このよにひとり
キオクが…いなくなってしまった。
その日の夜は久しぶりに一人だった。彼と出会ってからは一緒に寝ることが多かったから…。
――――ずっと一緒だった。これからもそうだって――――
私が一人で勝手にそう思ってたのかな?彼の優しさやぬくもりが、そう私に錯覚させたのかな?
…私はひどい子だ。自分の思い込みを彼のせいにしようとしてる。だから一人ぼっちなんだ…。
いつからだろうか?そう気づいたのは…。
初めて外に出たときはこの世はなんて輝いているんだって思った。
それがある日ある時を境に――――真逆のものに変わっていった。あんなにきらきら輝いていた周りの世が黒く、暗い―――夜よりも洞穴よりも暗く深いものに。
ああ、そうだ……あの時だ。
初めて他の人のために力を使った―――見知らぬおじさんがマモノに襲われてて、それを私が助けた時。
気が付いたおじさんは私を見て、慌てて手を振りほどいて逃げ出した。その目は大きく見開きアイツラと…マモノを見るのと同じものだった。
その時気づいてしまった。私は一人だと…。
どうして忘れていたんだろう?
…どうして忘れられていたんだろう?
「トスファ。大丈夫。大丈夫だよ。彼もいろいろあって戸惑ってるだけさ。すぐ帰ってくるよ」
「そうよ。男は女と違って独りになりたいときもあるのよ。ねえ、あなた?」
それはきっと――――父さんと、母さんのおかげ…。二人が私を支えてくれたから、私は、私でいられた。
だけど子供だった私の傷は深かった。多分耐えられなかったんだ。
忘れられていた?いや違う。自分で封じたんだ。
暗い洞穴を出ても暗い世だ。慣れるはずがなかったんだ。
「おや、お散歩ってやつかい?彼は今日は一緒じゃないんだねぇ」
「アネさん!なにかあったんですかい?いつもの笑顔はどうしたんですか!なにかあればあっしらが…」
でも今はもう慣れている。彼と会ったあの時から…。輝きを取り戻したから。
城内を歩けば、みんなが声をかけてくれる。
その度に彼らが安心する顔を見せる。
それは私の知らないものだけど、彼なら気づいてしまうだろう。
だけど、その彼はいない。母さんに聞いても満足する答えは返ってこなかった。
また戻るの?あの暗い暗い闇の中に――――
「おねえさま!アタシと一緒に――――」
「私も、一緒に…」
ユズとドアが心配していたけど、あの顔を見せれば多少は納得してくれたようだ。
だから今日も一人の夜。
たった3日じゃ忘れてあげられない。そもそもそんなこと出来はしない。
そんなだから寝床に入っても考えるのは彼のことばかり。
最近のキオクはどこか違った気がした。私よりもユズやドアに構い…ミケの時だってそう、私じゃなくてドアを選んだ。
彼自身も一人で魔物を滅せるほど強くなった。食事だってそう!彼のために作ってないし…私はもういらない……?
またひとり…?ひとりになっちゃうの?
ひとりはいや、ひとりはいや…ひとりはいやひとりはいやひとりはいやひとりはいやひとりはいや――――ッ!
僅かな隙間を通って溢れた涙が耳を濡らす。
それは彼女の記憶と重なり、初めてと連なる。
幼い頃は流していたことにさえ気付かず夢中だった。
『ねえ、おかあさん。このおはなしはさいごどうなるの?』
『それはね、トスファ。あなたが考えるのよ。その方が楽しいでしょ?』
『…わたしが?じぶんで?……んー。いますぐしりたい!』
『あらあら。トスファには早かったみたいね。自分で物語を作る楽しさは――――』
『うー、それよりつづき!おうじさまとおひめさま、どうなるの!』
『はいはい、おうじさまは――――』
自分で作るお話……。
そうか、これがそうなんだ――――
だったら終わらせないと…こんな、こんな!悲しいお話は――――ッ!
トスファは上体を起こす。
だが、まだ眠っているかのようで意識はない。
黒く、暗い影が彼女の体を包み込む。
ソレは生ける屍のように腕をだらりと落とし、ゆっくりと歩き始めた。
王子様が待っているであろう場所を目指して――――
今の空のように赤く目を染めた。




