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はじまり  作者: 新戸kan
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すべてはいま このときのために

 二人が同時に部屋の中に入る。そして二手に分かれ、壁沿いを走る。



(これで良いんでしょ!――本当におねえさまならアタシの力じゃどうしようもできない…)

(私じゃ、時間を稼ぐのがやっと…)



『――――二人でなんとかトスファの気をひいてほしい。でも無理はしないで。彼女だって君たちを傷つけたくないんだ。……ああ、反撃はしていい。二人の魔力じゃトスファの壁は絶対に破れない』



(ホント、アイツムカつくわ。言わなくていいことをいちいち―――)

(でも、注意をこちらに向けるには―――)


 3人が直線上に並ぶ。

 赤い光が彼女らを繋いでいた。


 トスファは左右の『敵』を何度も確認していた。



 てき――――

 てきてきてきてきてき敵てきテキて――――



 ユズは頭上に掲げた指をくるくると回し始めた。ドアもそれを真似するように指を回す。そして合図のように二人の視線が合う。


 同時に放たれた魔力の輪。

 しかし、壁を壊すことは出来ず、弾かれ消滅する。

 それに反応するかのようにトスファは両手をそれぞれの方へと向ける。ドアへは風の刃が、ユズには火の玉が飛んでいく。

 二人はそれをなんとか避けるが、トスファの魔力砲撃は止まらなかった。


「さすがおねえさま…!きゃあ?!」

「…ユズ様!?ああ?!」



 今しかない。これ以上は二人が危険だ。

 最短距離で彼女に詰めるために中央突破。

 決して隠れてコソコソ行くのが主人公っぽくないという理由ではない!

 30メートルはあるが、足には自信がある。何よりそのための時間は二人が稼いでくれた。


 だが簡単に気付かれ、片方の手がこちらへ向けられる。

 だが、間合いは十分に詰めた。


 彼女の放つ一撃を初めの一歩で躱し、二歩目で――――



 目が青く鋭く光る。

 その目が捉えているのはトスファを包む影。それが全身に根を下ろすようにして繋がっている。


 だが全てを切るのは至難の業。

 ならば最も太い幹――心臓に生えているヤツを断ち斬る!


 そのための力がここにある!


 この世界に来てから…いや――――子供のころから振った木刀は数知れず。遊びたくて逃げだした思春期時代。勝てない相手との毎日の稽古、そしてランニング。

 辛い思い出は今この時のために!その集大成をここで見せる!


 柄を逆手に握った右手に力を入れる。

 憧れで練習を始めた――道場では教えていない僕だけの構えその弐。

 影響の数だけ強くなれるよ!


 僅かに見えた刃が星光を弾く。



 ―――今、必殺のぉ!!


「宮本流抜刀術式!一の太刀!!」


 鞘から抜き放ち負を断つ。それが(勝手に命名)宮本流抜刀術。


 目の前で鍔がカチと金属音を慣らす。



 魔力を斬った感覚はあった。彼女を守っていた壁ごと――――あとは彼女が負から解放されれば!



 キヲクが作り出した影がトスファにまで伸びている。

 それよりも黒い影に動きがあった。


 トスファを覆っていた暗い影が霧のように霧散していく。

 そこから現れた彼女は――――


「…きれい」

 ユズが思わず呟いていた。

 まるで花嫁が着るような白いドレス。それを身に纏った彼女にみんな目を奪われていた。


(あっ…!)

 最後に会った時――――彼女はその場でくるりと回ったりして何かアピールしてた。

 僕に見てほしかったのか……それに…気づかなかったのか!?

 くそっ!ホント僕ってやつは…。



「ホントにおねえさまだったんだ…」

 そうだ、彼女は大丈夫なんだろうか。体には負担がかかっていたはずだ。すぐに診ないと…。

「…おねえさま、泣いてる……?」

 え?こっちは背中で見えないんだが…。

 泣いてる?どうして――――


「いやああああああああああああああああああああああ?!」


 トスファの叫びと同時に衝撃が襲い、吹き飛ばされてしまう。

「あが?!」

 僕の体は壁に叩きつけられてようやく止まる。壁が無ければどこまで飛ばされてたんだろうか。

 近くにいた僕が一番大きいのをもらったみたいだ。背中の痛みが尋常じゃない。


 ――でも彼女はもっとつらいんだ。今、僕が頑張らないと…。


 刀を杖代わりにし、何とか立ち上がる。

 二人も立ち上がる力は残ってるようだ。



 さっきとは違い彼女を覆っている影はない。

 それなのに彼女はこちらを認識できていないように思える。

 その本質は先程と全く変わっていなかった。



「…キオク………キオクは、どこ…?」

 ――ッ?!僕を探してるのか?!

「トスファ、ここだ!君の後ろに――――」

「ひとりはいや…ひとりはいやひとりはいやひとりは――――」

 彼女から強大な魔力が一斉にあふれ出す。

「いやああああああああああああああああああ!!!」


 

 てきはどこ?

 かれは敵を倒すと喜んでくれた。

 だから倒さなきゃ…。


 かれはどこ?かれは――――


「あぁあああぁああああああああああああ!!!!」


 かえって……キて………。



 くっ…なんて魔力だよ?!このままじゃホントに体ごと消滅してしまう?!

 二人は…!ユズは腰抜かしてドアは体の震えを必死に押さえてる。

 僕が何とかするしかない!


 こういうときに限って頭が働かない。

 何のための精神修養だよ!


 ――――あれを…やるしかないのか?オーバーフロー…魔力を送れば元に戻る?

 でもそれで上手くいくのか?これはゲームじゃないんだ。リセットなんてない。けどこのままじゃ…。

 魔力の限り暴れて暴れて暴れて――――最後には消滅…。

 

 それならいっそ僕の手で――――



 ――やれやれ。馬鹿だと思ってたら馬鹿だった。悲しいな僕は。

 ――同感かな。安易な結論に辿り着くとか馬鹿を通り越して馬鹿だな。

 これは?!僕は何もしてないぞ?!

 ――僕があまりにも馬鹿なこと言いだすから勝手に発動しちゃったよ。

 セルフツッコミ?!僕AとBか?!

 ――僕さぁ…いい加減素直になろうよ。あれだけ醜いもの見せてまだ言い訳すんの?

 醜いって何がさ?!

 ――昔から言うだろう?男の嫉妬は醜いってさ。

 ――彼女が楽しそうに話すモブさんたちを見て感じてたろ?それどころかドアたちにまで…。

 あれは…!いや…だから、それは――――

 ――この状況でまだ自分を偽るんだ?無駄なことするね?

 ――僕らは僕だよ?隠したって何の意味もない。


 ――何も言えなくなっちゃったね。…時間がない。強制的にいくよ。

 ――そうだね。それには異議なしだ。

 僕は…僕は……!

 ――僕は無意識に発動してたんだ。パッシブスキル…。

 ――さぎすきるを切る!

 ――もう自分をだますのはやめよう?彼女のこと――――

 ――好きだろ?

 そうだ。時代が違うとか世界が違うとかご先祖様とか、そんなの関係ない。


 僕はトスファのことが一人の女の子として――――


 

 腰を抜かしていたユズに駆け寄り、担ぎ上げる。

「ドア!」

 彼女に向かって叫び、首をくいっと動かし顔を扉の方に向ける。その意図を理解した彼女は扉に向かって走り出した。


 む…?なんか匂うな?コイツ…もしかしてまた?

 いじってる場合じゃないから、貸しにしときますかね。

 お米様抱っこ状態の彼女は何も言わずされるがまま。放心しちゃってるようだ。




「ドア、ユズをお願い」

 下ろしたユズを彼女に預ける。

 その後再び部屋の中を覗き込む。魔物形態と同じように入らなければ攻撃してこないようだ。

(あんな目にさせているのは僕のせい…)

 赤外線レーザーのように侵入者を探している彼女の目。人の身でありながら魔物と変わらぬ血の色をした目。

 それから背けるように、壁に背を預けるドアの方に顔を向けた。



「…ユズ、今までごめんな」

 僕らは似てたんだ。それでいて真逆だった。

 ――――羨ましかったんだ。素直に好意を示す君が…。

 認めよう。僕は君に嫉妬してた!


 でもムカつくから聞かれたくない。ユズが放心してる今がチャンスだった。

 僕の謝罪にドアは驚いた表情を見せる。

 僕は内緒にしてほしいと意味を込めて、口の前で人差し指を立てた。

 この世界でも伝わるかな?…直接でなければいいか。

 


 で、どうすればいいと思う?

 ――これはもう昔からの鉄板のシチュだよね。

 ――そうだね。王子様がお姫様を救う。だとしたらアレしかないよ。

 僕もそれが彼女には良いと思う。



「…キオクさん、どうするの?」

 彼女の問いかけに無言で手を上げそれを返事とした。

 そして一息吐き、

「スキル発動!テンションアゲアゲ!!」

 思いっきり叫んだ。

 ドアが口を開けてポカーンとしている。

「まだまだ僕のターン!スキル発動!さぎすきる!」

 対象は彼女だ。

 今の彼女はこれまでも何度も見てきた思込みモード。完全に自分の世界に入っちゃってる。そんな彼女を欺いてウェルカムトゥマイワールドだ!

 そしてその対象はもう一人―――僕だ!

 僕は自分を偽って180度曲げてきた。もう180度回せばそれが僕の本心だ!



 この世界にスキルなんてもんはない!これは自分の気合を入れるための――――自分を変えるための思い込み(スキル)だ!



 準備を終え、一人広間に入る。

 すると、彼女は迎撃態勢に入った。



 もやす燃やす燃やすモヤス。

 てきはもやす――――


 かれがくれたこの力で…。



 飛んできたのは火の玉。それを僕は体をスッと横にずらして躱す。


 火の魔法か、一番最初に教えた魔法だな。

 そう、彼女に魔法を教えたのは僕だ。教えた時にはもうすでに見切っている。そういうものだ!(暴論)


 なんか焦げた匂いがするな?

「うわっちっち?!あっつ?!」

 ギリギリで避けたんじゃその熱までは防げないか。それなら余裕をもって避けるだけだ。



 あたらナイあタラない当たらない?

 今までそんなことナカッタ。


 なら…次はキル…。



 次は風の刃か。

 当たれば体が真っ二つだな。

 だけど――――


 分かるよ、トスファ。ずっと一緒にいたんだ…。君の動きや癖、全部分かってる。

 だから僕には当たらないよ!


 その目がまた青く輝く。


 魔力眼――――大層な名前を付けたけど見えるのは魔力だけ。心なんて見えやしない。

 そんなこと出来たら世の中平和だよね。らぶあんどぴーすだ。

 でも、そういうことじゃないんだよね?


 見えないなら理解してあげれば良いんだ。自分で言ってきたことじゃないか。

 でもそれをしなかったのは僕が臆病だったから。

 君と離れたくなかったからだ。


 もう一度だけチャンスをくれないかな?

 自分勝手だけど…必ず君のそばに行くからその時は――――



 いやだイヤだイヤダイヤダイヤダ。

 わたしのとなりにはおうじさまが…。

 きおくがいいの――――


「ぉぉおぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」



「修行が足りない!戻ったらお仕置き――もとい、扱いてやる!」


 放水銃なんて目じゃない鋭い水撃を軽々と避ける。

 その間にも彼女との距離を詰めていた。



 彼女との距離は3、4メートルくらいか。あまり近すぎても避けた時に彼女を巻き込んでしまうかもしれない。


「トスファ!僕の話を聞いてほしい!」



 なつかしい声…。

 あたたかい。

 わたしはしっている…?



 僕の声を聞いた彼女がぴくっと反応し、動きが止まった。

 良かった。聞く耳持たないんじゃどうしようかと思ったよ。


 えっと、それじゃ…うーんと……?

 ええーい!回りくどいのはやめだやめ!直接的なのが一番いいんだ!


 僕の告白を聞いてほしい――――


「トスファ!僕は君が好きだ!愛してる!」


 最初で最後の本気だから。

 

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