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はじまり  作者: 新戸kan
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にっき

 この世は残酷だ。

 誰がそう言ったのだろうか?


 私はそうは思わない。

 彼と出会って全てが変わった。

 もし残酷な世ならそんな出会いすらなかっただろう。

 彼がいなければ、ここで暮らしている人たちの暮らしも、私の世も変わらなかった。


 だけど、そう上手くはいかないのだから、やはりこの世は残酷なのだろうか?


 【女王秘蔵の書・トスファ日記―――といっしょ!第60話より】




 キオクが…いなくなってしまった。

 手にしていたマケンも、気づけば消えていた。


 だけど、あの時とは違う。

 ここに…ここに彼はいる。


 だから悲しくは――――

 

 

 キヲクの顔が思い浮かぶ。

 辛くなるからと思っていても、勝手に頭をよぎるのはいろいろな顔を見せてくれた彼。

 その最後はとびっきりの笑顔で締められた。



 でも、でもぉ――――


 いけない。泣いちゃダメ。

 昨夜彼は言った。私の笑顔が好きだと。

 だから泣いちゃ、ダメ。


 

 やくそく…。かあさんのお話第20話!

 私は必ず生きて帰る!やくそくしましょう!その時は――――

 そうよ!やくそく!

  

 彼から言われたおしおき…片付けをしましょう!


 えーと?まずは何から――――



「おねえさま!」

 勢いよく扉を開けて入ってきたユズに驚く。

 この子、私を慕ってくれるのはうれしいんだけど…それ以上の何かを感じるんだよね…。

「…えっと、何か用かな?」

 ユズは入ってくるなり部屋の中を見回している。何か探してるようだけど…。

「おねえさま、誰かと話してませんでしたか?」

「…え?キオクとだけど…?」


 部屋に一瞬の静寂が訪れる。

「…誰ですか?」

 え?誰って…名前知らなかったとかじゃないよね?

 その回答に困った私を見て、ユズが何やら勘違いをし始めた。

「もしかして…女ですか!!アタシというものがありながら――――」

「ユズ様!見つけました!」

 ドアも乱入してきて部屋が更ににぎやかになる。

 その声が入ってこれないくらい、頭の中で声が響く。

『ユズとドアもいる』

 ホントにそう。この子たちはいつも楽しそうで…でも――――

「…ドア、キオクのことは……」

 彼女は首を傾げるだけで、何のことかさっぱりなようだ。


「……ごめんなさい。やれなければいけないことがあるから…」

「えー!アタシと出かけるって話はどうしたんですか!」

「ユズ様…それなら、私と――――」

「ちょっと?!おろしなさいよ?!」

 ドアにひょいと担ぎ上げられるユズ。

 その姿は――――

「ドア?その抱え方は…?」

「…え?これは、こうするのがいいのかなって…」

 ドアも困惑していて、ユズを下ろそうと、もう片方の手で優しく触れた。

「…たたかないの?」

「「え?!」」

 私とドアの表情が固まる。それを見てユズが顔を真っ赤にした。

「あ、いや…アタシなに言って…。ドア!行くわよ!」

 ドアの肩に乗せられたまま、ユズが部屋の外を指差す。

 その指示に従うようにしてドアは部屋から出ていった。


 ――――二人とも彼と一緒にいたときのことは覚えてるんだ。

 嬉しいけど胸がもやもやってする。

 もしかしてこれが、しっとなのかな?昨夜彼が教えてくれた…。


 今度は痛みに襲われた胸に手を当てていた。





 騒がしい二人が去った後、またこの部屋に人がやってくる。父さんと母さんだ。

「トスファ、もう少しでこの城の整備が終わる」

「そうしたらあなたは女王として、みんなを導いていかなくてはなりません」

「お前の魔力が一番強いからな。父さんたちが束になっても敵わないし。だけどそれは偉そうにすることではない。あくまで中心的な人物になるだけだ」

「大変かもしれないけど…私たちもいるから」

 分かってる。彼が言ったとおりだよ。悪いことをしてもおしおきしてくれる彼はいないし…。

「あの、キオクの…王子様のことは…?」

「おうじ?!いかん!いかんぞ!まだトスファをやるわけには…!」

「あなた、ちょっと黙ってて!…いい人でもいたの?」

「…あ、いえ、そういうわけじゃ……」

 やっぱり、みんなそうなんだ…。二人も同じくらい一緒に過ごしていたのに…。


「それじゃ、また後でね。――――そうそう、トスファ。あなたは料理作っちゃだめよ?もう食べられる人はいないんだから…」

「そんなやつおらんやろw」

「あなた!!何ですか、そのしゃべり方は!!」

「え?!あ、いや?!な、なんでかな?は、ははは…」

 ――――二人にも彼と過ごした時が残ってる…。


 その後もいろんな人が部屋を訪ねてきて、片付けは進まなかった。

 だけど、寂しさは紛れていた。




 彼が教えてくれた窓というものから外を眺める。すると、ミケたち親子が何かしているのが見えた。

 あの子たちはネコと言って、彼の世にも似たようなケモノがいるらしい。それも彼が教えてくれたことだ。

 子猫たちはミケの真似をするように毛繕いをしている。


 ふふ、かわいい子たち。きっとミケがせんせいなのね。私とキオクみたい…見てると癒される…。


 ―――でもそれらは、一時的なものでしかない。



 足りない…。足りないよ、キオク…。


 下を向いてしまえば耐えることが出来ない。

 だから前を向いて、首を振って忘れようとさえした。

 そうすれば、彼の大好きな笑顔になれるから…。

 


 いけない!片付けが全然進んでない!

 えっと、まずは――――

 ふとん?というものから綺麗にしましょう。これも彼から(以下略)←これも彼から教わったのです。


 布団を手にして、あっと目を見開いた。


 ――――彼の匂い、ぬくもりが残ってる…。


 彼のことを覚えている人は誰もいなかった。

 まるでお話のような出来事だったのかな…。

 でも、彼はここにいる。私は覚えてる。まだ、ここにいる!


 両手で強く胸を押さえる。

 そうしなけば、消えてしまいそうな気がした。


 それを必死に繋ぎ止めていた。


 

 そうだ…日記!昨日の分、書いてませんでした。忘れないように、先に書いてしまいましょう。


 分厚い書ではあったが、白紙の部分は残り僅かとなっていた。

 そこで彼女は彼との思い出を辿るように頁を遡って読み返し始めた。すると、彼との出会いが記された頁が、最初から僅か数頁のところに書かれていたことに気付く。


 こんなに書いてたんだ…。これでも削って書いたつもりだったんだけど…。


 少しずつ頁を捲っていく。彼女の顔は自然に笑顔になっていた。


 うん……これも……これも…覚えてる。全部覚えてるよ。


 読み進めるたびに笑顔が少しずつ崩れていく――――そんな気がした。


 いけない、いけない!昨日の分書かないと…!



 昨夜はいろいろなことを教えてもらった。すきということ、あいやこいも…教えてもらったことは全部、彼から伝わってきた。…他にもたくさんのことを教えてくれた。

 私を包んでいたあたたかい気持ち……私は、忘れない。




 本来の歴史では、初代女王トスファは生涯独り身だったと語られている。

 だが彼女は女児を一子儲けていた。

 国民はそれを神の奇跡として崇め、王女として大事に育てられた。

 王女が大きくなると、トスファは王位を譲り渡して、両親と共に旧市街の復興に尽力したそうだ。

 彼女が遺した日記は、時には心の支えとして、時には憧れのお話として子や孫らに受け継がれたという――――



 ふぅ…なんとか書き終えました。よかった、最後まで書けて…。


 開かれていた日記の上に、トスファの頬から一滴落ちる。その跡を慌てて、着ていたドレスの裾で拭き取る。

 でも、次々と涙が零れ落ちていた。



 ――――あなたはやくそくを守るのでしょう。


 でもそれは、私がいないずっと先の話。

 私のことを知らないあなた。私が知らないあなたが――――


「……っ、……うぅ…」


 そう、だ…、これも、書き残…して、おきましょう…。



『今度は…私を幸せにしてね?キオク』


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