おとな
わいわいがやがやと騒いでいたせいで今日中に着けなかった。
地図は分かりやすく道標を書いてあるだけで、その通りに進めば遠回りになるようだ。
ユズが言うには、少し歩きを速めるだけで1日で辿り着ける距離だという。
(これでは冒険ではなく遠足ではないだろうか……。いや、そもそも冒険ではなかったか)
でもこうなるなら、刀を持ってくればよかったと悔やんだ。
4人で火を囲む。
正確には囲むではなく、みんながみんな、隣にいたいがために一辺に寄っている。
「それで?なんで、おねえさまも一緒に行かないといけないの?」
持ってきた缶詰を開けながらユズが聞いてくる。
今の状況を説明する良い質問だが態度が気に入らない。
彼女は視線を缶詰に向けたまま尋ねていた。
隣にいるトスファには事あるごとに顔を向けるくせに、その左には一切向けようとしない。そこから視界にも絶対に入れないという強い意志を感じた。
男=見下すものという図式がしっかりと僕にも適用されているのだ。あれだけペンペンしたのにも関わらず。
しかし、今は楽しい夕食タイム。ここは大人の対応でいきましょう。
「ユズに説明する必要はないな。嫌なら帰っても良いんじゃよ?」
「………は?」
「ドア、送っていってあげるかな?」
お返しとばかりにユズを視界に入れず、その右隣にいるドアにとびっきりの笑顔を向ける。
しかしその内訳は笑顔1に対して嫌味9。
もちろんユズに向けての9だ。
「……え?ええ?!」
「ちょっと、まちなさいよ!おねえさまと二人になんてさせるわけないでしょ!」
「…キオクと二人……」
「おねえさま!なんで顔を赤らめてるんですか!アタシがいるでしょう!」
「…ユズ様には、私が……」
みんなが強い自己主張を始めた。あれだけ弱かったドアまでもが。
そうして、騒がしい夕食タイムが過ぎていった…。
完全に僕のせいですね。でも何故か彼女には突っかかってしまうんだよな。
…別に好きな子には意地悪したくなる小学生ではないですよ?
どっちかっていうとこれは――
「それで?なんで、おねえさまも一緒に行かないといけないの?」
僅かに主張が途切れた隙に、また同じことを聞いてきた。一文字も変えず。
コイツ、手強い!
折れるのも大人だと、自分に言い聞かせる。
――――面倒だからいいか。無限ループって怖いからね。
「知り合いだからだよ。彼らもトスファの顔を見たら安心すると思うし」
今、僕たちが向かっているのは旧市街。モブさんたちとおばあさんを城に招くためだ。
まずはあの城をしっかりとした防衛拠点にする。みんなが安心して暮らせる場所にするのだ。旧市街の整備はその後で良いだろう。
それを聞いて、ユズはあからさまに嫌そうな顔をする。
「男なんてほっとけばいいのに!」
…これはあれか?なんで男嫌いなのか聞いてくれアピールか?
それは気が向いたら外伝で語られるだろう。
だから僕は絶対に聞かない。
「…あの人たち、元気かな?」
「あの辺はトスファのおかげで魔物が少ないから大丈夫だよ」
彼女の不安はすぐに取り除く。僕が隣にいる以上はね!(キリッ)
「…なにかっこつけてるのよ?きりっとか――ばかじゃないの?」
こ、こいつ、脳内を読みやがって…。
――どうもユズとは合わないな。分かってたことを再確認したよ。
(いや、大人になれフィニル。あんな安っぽい挑発に乗ってはダメだ)
「…少しきりが濃くなってきたかしら?」
煙のせいでそう見えただけだが、彼女は僅かに声に出してしまっていた。
(うおおおおおっ!)
僕はがばと立ち上がり、指を突き付けた。
「勝負だ!ユズ!」
「……なに言ってるのよ?アンタ……」
「捕まえてペンペンしたら僕の勝ち!逃げきれたらユズの負けだ!」
「だからなに言って――――」
「…私が、捕まえたら、寝てる間ずっと、抱っこしてても…?」
「私もキオクに捕まれば……」
「おねえさまもなに言って――――きゃあ?!」
「ちっ!勘の鋭いやつめ!だが、神鬼と言われた僕から逃げられると思うなよ!」
かくして、ルールの良く分からない鬼ごっこが開催された!それは夜通し行われていたという……。
「ふぁあああ……眠い………ぐぅ」
歩きながら寝そうになってる。それは僕だけじゃない。他3人もだ。
「…キオク………おしおき…」
「うへ、うへへへへ。ユズ様、やぁらかぁい…」
「ひぃ?!来るな………くるなぁ?!」
それぞれが欲望のままに追い掛け回した結果、誰が勝った負けたはなく、一晩中走り回って疲れ果てていた4人がいた。
この状況で魔物に襲われたら危険極まりないが、このまま寝たら4人とも何が起きても絶対に目が覚めないと思い、旧市街へ向け歩みを進めた。
――――がしかし。
「………もう、ダメだ………」
歩き始めて50歩も進んでいなかった。
だがその一言を皮切りに、その場に次々と倒れる4人。その際に重なり合い、丁度それぞれの体の一部に頭が乗る。
そして、スヤスヤと寝息を立て始めた。
――心地の良い風や陽射しが彼らを安眠へといざなう。柔らかな草の上だったこともあり、しばらくの間、誰一人起きることは無かった。
――――それを遠くの崖上から見つめるモノがいた。黒目を細めて――




