おごそかなばで
「あら?思ったより早かったわね?……大丈夫だったの?」
お母さんがあまり心配しているように見えないのはトスファの強さを知ってるからなのだろうか…?こっちは彼女の弱さを垣間見たのですが…。
「お母様!キオクね!すごいの!」
とまぁ、いつも通りではある。
トスファは興奮した様子で、経緯を説明した。
それをにこやかな顔で聞いていたお母さんの表情が、話の終わりと共に真剣なものへと変わっていく。
そしてその顔のまま――――
「…キオク、話があるの。ちょっといいかしら?」
その雰囲気に飲まれそうになりながら、首を縦に振る。
よく見れば、彼女が着ているのはおばあさんからもらったもの。汚したくないと言って、勝負服としていざという時にしか着ない。
一体何を決めたんだ…?
彼女からは決意めいたものを感じる。
「トスファは来ちゃダメよ」
戸惑うトスファを置いて、城の奥へと向かった。
二人きり?キオクとお母様が?何を話すのかしら?
…私がしっかりお世話しているかどうか?王子様にふさわしく成長しているかどうか?
――――まさか、ふりん?!そんな、いけませんわ!みなにばれたら終わってしまいますわ!
いえ、二人がそんなことするはず――――ああ!気になりますわ、気になりますわぁ!?
トスファは頭部を両手で押さえ、体を左右に振っている。
それを普段通りと捉えつつも、心配に思い声をかける者がいた。
「トスファ?どうしたんだい?」
ああ、お父様!私はどうしたら…?
「ん…?ああ―――母さんを信じなさい……うぅ」
彼はその彼女と同じくもらった服の裾で涙を拭き取った。
父の言っていることが全く理解できないトスファは、両手を下ろし、その支えの無くなった頭を傾けていた。
「ここは?」
城の奥の方にあり、入り口の広間と同じくらいの広さがある部屋。向こうの世界のような象徴するものはないがどこか教会っぽい。奥に見える祭壇っぽいものとか、多数の人間が座れる長椅子とか…。
初めて来たため、その物珍しさに目を奪われる。
それできょろきょろと見回していた僕の方を振り返るお母さん。その表情はこれまでと違い、いつもの優しい微笑みを湛えていた。
余すことなくこの部屋全体を照らす光が彼女を一層引き立てていた。
「…ここが綺麗になった暁には、結婚式を挙げようと思うの」
なるほど。僕がいない間に次のことを決め、すでに行動を起こしていたわけだ。
さすがお母さん。頼りになります。
次のイベントはけっこんしきね、けっこんしき……。
結 婚 式?!
目と口を大きく開くが、この世界の現状を思い出しながらゆっくりと閉じる。
――そうか、そうだよなぁ。このご時世、お二人はそんなことできなかったろうし…。良いんじゃないかな。世界が元に戻った証として――
「それは良い案ですね!おめでとうございます!」
そう声をかけて目に入ったお母さんが何言ってんのって顔をしている。
「キオク……、あなたとトスファのよ?」
今度は僕が何言ってるのかなって顔で彼女を見る。
この空気は何だろうか?
――――ふぅ、ちょっと待ってくださいね。いま、あたまのなかをせいりしますからね。
けっこんとは、あいしあうふたりがとわのちかいをし、そいとげるためのもの。
そしておかあさんはぼくととすふぁがけっこんするという…。
はぁあああああああああああああああああああ?!
「な、ななななななにをいってるんですか?!」
ぼくまだじゅうろくさいくらい。ほうりつじゃけっこんできない。
あ、ここじゃかんけいないのかな?それならもんだいないよね。
「……どうして、そんなはなしになってるんですか?」
「あら?あなた責任取ってくれるって言ってたわよね?」
たしかにいったけど、そういういみでいったのでは…。
「……かのじょのきもちはむしですか?」
「…確認はしてないけど、見れば分かるでしょう?もしかして、気づいてなかったの?」
――――あれは、かぞくあいではないだろうか。ぼくをあにとしての。いせいとしてではないと…。
しばしの沈黙があったが、それはキヲクにとって良い方向にはならなかった。
「……ごめんなさい。ぼくはかえらないといけないんです…」
「…帰る?滅んだ国にってこと?トスファは連れていけない、と?」
「それは――――」
せつめいした。ぜんぶ。わかってもらえるとはおもえなかったけど、いまのぼくはなにもかんがえられなかった。
彼女は黙って聞いていた。
真剣な表情を全く崩すことなく、下を向き続けている彼の顔をずっと見ていた。
話が終わっても彼と目が合うことは無かった。
それでも彼女は優しく声をかける。
「――違う世界……未来ねぇ。信じがたい話ではあるけど…」
とうぜんだよね。ぼくもそうおもう。けどじじつ。しんじつはひとつです。
その沈黙はキヲクにとって辛いものだった。
こんな形でこの話をするとは思っていなかった。
帰る時まで――――運命が家族と引き離そうとするまで話す気はなかった。
失いたくなかった。
自分勝手だと思いつつも――――
だから気付かなかった。
彼女が母親の顔をしていたことに。
「それを信じるとして話をしましょうか。あなたはどうしたいの?」
「……えっ?」
「あなたはさっきこう言ったわ。帰らないといけないって。願望ではなく義務的に感じたけれど?」
それは……でも――
「…ごめんなさい。急にこんな話されて気が動転しちゃったのよね?明日また話しましょう?」
そういってこのばをさったおかあさん。
ぼくはそのばにたちつくし、ぼうぜんとよぞらをながめていた。
キヲクはただ足が進むままに歩き続けた。
それを見続けていたからどこをどう通ったかなんてのは分からない。
ましてや、彼女がどんな恰好で、どんな仕草をして、どんな表情をしていたかなんて――――
「キオク!何の話だったの?お母様はなんて?」
とすふぁ……。かのじょがぼくのことを?
「……なんでもないよ。なんでも…」
「…そう?それより明日なんだけど――」
「…ごめん。ちょっとつかれてるから……」
「あ……ごめんね。それじゃまた明日に……」
かのじょはわるくない。――あきらかにおかしくみえただろうに。
たぶんかのじょからえがおがきえているだろう。
――――こわかった。だからかのじょのかおがみれなかった。
――――そしてぼくはにげだした。




