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ホラー

伝染

作者: 生吹

 2000年12月25日

 N県の廃屋で起きた火災と行方不明事件について


 この日、町外れの教会ではクリスマスパーティーが行われていたとみられる。同日亡くなった白亥操(しらいみさお)さんの夫である和足(わたる)さんは、海外出張から帰宅後、妻の操さんと娘の架苗さんの姿が見当たらないことに気付き、警察に通報。リビングの床に二人のものと見られる血痕が残されていた為だ。クリスマスは3人で過ごすのが毎年の恒例であったという。


 家の中に荒らされた形跡はなく、警察が捜索を始めた数分後に町外れの教会から火の手が上がる。この教会は数十年前から使われておらず、かなり老朽化が進んでいた。(使われなくなった経緯については不明)焼け跡から操さんを含む7人の遺体が発見されたが、いずれも死因は火災によるものではなく、何か強い衝撃を受けたことによる圧死であることがわかっている。死亡した全員が殆ど原型を留めない姿で発見されており、およそ火災の規模とは不釣り合いな損傷であった。

 娘の架苗さんは現在も発見には至っておらず、未だ行方不明のままである。


 前日の12月24日。白亥さん宅の留守電には、見知らぬ女性の声が残されていた。




【留守番電話の音声 2000.12.24】


 もしもし。

 どうして出てくれないんですか。まだ迷っていますか?   


 わたし皆から聞きましたよ。あなたと架苗ちゃんがあの部屋に出入りしているのを見たって。

 例のクリスマスパーティーの件、ご検討頂けましたでしょうか。もう明日の夜なんですが。


(背後に何者かの声が混ざるが、聞き取りは困難)


 あなたがあれを異教の悪魔と見なそうが、こちらには関係のないことです。だって、何百年も前からそうしてきたのだし。確かにあれは本物じゃない。でも、それで救われる人がいるならそれでいいんだと思います。

 架苗ちゃんを迎え入れる準備はできています。あの日、七明(ななあき)さんを捧げた時からわかっていたことじゃありませんか。もちろん、まだ誰にもバレていません。あなたと私の2人だけ。


(ノイズが激しくなる)


 ああ、聖なる夜に と炎に包まれることがどれだけ素晴らしいことかわかるでしょう。

 神だって  を見捨てている。なぜかと問われても、答えることはなかった。そういうものなの。操さん、あなたは自分を責める必要なんてない。もちろん、架苗ちゃんも悪くはない。そのためのパーティーじゃないの。七明(ななあき)さんにだってあっちできっとまた会える。恨んでなんかいませんよ。一緒に私たちのクリスマスを祝いましょうね。




 和足さんいわく、この女性の声・内容共に全く心当たりがないという。警察もこの発信者の特定には至っておらず、謎に包まれている。

 七明という名前については、1999年4月に行方不明になっている、近隣に住む80代の女性である可能性が高いとのことだが、和足さん曰く、その女性とは殆ど面識はなく、度々挨拶を交わす程度の仲であったそうだ。おそらくこの留守電に残された声の主が、七明さん行方不明の件と、教会で起きた火災に何らかのかたちで関与していると思われる。


 後にニュース番組やワイドナショー等でこの音声が放送されるが、直後に謎の体調不良や幻聴といった症状を訴える電話がテレビ局に相次ぎ、中には重篤な症状を引き起こして病院に搬送される者まで現れた為、その後テレビ放送されることはなくなった。



【幻聴を聞いた視聴者のインタビュー記録 2001.2.14】


 記者「あの音声を聞いた時、どんな風に感じましたか?」


 視聴者「とにかく恐ろしくてねぇ。頭が真っ白になったかと思いきや、突然激しい耳鳴りがして……」


 記「大丈夫ですか。もし思い出して少しでもつらいようでしたら言ってくださいね」


 視「大丈夫です。ええと、突然耳鳴りがして、それが段々と大きくなって、すごく頭も痛くて……それで……あれを聴いたんです」


 記「幻聴をですか?」


 視「はい。鈴の音と、何か、大きな存在の声をですね。――ん? すみません。今日、あなたの他に記者は来ていますか?」


 記「いいえ。今日は私一人だけです。そういう約束でしたから」


 視「本当に……? じゃあその、質問を続けてもらってもいいですか?」


 記「はい。その声に心当たりはありますか?」


 視「あるような、ないような。よくわかりません。すごく低くて、唸るようで、だけど柔らかいんです」


 記「柔らかい? 聞いていて不快ではなかったんですか?」


 視「そうですね。もっと聴いていたい。でも、それと同時にとても怖いんです。何もかもが持っていかれそうで」


 記「それは、何を言っていたんでしょう? 覚えていますか?」


(ノイズが入り、一部音声が乱れる)


 視「何か、歌を歌っていました。どこかで聴いたことがあるんです。あれは、クリスマスだったか。いったい何と歌っていたのか。讃美歌に似ていたけど、いや、ちがうな。何かがずれていて。……まるで私を」


 記「大丈夫ですか? 具合が悪い? しっかりして。こっちを見て。あの――」


(ガラスの割れる音)


 視「私に構うな! 邪魔をするな! 私が、私が何をしたと言うの」


(雑音が続く)


 記「落ち着いてください。こっちを見て! ほら、私とあなたしかいない。他に誰もいない。ね、わかりますか?」


 視「違うんです。私は、私はあの時ただ願ってしまっただけ――」


(嘔吐する音)


 視「ごめんなさい。こんなはずじゃなかったのに」


 記「あの、もうやめにしませんか。これ以上は危険ですので」


(視聴者の泣き声に混ざり、低い歌声のような音声が入る)


 視「いえ、もう無理なんです。さっきからそこにいるんですよ。ずっと」


 このやり取りを最後に二人は行方不明となっている。この音声が録音されたボイスレコーダーは、視聴者宅のリビングにて大量の血痕と共に発見されたらしいのだが、どこからか音源が流出し、インターネット上で拡散され話題を呼んだ。しかしこの音声には疑問点も多く、フェイクである可能性が高いというのがネットユーザー間の共通認識である。作られた経緯、目的は不明である。



 捜査に進展は訪れぬまま、7年の月日が経過した2007年12月25日。和足さんは、動画投稿サイトにて操さんと架苗さんの画像及び留守番電話の音声を公開し、情報を募った。動画は瞬く間に再生されたが、ここでも体調不良を訴える声が多くあがった。そして、誰もが奇妙に思う点があった。


 動画のタイトルが、投稿から7日後に「メリークリスマス」というものに変わり、その数時間後に削除されたのだ。この日を境に、和足さんは忽然と姿を消してしまった。寝室には大量の血痕が残されていたが、和足さん本人の血液型とは一致しなかった。


 この事件から今年で14年が経つが、これ以降事件の進展は一切見られず、世間の記憶から葬り去られるのは時間の問題だろう。だからどんな形であれ、こうして再び話題にする必要がある。

 しかし、今も低い歌声が私の耳元で聞こえている。ずっと聞こえている。だんだん大きくなってきているのがわかる。もし、これを見てくれている人がいたら、手を貸してくれませんか。本当にごめんなさい。もう時間切れかもしれませんが、後のことは宜しくお願いします。

 さようなら。



                               2021年12月24日



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― 新着の感想 ―
[一言] SPCもののような淡々とした間が雰囲気があって楽しかったです。ミーム汚染かなと思ったりするともうすでに汚染されえるなぁと思いましたが、SPC関係なかったらすいません。私が好きなだけです。 …
[良い点] こんにちは! 拝読が遅くなってしまい、申し訳ありません(汗) これは怖い。 こういった形でホラーを文章化できる方法があるとは驚きしかないです。 行方不明事件が時代を飾る媒体と共に広が…
[良い点] ∀・)かなり斬新でしたね。鞠目さんも仰られておりましたが、この文量でこの内容の濃さをだせるのは流石です。そしてズバリ僕の好きなホラーですね(笑)オカルトを取り扱ったホラーといいましょうか、…
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