表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復術士だと思っていたら、世界で最初の衛生兵でした! ~勇者パーティーを追放されたヒーラーは、戦場の天使と讃えられました~ #たらした 【Web版】  作者: 雪車町地蔵
閑話 宴会する烈火団

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/115

その頃、勇者(仮)一行は (1)

「俺たちの天下なんだなぁ、これが!」


 烈火団団長にして魔術双剣士ドベルク・オッドーは、コンプレックスである鼻炎気味(びえんぎみ)の鼻をすすってから、麦酒(エール)を一息にあおってみせた。

 酒場にて祝賀の宴会を開いている真っ最中だった。


「しかし、ずいぶん上手いこといったじゃないか、ねぇドベルク?」


 そんな彼にしなだれかかり、熱い吐息を吹きかけているのは、烈火団唯一の攻勢魔術師――賢者を自称するニキータだった。

 彼女は大きく胸元の開いた服をさらに着崩(きくず)し、ドベルクに(から)みついて同じくエールを口にする。

 不満の声を上げたのは、巨体(きょたい)の男だった。


「なあ、ドベルク。そろそろ()(はい)にも解るように説明してくれよ!」

「おいおい、おいおいおいおいおい! なんだやっぱり解ってなかったのかよガベイン。頼むぜぇ、おまえさんは烈火団の切り込み隊長なんだからよぉ」


 ()(たけ)よりも巨大なバトルアックスを背負った重斧(じゅうふ)戦士ガベインが、安酒に顔を真っ赤にしながらドベルクへと問い掛ける。


 ドベルクは鼻で笑うと、尊大(そんだい)に、傲慢(ごうまん)に、饒舌(じょうぜつ)に、ことのあらましを語りはじめた。

 それは、二度と彼らの元に戻ってくることはないエイダ・エーデルワイスについての話だった。


「さて……勇者の証しを叙勲(じょくん)されるってのは本当さぁ。そんなみみっちい嘘は吐かねぇのよ俺は。だが――俺たちだけがエントリーされてるってわけじゃねぇ」

「なんだって?」

「なんでも、王様付きの占星術師(せんせいじゅつし)が言い出したらしいぜ、『近く、魔族四天王のうち一体を討伐(とうばつ)するものがある。この者、救国(きゅうこく)をなすだろう』ってな」


 魔族の四天王と言えば、この十年誰も倒せなかった魔物だと彼は大げさに語る。


「で、あらゆる場所から、その資格を満たしそうなやつらが選ばれたの。そのうちひとつが、あたしら烈火団ってわけ」

「賢いニキータの言うとおりだぁぜ、ガベインよぉ。もちろん、中でも一番強いのは俺たちなんだけどねぇ、これが!」

「なるほどなぁ。だいたい解ったぜ」


 うんうんと頷いてみせる重斧戦士。

 しかし、彼はすぐに首をかしげて、


「ん……じゃあなんでエイダのやつを追放したんだぁ?」

「ガベイン、おいおい、おいおいおいおい、ガベインよぉ」


 心底不思議といった様子のガベインに、ドベルクは肩をすくめて呆れ果て。

 それから悪罵(あくば)の言葉を噴出(ふんしゅつ)させた。


「あいつが雑魚(ざこ)で! お荷物で! 役立たずだからに決まってんだろうが!」

「あの子になにができたか、そのかしこいおつむで考えてごらんなさいよガベイン」

「えー、なんだっけか、お――王宮?」


 応急手当だと、ドベルクは心底軽蔑(けいべつ)しきった表情で吐き捨てる。


「応急ってのは解る、間に合わせって意味だ。手当も解る、処置って意味だ。だけどよぉ、応急手当ってのはわかんねぇ。造語か? 自分で作った言葉か? 俺には聞き覚えがねぇが――ニキータ!」

「あたしだって知らないよ」


 賢者を自称する魔女は、苦々しい顔で首を振る。

 我が意を得たりと、ドベルクは頷いてみせた。


「ならそいつはインチキってことだ。詐欺(さぎ)だ、俺たちにたかる寄生虫だ。なのにあいつときたら、不死身の烈火団が生きて戻ってこれたのは自分のおかげだとか抜かしやがる。はぁー、調子ブッコキすぎなんだよねぇ……! そんなやつには、銅貨一枚だってやりたくない! 実際これまでやらなかった!」

「うんうん。大ナディア砂漠の迷宮を踏破(とうは)したのも、シニリア魔火山にノーティス凍土(とうど)でピンピンしてたのも、ぜんぶ我が輩たちが強靱(きょうじん)無敵(むてき)最強(さいきょう)であったがゆえにな」

「そうだとも!」


 だから追放した。

 自分こそが真の勇者だと信じて疑わないドベルクは、さらに(さかずき)を重ねて言い放つ。


「だが、(きそ)う相手の中にどんなキワモノが潜んでいるか解らねぇ、汚い手を使う奴らもいるだろう。となりゃあ、用心するに越したことはねぇ」


 つまり、戦力の増強であると彼は(のたま)う。


「マジで勇者の証しをもらっちまうにはよ、よりパーフェクトなパーティーでなきゃならねぇ。そこであいつは邪魔だった。あいつの代わりに今度来る聖女様を仲間に加えりゃ……これはもう、百戦(ひゃくせん)百勝(ひゃくしょう)(あや)うからずやってやつだぜ! ひゃーはー!」

「「ひゃーはー!」」


 調子に乗った三人は、ジョッキを打ち合わせて歓声を上げる。

 それからもう何杯目になるかも解らないアルコールを飲み干して、全員が同様に醜悪(しゅうあく)な笑みを浮かべた。

 彼らの内心は、既に勇者の称号を手にしたあとの栄達(えいたつ)にこそ向けられていたのだ。


「……へっくしゅ」


 水を差すように、湿(しめ)ったくしゃみが飛び出した。

 ドベルクはばつが悪そうに鼻の下を擦り、懐から紙包みを取り出す。


「おー、ドベルク、そりゃなんだ?」

「あ? あー……」


 彼が取りだしたもの。

 それは、ほかならぬエイダが苦心して作った鼻炎の薬だった。

 彼はアルコールに酔った眼で、しばらくそれを見つめていたが。


「はっ!」


 ぽいっと、薬を酒場の床へと投げ捨てた。


「あいつが作ったゴミとか、知らねーよ。これまで効いたような気がしてたのも、なんかのインチキだったのさ!」

「そうよそうよ。寄生虫の残りかすとか捨てちゃいなさいよ」

「ニキータはいいこと言うぜ。……そうだ。ゴミは捨てなきゃならねぇ。明日には聖女様と合流だ。四天王の居場所も占いでわかってる。俺たちゃそこにいって、あとは魔族をブッコロすだけだぜ。そのあと? そのあとはもう、やりたい放題! 天下は俺たちのものってね」

「じゃあ、今日はもっと英気(えいき)(やしな)いましょうよ。飲み直したほうがきっといいわ」

「うむ、我が輩ら最強烈火団、無敵の成功を祝って!」


 カツン!

 もういちど打ち合わされるジョッキ。


「乾杯しちゃうんだなぁ、これが!」


 大笑いがとどろく酒場にて、烈火団の面々は浮かれきっていた。

 自分たちの将来がバラ色に輝くさまを夢想(むそう)し、信じ切って。



 かくて、彼らの破滅は、ゆっくりと、しかしたしかに道行きを定めたのであった。







お読みいただきありがとうございます!

第一章はここまでです。

次回からは、第二章 実績が解除されたので、野戦病院を改革したいです! 編がはじまります。


面白かったり続きが気になりましたら、下にあります評価欄をクリックして★★★★★評価にしてくれると作者がたいへん喜びます!

最高だなと叫ぶぐらいの大喜びです!


面白くなければ★☆☆☆☆としていただけると、お心遣いに感謝し地にひれ伏して感謝を叫びます。ありがとー!!!!


今後もごひいきいただけるなら、ぜひとも〝ブックマーク〟をよろしくお願いします。



後学のため、感想やレビューなども気軽にしていただけるとうれしいです!

作品に反映されたりします!


戴いた感想は、噛みしめるように大切に拝見させていただいております!

〝感想〟の二文字が赤く輝くたび、生の実感を得ているほどです!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ざまあなシーンが待ち遠しくなるドベルクの屑っぷり。 [一言] せっかくの薬が……。相手の思いやりを感じることができないとは。いらないなら売ることだってできただろうに、考えなしでよく強くなれ…
[良い点] よくある異世界から持ってきた他人のノウハウを大して今まで使ったこともないような奴がいきなり使いだして活躍するのではなく、世界の裏に追いやられた技術を幼少期から培ってきた主人公が活躍していく…
[良い点] 勇者パーティーの頭悪い会話すこ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ