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魔戦士ウォルター60

 それは、ここ「オーク屋敷」で仲間達と和やかな食卓を囲んでいた時から気付いていた。

「なぁ、狼牙」

「ああ」

 オークや旅人達で賑わう酒場の端っこのテーブルに外套を纏い、目深にフードをかぶっている者達がいた。人数にして四人。そいつらはこちらを時折窺いながらチビチビと杯を重ねている。

 向こう側からだとこちらを横から見るような配置だ。ウォルターとギャトレイはそれぞれ通路側だった。

「どうかしましたか?」

 こちらの雰囲気に気付いたのか、カランが訝しげに尋ねてくる。

「いえ、何でも無いです。さぁ、コフル様の教えに従って食べて飲みましょう!」

 ギャトレイが声を上げた。

 ウォルターはチラリと相手側を盗み見た。通路を歩く給仕が横切ると相手は四人ともいた。

 こちらを見はしなかったが、何やらヒソヒソと話し合っている。

 そのままお開きとなり、一行は薄明かりが零れる土の道を歩み始めた。

 先ほどの連中、何者だろうか。

 タスケンの仇討ちか? 俺達に賞金でも懸けられたのか?

 宿へは真っすぐの道だった。が、ギャトレイが言った。

「カランさん、ベレ、こっちへ行きましょう」

 カランもベレも勘は鋭い方だろう。ギャトレイの言葉に何かにおいを察したようだ。

 全員で曲がり、ファイアスパーに守りを任せて、ウォルターと、ギャトレイは飛び出した。

 すると、抜身の剣とウォルターの振るった斧がぶつかった。

「ちっ」

 相手はやはり四人だった。

「さぁて、アンタ方はどちらさんですか?」

 ギャトレイが問うと、四人は揃って距離を取った。

 殺気を感じる。深くフードをかぶっているのと薄闇のせいでよく顔は見えない。

 だが、やる気だ。

 その時だった。

 笛が鳴った。

 ウォルターは溜息を吐いた。

 武装したオークが一人駆けて来る。

「武器を収めよ! 我らがオークのクランで私闘、流血沙汰は禁止されている!」

 戦闘民族だが武士らしいオークの言葉に、ウォルターとギャトレイはそれぞれ得物を外套の下に収めた。

 相手側も従った。

「よろしい」

 オークの治安警官はそう言うと両者を交互に見た。

「俺達は宿に戻ろう」

 ギャトレイが先に言い、ファイアスパーに守られたカランとベレが出てくる。

 四人組から舌打ちの音が聴こえた。

「不満があるなら、本官が相手になろうか?」

 オークの治安警察官が言うと、四人組は背を向けて去って行った。

「お騒がせしました」

 カランが言うとオークは生真面目に応じた。

「分かればよろしい。宿でぐっすりおやすみなさい」

 オークの治安警官は問題無しと判断したようで去って行った。

 これが他の里ならたちまち逮捕だっただろう。

「あいつら何者だ?」

 ベレが問う。

「さぁな、だが酒場にいた時から俺達に用があるって感じだった」

 ギャトレイが言った。

「今夜は私は鷲になって見張ろう。なに、夜もだいぶ暖かくはなってきた。心配ない」

 ファイアスパーの申し出をウォルターは受けることにした。

「悪いが任せる」

「分かった。さぁ、カラン、ベレ、行こうか」

 ファイスパーはダークエルフ姉妹を呼んで先に歩き始めた。

 ウォルターとギャトレイはその後に続いた。

「タスケンの一件がバレたか?」

 ギャトレイが問う。

 だが、兜のバイザーは下ろしていた。正体は見破られていないだろう。とはウォルターは思ったが、宿から出てくるときに二人の姿が無いことに誰かが気付いたのかもしれない。

「あるいは懸賞金か」

 ウォルターが言うとギャトレイは少し考えこむようにして応じた。

「ブリー族はどの道、ドラゴンの遺骸をまるまる手に入れたんだ。木っ端みたいな賞金に興味は無いだろう」

「だったら、この件は謎か」

 ウォルターが言うとギャトレイが同意した。

「謎だが、命を狙われるほどの謎だ。今夜は俺はカランさん達の部屋の前で番をすることにする」

「分かった」

 こうして宿に戻る。カランとベレはギャトレイとファイアスパーの行動を見て不審さを更に抱いたようだが、ギャトレイが胸を張って安心させた。

「私達だけ眠るのも」

「ご安心を狼牙も眠りますよ。俺達の長ですからね」

 その夜、ウォルターは浅い眠りを繰り返すだけだった。ギャトレイにファイアスパー、防備は万全だが、何故、命を狙われるのか、気付けば思案していた。タスケンの仲間にバレたというのが今のところ有力だ。陽気なブリー族はドラゴンの解体に嬉々として忙しいだろう。

 夜が明けた。

 窓をコツコツと叩く音が聴こえた。

 真紅の大鷲が待っていた。

 窓を開けると元の姿に戻ったファイアスパーが中に入り言った。

「誰も来なかったよ。鳥目だが自信はある」

「そうか。悪かったな、午前中は荷台で寝てろ」

「ああ、そうさせてもらおう」

 二人が廊下に出るとギャトレイ、カラン、ベレが待っていた。

「何事も無かった」

 ウォルターが言うと、ギャトレイは応じた。

「これで引き下がる手合いではなさそうだ。道中、ちと気を付けることにしよう」

 そうして「オーク屋敷」で朝食を取り、東への旅路についた。

 ベレは幌の中に入り、馬のペケにはウォルターが乗っている。

 御者はカランが努めている。

 その後ろでファイアスパーは眠り、ギャトレイは背後を窺っていた。

 こちら側としては後々の禍根を断って置きたいがためにゆっくり進んでいた。いつまでも神経をピリピリ張っているのは疲れる。いつぞやのドワーフの時のように。

 と、背後からと思い込んでいた節があったらしい。行く手の左右の茂みから茶色のフードと外套に身を包んだ者が二人ずつ現れた。

「ギャトレイ、こっちだ!」

 ウォルターは呼びながら飛び降りた。

「お前らがどこの誰なのかは興味は無いが、俺達に何の様だ?」

 ウォルターが斧を抜いて問うと、相手四人はフードを取り払った。

 長い耳に白い肌、若草色の髪、端麗な顔、それは紛れもなくエルフだった。

 エスケリグが絡んでるのか?

 ウォルターは古城にいる唯一のエルフの仲間を思い出したが、髪の色が違う。

 ギャトレイが抜身の剣を手にしてウォルターに並ぶと、相手は言った。

「我々は旅の大草原のエルフ族。貴様らといるダークエルフ達を引き渡してもらおうか?」

 そういうことか、と、ウォルターは納得した。

 エルフとダークエルフは互いに忌み嫌い狩り合う仲だ。カランとベレを殺して彼らの心棒する神の意志に従おうと言うのだろう。

「二人とも、私が」

 カランが言ったが、ギャトレイが声を上げた。

「大丈夫、カランさん。こんな三下に俺達は負けないですよ」

 すると、エルフ達は端麗な顔を歪めた。

「応じないのなら、剣の錆びになってもらおう!」

 四人のエルフが襲い掛かって来た。

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