なかのわるいふたり
魔物が逃げてきた方角、つまり爪痕主が帰っていった方へ向け出発する。
一度報告に戻るかと悩んだが、モブさん方に伝言を頼んでおいたから大丈夫と判断した。今のメンバーが現時点での最強メンバーだからね。
――と言っても、ドアについてはサッパリなんだよな。彼女はどういったことができるのだろうか?半分になったとはいえユズ以上の魔力を持っている彼女だ。戦闘でも期待しても良いのではないだろうか?
戦略の幅を広げるため、彼女に尋ねようとしたが――
待てよ…?僕が話しかけても答えは返ってこないのでは?人見知りか男嫌いかは分からないが、未だに僕の顔をまともに見てくれないし。
それじゃ――
「トスファ。ドアのことなんだけど――」
彼女が目がキラリと光った気がした。
これはアレ、ですわね。そくしつの話!素敵になられましたからね、私も分かります、その気持ち。同じ女としても魅力を感じざるを得ないあの体。どうしても迎え入れたい男のさが!そんげんがぐろうされるのですね。
これはいつもの思い込みモードかな?それならいつも通りに戻ったみたいで安心なんだけど、聞きたいことが聞けないのは…。ヤツに聞くしかないのか?
チラッとソレを見る。トスファの横を絶対に離れないという意志を纏い、威嚇するように目を細めこっちを見返す。そしてさりげなくトスファの服を摘まんでいる。お子ちゃまか!
「…なによ?気分が良いから聞いてあげなくはないわよ?」
何故に上からなのか。下からの視線が上からに感じるのはそういうイメージを持ってるからなのか。
いや、まともに相手をしてはならない。昨日の二の舞はごめんだ。
「ドアのことなんだけど――」
「…は?アンタ、ドアにまで手を出そうと考えてるの?」
何故に最後まで話を聞かないのか。まともな人間はこのPTメンにはいないのか。さっきから疑問が尽きない。
もうめんどいので、挿み込む隙を与えず早口で尋ねた。聞き取れたかなんて知らない。もうこれ以上疲れたくない。
「ああ、そういうことね。――――しらないわ」
は?って顔してやった。ここまでさせておいてその回答はない。
「しらないわ」
くっ…このヤロウ!聞いた僕がバカでしたってやつかよ!テンプレ乙!
―――もういい!僕が頑張る!出番無くなったって知らないんだから!
野営の準備を始める。
暗くなるまでに例のヤツには会わなかった。明日も遭遇しなければ一旦戻ることも考慮に入れなければならない。
旧市街から方位を少しずらせば、かつて住んでいた洞窟に辿り着く。
もしかしたらその辺りの覇者であったトスファがいなくなったことで、パワーバランス的なものが崩れたのかもしれない。
彼女の魔力を警戒して現れなかった可能性もあるし、他所から来た可能性だって――――
これから未来のことを考えれば、みんなで解決した方がいいかもしれないからね。
しかし、今解決しなければならない問題もある――
「いやよ!」
ユズ様がごねておられる。そこからは絶対に折れない鋼鉄の意志を感じる。
話の発端はこうだ――――
魔物や例のヤツに対処するため見張り制を導入しようとしたのだが、
「そんなもの必要ないわよ。ほら!」
ユズはそう言ってドーム状の魔力の壁を展開する。
彼女曰く、寝てる間もこれで安心だそうだ。魔物はともかく例のには通用しないでは、とツッコんだが、壁に何かあればすぐ気づくと豪語する。
しかし、だ。命名・壁テントは二人寝るのがやっとの大きさ。それでは残る二人の身の危険が危ない。しかも、絶対――――
「おねえさまとアタシだけのく・う・か・ん!」
そうなるよねー。きっとそう思ったの僕だけじゃないよねー。
ホラ、ドアが今にも泣きそうな顔になってるよ?愛想つかされてもおかしくないのに健気にユズの事想ってるんだよ?そんな子ほっといていちゃいちゃしてまうん?
―――そこで僕が一人見張りするから三人でって言えばよかったんだけどね…。つい、ね。口が勝手にね。
「狭いからユズが一人で寝れば良いんじゃないかな?」
と、言っちゃったわけですよ。そこからはもう汚い詰り合いの応酬で、ピー音が入るかもしれないので詳細は伏せますが。
そして何も決まらないまま、戦線は膠着状態に陥りました。
そこで僕は悩みましたが、あみだくじを提案したのです。案の定、みなさん知りませんでした。ま、これくらいはいいだろうと考えてのことです。
――結果はドアとトスファ、ということは?…そういうことですね。
僕は妥協したのですが、彼女が折れません。どうしたものですかね?
頭を悩ませるユズ以外の三名。そこに神が舞い降りた。
「…あの、ちょっと、いいですか……」
引っ込み思案なドアがやってみたいと言ったのだ。何を?
彼女は少し離れたところに立ち、胸に手を当て落ち着かせるように何かを呟く。
そして、彼女が両手を空にかざし、
「え、ええーい!」
気合を入れて、彼女なりに叫ぶ。
――叫ぶって言うにはかなり小声でしたが。
すると、振り下ろされた彼女の手の先には――――
「おお!」
僕とトスファは両手で握り拳を作り、賞賛を表す。ユズは何とも言えない顔をしていた。
彼女が形成した壁テントよりも大きいものが展開されていたからだ。
「で、できた……」
形成した本人も驚いていた。おそらく初めて挑戦したのだろう。
何故かって?それは――入り口がなかったからね!
…自分たちの外側に展開するイメージしないとダメだね、これは。
しかしユズは悔しそうに唸っていた。それが耳に入ってしまっていた。
「これでみんなで寝れますね、ユズ様?」
と嫌味が自然に出た。嫌なやつになってるね、僕は。
なかなか眠れなかった。彼女に聞かれた問いの答えを求めて――――
「ね、キオク………まだ起きてる?」
ユズとドアの寝息が聞こえる中、トスファが話しかけてくる。
半分意識が飛んでいたんだけど、まだ起きてるよと眠気の混ざった声で返す。
「ごめんね。どうしても気になってて…」
一体何が気になるんだろう?僕に答えられることならいいんだけど…。
「…どうして、ユズに冷たくするの?」
僕はすぐには答えられなかった…。




