あらたなてき?
「これは…?!」
遅れを取り戻すため、歩みを速めたおかげで昼食前には旧市街に辿り着けたのだが――以前とは明らかに異なる風景に言葉を失う。
街中が荒らされ、建物に無数の爪痕が刻まれていたのだ。
魔物が大群で攻めてきたのだろうか?それにしても……。
爪痕を間近で確認する。
素材は未だに分からないが、そう易々と切り裂けはしない外壁に深々と刻まれている。内壁にまで達し穴が開いている箇所もある。
その痕からそれをつけたものはかなりの巨体だということが分かる。
その正体は気になるが、それよりも彼らの安否が心配だ。無事であればいいのだが…。
みんなで大声を出し、反応を待つ。
一番大きな声を出しているトスファに負けないよう、その間十分な空気を肺に送る。
まだソイツがいるかもしれないので警戒は怠らない。耳に神経を集中し、全ての音を取り入れる。
すると、ある家の中から弱弱しい声が返ってきた――――
「あ、アニキにアネさん!……とその他の人」
「みなさん、無事でしたか?!…おばあさんも!こっちに来ていたんですね」
彼らが迎えに行き今日まで一緒に暮らしていたそうだ。室内の散乱物――特に多量の空いた缶詰を見る限り、そのはしゃぎっぷりが目に見えるようだ。
見たところ5人とも怪我はしてないみたいだ。
変わったところと言えば、男たちがそれぞれの色に染まった髭を剃っていたことくらいだ。
その無事な姿を見て安心したのだろう、トスファがおばあさんに抱き着いていた。
…ユズは機嫌が悪そうだった。嫉妬――ではなく男性にその他扱いされたのが気に食わないのだろう。彼女をなだめるためにドアがいい子いい子してたのも原因かもしれない。
しかし、そんなことはどうでもいい。全く重要なことじゃない。今後はカットしてくれてもいいと思う。
「一体何があったんです?」
そう、話を進める方が大事。
「それが――」
彼らは思い出し震いをしながら、ゆっくりと話してくれた。
「それで、ソイツはどっちに?」
「まさかアニキ、そいつとやりあうんですかい?!いくらアネさんがいたとしても――」
「大丈夫。この二人も強いから」
ドアの方は戸惑っていたが、ユズはいつもの自信満々の笑顔で頷く。アンタ分かってんじゃない、と言いたそうだ。
(ちょろいな。機嫌が良くなってる)
ユズはぴくっと眉が動き機嫌が悪くなっている。
構っていると話が進まないので、ドアに任せて話を進めることにする。
「危険はなるべく早く排除したい。これは他のみんなのためでもある」
3人も即頷く。この辺は意思疎通がしっかりできていると思う。
「みんなは城へと非難してください。場所は―――これを」
彼らから預かっていた地図を返す。
持ってきておいてよかった。べ、別に自分が迷った時用じゃないんだからね!
「アニキ、アネさん、その他の人。お気をつけて…」
ユズは握った拳をプルプル震わせていた。
こういう時ドアがいてくれて助かった。僕が相手しなくていいからね。
(大量の魔物が逃げるように、か―――)
5人を見送った後、その場で彼らの話を思い返していた。ありそうな話を妄想していたからだ。
ケース1:聖獣とか。こういう世界だといてもいいよね。
ケース2:ドラゴン。やはり男のロマン。
ケース3:魔王。こういう世界だといてry。
隠れるのにいっぱいいっぱいで姿は見てないって言っていたけど、魔物が逃げ出す相手か…。
魔物自体はそれほど強くないからなぁ、トスファさん相手でも逃げ出すだろうし。
…上位の存在だろうなぁ。一体どんなやつだろうか…。
久々にスキルが発動し上がる気分。まるで成長していないとはこのことか。
でもしょうがないよね。男の子だからね。漫画とかでしか見たことがない存在がいるかもってなるとね。
噴出される鼻息を温かな風が遥か遠くへ飛ばす。
その風が僅かに冷たくなっていた。
――おや?トスファはどうしたんだろうか?いつもと様子が…?
「…怖いの?」
初めて見た、と思う。
魔物の前ではいつだって圧倒的な強さを見せてきた彼女が――――体を震わせていた。
さっきもそうだったが、それは彼らの安否が心配だったからだ。今回とは理由が違う。
恐怖の対象だった魔物が逃げ出す相手に、未知の存在に対してみせた弱気。強大な魔力を持っていても彼女は女の子なんだと改めて思った。
「大丈夫だよ」
彼女を軽く抱きしめ、ポンポンと優しく頭を叩く。
体は簡単に折れてしまいそうなほど細いのに、恐怖に震えるどこにでもいそうな女の子なのに、それに似つかわしくないあまりにも大きすぎる魔力。それが彼女を苦しめることもあるのか、と初めて気づく。
――ああ、自分はなんて愚かなんだ。弱い彼女の強い力に嫉妬してたんだから。彼女だって本当は戦いたくないはずなのに、僕は頼ってばかりで…。
抱きしめる腕に力が入った。
「…僕がいるから……それに――」
気づけばトスファの腰のあたりに抱き着いているユズ。に抱き着いているドア。
全く―――
「みんながいるから、ね?いつだってね」
彼女の震えは止まっていた。そして僕の胸でその表情を隠したまま、照れくさそうにうんと頷いた。




