第54話
◆
気分が乗らないまま教室に到着。
既にクラスメイトは何人かいるが、まだ寧夏は来ていなかった。あいつが俺達より遅いのも珍しいな。
どんなにゲームで夜更かししても、絶対に遅刻だけはしないのに。
まあ、あいつの場合夜更かしっていうより、徹夜って言った方が正確だが。
「龍也。寧夏来てないみたいだけど、何か聞いてるか?」
「あー……や、聞いてない。多分もう少しで来るだろ」
……? 何だ、龍也のやつ。何か言いづらそうな感じだが……もしかして何か知ってるのか?
まさかとは思うが、喧嘩とか。
……いや、この2人に限って喧嘩はないな。二人の歯車の噛み具合というか、波長の合い具合は俺も驚くくらいだ。だから喧嘩はない。……はず。
「あっ! サナたん、クラたん、やっほー!」
「おー、土御門。やっほっほーい!」
「おはよう、土御門」
俺達に気付いた土御門が話しかけてきた。
半袖のワイシャツから伸びる細くしなやかな腕。
第二ボタンまで空いていて、鎖骨がチラチラ見える扇情的な胸元。
黒い生地に白のラインが入っている、校則破りの短いスカート。
腰には体温調節のためか、桃色のカーディガンが巻かれている。
端的に言ってしまえばギャルっぽい着崩し方だ。
近くにいる黒瀬谷と緑川も似たような着崩し方で、化粧の派手さも相まって夏場のギャルって感じがする。
「どうどう? 夏服、可愛くない?」
土御門が立ち上がり、その場でくるっと一回転。
銀杏高校の制服は、他校と比べても可愛いと噂になるレベルのものだ。実際、制服目当てで入学する生徒も少なくない。確か、土御門もその手の理由だったはずだ。
確かに可愛いな。ぱっと見制服じゃなくて、こういったブランドの服を着てるように見える。
梨蘭もまだ来てないけど、多分あいつもすごく似合うんだろうな……。
「いやー、マジで似合ってる。暁斗もそう思うだろ?」
「え? あ、ああ。さすが土御門だな。どんな服も着こなしてる感じがする」
「えへへ~。そんな、照れるよぅ」
照れ隠しなのか、くるくる回り続ける土御門。
……って、そろそろ止まれ。遠心力でスカートが持ち上がりそうになってるから。
「どーどー。ひよりん、止まれー」
「おパンツ見えちゃうからね」
「ふぇっ!?」
今更気付いたのか、スカートを押さえて後退った。
顔を真っ赤にして、潤んだ目で俺を見つめてくる。
「み、見た……?」
「み、見てない。神に誓って本当だ」
「よ、よかった……。いやー、今日の下着可愛くないから、あんまりサナたんに見られたくなかったんだよねー。ちょっともさいって言うかさー」
「それ俺に言ったらダメだろ」
「……ぁ」
ギュギュギュンッ!
顔を真っ赤にした土御門は、足早に教室を出て行ってしまった。
「はぁ……ひよりんは可愛いなぁ」
「超可愛いのに、あの抜けてるところが堪らないんだよね」
「「ねー」」
こいつらはのんきだな。
黒瀬谷と緑川に2人に挨拶し、俺らも自分の席に座った。
「いやー、夏は眼福ですな。ブレザーに隠れていた隠れた至宝が、あられもなく晒されている……夏、最高」
「中学の頃から思ってたけど、龍也ってたまに凄く気持ち悪いよな」
「何言ってんだよ。制服を着れるのは人生のうちのたったの六年間なんだぜ。その短い間に、女子達は少しでも自分を可愛く見せる努力をしている……これを見ないのは、逆に女子に対して不誠実! 失礼なことだとは思わんかねーん?」
「少なくとも学校に来たからには黒板でも見てればいいと思う」
「淡泊だな、暁斗は。そんなこと言ってると、久遠寺に愛想尽かされちまう?」
余計なお世話だ。
まあ、でも……確かにそう言われてみれば、冬服から一気に夏服になる姿ってのは、少しグッとくるものがある。
その点は龍也に同意しよう。……絶対言葉にしないが。
そのまま授業の準備をして待っていると、教室の前の方から物凄い勢いで寧夏が入ってきた。
俺と同じように長袖のワイシャツを捲り、腰にはいつものカーディガンを巻いている。寧夏の夏スタイルは、ちんちくりんな体を余計際立たせていた。
珍しくイライラしてるのか、俺らの所に来ずむっすーとした感じで席に座った。
「よ、寧夏。おはよう」
「……おはよ、アッキー」
「元気ないな。どうした?」
「ちょっと家の方でね。まあ大したことは……あるけど、そのうち解決すると思う。だから心配しなくてもいいよ」
家の方……十文寺家の方か。
何度か寧夏の家には行ったことあるけど、確かにあれは豪邸だった。確か、両親が大企業の社長とかだっけ。
つまり寧夏は、社長令嬢ってことになる。確か妹が一人、下にいたっけな。
うちは由緒正しき一般家庭だから想像もできないけど、ご家庭の事情ってのがあるんだろうな。
……あれ? 何か静かだな。
と、周りを見渡すと……あ、そうだ。龍也が席に座ったままなんだ。
「おい龍也、何してんだよ。こっち来いよ」
「いいよ、アッキー」
「……え?」
僅かに振り向いた寧夏。その目は真っ直ぐと龍也を見ていたが、龍也は気まずそうに目を逸らした。
え、ええ……? 何があったの、2人とも……?
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