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第一話 前線から追放されました!

第二部 もうひとりの衛生兵編 開幕!


書籍版が1月27日より発売!

詳細はこちらの活動報告から! https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3100163/

「エイダ・エーデルワイス、恥ずかしながら戻って参りました!」


 ここは戦火咲き乱れる最前線。

 彼方にて着弾した高射魔術は、エイダの宣言と同時に大輪の火花を咲かせる。

 轟音は地を疾走(はし)り、彼女の白髪と白衣に時間差で風をはらませた。

 赤々と双眸を燃やし、颯爽たる表情を見せる彼女には、まさしく戦場の天使という二つ名がふさわしい。


 永久氷結魔族領アシバリー凍土。


 しかし、この地に居合わせた223独立特務連隊の面々は、ただ唖然と目を見開くこととなった。

 戦闘中であることすら忘れ、魔術媒体の杖(ワンド)を取り落とす者まで現れる始末だ。

 何故?

 エイダの神々しさに見蕩(みと)れて?

 答えは否である。


「……正気か?」


 エイダと旧知の間柄である特務大尉、レーア・レヴトゲンでさえ当惑とともに咥えていたタバコを取り落とす。

 そんな微妙極まりない反応を受け、白き衛生兵がこてんと首を傾いだとき、


「あ、いた!」

「こっちだこっち!」

「見つけましたよ、閣下(・・)……!!!」


 大声とともに、一目で衛生兵とわかる者たちがエイダの元へ殺到してきた。

 屈強な男どもに、抵抗する間もなく担ぎ上げられてしまう少女。

 これにはさしもの彼女も取り乱す。


「なにをするのですかあなたたち!? ザルク少尉まで加担して! 放してください。私にはやるべきことが――」

「寝ぼけたことを仰らないでください!」


 ザルクと呼ばれた士官が、悲鳴をあげるように彼女の言葉を遮った。


「まさか、ご自身の立場が解らないのですかっ?」

「……あなた方の、上司では?」

「中将相当の、が抜けてますな!」


 士官たちは、蒼白な顔色で頷き合う。


「常識で考えてください。最高司令官が最前線に、出張ってよいわけがないでしょう!?」

「しかし」

「後方での視察だけという約束でした」

「ですが」

「しかしも、ですがも、へったくれもありません!」


 さらに言い募ろうとした少女の声は、衛生兵たちの懸命極まりない声にかき消される。

 彼らは必死だった。

 上官を無事に連れ帰りたいただ一心だった。


「エーデルワイス閣下、ご帰還を願います」

「閣下はやめてください。分を弁えていないようで恥ずかしいので」

「恥を知るというなら、自分どもの首が飛ぶことを恥じて下さい。だいたい、あなたの教えを待っている者は山といるのです。さあ、軍学校へ戻りますよ……!!」

「待って、待ってください! まだ貴重な情報の収集が、衛生と防疫、兵站の管理が――」


 なおも言い募るエイダだが、もはや聞く耳を持つ者は誰もおらず。

 わっせわっせと神輿を担ぐようにして、彼女は後方へと連行されていった。


 嵐じみた一連の出来事に遭遇したレーアは。


「……戦場の狂気よりも、あれのほうがよほど狂っているのではないか?」


 無情な世界へと、哲学的な問いを投げるのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石前線勤務の大尉は深い発言するなぁ^_^
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