しょうたい
突然の叫びにざわざわし始めるモブ集団。
注目を浴びてしまっているがしょうがない。彼女を救うためだ。
「みなさん、聞いてください!彼らは偽物です!」
この発言に周囲のざわめき度がますますヒートアップ。更には非難する声などが上がり、全く信じてもらえてないことが分かる。
当然でしょう。証拠が何もないんだから。それに彼女の魔力は本物なわけだし。
とりあえず皆さんの当り前から変えていきますか。
3人に合図を出し、一斉にフードを脱ぎ捨てた。
「これが魔力を持つということです」
この世界でこんな髪は見たことがないだろう。特に僕とトスファの髪は眩しく映っているはず。
聞かなくとも、周りの視線が証明していた。
「――彼女と同じ魔力を持つ我々が断言します。彼らは小さな子を使い、みなさんから品々を貢がせるため画策していたのです」
どよめき出す周囲の方々。そして突然の展開についていけない男たち。
「ここにいる二人はみなさんと同じ、黒を持つ者でした。ですが今は御覧のとおり」
今度は二人に注目が集中する。
お母さんに鍛えられたおかげか、お父さんは堂々としている。
「みなさんにもこの力はあるのです。彼らはそれを隠して、自由を奪っていたのですよ。この青い空の下で笑顔で暮らせる権利を!」
ビシっと指を突きつけると、彼らはうしろへうしろへと尻込みする。
一人残された少女だけが、僕らの前に立っていた。
(勝ったな!二人の無垢な少女たちも救えたし良かった良かった!)
――だが、ゴゴゴゴゴという効果音と共に魔力が膨れ上がっていくのを感じた。
(いや、音だけじゃない。本当に…揺れてる?!)
「……だぁれぇがぁ、ちぃいさいだぁってぇえええ?」
このドスの効いた声はさっきの?!一体どこから…と考える必要はなかった。この場でこれだけの魔力を持っているのはトスファを除けば他は一人だけ。
「ふんっ!」
乱暴にフードと仮面を投げ捨て、その御方は正体を現した。
ウェーブがかったピンク色の髪、生意気そうに見えるつり目にこちらを睨みつけるは同色系の瞳。先程までの儚げな少女は何処へやら、満を持してユズ様参上!
「あ、あんた!早く謝るんだ!」
男たちの一人が這いつくばる様にして近寄ってくる。
そして体を震わせひどく慌てた様子で僕に謝罪を要求する。
それを見て首を斜め下に傾げる。
(これは……もしかして?いいように使ってたのは彼女ですかね?)
「アタシを侮辱した……。しかも男風情が!その罪、万死に値する!」
顔が影で覆われ表情が見えないが、その目が怒りで光っているのは分かる。
(激おこぷんぷん丸ですね。やらかしましたね、僕。こういうのもパターンだったね。忘れてたよ)
「オマエだけは許さない!絞って絞って絞り尽くす!」
一体何を絞るんですかねぇ?
―――と考えている間にも、彼女は右腕を振り上げ、立てた人差し指をくるくると回し、宙にピンク色の魔力の輪を形成する。それもいくつも。そしてそれを一斉に投げつけてきた。
「死んで死んで死にまくって後悔なさい!」
――――土煙が舞い上がり、視界が悪くなる。
どちらからも相手の状況を確認できなかったが、
「ふん!何が同じ力よ!男がそんなことできるわけないでしょ!」
彼女は勝利を確信していた。
―――いや、戦いという認識すらしてなかっただろう。ただ一方的な罰を与えただけだと。
「えっ?!」
「…トスファ、助かったよ」
僕を守るように彼女は眼前に立っている。
突き出された左手の先には天井まで届く魔力の壁が出来ていた。
(防がれたのが意外だったのか面食らっているな、彼女。それとも魔力の差を知ったか?)
トスファが作り出した壁は高さだけではなく横幅も部屋の隅にまで届いており、他の者には見えない新たな壁がこの広間には出来ていた。
自分一人しか守れないユズの壁とは桁違いの大きさだ。
「皆さんの避難をお願いできますか?とりあえず外に――」
ペアレンツにモブさん方の避難を頼む。
彼らを守りながら戦うのは可能だろうが、万が一ということもある。100%の勝率をわざわざ下げる必要はない。
扉が開くと慌てて逃げ出す人々。二人は彼らがパニックにならないよう優しく冷静に声をかけていた。
その様子を見ながらトスファに指示を出す。ユズの周囲が先程の光景を思い出させていたからだ。
――――ユズがその魔力を示すため、上半身と下半身に分けられた魔物。下半身は光となって消滅したが、その上半身は消えずに残っていた。
人々はユズに注目していたため気づかなかったが、『僕は』気づいた。上半身がピクリと動きその目に輝きが灯ったのを。
「危ない!」
が、時すでに遅く、魔物は解放された口を大きく開け彼女に食い掛ろうとしていた。
だが、彼女はピクリともその場を動かず、周りも慌てた様子を見せなかった。
――悲鳴を上げたのは後列にいた者たちだけだった。
最後の力を振り絞った魔物の噛みつきは彼女には届かなかった。
彼女と魔物の間には壁があった。おそらく見えてるのは魔力を使える者のみ。そう、魔力の壁だ。
壁に激突した魔物はそのままずるりと床に落ち、魔力を使い果たしたのか血の海と共にその生の痕跡が消えていった。
――――ユズもこちらを警戒しているのか、自身の周りを壁で覆い、リングを放ってきている。
だが、それだと消耗が激しいはず。いつまでも持つわけがない。そこを封印すればいいのだ。
ちなみに彼女の魔力は200000。
20万とか常人からしたらラスボスだな。うちのトスファさんは裏ボス超えですが…。
「なんでよっ?!……なんでよお!!!」
ユズは壁が見えていないのか、それとも大きいだけで薄っぺらいものと考えているのか攻撃を止めることはなかった。
トスファは平然とした表情を保っている。
ユズにはそれが余裕に見えるのだろう。
(ふふふ、焦ってるな。精神が乱れればそれだけ消耗も早くなる。こちらの術中にハマったな)
時折振り返りながら避難状況を確認する。
最後の一人と共に外に出ていった二人の背が見える。
「…よし!トスファ、そろそろ壁を小さく――――」
だが、ここで計算外のことが起こる。ここにいてはマズい人がいたのだ。
(ドア?!一体何をしているんだ?!)
ドアがゆっくりとユズに近づいている。この状況で近づくなんて自殺行為だ。
「ドア!下がるんだ!!」
僕の声が聞こえてない?!何があったんだ?!
「――やっと、やっと、あえ――」
「なんでよぉおおおおおお!!!!」
僕は飛び出していた。そしてドアをかばうため、彼女を突き飛ばした。
そこへユズの放ったリングが――――
「キオク?!」




