第124話
◆
「え? 今日泊っていっていいのか?」
梨蘭が落ち着いたところで、部屋に入って来た寧夏がそう提案してくれた。
「うん。もう夕方だし、今から帰るんだったら泊って行った方がいいでしょ」
「ぁぅ……私のせいで、ごめんなさい」
「リラのせいじゃないよぅ。しょんぼりするリラもかわゆいねぃ」
寧夏はベッドで落ち込む梨蘭に飛びついた。
ちょ、今の梨蘭水着姿だから、いろいろ揺れて零れ落ちそうなんだけど。胸とか、乳房とか、バストとか、おっぱいとか。
「暁斗君、目がやらしいわよ」
「少年はむっつりだからナ」
「そこうっさい」
男の子だからしょうがないんですー。
なんとなく恥ずかしくなり顔を背けていると、龍也が肩を叩いて来た。
「暁斗、ちょっと」
「ん? おう」
龍也の後に続いて廊下に出る。
と、周りに誰もいないことを確認して、声を潜めて口を開いた。
「実はネイが、プロのダイバーに依頼して夜中の間に探してくれるように頼んでくれたんだ。泊めてくれるのも、それが見つかる時間を稼いでくれてる」
「え、マジか……?」
「ああ。でも久遠寺には言うなよ。言えば、また自分のせいだって落ち込むだろうからな」
確かにな。梨蘭のことだから、自分のせいで沢山の人の時間を奪ってしまったことに罪悪感を覚えるだろう。
ここは、黙っていてやるのが一番か。
「わかった。ありがとな」
「礼なら後で、ネイに言ってやれ。あれでもすげー心配してんだからよ」
「ああ。わかってる」
龍也と一緒に部屋に戻ると、みんなが何やら荷物を持って待っていた。
「暁斗、これからみんなでお風呂行ってくるわね」
「ん? おう、体も冷えてるだろうし、ゆっくり温まって来いよ」
「……覗かないでよ?」
「覗くか!」
あれ、ラノベとか漫画とかで普通にあるけど、リアルだとがっつり犯罪ですから。
梨蘭1人ならともかく、女子高生3人に女子大生1人とか完全にアウト。よくて停学。悪くて一発退学だ。
そんな危険を冒してまで人生を棒に振りたくない。
「へたれ」
「保身的と言え」
「筋肉だるま」
「筋肉関係ないだろ」
んべっ、と舌を出すと、寧夏達と一緒に風呂場へ向かっていった。
なんだ、元気になったじゃないか。よかったよかった。
「で、暁斗。行くべ?」
「行くか」
「なんだよー、ノリわりぃぞー」
「ノリで後ろ指をさされる人生は送りたくないからな。龍也も、寧夏にぶっ殺されるぞ」
「大丈夫。ネイはそういうのに寛容だから」
そういや寧夏もギャルゲとかエロゲをたしなんでたな。
確かに寧夏も悪ノリは好きだが……。
「梨蘭がいる風呂覗いたら……わかるよな?」
「え、暁斗? 顔こわ……」
「わかるよな?」
「えと、その……」
「ワ、カ、ル、ヨ、ナ?」
「すみませんでした」
よろしい。
全く。龍也ももう少し考えてから発言すればいいものを。
「んぁ? 暁斗、どこ行くんだ?」
「海。もう少し探してくる」
「さすがに今日はやめといた方がいいと思うぞ。お前も疲れてるだろ」
「けど、じっとしてられないからな。龍也はここで、梨蘭達が戻ってくるのを待っててくれ」
「……あいよ」
龍也は仕方ねーなといった感じで肩をすくめ、ソファーに座った。
そんな龍也を背に、バルコニーから浜辺に下りる。
つっても、もう夕暮れだ。あんまり遠くは探せないし……でも、もっと沖の方にあるような気もするんだよな。
「────!」
「ん?」
なんだ? あっちの岩場の方から鳴き声が……?
犬? 猫? それにしては馴染みのない鳴き声なような。
甲高いような声が、一定のリズムで繰り返されている。
なんだか怖いな……大人を呼んできた方が……いや、ひとまず何がいるのか確認してみよう。
岩をちょっと昇り、鳴き声のする方を覗き見ると。
「キュイッ、キュイッ」
「い、イルカ!?」
しかもこれ、ハンドウイルカじゃないか! なんでこんなところに……。
流されてきたのかわからないが、浅瀬付近に打ち上げられているハンドウイルカ。
動けないのか、かなり弱っているみたいだ。
この程度なら、俺一人でも押せば海に返せるか……?
とにかく、やってみよう。
「安心しろ、今助けてやるからな」
「キュイ……」
「よし……ふんっ!」
ぐっ、想像以上に重い……!
だけどっ、少しずつ動いてるぞ……!
砂浜にめり込む脚を軸にし、更に力を加える。
すると、イルカ自身も少しずつ体をよじり、徐々に海に向かっていき……。
最終的には、全身が海に浸かるまで押すことができた。
「キュイッ、キュイッ」
「おー、元気になったみたいでよかった」
こんなところでイルカの救助をすることになるとは思わなかったぞ。
ハンドウイルカは東伊豆の方に生息しているらしいけど、まさか本物に出会えるなんて思わなかった。
イルカは助けられたことが嬉しかったのか、俺の側から離れようとしない。
なんだか犬みたいな懐き方だ。ちょっと可愛いな。
「よしよし。もう陸に上がるんじゃないぞ」
「キュイーーーッ」
甲高い鳴き声を1つ上げ、ハンドウイルカは海に向かって泳いでいった。
そう言えば、イルカは助けられた恩を返すって聞いたことがあるが……。
「どうか、梨蘭のイヤリングを見つけてきてくれますように」
……なんてな。
さて、俺も探しに行くか。
軽く準備運動をし、イヤリングを探すべく海へ潜っていった。
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