かいまく
うぅ…ちょっと寝不足かもしれない。でも、気を引き締めないと…!
この辺りの木々には所々爪痕が残されている。先だけで付けたのか建物のものと比べると痕が小さい。
例のやっこさんが近いのかもしれない。
二人もそれが分かっているようで、口数はかなり減っていた。
――現在のパーティーは僕を含め4人。ということは?
「おねえさま!今度二人だけでお出かけしましょう?とっておきの場所があるのです!ぜひおねえさまに見ていただきたくて…」
曲げず、ブレず、歪みねぇ!ユズ様サイキョ―か!
引き締めないとと思っていた気がイライラへと変わっていく。顔にも足音にもそれが表れていた。
(…落ち着け。ここは敵陣の真っ只中…。そう考えれば…)
「これが終わってから、ね?」
トスファは話を終わらせるためにそう言ったのだろうが、僕にはそれがとどめだった。
ユズを担ぎ上げお米様抱っこの構え。そこから手を振りかぶり――――
「だめ!」
ドアが止めていた。僕の腕をとって胸に引き寄せて。
腕に当たるこの感触――――やぁらかぁい…。
我を失ったあまり、無表情になっていたキヲクの顔がだらしなく蕩けていく。
その鼻下は最長記録を更新した。
(――は!僕は一体何を?…ユズ様は僕の肩の上で何を?)
何もなかったように彼女をそっと下す。
が、そんな誤魔化しが効く相手なわけがない。と、思ってたんですが――
「………たたかないの?」
なぜ期待に満ちた目をしているんだい?やっぱりМなのかい?
瞳がウルウルと揺れている。
初めて目の当たりにする彼女の様に、困惑で目がパッチリ開くどころか、目蓋が重くなる。
僕のジト目に気付いたようだ。ユズもハッと正気に戻る。
「な、なにすんのよ!この変態!やっぱり男ってどいつもこいつもアンタも!」
さっきまでの頬を赤らめもじもじしていた可愛い娘はどこいった?いや可愛いは余計だったか。
「今の状況も女の子に囲まれていい気になってんじゃないの!?あわよくばみんな毒牙に――」
ここぞとばかりに責めてくるんですが?またイライラして顔に出てくるんですが?
「…キオク?怖い顔してどうしたの?楽しくない?私は一緒で楽しいよ?」
あぁ^~心がいやされるんじゃぁ^~。彼女の微笑は癒し!
「…きもッ!今、気持ち悪い顔してたわ、コイツ!」
このヤロウ!人の癒され顔になんてこと言いやがる!せっかく落ち着いた心が荒ぶるよ!
「ねぇ、キオク!あれ見て!見たことないお花が咲いてる!」
トスファの笑顔があれば荒れすさんだ心なんて一瞬でトロトロプリンだよ…。
「その顔、人前で晒さない方が良いわよ?ただでさえモテないんだから」
その名が表す様に酸っぱい対応してきてハートがトムヤンクンしてるよ!
「キオク――」
「アンタは――」
(私は、いったい、何を見させられているのだろう?)
ドアが見つめるは両側に女の子を侍らせ、ころころと表情を変える男の子。よくある茶番劇。
そして、彼女は思う。
(私も…混ざった方が良いのかな?)
「ちょっと待った」
たまたま――ホントたまたま視線が二人から外れた時だ。目に入ったものに違和感を感じる。
「キオク?」
みんなは気付いていないようだ。それほど上手く擬態している。
だけど、僕にはバレバレです。なんてったって魔力眼があるからね!(ドヤァ)
「どやぁってなによ?なにがあんのよ?」
くっ、いちいち反応しやがって。迂闊にドヤれないのかよ!
――それよりも、向こうもこちらが気づいているとは分かってないはずだ。ならば――
「ここは、僕に任せてほしい。手は出さないでね」
僕は無造作にソイツに近づいていく。
3人はそれを不思議そうな顔で見ていた。
見た感じではなんてことない木々。だけど、そのうちの一本が枝を鞭のようにしならせ襲い掛かってきた。
「キオク?!」
トスファが一番に声を上げる。
ユズだけはよっしゃと拳に力を入れていた。
しかし、僕には当たらない。
あの時は不意を突かれたが、今回は違う。
何度も繰り返すが僕は跡取り!この程度余裕で見切れるわ!
魔物でも焦ったり戸惑ったりするのか、初撃を躱され無茶苦茶に枝を振り回している。
そこに作戦も技も何もない。ただ子供のように腕を暴れさせているだけだ。
「ほっ!よっとっ!うはは!あまいあまい!」
兄貴の太刀筋に比べたらこんなの!月とスッポン、ユズとドアですよ!
ピキッとユズの額に怒りマークが…。血管浮かび上がってますよ?大丈夫ですか?
――と余所見をする余裕を見せる。
魔力のおかげか、体がキレッキレですぞ!これなら兄貴にも勝てるのでは?
空のキャンパスに兄貴の顔を思い描く。しかし何故か顰めっ面をしている。
その一瞬、ほんの一瞬のことではあったが視界からツルが消える。
「…おっと?!」
危ない危ない。さすがに余裕を見せすぎたか。それにコイツと遊んでる場合じゃないしな。
気を引き締めなおし、精神を集中する。
アレを試す時が来た!刀を置いてきたのもそのため!
(…必要ないと思ったから置いてきただけなんだけどね。早く帰るつもりだったし)
枝やツルをなるべく紙一重で躱しながら、ゆっくりと近づく。ポケットに手を突っ込んで強者の歩み――――はさすがに止めておいた。
そして相手の隙をつき、一気に懐へ飛び込む!その間も常にイメージしていた。手を伸ばしながらそれを――魔力を送るイメージを!
手が魔物の体に触れたと同時に魔力を送る。
そして、すぐさま離脱!ヒットアンドアウェイってやつでさぁ!
「これでどうだ!」
邪念をものともしなかったのは修練の成果!これでも僕は(以下略)
魔物の動きが止まる。だが、他に変化は見られない。
(――失敗か?それとも魔物の魔力を増やしただけか?)
僕の言葉を守り、みんなも黙って見ていた。
どちらにも動きがない静かな場。音無く優しい風が吹いていた。
それを壊したのは魔物だった。
ボロボロと崩れていく魔物の体。一部は粉々になり風に攫われ光となって消えた。
(汚ねぇ花火だってやつか?魔物以外の魔力は綺麗な光なんだけどな…)
魔力が容量を超えると体が持たないという僕の考えは当たっていたようだ。
大きく崩れた体も小さな光の集まりとなって地に還った。
「よし!」
対魔物、初勝利!
何も考えてなかったので、右手を上げる安易なガッツポーズをしてしまった。
それが喜びから冷まさせる。
――遅くね?嬉しいけど遅いよね?
ま、いいわ。気分いいから!ナハハハハ!
それでつい、どうよ!って感じでみんなに向けてドヤってしまった。
「あんな雑魚相手になによろこんで――」
「キオク、すごぉおい!!!」
そう言って抱き着いてくるトスファ。
何か言いかけてたユズの顔が怒りと嫉妬に染まっていく。
それを見た僕のドヤ顔がスーパードヤ顔に変化していく。
空気の読めるドアはアタフタ慌てだした。
――――そして今ここに、茶番劇第二幕が始まる…!




