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はじまり  作者: 新戸kan
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おもい

『全く……無茶をする子だ』

『あら…?貴方に似たのですよ?』

 ――誰だ?顔はよく見えないが、パツキンの男女が二人…。


 彼らの背後から光が当たっているようで、全身が暗い。

 その分――というわけではないだろうが、彼らの髪はその眩い光を吸収し、一層神々しく輝いていた。

 その対照的な長さや立ち姿、雄々しい声にそっと触れる柔らかな声。

 僕は知っている――――


『まさか成長した――に会えるとは…、これも彼女の導きか――』

『そうですね。これも定められた道だったのでしょう』

『……すべては運命、か――だがそれを変えるのも人の力』

 ――二人を幸せそうな空気が包んでいる。僕はこのぬくもりを知っている…。


 眩しいわけじゃない。

 ただただ温かい光。

 ずっとここにいたい―――そんな心地よさを感じる。


『フィニル。彼女は使命を果たした。お前はどうする?』

『……貴方とあの子が幸せになりますように――貴方達のために祈りを』

 祈り――そう言って女性が口ずさむのは、眠れない時によく聞いたあの歌――――


 そうか、二人が――――




(ここはどこだ?――久々のこの感触…これは布団か?それに僕が寝ているのはベッドか?)

 半分だけ開いた目に映るのはもう何度目になるのか、見知らぬ天井。

 何故か体が満足に動かせないので首だけを動かし、状況を確認する。

(――ベッドに他の家具も見たことがない……少なくとも僕の家ではないな。…あ!そういうことか!)



 僕は死んだんだ。それで女神さまが助けてくれて、異世界転生したんだ。よく分からないけど体に力がみなぎっているし――体が動かないということは別の何かに生まれ変わったんだな。

 首があって体が動かない何か……?一体何に転生したんだ?

 首を動かし、自分の姿を確認できるものはないか探す。


 む?あのイケメンは誰だ?

 ――なんだ、親の顔より見た僕の顔じゃないか。……僕が言うとなかなかのブラックだな。



 鏡に映る僕の顔。その表情は疲れ切っているようにも病的にも見える。

 そしてあの後ろ姿は――


「トスファ……?」

「……キオク…?…う、うぅ……キオクぅ――」

 僕の顔を見て安心した表情を見せるトスファ。だけどその顔は涙で濡れていた。

 それを拭くこともせず、側に寄ってくる。

 その勢いとは反対に、力無く膝をつく。

「…どうして、泣いているの?」

「だって…だってぇ……!」

 彼女から零れ落ちた雫が僕の頬をも濡らす。

 それでも僕の表情筋は全く動かない。

(――動け!…動け!!)

 嫌だった。彼女にそんな顔をさせているのが。笑顔で。ずっと笑顔でいてほしい。だから動いてほしい。


 少しだけ指先が動いた。

 自分の体なのに、重いわけでもないのに、腕がなかなか上がらない。

(動けよ!今動かないでいつ動くの!明日じゃだめだろ!)

 力が上手く伝わらず腕が震えている。

 だが意志は確実に伝わっていた。


 ――亀の歩みのようにゆっくりと腕を伸ばし、彼女の顔に触れた。

 そして優しく涙をぬぐう。

「……ごめんね」

「――うぅ、うあああああぁぁああ」

 彼女の頭が胸に落ちてくる。


 重力に逆らってそっと腕を下ろし、彼女の髪に触れる。


 彼女が泣き止むまで――――それが永遠だとしても、撫で続けよう。

 僕はそう、腕に伝えた。




 意識を失う直前のことを少しずつ思い出した。どうやら記憶の混乱があったようだ。

「それで、僕は…?」

「3日間ずっと寝てたの……もう目が覚めないんじゃないかって」

 また泣きそうになる彼女の頭を撫でる。

 彼女はその手を取って頬ずりをする。

 その方が落ち着くのかもと、彼女の好きにさせた。

(――3日も寝てたのか…よく生きてたね?今度ばかりは覚悟してたんだけど)

 目を閉じて意識を集中し魔力を体になじませる。

(カスみたい魔力量でも力にはなるみたいだからね。そうすることで…よっと)

 ――上半身を起こした。

「…大丈夫なの?」

 心配そうに問いかける彼女にうんと笑顔で返す。

 体の調子はものすごくいい。以前よりよくなってるみたいだ。

「――それで…ここは?」



 その問いに答える者が勢いよく扉を開けて入ってきた。

 どうやら足で開けたようだ。その両手には皿が乗っていて塞がっている。

 最初は笑顔だったその顔が、僕を見た途端、急変する。

「…げ!生きてたの?――アンタ、しぶといのね」

(その生意気そうな顔は――ユズ?!ということはお城の一室か?)

 近づいてきたユズの方を向くトスファ。

 その眉は吊り上がっていた。

「コラ!そんなこと言っちゃダメでしょう!」

「ご、ごめんなさい?!おねえさま……」

 パッと見た感じ、叱る母と悪いことをした娘のようだ。

 記憶にあるユズと今の落ち込んでいる姿に戸惑いが募っていく。

(お姉さま?僕が寝てる間に一体何があったんだ?)

「アタシと!おねえさまに感謝するのね!」

 開き直ったかのように態度が一変する。

 僕は溢れる困惑を顔に乗せてトスファに向けた。

「――えっと、あの時――――」




「キオク?!どうして?!」

 彼の声でハッと我に返る私。気づけば彼に力を向けていた。守るための力で彼を苦しめていた。

「とまって?!とまってよ!!」

 左手で右腕を掴むも、自分の腕じゃないかのように彼にかざしたまま動かない。

 自分の魔力が制御できない。

 黒い何かが私を操っているようで自分の意思では止められなかった。

「いやっ?!キオク!キオク!!」

 

 全身から力が抜けてしまっている――彼の体を支えているのは私の右手から放たれている魔力の渦。

 その渦は今も彼から溢れる光を私へと送ってきていた。


 このままじゃキオクが…キオクが――――


 彼は意識を失ったのか目を閉じている。

 ――いや、もしかしたらもう……。


 もしかして、これは罰?みんなのための力を、彼のためだけに使おうとした私への――


『…そんなことないよ』

 ――え?光?光の中に――女の子?

 すべてが止まっていた。私へと流れ込んでくる魔力の渦も、それによって舞い上がった石埃なんかも――時が…止まっていた。

 そして彼を守るかのように現れた光の玉――――

『ほら…ゆっくりと心を落ち着かせて』

 彼女の言うとおりにする。

 しんじる、しんじないじゃない。彼女の言葉が自然に私をそうさせた。


 言葉ではないのかもしれない。

 それは耳からではなく、直接頭に届いていた。

 彼女の言葉は自分で考えたもののようで自然と心に染み入る。

 

 落ち着きを取り戻した心が、制御を取り戻す。

 キヲクと繋がっていた渦が消え、支えを失った体が床に落ちる。


「キオク!」

 駆け寄ってキオクの上体を起こす。

 胸が動いているのが確認できてホッと息を漏らした。


『もう大丈夫だね。もう忘れちゃダメだよ?でも…ふふっ――無理だよね?彼のことになると』

(あなたはどうして知ってるの?)

『…え?――だってそれは…彼が教えてくれたから、でしょ?…ね?』

(――キオクが?)

『…もう一つだけ教えてあげる。あとは彼が教えてくれるから――』




「――私がキオクに魔力を送り続けていたの」

 あの不思議な出来事については話さなかった。

 信じてもらえないとかじゃなくて、話してはいけないような――『私たち』だけの内緒の話のような気がして…。



 ユズが持ってきた食事をトスファに勧めながら話を聞いていた。


 ――ということは?今僕を満たしている魔力は彼女のもの?

 じっと両手を見つめる。

 そう言われれば、今体を満たしている温かさは彼女が傍にいるときと同じ――――


「…ありがとう。また助けてもらったね。というか、助けてもらってばかりだね」

「――私のせいだから…。ごめんなさい…」

「トスファが謝る必要なんて、これーっぽちもないんだよ。ほら、笑って笑って!」

 僕まで謝ると謝り合戦が始まって終わらない気がしたので無理やり終わらせた。

 それに彼女に教えなければならないこともある。

 彼女はなんとか笑顔を作るものの、その表情は硬い。相当負い目を感じてるんだろう。

 やつれたように見えるのも3日間ずっと側にいてくれた証明。

 今も食事には手を付けていない。

(――ここは一つ犠牲になってもらうか。どうせ、ついでだしな!)



 ベッドから飛び降り対象を見下ろす。

 彼女は何か感じ取ったのか、おどおどしながらも僕を威嚇する。

「な、なによ!?」

 ひょいとユズを肩に担ぎ上げる。

 小柄な彼女だからこそできるお米様抱っこ。トスファの魔力で身体能力もあがっていたのかもしれない。

「ちょっ?!なにするのよ?!おろしなさいよ!」

 ジタバタ暴れる彼女のお尻めがけ、鼓を叩くように手のひらをぶつける。

「いたぃ?!な、なにするのよ?!」

 それには答えず、トスファの方へ向き直る。

 彼女はこの行為をあっけらかんと眺めていた。

「トスファ、いいかい?上に立つ者として、彼女が行ったことはとても許されないことだ。そしてそれを行った者にはお仕置きが待っている」

 そう言って、ユズのお尻を2,3度叩く。その度に小気味よい音と可愛い声がこの部屋に響いた。

「――おしおき…。わ、私にも!」

(なんで張り合うように言うのかな?僕が言いたいこと伝わってないのかな?)

 顔を染める彼女に、しょうがないなぁと思いつつも再び手を構える。

「お仕置きってのはね?(パァーン!)悪いことをね?(パァーン!!)したときにね?(パァーン!!!)」

「ひぎぃ?!ちょ、ちょっとぉ!叩くか話すかどちらかにしなさいよ!!」

(あ、そうか。それじゃ――)

「な、なんで無言で叩き続けてるのよ?!そこは叩くのをやめるとこでしょ?!いたい?!いたいってばぁ?!」


 その後、説明とお仕置きの同時進行をしていた。


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