第一話 前線から追放されました!
第二部 もうひとりの衛生兵編 開幕!
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「エイダ・エーデルワイス、恥ずかしながら戻って参りました!」
ここは戦火咲き乱れる最前線。
彼方にて着弾した高射魔術は、エイダの宣言と同時に大輪の火花を咲かせる。
轟音は地を疾走り、彼女の白髪と白衣に時間差で風をはらませた。
赤々と双眸を燃やし、颯爽たる表情を見せる彼女には、まさしく戦場の天使という二つ名がふさわしい。
永久氷結魔族領アシバリー凍土。
しかし、この地に居合わせた223独立特務連隊の面々は、ただ唖然と目を見開くこととなった。
戦闘中であることすら忘れ、魔術媒体の杖を取り落とす者まで現れる始末だ。
何故?
エイダの神々しさに見蕩れて?
答えは否である。
「……正気か?」
エイダと旧知の間柄である特務大尉、レーア・レヴトゲンでさえ当惑とともに咥えていたタバコを取り落とす。
そんな微妙極まりない反応を受け、白き衛生兵がこてんと首を傾いだとき、
「あ、いた!」
「こっちだこっち!」
「見つけましたよ、閣下……!!!」
大声とともに、一目で衛生兵とわかる者たちがエイダの元へ殺到してきた。
屈強な男どもに、抵抗する間もなく担ぎ上げられてしまう少女。
これにはさしもの彼女も取り乱す。
「なにをするのですかあなたたち!? ザルク少尉まで加担して! 放してください。私にはやるべきことが――」
「寝ぼけたことを仰らないでください!」
ザルクと呼ばれた士官が、悲鳴をあげるように彼女の言葉を遮った。
「まさか、ご自身の立場が解らないのですかっ?」
「……あなた方の、上司では?」
「中将相当の、が抜けてますな!」
士官たちは、蒼白な顔色で頷き合う。
「常識で考えてください。最高司令官が最前線に、出張ってよいわけがないでしょう!?」
「しかし」
「後方での視察だけという約束でした」
「ですが」
「しかしも、ですがも、へったくれもありません!」
さらに言い募ろうとした少女の声は、衛生兵たちの懸命極まりない声にかき消される。
彼らは必死だった。
上官を無事に連れ帰りたいただ一心だった。
「エーデルワイス閣下、ご帰還を願います」
「閣下はやめてください。分を弁えていないようで恥ずかしいので」
「恥を知るというなら、自分どもの首が飛ぶことを恥じて下さい。だいたい、あなたの教えを待っている者は山といるのです。さあ、軍学校へ戻りますよ……!!」
「待って、待ってください! まだ貴重な情報の収集が、衛生と防疫、兵站の管理が――」
なおも言い募るエイダだが、もはや聞く耳を持つ者は誰もおらず。
わっせわっせと神輿を担ぐようにして、彼女は後方へと連行されていった。
嵐じみた一連の出来事に遭遇したレーアは。
「……戦場の狂気よりも、あれのほうがよほど狂っているのではないか?」
無情な世界へと、哲学的な問いを投げるのだった。