はじまりのおわりに
これで最後にするから…。
あなたは私が守る。
どんなに遠く離れていても必ず私が守るから。
あなたの笑顔も私が必ず。
だから今日だけ――――
泣いてもいいですか?
トスファから漏れた泣き声が、微かな火の明かりが照らす部屋の中を満たしていた。
「う、うぅ……うあ……ああ………」
止まらなかった。悲しみが心を満たして、外へとあふれ出して。
それが日記の表紙にたくさんの染みを作り出していた。
会いたい――――会いたいよぉ…。
目を閉じて泣いていた彼女は気づかなかった。
すぐ後ろで眩い光が、部屋を明るく染めていたことに。
部屋の隅に置いてある姿見には机に伏しているトスファの丸い背が移っている。
そこへもう一人入って来た。
「……どうして、泣いてるの?」
トスファが泣いてるってすぐに分かった。
分かったというか、うぬぼれかもしれないけど我慢できないだろうなぁと思ってたんだ。
それでも、つい聞いてしまった。好きな子には意地悪したくなるってやつかな?
すぐに泣き声が止んだ。
キヲクは両手を広げて待ち構える。
「――っ!…………あなたが、帰っ、てくるのが、おそい…から!」
嬉しかった。声を聞いただけですぐ彼だと分かった。
すぐにでも胸に飛び込みたかった。
だけどそれはできなかった。今すごくひどい顔してたと思うから。涙で目のあたりが真っ赤になって…。
だからつい、拗ねたように言ってしまった。
背を向けたまま言葉を返すトスファ。
そのせいか、キヲクは力が抜けたように手を下ろした。
「え?!おかしいな…。時差もなく、ヤバいくらいドンピシャだと思ったんだけど………あれから、どれくらいたったのかな?」
光の中でフウマに会った。もう二度と会うことは無いと思っていたのに。
『想いの強さが魔力の限界を超えるのです。大事なのは――――』
『ここ、だろ?大丈夫。幼い頃から教え込まれてるからね』
『ふっ、余計なお世話でしたかな?』
『いや、ありがとう。―――大丈夫。もう、あなたのような人は生み出さない。未来永劫続く良い世界に変えていくよ。彼女と一緒に』
彼から聞いて、よっしゃあ!と思ってたのにな。
トスファはここでようやく立ち上がる。
けど鏡には彼女の背が映ったままだ。
「…もう、暗くなってます…!」
私は窓の外を指差し、告げる。
外では8つの光がせわしなく動き回っていた。
彼女の言葉を聞き、窓の外を見る。
どうやらミケたちが遊んでいるようだ。目を光らせて。
「…道理で薄暗いのかと思った!でも、遅くなったのには理由が………」
どうしても欲しいものがあったんだ。おかげでそれだけに時間を取られたんだけど…。
自分を擁護するキヲクのせいで、喜びの一部が怒りへと変換される。
それでつい、彼女は振り返ってしまった。
「言い訳はダメです!…これは――――おしおき、です」
そうです、おしおきが必要です!彼が言っていたことなんですから!
でも、何がいいかな?やっぱりここは――――
頬を染めて体をもじもじとさせる様は、いつもの思い込みモード(善)だ。それを見ると、帰ってきたんだなぁと思ってしまう。
しかし、部屋の中をよく見てみると――――
「おしおき?でもトスファも片付けしてないよね?朝のままに見えるし」
泣いていたのは分かっている。
それが原因で顔を見せてくれないことも。
それでも、いじわるに言ってしまったのは僕の性格のせいだろうか。
うっ…、ひっきりなしに人が来るからできなかったって言い訳は…。でも自分で言い訳はダメって言っといてそれは…。
上手い言い訳が見つからず、苦しまぎれに出した言葉は…。
「それは…!あなたが……早いから…」
苦しすぎると彼女も分かっている。
だから窺うようにこっちに目だけ向けているんだ。
それを見て、僕(悪)が出てくる。
さっきは遅いと言ってたのに今度はそうですか…。これは反省の色が見えませんね?
「ふーん…。そういうこと言うんだ?これはおしおきだね」
罰には罰の、罪には罪の報いがくだされるのだと、おいたんも言ってたし。ん…?微妙に違うか?
「ええ?!えっと――――ん!」
おしおき!きましたわ!きましたわ!!きましたわああああ!!!
もうこれしかありませんわね!
彼女は目を閉じ顔を上げ、かかとも少し上げてじっと待っている。その突き出した口が僕を引き寄せる。
その姿に仕方がないなと思いつつも、彼女の肩に手を置く。
期待しているのだろう、手を乗せた瞬間、ぴくっと反応するとこが可愛い。愛でたい。
しかし、思い出したことがある。帰ってきたら真っ先にやりたかったことだ。
彼女の左手を取り、じっと見つめる。数多の魔物を屠ってきた手とは思えないくらい、綺麗な手だ。
触れられた場所が唇ではなく手だと気づいた彼女は首を横に傾げている。顔はそのままに。
それが可愛いから見ていたかったけど、これ以上焦らすのもかわいそうだ。
ジャージのポケットから向こうの世界から持ってきたものを取り出す。
そしてそれを彼女の薬指にはめた。
それに気づいた彼女は不思議そうに左手を見ていた。
「これは…?」
「時間がなかったからね、おもちゃで悪いんだけど……」
ホントは本物を用意したかった。
でも僕は高校生。お金もないし時間もない。
困った僕はダメもとで押入れを探したら、出てきたんだ。子供のころ遊んでたおもちゃ箱の中から。
最初はこれはダメだろうと思ったんだけど、よく見たら状態はすごく良かったんだ。
まあ、仮ってことで本物はこの世界で作れば良いかなって思って決めたのもあるんだけど。
服も着替えてこようかと思ったんだよ。
けど、この黒のジャージがだんだんと――――タキシードっぽく見えてきて…。
ほら!見えたでしょ!それなら僕の勝ち!
「……きれい」
サイズも丁度良かったみたいだ。目を細めて嬉しそうにしている彼女を見られただけで、持ってきて良かったなと思う。
でもこれで終わりじゃないよ、トスファ。誓いの印と言葉はセットだから…。
戻ってくるまでに必死に練習したセリフを頭の中で反芻する。
こういう時セルフツッコミがあれば――――
――リピートアフターミー。
――イエス!オーケー!
――――ってできるんだけどな。封印するんじゃなかった。
深呼吸して、表情を整える。片膝をつき、左手を胸に当て、右手を彼女へと差し出す。
その手を取ることなく、彼女はきょとんとしていた。
人生で最初で最後の大勝負!
「……トスファ。僕と結婚してください。あ、えっと…僕だけのお姫様になってください」
時が止まった。そんな在り得ないような衝撃が私を襲う。
言葉にならない想いが私の中からどんどん溢れてくる。
静寂の中、僕の心音だけが響いているようだった。
けど、それは本当に僕だけのものだったのだろうか。
嬉しい。嬉しすぎて涙がでそう。
たまらず顔を両手で覆ってしまう。
そのせいで彼の表情は見えないけれど、この沈黙が不安にさせていることは分かる。
でもどう答えていいのか分からなかったから…。
「…私は、どうしたらいいの?教えて…、せんせい?」
彼女の表情は見えない。けれど伝わってくる彼女の想い。
彼女から溢れている魔力がキラキラと輝いていたから…僕は確信を持った。
だけど、敢えて問う。
「受けてくれるなら、目を瞑って――――」
ダメなら――――という前に彼女は目を閉じ顔を上げ、かかとを少し上げてじっと待っている。
さっきも同じの見たなと、少々呆れていると、
「ん!」
口を突き出して、催促してくる彼女が可愛すぎて――――
「…はは!ありがとう、トスファ。これからもよろしくね」
「…んん」
――――長い、とても長いプロローグが終わったんだ。
ということは?
僕とトスファ、二人のお話はまだまだこれからも続くってことさ!
こうして、私と彼は結ばれました。
あなた達がもし、『あい』や『こい』に悩むことになった時、これが役に立てばと思い、これからも書き続けようと思います。
私と彼のこれから『さき』のことのように、あなたたちにも幸せになってほしいから。
【トスファ日記キオクといっしょ!最終話より】
なお、次回からは新キオクといっしょ!!にタイトルが変わる模様。
勢いで書き始めましたが完結まで書けて良かったです。
読んでいただいた方ありがとうございます。
次は…あるかな?




