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魔戦士ウォルター78

「ふむ、森のにおいがしてきたな」

 馬車を走らせていると横を歩むシュガレフがそう言った。

「森ならさっきからずっと続いているじゃないか」

 ファイアスパーが言う。彼の言うのは街道の左右に広がる森のことだろう。

 歩みながらウォルターもシュガレフが何を言いたいのかが分かっていた。

「そうですね、森の香りがします」

 カランが言った。

 ファイアスパーは首を傾げていた。

「ダークエルフのクランが近いってことだよ、人間の色男さん」

 ギャトレイの言葉で真紅の魔術師はようやく納得した様子だった。

「私は念のために消えておく」

 シュガレフはそう言うと灰色の外套を頭からかぶった。彼の屈強な身体は消えた。エルフとダークエルフは相争う仲だ。言わば神の定めし宿敵同士。シュガレフは要らぬ火種を持ち込むわけにはいかないと気を利かせたのだろう。

「では、私は鷲になって偵察に出向こう」

 ファイアスパーが言うとギャトレイが止めた。

「止めとけ、射落とされるぞ。エルフとダークエルフの勘を舐めちゃ不味い」

「そういうものか。では、皆と共に行こう」

 ファイスパーは残念そうに応じた。

 歩んで行くと景色こそ変わらなかったが、ウォルターは左右の木々に監視の目の気配を感じた。ダークエルフの用心深さに驚いた。斥候は、何もダークエルフ族自身ではない。鳥から虫まで色々いる。エルフとダークエルフは生き物達と心を通わせることができるのだ。

 カラスが飛び去って行った。

「報告に行ったみたいだな」

 御者台でカランと並んで馬を操りながらギャトレイが言った。

 程なくして前方に長弓に矢を番えて微動だにしない人影が見えて来た。

「馬も馬車も、皆、そこで止まれ!」

 ダークエルフは五人いた。

 ファイアスパーが迂闊にも一歩踏み出したところで、相手の五人は弓を引き絞り始めた。

「動くな。ダークエルフの弓の腕前は一流だ。小さい頃から叩き込まれているからな」

 ベレがペケの上で静かに言った。

 五人のダークエルフ達の前に、ウォルター達の左右の茂みから四人のダークエルフが躍り出て来た。

 気配に気付けなかったことにウォルターは己の未熟さを思い知った。

「我らの同胞が二人と、人間が二人と、ゴブリンが一人か。妙なにおいも微かにするが気のせいか?」

 においとはおそらくはシュガレフの気配のことだろう。

 バレたら一戦交えることになるかもしれない。勝てない相手ではない。だが、カランとベレの居場所がなくなることになる。

「気のせいだな。それでこの先は我らのクランだが、何の用だ?」

 ダークエルフの一人が尋ねて来た。褐色肌の細身の身体に背中には弓矢、腰には長剣を帯びている。

「私達は西のダークエルフのクランからやって参りました」

 カランが言った。

「西の? ああ、確かにあったな。どうしたのだ、その目は?」

「はい、西のクランがトロールに襲われて壊滅しました。生き残りは私とそこの妹だけです。こちらの方々は私達を護衛して下さり、ここまで導いて下さりました」

 カランの言葉にダークエルフ達は顔を見合わせた。

「野蛮なトロールめ、許せんな」

「これは報復の戦をせねば」

 口々にダークエルフ達が言う。

「襲ったのは野良のトロール達だ。クランも燃えちまって、奪う物を奪ってもうそこにはいないだろう」

 ギャトレイが言うと、ダークエルフ達は眉間にしわを寄せていた。

「野良のトロールか」

「それで通してくれるのか?」

 ベレがペケの背から飛び降りて尋ねた。

「良いだろう」

 斥候のダークエルフ達は後ろにいる弓隊に向かって頷いて見せた。弓隊は警戒を解いた。

「人間にゴブリンよ、言っておくが、妙な気は起こすなよ。そのことを我らのクランではゆめゆめ忘れぬようにな」

 ダークエルフ達が森の中へ消えて行く。

 ウォルター達は再び足を進めた。

 斥候達と出会った場所から里の入り口までずいぶんと距離があった。その間も左右の木々、草藪の影からは様々な気配を感じたが、鳥が飛び立つだけで、ダークエルフが現れることは無かった。

 丈の短い青草の広場に古木が幾つも立ち、木々の上には小屋があり、ダークエルフ達が他の枝の上に座っていた。

 相対するエルフの世界と同じだった。彼らが仲良くできないのがウォルターには尚も不思議だった。

 誰もここでお別れだとは言わなかった。

 ダークエルフ達が語らう木の下をただただ馬車は行くのみ。

 ギャトレイはどうするのだろうか。

 ウォルターはホブゴブリンの傭兵の恋心を察知していたのでそちらが気になった。いや、そもそもみんな、どうするつもりだろうか。ファイアスパーもシュガレフも、ただただ付いて来てくれると言うのだろうか。

 彼らは仲間だ。古城へ案内することについて異論はない。だが、別れが来るのなら引き止めるつもりはなかった。

「西から来たか」

 ダークエルフの長老と名乗る者が現れた。が、長老というには未だ壮年の男だった。

「はい」

 カランが答える。

「その目、気の毒だが、我らでは治せぬ。欲深き人間の信徒ならば対価はあるが治せるだろうが」

 長老の目がウォルターとファイアスパーを厳しく見詰めた。

「この方達は私と妹をここまで送って下さいました」

「分かっておる。お主ら姉妹はここの住人となれば良い」

「ありがとうございます」

 カランが応じたが、顔はあまり嬉しそうではなかった。

 エルフもそうだがダークエルフも基本的に人をもてなすということをしない種族だ。そのため、宿泊施設も酒場も無い。

 ウォルターらはここで別れることにした。

「皆さん、本当にありがとうございました。皆さんと出会えて私達姉妹は本当に救われました」

 カランが言ったが、笑顔は曇っている。

「カランさん、どうぞお達者で」

 ギャトレイがそう言った。ウォルターはその苦渋の決断を尊重した。

「では、御機嫌よう。ベレもな」

 ファイアスパーが言うとダークエルフの妹は頷いた。

「行こうか」

 ニカッと笑いつつギャトレイが言い、一行は出立した。

 ダークエルフ達は好奇の視線を向けて来ない。もう既に自分達を見飽きたのだろう。

 ウォルターはペケを引き、ギャトレイが馬車を操る。ファイアスパーは歩み、おそらくシュガレフも側にいる。

 ダークエルフの里から出た時だった。

「待って!」

 声がし、振り返るとカランが駆けて来ていた。

「カランさん!?」

 御者台から振り返ったギャトレイが驚きの声を上げる。

「ギャトレイさん! 私!」

 ギャトレイが御者席から跳び下りると、カランがその胸に抱き着いてきたのであった。

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