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魔戦士ウォルター48

 逆風がウォルターを阻む。脚に結び付けた頭陀袋が危なげなく揺れる。

 冷たい風だが、ほとんどを羽毛が遮ってくれる。

 ギャトレイ達のいる人間の里を発って一日が過ぎようとしていた。

 夜になると見えなくなるため、ウォルターは鷲のまま街道沿いの茂みに入り込み夜風をやり過ごした。

 そして夜明けになると再び羽ばたく。早くイーシャ達に会いたい。早くギャトレイ達の元へ戻りたい。相反するはずの二つの感情がウォルターを急き立てていた。

 人々の頭のずうっと上を進みながらウォルターは再び、夜を迎え、朝に行く。

 そんな旅の過程だが、前方に広大な森が見えて来た。

 森の中ほどに古城があった。

 ついに戻って来た。

 ウォルターは上空で歓喜し、古城の仲間達がすっかり周囲を開墾している様を見た。

 予想通りの規模だ。これはやはりハーピィ達を連れてギャトレイ達のもとへ戻らなければなるまい。

 すると前方に飛翔する者が数人現れた。

 ハーピィ族達だった。

「赤い星が動いているのかと思えば、珍妙な鳥だな」

 ハーピィは四人いた。

 俺だ、ウォルターだ!

 だが、口から出たのは高らかな鳴き声であった。

「脚に何か結わえてあるぞ」

「他のクランの物かもしれない。関わらない方が良いだろう」

 ハーピィ達はそう言うと下へ降下して行った。ウォルターもその後を追う。

 古城が徐々に鮮明に見えてくる。壁のヒビ割れすらも明らかになったころには、ハーピィ達も気付き、こちらを警戒した。

「斥候か?」

「だが、じゃあ、結わえてある荷物は何だ?」

「道に迷ったのかもしれない」

 ウォルターを取り囲み、生け捕りにしようと鋭い爪のある脚を向けて来た。

 危うく荷を掠め、ウォルターはその隙に地上へ降り立った。

 元の姿に戻れ。

 そう強く念じた瞬間、あの意識が裏返る奇妙な感覚が訪れ、自分の腕を見ることができた。

「ウォルター!?」

 ハーピィ達が驚きの声を上げる。

「ああ。久々だな」

 ウォルターは足に結んであった袋を解いた。

「さて、イーシャはどんな具合だ? 卵は?」

「卵はまだだ。イーシャは卵を温めたままだ」

 ハーピィの一人が落ち着いた口調で言った。

「ウォルター!」

 声が上がり、振り返ると、城の中からリザードマンの長アックスとエルフのエスケリグが飛び出してきた。

「よぉ」

 ウォルターは多少照れ臭くなりつつ応じた。

「よく帰って来たな」

「みんなお前を待っていた。お前が出発したあの日からな」

 アックスが言い、エスケリグが続く。

「お前達も開墾の方がずいぶん進んでいるようじゃねぇか」

 そうしてウォルターは両手の袋を突き出した。

「これは種だ。ある人物の厚意で貰った。ハーピィ達を連れて更に種を貰いに行こうと思うんだが」

 ウォルターが言うと、相手の二人は頷いた。

「その前にイーシャ殿に会って来い。部屋は以前と同じだ」

 アックスが言った。

 ウォルターは頷いて種を二人に渡し、古城の中へと入った。

 古城の中は磨かれていた。亀裂なども修復した痕がある。

「ウォルター!?」

 イーシャの部屋の警護役を務めているハーピィが驚きの声を上げる。

「ああ」

 するとハーピィは努めて平静を装るかのように翼を胸に当てて扉に向かって告げる。

「イーシャ、ウォルターが帰って来た」

「入れてくれ」

 向こう側から懐かしい気高くも優しい声がした。

 イーシャは重ねられた絨毯の上に居り、卵を両翼で抱いていた。

「久しぶりって程でも無いが、しばらくぶりだな」

 ウォルターが言うとイーシャは頷いた。

「良く帰って来た」

「ありがとう。だが、また行かなきゃならない」

「ウォルターが言うのなら止めはしない。大事な使命を抱えているのだろうと私は思う」

 イーシャが言った。

 ウォルターは頷いた。

「旅の途中でできた仲間を東へ送り届けなければならなくなった。あとは、ハーピィ達を借りたい」

「ハーピィを?」

 イーシャは目を瞬かせて尋ねた。

「ああ。種をくれるっていう気前の良い奴にあってな。雪も降るだろうし陸路だと難しいだろうから空から運ぼうと思ってな」

「そうか、種を手に入れたのだな。良かった」

 イーシャは安堵するように言った。

「ウォルター、皆に顔を見せてやって来たらどうだ? 私はもう十分だ。特にローサには会って欲しい」

「ローサに? 何かあるのか?」

「フフッ」

 イーシャは微笑むだけだった。

「まぁ、分かった。後で必ず顔を出す」

 ウォルターはそう言い、イーシャと抱擁を交わすと外に出た。

 廊下に出ると、警護のハーピィが言った。

「食堂へ行ってみたらどうだろうか?」

「食堂へ?」

 ウォルターが問うと相手は頷いた。

 ウォルターは言われるがまま食堂へ向かった。

 すると廊下の中ほどで歌声が聴こえて来た。

 ローサの声だ。こんなに慈愛に満ちた声を出せたのか、あいつは。

 ウォルターはそう思いながら食堂に顔を出す。

 そこには長テーブルと椅子がたくさん用意されていた。うららかな陽光が窓から入って来る。その下にローサはいた。赤子を抱いて。

 ローサはこちらに気づき、笑みを浮かべた。

「お帰り、お兄ちゃん」

「そうか、生まれたのか」

 ウォルターは嬉しくなって言った。

「そうよ、あなたの甥っ子」

「男か。名前は?」

「ウォルター」

「は?」

「この子の名前はウォルターよ」

 ローサはそう言うと嘘や偽りも感じさせない屈託のない笑みを浮かべた。

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