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第三話 すべてはエルクの計略でした!

「最強の一、絶技(ぜつぎ)を極めた魔族四天王は、絶対に倒さなくてはならない怨敵(おんてき)でした」


 だから一計を案じたのだと、エルクはすべてをつまびらかにする。


占星術師(うらないし)の言葉は本当です。しかし、陛下に勇者を選抜するよう(そそのか)したのはぼくです。怨樹(えんじゅ)のトレントを戦場に引きずり出す、その()()とするために」


 エルクの企み通り、勲功(ぶこう)を焦った冒険者たちは、我先にと大樹海へ集結。

 度重なる領域侵犯(りょういきしんぱん)苛立(いらだ)ったトレントは、自ら出陣。冒険者たちを狩り立てた。

 が、エルクが用意した回復術士たちにより勇者候補たちは一命を取り留め、逆にトレントは波状攻撃を受けて戦闘能力を削減(さくげん)されていった。


「この主目的は、トレントの能力を分析することでした。勇者に準ずる力を持った冒険者たちの奮闘(ふんとう)により、十分に情報が集まったところで、次は無理矢理にでも軍の最大戦力を動員する方策を考えなくてはなりませんでした」


 その手段を聞いて、レーアは絶句(ぜっく)することになった。


「ぼく自らが部隊に同行することで、軍部が面子(めんつ)を懸けて戦力を投入する状況を作りました。人類の(かなめ)であるページェント辺境伯の息子をみすみす野垂(のた)()にさせたとなれば、いかに軍上層部であっても、その発言権は壊滅的になる」


 空恐(そらおそ)ろしさに、レーアは震える。

 彼はこう言っているのだ。

 万が一自分が死んでいても、父親の発言権が増すだけで問題なかったと。


「ぼくは賭け事はしません。絶対に事態が好転するように画策(かくさく)しました。人事部にはずいぶん無理を言って、いろいろと根回しをして、第61魔術化大隊を派兵することには成功しました。しかし、これだけの戦力であっても、確実にトレントを倒し得るとは言えません。そこで、自分の目で戦場を確かめ、真に信頼を置ける部隊を探しました」


 それが、223連隊だったのだと、少年は語る。


「ここに、現状用意できる最大戦力が集結したのです。いまこそ、トレントを討伐するときです。怨樹さえ倒すことが出来れば、魔族の指示系統は壊滅する。そうなれば、人類の勝ち目が見えます」


 エルクの長広舌(ちょうこうぜつ)を最後まで聞き終えて。

 レーアは。

 エルフの連隊長は。


「クソガキが」


 確かな意志のもと、右手を振り抜いた。

 パーンと。

 乾いた音が、爆音轟く戦場にむなしく響いた。


「……え?」

「え、ではない。よく聞けエルク!」


 唖然(あぜん)とするエルクの胸ぐらをつかみあげ、レーアは(つば)を飛ばして喝破(かっぱ)する。


「貴様が死んだら、家族は悲しむぞ!」

「――――」


 目を(みは)る少年。

 なによりも軍紀を重んじるエルフが、みずから上役へと暴力をふるったのだ。そうまでして、伝えたいことがあったのだ。


「当然、エイダ・エーデルワイス高等官もだ」

「――――」

「……ふん」


 レーアはそれ以上続けることなく、投げ捨てるように彼を解放した。

 そして。


「……ご無礼を。軍法会議でもなんでもご随意(ずいい)に。ですが」

「いえ、目が覚めました」


 赤く()れた頬を撫でて、少年は苦笑した。

 取り(つくろ)うことをやめた、年齢相応の苦い表情だった。


「姉上と父上さえ生きていればと考えていましたが……そっか、悲しみますか」

「おそらく」

「だったら――生き延びなければなりませんね」

「そのために、我々がいますので」


 不敵にレーアが笑う。

 少年も、納得したように頷く。

 様子をうかがっていたドレッドノート大佐が、咳払(せきばら)いをした。


「ゴホン! 話はお済みに? では、どうやってトレントを討伐し、敵司令部を押さえるかだが――」

「おい、おいおいおいおい! 俺たちはどうなるだよドレッドノートさんよぉっ!?」


 突如大佐を押しのけて、ひとりの男が飛び出してきた。

 (すす)けてひしゃげた鎧をまとい、腰に一対の剣を差した風采(ふうさい)の上がらない男だった。


「何者か」

「うるせぇ!」


 レーアの誰何(すいか)を一蹴し、男はわめく。

 その瞳には、狂気と恐怖が色濃く(にじ)んでいた。

 彼は、背後にふたりの仲間を引き連れながら、レーアたちへとにじり寄る。


「俺たちゃ勇者なんだぜぇ? 無事に、生きてここから連れ帰ってもらえるんだろうなぁ、おい!?」


 ほとんど錯乱(さくらん)している彼の言葉に。

 レーアが冷たい返答を投げかけようとした。その刹那だった。



「――ッ、全員、()せろおおおおおおおおおおおお!!!」



 クリシュ准尉(じゅんい)が、ありったけの声量で警告を放った。

 間髪(かんはつ)をいれず、衝撃。

 爆風。轟音。


「――――――」


 音が消え、視界が消失し、世界が――揺れた。


 魔族四天王、怨樹(えんじゅ)のトレント。

 その巨体が出陣し、いまのいままでレーアたちが潜んでいた地帯を、拳ひとつで根こそぎ破壊した(・・・・・・・・)のだ。


 この事実を、レーアが知るのはもう少し後のことになる。

 なぜなら彼女は――


「エルク……!」


 少年を守るために。

 自らの身を、犠牲にしたのだから。



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[一言] 偽勇者が出しゃばるのはトレントが許さない!
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