第166話
◆
「そういうことね。好きよ、体育祭。というか今年から好きになったわ」
「なん……だと……!?」
耳を疑った。
だってあの梨蘭だぞ。バスケットボールもまともにキャッチできず、自分の足に足を引っ掛けて転ぶような奴だぞ……!?
それなのに体育祭が好きって……。
「アンタ、今めちゃめちゃ失礼なこと考えてない?」
「エスパーか」
「いや否定しなさいよ」
そんなことを言われても。
梨蘭はそっと息を吐くと、席に着いて脚を組んだ。
「確かに私は運動神経悪いし、チーム競技には向いてないわ。みんなの足を引っ張っちゃう」
「ああ、自覚はしてんのね。じゃあなんで?」
こう言っちゃなんだけど、迷惑かけるからこそ嫌いなんじゃ?
それに、今年から好きになったって?
「アンタが言ったんじゃない。チーム競技はみんなで楽しんだもん勝ちって」
「……あのバスケの時のか?」
「そうよ。だから私も楽しみたいって思ったの」
よくまあ、そんな前のこと覚えてるな。
確かに、俺も龍也もそれがモットーでチーム戦は楽しんでる。
その方が得だし、みんなも楽しめるから。
「でも今年から好きになったって理由にはなってないよな」
「そ、それは……」
モジモジ、モジモジ。
……? 何モジモジしてんだ、梨蘭は?
首を傾げていると、龍也と寧夏が思いっきりため息をついた。
「はぁ。わーかってないなぁ暁斗は」
「女心わかってないとか、アッキーだめだめすぎぃ〜」
「なんだよ、それ?」
まるで「自分達はわかってます」風な言い方。ちょっと腹立つ。
「今年からだよ? こ、と、し。本当にわからない?」
…………あ?
「『運命の赤い糸』か?」
「そう、それ! リラは去年までアッキーと喧嘩ばっかりだったからねぃ」
「今年はもうその辺の心残りはない。それにお前らが付き合ってから、初めての学校行事だ。ワクワクするのは仕方ない……だろ、久遠寺?」
「しっ、知らないっ」
ぷいっ。龍也の言葉に、梨蘭はそっぽを向いた。
いやそれ認めてるようなもんじゃん。
じとーーーー。
「〜〜〜〜ッ! そ、そうよっ、悪い? 暁斗と初めての学校行事よ。楽しみにして何が悪いの?」
こいつ開き直りやがったです。
「おうおう暁斗。嫁ちゃんにここまで言われて、黙ってるのは男じゃねーよな?」
「アッキー、気張って行こーぜ?」
「……はぁ、わかったよ」
せっかく梨蘭も楽しみにしてるんだ。
クラスのモチベーションも上がってるし、俺だけ斜に構えてクラスの雰囲気を悪くするのもな。
「で、梨蘭はなんの競技に出るんだ?」
「そうね……障害物競走に出ようかしら。借り物競走だと、なんか嫌な予感がするから」
「嫌な予感?」
「上手く言葉にできないけどね」
肩を竦める梨蘭。ニヤニヤしている龍也と寧夏。2人はわかってるみたいだけど……どういうことだ?
2人に聞こうとすると、丁度三千院先生が入ってきてその場はお開きになった。
うーん、意味がわからない。
◆
「へっ、へぇ。んっ……! け、今朝、そんなことに、あっ……なってたの、ねっ。くぅっ……!」
「ああ、まあな」
「ぁっ……! ちょっ、激しっ、すぎ……!」
「あ、悪い」
ボーッとしてて力加減ミスった。
下を見ると、手を床について頬を赤らめて息を荒くしている璃音がいる。
うなじまで薄ら赤くなり、汗が光っていた。
目に薄ら涙が溜まり、息を必死に整えようとしている。
「も、もっと、ゆっくり……!」
「いやぁ、話してる余裕があるならもっといっても大丈夫でしょ。ほら。いっちに、いっちに」
「ま、待っ……! ゆ、揺らさないでっ……!」
「もうちょっとで終わるから」
「あっ、うっ、も、らめぇっ……!」
ビーーーーーーーーーッッッッ!!
「はイ、手押し車終了ー」
あ、もう1分経ったか。
璃音の足から手を離すと、力尽きてその場に倒れ込んだ。
「し、死ぬ……これ、死ぬ……」
「俺と同じメニューをやりたいって言ったの、お前だからな?」
「まア、少年は5分コースだけどナ」
「舐めてました……」
汗だくで息を荒らげて痙攣している美少女。
うーん、事案ですな。
璃音に飲み物を渡し、休憩がてら柔軟をする。
「そういや、今朝璃音いなかったな。何かあったのか?」
「何って、体育祭実行委員だもの。準備や会議で朝から忙しかったのよ」
「へぇ、知らなかった」
「……あなた、もう少しクラスのことにも目を向けた方がいいわよ」
ごめんて。だからそんな白い目で見ないで。
「ほウ、体育祭カ。懐かしいナァ。私も体育祭では無双したものダ」
「まあ、一般人にゴリラが混ざってるようなもんですからね」
「少年の今日のメニュー倍ナ」
「そんな!?」
「今のは暁斗君が悪いわ」
俺はただ、思ったことを言っただけなのに!
……いや、それがまずいんだな。反省。
「でも、今日の会議でちょっとよからぬ議題が上がってね」
「よからぬ議題?」
「ええ。それが──」
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