さんにんよればゆりのはな
「おねえさまぁ!いたかったよぉ!」
トスファに抱き着いてわんわん泣き叫ぶユズ。ちょっとやりすぎたかもしれない。
(――いやでも、止められなかったんだよな。あの顔を思い出すとこう…つい――)
「ひぃ?!」
僕の手が勝手に素振りしていた。
その音でユズの顔が引きつる。涙目になった顔をトスファの体で隠し、かばうように痛めたお尻も押さえていた。
(ほむ…)
どうやら僕はSっ気があったようだ。
怖がる彼女の顔を見ていたら、ぐへへと悪い顔に変化していき――
「ち、近寄んないでよ!?ばか!!」
あくまでも強気の態度を崩そうとしない彼女のせいで、心が冷めていくようで目が細まる。
そのまま、トスファの鳩尾あたりにあるピンクの頭頂部を見下ろす。
――お仕置きが足りなかったようですね。もう二度と悪さしないように一から教える必要がありそうだ。
しかし、僕の前に彼女が立ちはだかる!
「わ、私が代わりに…!」
「おねえさま!」
(……えっと?なんで頬を赤らめて体をもじもじさせてるのかな?あれだけ説明したのに分かってもらえなかったのかな?そうだとしたら、僕は悲しいよ?)
冷めた心が別の冷たさでキンキンに冷やされる。
だけどいつもと変わらない彼女の姿が僕の熱交換を行う。
ま、いいや。それよりも――――
「なんで、おねえさま?」
戦いのときはあれだけ怖がっていたのに今はこんなに懐いてるのは何故?戦いの末に生まれた友情?少年漫画かな?
「…私も良く分からなくて――」
「おねえさまはアタシより強くてカッコいいのよ!当然でしょ!」
答えになってましたか?もしそうなら、彼女より強い者はみんなおねえさまだな。とは、ツッコまない。
ユズはその自慢げな声とは裏腹に、トスファの服を掴む手は離さない。
僕の視界が何故かその部分を中心にして固定化される。
「おねえさまぁ、アタシはおねえさまのモノですぅ」
トスファに抱き着いて頬ずりし始めたぞ。これは間違いない。ソッチの人だ。
僕はタワーモノも嗜むのです。割と大好物です。
今までこれほどまでに愚直な好意をぶつけられたことはないのだろう。トスファは困り顔でこちらに助けを求めていた。
――僕もなんかイラっとするからその助けには応じましょう。そうしましょう。
しかし、この場をさらに悪化させる人物が乱入する。
――いや、たぶんずっといたわ。今気づいたけど。
扉の陰で中をこそこそ窺ってるのが、暗い影を落として――
「……ユズ様、ひどい。私だけって、言ったのに…」
どこかで見たような薄紫の頭。
でも、この時代では見たことが……んん?
あの魅惑のボディは――もしかして?
「……ドア?」
そうだ、あの男を虜にする悩殺ボディはドアしかいない。
扉から出ているのは一部だけ。それでも分かるのはあの時の映像が永久録画されてしまったからだろう。
(僕が寝てる間に彼女も扱えるようになったのか。
…でも、今なんて?)
「ユズ様のために、がんばって、来たのに……うぅ…」
彼女もソッチの人でした。ゆるゆるさんが言ってたのはこういうことだったのか。
涙目のドアからは聞けそうになかったので落ち着いた時に聞いたんだが、ユズが偶々遠出した際に出会って見初められたそうだ。
……この世界、若い子はこんな人しかいないの?!少子化が始まっちゃうよ?!
「ごめんね……。でもアタシはおねえさまに身も心も捧げたから…」
(なんですと!今聞き捨てならないことを言いましたよ!これはしっ…じゃない、kwsk!)
問い詰めるようにトスファの顔をじっと見た。が、彼女も困惑していて、
「な、なにもしてないよ!この子が勝手に――」
「…う、うぅ……ユズ様、私を捨てないで…」
「アタシの恥ずかしいところを見たのはおねえさまだけ…もっと、アタシを見て!そして……一緒にいきましょう?」
(なんなんだ、これは?収拾がつかないぞ?)
また抱き着こうとするユズの頭を手で押さえつけるトスファ。
そんな二人に近寄っていけず、ただ涙を流すだけのドア。
――この光景を見ていると今後の展開が容易に想像でき、嫌な予感しかしない僕なのでした。
「――それで?ユズはどうしてこんなことをしてたんだ?」
とりあえずの落ち着きをみせたので、事情聴収していた。
聞かなくても分かることだが敢えて聞く!
「それは……みんなを守るた――」
彼女の言葉を遮るようにバンと机を叩く。無言で。威圧するように。
「うっ?!えっと…楽して……女の子といちゃいちゃしようと…」
その言葉を聞いて侮蔑の目を向ける。ドアも悲しそうな目でユズを見ていた。
その視線に耐えれなかったユズは慌てて言い訳しだした。
「べ、別にいいじゃない?!ここにいればアタシが守るから安心だし!女の子にだって強制はしてないわよ!大体男たちがだらしないから――」
言い訳じゃなくて逆切れだな。最後のは耳の痛い話だが。
「この部屋の家具はみんなが持ち込んだのか?」
鏡やら机やらついでにベッドやら、この世界では初めて見たものが多い。旧市街でも見なかったことから、あそこから持ち込んだ品もありそうだ。
今も4人で丸い机を囲んで座っている。椅子も金属製のようだ。
「そうよ!良いものでしょう?これもアタシの力かしら!」
すぐ調子に乗るタイプだな。彼女が仮面をつけていたのは正解だったようだ。今の彼女からはカリスマ性なんてちっとも感じられない。ただのタカビー。
ため息のようにも思える息を一つ吐く。
顔を整えるためだ。
「――今後、ここはトスファが治めるが…いいよな?」
「…え?私が?」
「もちろんよ!おねえさまにここを明け渡すわ!」
ユズはこっちを見ていない。
話を持ち出したのは自分なのに、彼女はトスファと話しているかのようだ。
(…ま、いいや。とにかく城、ゲットだぜ!ご機嫌だからな!些細なことは気にしない!)
これでトスファは名実ともに女王様だな。あとは他の人たちに認めさせればおっけーだ。それもユズの力を借りて畏敬の念を抱かせるのだ。人を集めたカリスマ性はあるみたいだしな。
(――あれ?これ、僕もういらないんじゃ?用済みってやつでは?)
なんかショックだった。ここにいていい理由がなくなった気がして…。
机に影を落とす。
そこへ伸びてくる別の影に気付き、顔を上げる。
「…キオク、私…まだ良く分からないから――」
(あ……。そうか、そうだよな!まだ悪い例はユズしか見てないしな!僕が教えられることはまだまだあるはずだ。
……よかった。僕はまだここにいてもいいんだ…)
よし!それじゃ今後はここを拠点として世界平和に向けて頑張りますかね!
鏡を背にしていたから知らなかったんだ。その時の自分の顔の変化を――――




