官は、この植民衛星の頂点である。その地位にあるものが、これほど無力とは。

 ルモトは、イシグロの胆力を、皮肉ではなく、うらやましいと思った。

 入手できた記録には、妻の暗殺についても詳細に記されていた。

 最終の決裁はイシグロにより行われていた。


四十四


 優先順位その一、三十五ケー区画からの放射能汚染を止める、その二、植民衛星のコンピューターを再構築する(致死性ガスの撒布を恒久的に止める。三十年以内)、その三、同区画からの日常の声を止める、というのがルモトの自分に課した使命だ。

 もちろん、三十五ケー区画で既に発生し、境界から表界に広がりつつある健康被害の回復、ということもあるが、とりあえず機械化でしのげる。

 なによりも被害はない、としてしまったので正面から取り組むには政治的に困難が伴う。

 一応、司法・立法・行政の機関が分立し、言論の自由もあれば、マスコミもミニコミもSNSもある社会なのだ。

 しかし、そこに、本星の権力を背景に護民官政府がその上位に位置する。技術抑制を進め、それへの順応・ 反発を適度な刺激として社会を維持する。

 愚民政策だとは思う。

 技術抑制の目標を追加するたびに、マスコミから個人間のネットワークまで様々な意見が飛び交う。

 それ自体が支配構造からの目くらましなのだが。一定期間内に目標の発表がなかったといっては騒ぎ、あったといっては騒ぐ。

 設定が適当かなどとは、いくら議論しても結論が出るわけがない。正当化する理屈も反論も何とでもなる。

 議論に疲れた頃、次の目標が打ち出されるのだ。

 そうした右往左往をみるにつけ、ルモトは嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 大切なことはもっとあるだろうが、それに群がる仕組みができてしまえば、もう止まらない。

 健康被害は確実に発生し、その範囲も表界のかなりの部分に広がっているが、それに対する報道は小さい。うやむやなまま日々が進んでいる。

 日常の声は流れているが皆、慣れてしまった。あと、九年で破局の日を迎える。そこに至るまでいかなる不正と怠慢がはびこっていたかが明らかになるはずであるが、この状況では、それが明らかになったところで世論は動かないだろう。いや、とんでもない方向にころがるかもしれない。それは防御システムによる部分鎮圧を招く。致死性のガスよりもましだが、決して好ましい事態ではない。

 日々の些末な差異にこだわりながら、本質から目をそらして生きる。日々はそれで回る。回るがそれでいいのか。

 不正が不正と認識されずに、細々とした小事に日々のエネルギーが費やされていく。


 四十五


 流れていく馬鹿話に時間を費やすことはやめてしまっても、護民官にはあらゆる情報が集まってくる。

 それを整理するだけで半日はかかる。いや、整理は自動的になされるのだが、その整理が整理として機能しているかを確認するのは、結局自分でしかできない。気になる情報は、元をたどろうとしてしまう。そして疲れる。

 状況の把握だけで精一杯だ。イシグロが護民官だった時は、本星があると信じていて、最悪、頭越しにでも介入がされるとの安心感があった。

 今、この植民衛星を支えているのは、廃炉事業者の作った仮想プログラムだ。どの程度の厚みで本星をシミュレートしているのか、また、他の植民衛星とのネットワークをどのレベルで組んでいるのか、組んでいないのか、不安ではある。

 見た目は壮大でも、風が吹けば飛ぶような書割ということもあるだろう。

 ただ、ルモトには、その差がわからない。どの程度信頼していいのか、規定外の動きをした時に襤褸が出ないだろうか。

 あらゆる情報が集まり、独裁的な力を振るえる地位にいながら、この閉塞感と無力感はなんなのだろう。

 このまま自分の立場を守ればよい。そう悪い位置にいるわけではないのだから、という誘惑は強くある。

 殺処分のプログラムを作動させ、常態に回帰する。

 七割の区画に殺戮が行われるが、護民官公邸のある区画は安全なのだ、残り三割の統治のために生き、利用可能な区画を再び人で一杯にするとの道がある。

 個人的には、退職して、冷凍睡眠カプセルに入るという方法もある。後任は副官にまかせる。

 冷凍睡眠カプセルの中で仮想現実を生きるのだ。できれば、士官学校進学の時からやり直し、もう一度、妻に会いたい。そしてそこで、終わりにするのはどうだろう。この植民衛星に帰るところまででもよい。

 あの時は、あの時で抱いた希望もあった。その心のままで終わりにしたい。

 そう思ったが、それでもやはり膝を折ることはできない。

 圧倒的な事実の積み重ねと歴史の流れの中では、自分は大河の一滴にも満たないだろう。

 それでも、目の前にいる誰かを救えるならば、救いたい。

 まだ、できることはあるはずだ。


 四十六


 さて、副官の動きがおかしい。

 三十五ケー区画からの放射性物質の拡散が露わになるにつれて、集会やデモが増えてきた。暴力的な集団の形成も散発的にはじまっている。

 情報はいくらでも手に入る。いつどのように弾圧するか、タイミングの問題である。

 放射性物質の拡散の問題は騒いでも仕方がない。問題の解決にはならないどころか障害となる。

 より大きな悪である致死性ガスの拡散の阻止にも影響が出るかもしれない。それを植民衛星の住民に知られるわけにはいかない。

 護民官の地位にあれば、弾圧の手段はいくらでもある。ルモトは弾圧される側だったので、どのような手段がどの程度効くのかはよくわかっている。

 偽情報を流して仲間割れさせることもできれば、ある個人を篭絡して裏切り者とすることもできる。

 副官が複数の集団と内通し、その主張に共感を抱いていることは、すぐ把握できた。自分がその立場でも、そうなるだろう。

 だからこそ早めにその芽を摘まなければならない。そういう反乱ごっこには付き合っていられない。

 放射能汚染による健康被害など、いざというときに機械化してしまえば、変わらず百年の寿命が得られるが、致死性ガスは、まさしく死に至る。

 比較などしようがない。

 しかし、それを住民に知らせるわけにはいかない。

 技術抑制で、新たな目標を示す度に繰り返す馬鹿騒ぎをみれば、真実が漏れた場合、どういう方向に事態が転がるかわからない。どこかで弾圧は避けられない。

 なるべく血が流れない方向で考えたいが。

 イシグロもそうだったのかも知れない。

 彼は、致死性ガスの存在を知っていたのだろうか。


 四十七


 副官から連絡があってオフィスで待った。

 この副官は若い。公式記録では、本星の士官学校から帰ったばかりだ。デッキの冷凍冬眠カプセルで五年は眠っていた計算になるが、本人はそれに気づいていないだろう。自分がそうであったように。

 本星の士官学校を卒業して、この植民衛星に戻ってくるとは珍しい。ルモトもそうだが。

 何か忸怩たるものがあるのだろう。その抱えるものが不満分子と共振することは十分に考えられる。わが身を振り返れば、いかにもありそうなことだ。

まあ、思いきり暴れたいという気分はわかる。しかし、ここは宇宙である。

「一つのミスから崩れた宇宙船、一人の不埒から破壊された植民衛星の例は皆さんよくご存じのはずです。水も空気も漏らさぬ統制の上に我々の生はあるのです」

 そう大学院生にゼミで訴えたことを繰り返すことになる。

「それでも、人は百歳近くの平均寿命を保っている。

 何が問題なのだ。

 乱流炉放射線に限らず様々なリスクにさらされるのは、宇宙にいる限り避けられない」

 妻に言ったことを繰り返すことにもなる。

 致死性ガスの件は、副官に悟られないようにしておかねばならない。

 いざとなったら、副官を排除する。

 方法はいくつかある。

 本星への出張という形で冷凍睡眠カプセルに押し込めてしまうのが一番穏当だろうか。


「何か用かね」

と言ったとたん、後頭部に衝撃を感じた。視界が斜めから横になり、側頭部が床につくのがわかった。


 四十八


 これは、どうしたことだ。

 すぐに捕まるぞ。なぜか、あの間抜けな顔の捕縛官の姿が心に浮かんだ。

 床から見上げる視界の中に、私をのぞき込む副官ともう一人、黒い顔が見えた。機械化が進みすぎたどす黒い顔だ。

 なるほど、副官は、彼なりの廃炉事業者を見つけたらしい。つまり、この植民衛星のコンピューターを乗っ取る力を手に入れた、と。

 副官にとっては、自分はイシグロなのだとルモトは理解した。

 いつの間にか、同じ立場になり、同じことをしている。

 三十年後の破局を避けるため、大事の前の小事として差配してきた諸々の事は、明らかに抑圧と弾圧だ。

 副官の親族にも手をかけたが、それもわかってやった。事態はすべてコントロールできると思っていたが、そうではなかった。

 副官が近づいてくるのが感じられた。

 意識は薄れ、口の中に金属の味が広がった。

 この執務室の記録はなかったことにされるのだろう。

 視界は真っ暗になった。

 そうか、後は頼んだぞ。

 イシグロも私に対してそう思っただろうか。

 ルモトの意識は遠くなった。


(了)


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