あらわれたのは
ナァアアアアアアアアアアアア!
(なんだ、この音?!いや、鳴き声か?!例のヤツか?!)
地面が揺れているかのような錯覚を覚えるほど、空気が振動している。
耳を塞ぐほどではないが、喧しくはある。
――でもどこかで聞いたことあるような?
いや今はそんなことは良い!襲撃に備えないと!
「トスファ!いつでも壁を作れるように…!」
僕らと同じようにキョロキョロと辺りを警戒していた彼女に指示を出す。
また彼女を頼らざるを得ないのが悲しい。
しかし未知数な敵に対して一番確立が高いのを選ぶのも当然の判断!
けど、それに不満を持つ者が…。
「アタシがやるわ!おねえさまはアタシが守る!」
「わ、私も、ユズ様と一緒に……」
「いや、確実なのはトスファだ。二人は――」
自分の言葉(イケヴぉ・女友達談)が頭に響く。
――――トスファに一人に頼る必要はない、か。そうだよな。ムカつくけど僕には壁は作れないし。
「……二人ともトスファを支えてくれるかな?」
僕の言葉に一瞬ギョッとしながらも、口角を上げニヤリとするユズ。それを見たドアも微笑を見せてくれた。
「――――ふん!なに当たり前のこと言ってるかしら!…ドア、足を引っ張らないでよ!」
「う、うん!ユズ様と一緒に…がんばる!」
二人の言葉を聞いた僕は優しく声をかける。トスファの不安や気負いを減らすために。
「…トスファ、2人と合わせて守りに徹するんだ」
「分かった!任せて!」
頼もしい返事が返ってくる。大丈夫、いつも通りの彼女だ。
(さて、どこからくる?そしてその正体はなんだ?聖獣か?ドラゴンか?魔王か?)
ソイツはその性格を表すかの如く、こちらを警戒しながら徐々にその姿を現す。
「こ、こいつは?!」
「フー―ッ!!」
爪を出し毛を立てて威嚇している。その尻尾が原型が分からないほど膨れ上がっている。
その真ん丸な瞳がこちらを見下ろしていた。
猫です。白黒茶の三毛です。ただ――――
「デカいな」
思わずそう呟いてしまうほどデカい!ネコ〇スくらいあんじゃね?
コイツが魔物を襲った犯人だろうか?いや犯猫だろうか?
――ああ、さっきの声はそういうことか。ウチでかかったから、よく猫が集会してたんだよな。
親の喧嘩より聞いた喧嘩ってやつですかね。
「キオク!どうするの!」
予想外の展開に気を抜いてボーっとしてたようだ。トスファが指示を求めている。
しかし、その声がニャンコを刺激してしまったようだ。
逆立った毛が震え、尻尾をせわしなく振り回し、貫けないものはなさそうな牙を見せ、今にも飛び掛かってきそうだ。
ここは一先ず…。
「みんな、頼む!」
3人で魔力の壁を展開する。
厚さも大きさも形もバラバラな3種の壁が一つになった。
これならよほどの魔力でない限り突破は無理だろう。
にゃんにゃんは壁が見えないのか、果敢にも突っ込んでくる。そして、そのまま壁に激突する。
多分痛かったとは思うんだが、にゃんぞうは身を翻して何事もなかったかのように毛繕いを始めた。
(いや思いっきり見てたからね?猫ってそういうとこあるよね。ってまんま向こうの猫と一緒じゃねぇか!)
3人もそれを見て、顔がほっこりしていた。初めて見たであろう猫に心が癒されていた。
しかし、にゃん吉はがんばる!今度は爪を研ぐように壁をカリカリと引っ掻き始めた。
3人が初めて見る肉球…心が(以下略)
「……キオク、どうするの?」
答えに困る。
耳にはちゃんと入っていたが、視線は肉球に釘付けだ。
(猫、好きなんだよおおおおおおおお!以前猫耳に萌えてた話出したのもそれだよぉおおおおお!是非とも手懐けたい!しかし、このサイズは問題ありだ。餌とかどうすんだよ)
僕がしばらく黙っていると、痺れを切らすやつがいた。
言わなくても分かりますね?
「…可愛いけどしょうがないわ!」
そう言って壁から飛び出し、指をくるくると回し始めた。
えぇ?!中から飛び出せるの?!あ、いや、驚いてる場合じゃなくて!
「ユズ、まっ――――」
遅かった。彼女の放ったリングは4本の足すべてを捉える。そして、バランスを崩した巨体がズーンと倒れた。
その時巻き起こった土煙で視界が閉ざされる。そこに聞こえてきたのはユズの声。
「これで――――とどめよ!」
「ダメェーーーーーーーーーー!!」
視界が晴れ、目に入ったのは、にゃんまるを守るように両手を広げ立っているドアの姿だった。
壁に突き刺さったリングが彼女の目の前で止まっていた。
慌てて僕もユズを止める。
「なによ!二人して!危険なのは排除するんじゃなかったの!」
ここはトスファに任せよう。ユズを宥めるのに最も適任だ。
目を向けるとトスファも、まかせてと頷いた。
腰を下ろし心配そうな顔をしているドアに近づく。
その側で横になったまま、解放された足を舐めているにゃんごうを刺激しないように気をつけながら。
「ドア、どうして…?」
あんなに大きな声出したのは初めてだった。何が彼女をそうさせたんだろうか?
「――この子、どうしようもできなくて悲しくて、困ってる」
「――?!分かるの?」
無言で頷くドア。そして優しくにゃん太に触れ語りかけた。
「…ごめんね。でも私たちは、大丈夫だから…。それで…どうしたの?」
鳴き声を出しているわけではない。心で会話してる?これも魔力なのか?
「………案内してくれるって。――ユズ様」
「ユズ!」
トスファに背を押され、気まずそうにしながらリングを解除した。その直後発したユズの呟きを僕は聞き逃さなかった。
―――なんだ、謝ることは出来るんだな。聞こえないくらい小さな声ってのがユズらしいが。
起き上がったにゃんちゅうはゆっくりと歩き始めた。時折こちらを振り返り、僕らが付いてきてるか確認しながら。
(〇は付いてないな…)
そして辿り着いたのは――
草を踏みならし柔らかくした寝床。
「子猫?」
寄り添うように3匹の子猫がいた。
子猫とは言ったが、普通の猫に比べたら遥かにデカい。生後数か月の子ライオンくらいあるのではないだろうか。
ただ、ものすごく弱っている。素人目でもそれが分かるほどに。
(にゃりんは――どうやったらこの子たちが元気になるか分からないけど、とにかく外敵から守るために僕らや魔物を襲っていたのか…)
何とか助けられないものか…。そう思った僕は獣医師の見様見真似をする。
が、外傷がないことは分かるもののそれ以上のことは分からなかった。
――ならばと思い、目に魔力を集中させる。魔力眼だ。
親猫は魔物に比べたら遥かに多い魔力を持っていた。それなのにこの子たちからは微かな量しか感じ取れない。これが原因だろうか?
「それなら、私が!」
僕の考えをみんなに伝えた。
すると、トスファが僕を助けたときのように魔力を送ると言い出した。二人もそれに賛同するが――
「…いや、僕がやるよ」
たぶん彼女はまだ知らない。教えるのも憚られた。
もし、僕の体が消滅していたら――――彼女は彼のように負に囚われマモノになっていたかもしれない。もしもを想像させるのも、彼女のためにはならないから。
出来るかどうかは先程の戦いが証明していた。だからユズも煽ってはくるが文句は言わなかった。
魔力眼を使い、ぎりぎりを見極めるんだ。コップに水を注ぎ表面張力が発生するぎりぎりを見定めるように。
――少しずつ少しずつ魔力を送る。決して溢れさせてはいけない!
大丈夫。必ず助けるからな。
この世界をまだまだ知らないんだろう?
元気になったら一緒に駆け回ろう、な?みんなで一緒に。
ドラマで見た医療現場の緊張感のように重い空気の中、3人は固唾をのんで見守っていた。
親猫も子供たちに害をもたらすものではないと分かってくれたようで、心配そうな目でありながらも静かに見ていた。
それを破るように僕はふぅと息を吐いた。
「…よし、次の子だ」
これで良くなるかは分からない。
けど、この子からは静かな寝息が聞こえていた。時折、体をぴくぴく震わせながら。
3人もそれを見て顔をぱっと輝かせる。
その喜びを伝えようとドアが親猫の足に抱き着いていた。
――――二匹目も無事に終えた。
しかし、僕の精神はかなり擦り減っていた。体力を使ったわけでもないのに息が荒い。
本当に医療をしてるかのようだ。命を救うことはこんなにも大変なのか…。
だけど、もう一匹…!
その姿がかなり疲労しているように見えたのだろう。声をかけてきたのは――
「……あの!…キオク、さん。私が…!」
初めて名前を呼ばれたと思う。ドアから。そこから彼女の意思が伝わってきた。
僕が見ても顔を逸らさない。瞳は揺れていたが、正面から僕を見据えていた。
壁テントの時と同じようにできないことを言う彼女ではない。彼女に任せよう。
魔力眼のみなら今の僕でも何の問題はない。サポートできるはずだ。
「…ゆっくりね。焦らず、慎重に……」
「…はい!」
二人での救護が始まった。




