むかしのおはなし
心臓がすごいドキドキしている。
頭の中にまで響いている気がする。
こんなことは初めてだ。
シーンと静まり返ってる広間。
ほんのわずかな間ではあったが、僕にはとても長いものに感じられた。
なにこの沈黙は?僕は何かやらかしたのか?空気も微妙なものになってないか?
不安になる空気の中、彼女が先に動き出す。
すき?
すきすきすきすきすきすきす――――
はじめて?
あつい…。あついあついあついあついあつい。
両手を上にあげ、そこから魔力を放出する。形成されたのは巨大な火の玉。
僕は慌てて身を翻し、扉に向かって全力で猛ダッシュした。
「うおああああああ?!」
ものすごい爆音とともに広間が煙で満たされる。
僕は間一髪外に出て、壁の後ろに姿を隠した。
心臓がすごいバクバクしている。落ち着かせようと勝手に息が荒くなる。
それが助かったと実感させるが、それどころではない。
なあ、おい!これってどういうことだよ!?
……へんじがない。まるでしかばね――――
ぅおい?!僕AB!二人とも黙ってんじゃねぇよ!
…これってやっぱりアレか?振られたってことか?またやっちゃったのか?
パニック状態になり思わず頭を抱えてしまう。そのままやっちまったーと心の中で叫びながら頭を掻き毟った。
「…アンタ、何が言いたかったの?」
正気に戻ったユズ様がジト目でこっちを見てる。
もしかしたらだけど、お仕置きと聞いて目が覚めたのかもしれない。顔がちょっと赤いし。
「ユズ様。聞こえてない振りをしないと…」
ということはユズだけでなくドアにも聞かれてたのか…まじで穴に入りたい。
人生で初めて心を込めた告白をしたというのに…。
自分の頬まで熱くなったと感じるが、ユズの方は冷めていったようでいつもの色白い肌に戻っている。
それが表情にも出ている。
「すきとか、あいしてるって何よ?」
……は?何言って――――
頭に何か衝撃のようなものが走り、胸の鼓動も収まる。
あれ…?そういえばコイツが好きとか口にしたの聞いたことあるか?トスファからも聞いた覚えが…。
あれれ?…確か前に彼女に聞かれたよな?愛ってなにって?
……。
…………?
…………………!
うそだろ?!異世界でも普通に言葉通じてたじゃん!なんでそういうとこだけ通じないの?!
――ってことはまだ振られたわけではない?
――そういうことみたいだね。
――僕もおかしいと思ってたんだよ。そういうことだったとはさすがの僕でも分からなかったよ。
お前ら急に出てくるんじゃねぇよ!調子いいとことかホント僕だな!いや僕だけども!
――しかし、そうなると…あとは……。
――もう、最後の手段しかないね…。
…そうだな、最後の手段を使うしかないな。
再び高まる鼓動を抑えようと、音を立てて大きく息を吐きだした。
「……ドア、ユズを頼む」
―――二人には見られたくないからね。
「キオクさんだけでは…!」
「そうよ!なに言ってんのよ!さっきから訳の分からないことばっかり―――」
「いざという時!皆の前に立つのが王子様!バイ、トスファ!」
「…ばい?」
「…そこはいいから…。二人はみんなのところへ…ね?」
マジな顔をしつつ、最後は優しくお願いする。
僕の決意を分かってくれたのか、ユズはドアを抱え上げ走り出す。
「ドア?!離しなさい!おねえさまがまだ――――」
「…ユズ様、キオクさんに、任せましょう…!」
僕は任せろ言わんばかりに胸をドンと叩き、二人を見送る。
それを見たユズは、
「…キオク!アタシはまだ負けたわけじゃないから!おねえさまになにかあったら許さないんだからああああああ!!」
アイツ、やっと人の名前呼んだな…。しかし負けん気の強いお嬢様で…。
必ず守るよ。そう彼女らの背に誓った。
――――よし!いきますか!
の前に…。
「スキル発動!めげない心!」
念のためね、念のため。振られたわけじゃないと分かっててもね…。
再再再度、広間に入る。こそこそはしない。もう隠し事は一切ない。
ゆっくりとこちらに顔を向けるトスファ。涙が止まることなく、流れ続けている。
ごめんね、泣かせて…もう一回で最後にするから――――
僕は一歩ずつ確実に彼女に近づいていく。
彼女の両手からは魔力が今まさに形をとろうとしていた。
――見なよ、あれを。
うん、壁を展開してない。これなら直接彼女に触れられそうだ。
――一応、告白は多少の効果、あったみたいだな。
もう一回やれって言われても困るからね。
――こんな時に笑ってんじゃねぇよ。
ありがとうね。自分に言うのもなんだけど…。
――礼はいらないかな。まだ何も成し遂げてないわけだし。
そうだね。それじゃもう封印するよ?
――それがいい。このままじゃ一人でぶつぶつ言ってる怪しいやつだ。笑。
お前が言うなとか言わせんなよ…。
この間にも彼女は魔法を放ってきていた。
でもさっきよりもぬるい。彼女も戦ってるのかな…。
あいあいあいあいあいあいあいあいあい?
どこかで?いつか?きいた?
わたしはしっている?
おしえてくれたのはだれ?かあさん?
それとも?
彼女の魔法を躱しながらも止まらず進み続ける。
もう少しだ、もう少しで――――
その一瞬の気の緩みが僕に背中の痛みを思い出させる。そのズキッと走る痛みに耐え切れず体勢を崩してしまう。
しまっ――――
そこへ向けて彼女は手を構え――――
「「ダメよ、トスファ!!」」
その声が彼女の手をピタッと止めた。
わたしがつらいとき、いつもきいた声…。
つらいつらいつらいつらいつらい?
わたしはどうしてつらい?どうしてかなしい?
ひとりひとりひとりひとり?
ほんとうにひとり?
それならどうして、この声があたたかいの?
僕は声のした方へ顔を向けると――――
「トスファ…」
お父さんとお母さん、来ちゃったのか…って当然か。子供の心配をしない親なんて…。
あの夢が脳裏に蘇る。
―――そうか、そうだよな!だからあの時…。
……僕も一人じゃない!
ひとり、じゃない……。
それもおしえてくれた…。
このちからといっしょに…。
二人を視認した彼女の動きは止まっていたが、その手は何かに耐えるようにぷるぷると震えていた。
そう、このちからはみんなを、ふたりを…、そしてかれをまもるための――――
ぬくもりをまもるまもるまもるまもるまもる。
「…わ、たしが……まも、る……」
てき、もやす……
まもる…
てきは、めっす………
まも………
てきは――――
「…けし……う、あ……キ、おく…。わ…たしを…、とめ――――たす…」
彼女が止めどなく流していた赤い涙の上を滴り落ちる新たな涙。
それは光を一身に受け止めて星のように輝いていた。
怒りで歯を食いしばった。
もう1回だけ…もう一回だけって自分で言ったじゃないか!
くそったれか、僕は!
トスファも戦ってるんだ!がんばれ男の子!
鍔を握る手に力が漲る。
もう一度だけ僕に…!彼女のために…!
支えにした刀を遥か後方にやるつもりで腕を振り、床を思いっきり蹴って立ち上がって、その勢いのまま彼女に向かって飛びつく。
伸ばした手が彼女に触れ、そのまま引き寄せて思いっきり抱きしめた。
そして――――
遠くで刀が転がる音がする。
それを消したのは隙間から漏れた彼女の声。
「――――ん、んん?!」
――――昔から決まってるんだ。悪夢に囚われたお姫様を目覚めさせるのは、王子様のキスだって――――




