第六十話
(魔力を帯びた湿気に侵食され字体が大きく歪み、この辺りの文字は読めそうにない。下記も書き殴られた文字が多く見られる。読むには人を選びそうだ)
傍から見るとそれは慰めあっているように見えたのかもしれません。こんな惨劇が起こってしまっては、そのように捉えられても。二人にはどうやって謝ったらいいのか分かりません。これしか方法はなかったのだと、赤く染まってしまった手を、彼は自分の手で覆い隠してくれました。彼の気持ちだけは本物だったのです。
彼と本当に結ばれた日、私は色々なことを教わりました。あいやこい、すきということ。この温かい胸の中にいるもののことです。彼と一緒にいたい、一緒に笑いたい、その顔を独り占めしたい、その裏側も。その果てのことだったことも。
ですが表側も、これは同時に辛いことでもあります。彼は朝目覚めるといなくなっていました。彼が教えてくれた魔力により何が起こったのか分かりました。彼は他にも話してくれたことがあったのです。その内容は信じられない話だと思うので、彼が話したことをそのまま書きます。
彼は一国の王子でありました。ですが王の本当の子供ではなかったのです。それを彼が知ったのは国がマモノによって滅ぼされた時のこと。最後の言葉だったようです。彼はマモノへの復讐を誓いながら、自分を探していたのです。そんな時に私と出会いました。私との毎日の中で彼は徐々に思いだしたのです。本当の両親のことを。彼らが話してくれたお話を。自分の本当の名前も。
(中略)
恐らく彼は自分の時間へと帰ってしまったのでしょう。私の知らない遠い遠い先の話。そこで彼は別の誰かとこいをするかもしれない。でもそれも仕方のないこと。もう二度と会えないのだから。
いいですか?私達の魔力はとても強大です。この感情だけは抑えなければなりません。そうしないと、大変なことになってしまいますから。
私は力を遺します。彼が残してくれた、ここにいる子のため、そしてその先の子供達のために。そうすればまた惨劇が起きても力になれる、使われないに越したことはありませんけどね。何よりも彼に会えるかもしれないから。
でも、この感情だけは皆には教えないことにします。とても悲しくて、押しつぶされてしまいそうだから、これを読んだあなた達もそうしてくれると、私は救われる。
いえ、これは私の我儘です。これが読めた子達だけが守ってくれたらそれで。ふふ、これも彼が教えてくれたんですよ。魔力による封印の力。もっと早く、もっとちゃんとしたものであったなら、こんなことには。もう遅いですけどね。やり直せるなら今度は二人を、
「今度は、私を幸せにしてね?フィニル」




