たいぼうのてんかい
――――長かった。彼女の性格なのだろうが、僕よりもかなり遅いスピードで魔力を送っていたため、かかった時間が大幅に増えた。…そのおかげであふれる心配は全くなかったが。
とにかく、つかれた……。体力より精神力がやばい。ちょっと寝たい。
ドアもかなり堪えたのだろう。先にダウンしていた。
「…ごめん、二人とも…。ちょっと……、寝るね?」
重い目蓋に耐えれず、答えを待たずに目を閉じた。
―――ん、んん?…頬を舐めてるのは誰?……まさか、ト―――
体を起こすと、彼女は僕に抱き着いて寝ていた。
これが風評被害ってやつでしょうか?でも日頃の言動のせいだからね?
えっと…?それじゃ、舐めてたのは…?
ゴロゴロと喉を鳴らし頭を摺り寄せてくる子猫。
3匹とも元気になったようだ。他2匹は楽しそうにじゃれ合っている。
その姿を見て嬉しくなり、ふわふわ毛並みの子猫に顔を埋める。
うひょぉおおおおお!!もふもふもふもふもふもふもふ!!!
「…キオク?」
「…なにしてるのよ、アンタ?」
「……………」
3人も目を覚ましたようで、僕を見る目が寝起きから冷めたものへと変わっていく。
――いや、やれば分かるから!これは衝動的にやりたくなることだから!
穏やかな空気が流れていた。
言い訳に奔走する男を和気藹々と細く冷たい視線が突き刺さる。
なんかおかしいだろぉ、それぇ?!いやホントに!ホントにやれば分かるんだってばよぉ?!
しかし、事態は一変する。
無視してんじゃねぇええええええ?!
…え?
「きゃぁああああああ?!おねえさまあああ?!」
「…え?!……うそ?!」
ツルが二人の手足に巻き付き、持ち上げられる。
(木の魔物!擬態したのが近くまで来ていたのか!)
みんな不意を突かれ、対処が遅れた。拘束された二人も思うように手が使えないようだった。
「すぐ助けるからね!」
そう言うトスファを手で制す。そして無言のまま、魔物に近づく。
そのままゆっくりと立ち去ろうとしていた魔物は欲に負けてか、自分から近づいてくる獲物を前に再度根を張る。
その獲物は目を輝かせていた。
これだよ!みんなが求めているのは!男よりも女の子!すまない!ノンケ以外は帰ってくれないか!
ここで脳内選択肢が登場!
ニア <つるをはずしてやるか>
<このままながめてるのもいいか>
下だよなぁ。ドアは助けるけどユズは縛られてる方が嬉しいよなぁ。
「ちょっと!アタシも助けなさいよ!」
ちっ!便利な能力持ってんな。ま、いいや。ここで貸しを作っとこう。
――しかし、その目論見は阻止されてしまった。
背後から巨大な影が飛び出し、その勢いのままに魔物に飛び掛かった。
その毛は迎撃に放たれたツルをいともたやすく弾く。
唯一の攻撃手段であるそれが通じなければ、この魔物に彼女を止める術はない。
「ふぎゃ?!」
ユズは地面にそのまま落下。
「あ、ありがとう……」
ドアは僕が見事にキャッチしました。
二人は無理なので当然の選択。これ以外はない。
二人はツルから解放され宙に放り出されていた。
にゃんすけがその爪でツルを切り裂いたからだ。
そこをすかさず僕が受け止めたのだ。
もっと堪能したかったが怖いのですぐにドアを下ろす。ここまできたら何かを言わなくても分かるでしょう?
睨むな睨むな。二人とも目が怖い。
忘れられた魔物がまだいるから――――
みんながその光景に絶句していた。
耐え切れず顔を逸らすドア。二人の表情も凍り付いていた。
食ってる。むしゃむしゃ美味しそうに。
――――にゃんたろすが魔物を食ってる…。木の魔物だからそこまでではないが、獣人系とかだったら一種のホラーだぞ…。
さすがの僕もこれには言葉を失った。
ホラーが苦手というわけではないが、目の前でやられるのはきつい。
魔物を追いかけまわしたのはこのためもあるのか。
僕の勝手な考えだが、子猫たちはまだ食べられないのかもしれない。餌として与えても食べられず弱っていた――あり得るな。
その辺りも魔力と関係あるのかな。そうだとしたら魔力がない人間には世知辛い世界だな。
にゃんがーすは満足したようで前足を舐め顔を洗い始めた。
大きさは違えど、向こうの猫と変わらない。これなら大丈夫ではないだろうか。
「…よし、帰ろうか!」
「キオク、この子たちは?」
トスファの問いに、笑顔で親指をグッと立てる。
「もちろん、連れて帰る!」
その顔は親に飼っていいよ、と言われた時の子供の顔と同じだった。
向こうじゃ飼えなかったからなぁ。いつでもモフモフできる人たちを羨ましく思ったもんだよ。それににゃんちゅーがいれば魔物も寄ってこないだろうし。
――餌問題は帰ってから考える!
「これからも、一緒…」
ドアは嬉しそうにモフモフ毛並みを撫でている。彼女の気持ちが伝わっているのか、子猫たちもごろごろと喉を鳴らし甘えていた。
それを見てピンときた。
「ドアにこの子たちを任せてもいいかな?」
もちろん、餌問題を投げっぱなしにはしませんよ?それにお世話と言っても、しつけ的なものくらいで…言い訳とかじゃないですよ?ほら、彼女――心が分かるみたいですし?
「分かった。がんばります!」
おお…いい返事と笑顔が返ってきた。乗り気だ。動物…この世界ではケモノか。ケモノ好きなんだろうな。
見惚れてしまいそうなほどだったが、背後の視線を気にしてよく耐えたと、自分を褒めたいところだ。
「ところで、アンタ…。この子たち見てコネコって言ってたわよね?このケモノはそういう名前なの?」
うっ…。覚えてたのか。ここは適当に…。
「…僕の国では、コ・ネコというんだ。一般的ではないから他に呼び名を……そう!この子の名前はミケだ!」
久々に発動するさぎすきる。使わなくてもスキルレベルは下がっていなかった。
そして勝手に親猫を命名。しかもそのまんま。ボキャブラリーが無さ過ぎた。
しかし、それは思わぬ効果を生み出した。
「私もこの子につけていい?」
トスファが子猫を抱きかかえお願いしてくる。その表情は初めてペットを買ってもらった子供のように輝いていた。
僕はそれに、良いと思うよと笑顔で返すと、他二名もそれぞれ頭を悩まし始めた。
数が足りなければ大変なことになっていたかもしれない。そんなことを考える時間があった。
しかし彼女には何かしら考えていたことがあったようで、1分も掛からなかった。
「私とキオクからとって、キト!」
なぜに?とは思うが彼女らしくて微笑ましい。
しかし、それを二人が聞き逃さない。それぞれの脳裏に同時に稲妻が走る。
「それじゃ、この子はアタシとおねえさまで、ユト!」
「…ユズ様と私で……、ユド…」
君たちは本当にそれでいいのかい?名付けって大事だよ?
……おまいう案件だったわ…。
――というわけで白猫がキト、黒猫がユト、茶猫がユドとなりました。パチパチパチ。




