きじょう
名付けイベントが終わったので今度こそ帰ろう。今日中に旧市街まで帰れたら良いけど…。
楽を一度でも覚えるとなかなか抜け出せない。やはり布団は至高!
でも、ミケがいれば見張りも壁も必要ないよな?
……ん?
「そう……いいの?うん…ありがとう」
ドアがミケと何か話している――ように見える。知らない人が見たら猫に話しかけてる変な人みたいだ。
「私たちを、乗せてくれるって…」
それを聞き、ミケの方に顔を向けると、応えるようにニャアと鳴いた。
そして、僕たちが乗りやすいよう体を伏せるミケ。それを見た子猫たちも同じように体を伏せた。
普通の猫より遥かにデカいといっても、まだ子猫。気持ちだけ受け取り、頭を優しく撫でた。
気持ちよさそうに目を細める様がいちいち可愛い。愛でたい。
「みんな、乗るよ!」
ミケの好意に甘え、背中に乗る。
伏せていてもドアよりも高い背に、一番苦戦していたのはやはりユズ。助けはいらないと、ぴょんぴょん飛び跳ねるも手が届かない。結局ドアに引っ張られる形で彼女は騎乗した。
いやこの場合はにゃん乗?乗猫?ネコバ〇に乗るときはなんて言うんだろうか?
全員が乗ってもものともしないみたいで、ミケはスッと立ち上がった。
僕たちが乗っているためか子猫に合わせてか、全力走りではなく、トットットっと軽い足取りで駆けていく。
それでもこの巨体だ。僕たちが歩くよりずっと速い。これなら城まで帰れそうだ。
下を見れば、3匹が鬼ごっこでもしているみたいに競い、じゃれ合っていた。
ちなみに僕たちはそれぞれの体に抱き着くようにして乗っている。
一番前が僕、次いでトスファ、ユズ、ドアの順。これが一番揉めないだろう、と思っていたんだが…。
「ちょっと、アンタ!もっと離れなさいよ!」
この方は無理を仰る…。抱き着いてるのはトスファなんだが…。
トスファは思い込みモードに入っているのか、ユズを咎めることなく悦に入っている。それも面白くないようだ。
「…トスファ?危ないからもっとしっかりしがみついててね」
そう言って、彼女の後ろに視線を送る。悪意を込めて。
「くぅううううううう!!」
ふふ、歯をギリギリさせて悔しがってるな。ここで追撃することでダメージがさらに加速する。これも教祖の教え。
風の音に負けないよう息を吸い込む。
「ドア?君も危ないからしっかり、ね!」
「…ちょっと?!どこ、触ってるのよ?!そ、そこはだめだから…?!」
「…ユズ様、かわいい。もっと…もっとですね?」
「あひ?!」
ああ、これがはくばの王子様というものなのですね。
今ここには私たち二人だけ!二人の行く手を阻むものは何もない!これがしんこんりょこう!
このまま果てまで――そう、しが二人を分かつまで!
うーん…、後ろが騒がしいのに返ってこないトスファ…。何を言っても、うへへへと変な笑いだけが返ってくる。
このモード入るとサイキョ―だな。これが悪い方向に行かなければいいけど。
気づけば旧市街を通り過ぎようとしていた。
これまでの時間があっという間に過ぎ去っていったように、青から赤へ、目に映る景色も同じように流れていった。
――いつまで続くのだろう、この時間が…。
向こうの世界とは違う形の充足した日々。僕は――――帰りたくなかった。
過去を懐かしむように目を細めても、時間は止まらなかった。
「お、見えてきた。さすがに早いな」
見慣れた巨大なシルエット。我らがトスファ様のお城である。
二日ちょいの旅が数時間の行程で終わりを迎えた。
城の傍まで近づくと、悲鳴に似た叫びがあがる。
「ひぃ?!こ、こいつ…ま、ま、マモノか?!」
おや、この声は…。
「今、戻りましたよ」
ミケの背中からひょこっと顔を出すと、モブさんたちは安心した表情を見せる。そして恐る恐る近づいてきた。
それを見た僕はポンポンとミケの背中を叩く。こんな巨体でも猫特有の柔らかさや、もふもふの触感は失われていない。
ニャと軽く返事をして、ミケはゆっくりと体を伏せた。
まだまだ親の真似事をしたくなるお年頃。3匹の子猫もまた真似をするが、性格はそれぞれ違うようで、白猫キトが大人しい黒猫ユトにちょっかいをかけていた。
茶猫のユドはそれを欠伸しながら見ている。名付け親とも性格は違うようだ。
「トスファ?降りるよ?」
結局ここまでモード入りしたままだった。僕の言葉でハッと返ってきた彼女は、僕に次いで慌てて降りてきた。
……二人は幸せそうだからほっとこう。――訂正、ドアが。
「アニキ、アネさん!こいつが例の?」
駆け寄ってきた彼らに事情を説明した。それを聞いた彼らの目が賞賛や憧れを表すかのように輝いていた。
評価を上げたくて上がるのではない、上がってしまうのが王子。いや僕より主役のトスファをですねぇ…。
このままでは僕の評価がうなぎ上りで上昇気流なので、ご両親に報告に行こう。進展も聞きたいし。
――おっと、ミケはどうしよう。猫だから入れないことは無いと思うんだが…。
扉とミケの巨体を見比べ、しばし思考する。
いけそうな気はするが、無理して壊してしまっては修理が大変だ。無駄に大きい扉だし。
――――よし、落ち着いたら猫ハウスを作ろう。猫カフェみたいに癒し空間にする。ええやん!
さきを思い描くと期待と興奮が湧き水のように溢れ出る。
「ドア、あとよろしくね!」
一応声をかけてから、城門をくぐった。




