おなじ
「明日には着けそうだよ」
みんなで昼食中、お父さんがそう告げる。
「……え?あ、ああ、はい…」
うわの空で聞いていた僕の返事はそれはもうひどいものだった。誰がどう見ても異常と感じただろう。
…この二人を除いては。
「ですから、そうではありませんの」
「…でもそれだと――――」
あれからずっと二人でお話について討論してる。
問題はそのお話の内容。腐が喜びそうなお話なのだ。いつもの僕なら心の中でツッコんでいただろう。
でも僕はそれどころじゃなかった。
昨日からもやもやーとしたのがずっと晴れなくて…。ああ、そっちが攻めでも良いよねって、頭の中で適当に相槌打ってたり。精神状態がまともではなかった。
そんな状態でトスファの料理を食べてたら間違いなく倒れてたんだと思うけど、今食べているのはお母さんが作ったもの。
いつもなら率先して作ろうとする彼女が今はおしゃべりに夢中。それが僕に更なる追い打ちをかけていた。
「はぁ……」
自然と出たため息。食も進まない…。
兄貴なら行儀が悪いと叱りそうだ。
匙の尖った先で食べ物をつついているからだ。
(あーーーーーー!!もう何なんだよ、これは!こんなの初めてだよ、MOW!)
そんな僕を見てお母さんは微笑んでいた。
彼女からしたらいつも通りだったんだろうけど、いつも通りではない僕からしたらそれが無性に気になった。
「あの…なんですか?」
気力なく棘も生えない言葉。それを聞いたお母さんは、
「ごめんなさいね。二人がホントそっくりだから…」
…前にも聞いたな。僕とトスファがそっくりだって。遺伝でつながりがあるんだろうから、その通りなんですが…。
彼女の横顔を見る。
全く違う表情をしているのに、何故かあの時の顔と重なる。
それじゃ今の僕も彼女と同じってことか?……そういえば前に彼女が…。
『お母様とキオク、二人が仲良くしているのを見るとイヤな気持ちに――――それが何なのか分からない――――』
僕も彼女を独占したいと思っている…?彼女を、妹を取られたと思ってる?
そういうこと?この気持ちの揺らぎはそういうことか!
なんだ、向こうでは一人っ子って感じで育てられたから、初めてのことで戸惑ってたんだな。なんだなんだ、そういうことか!
少しだけ元気が出た。
僕もドアと打ち解けるため、食事の後にでも話してみよう。
お片付けして出発の準備中ナウ。
僕は彼女と話すため、テキパキと準備を終えました!
(それで、彼女はどこに……?む、木の陰から彼女の髪が…)
腰くらいまである長い髪がゆらゆら揺れて、見え隠れしている。
何をしてるんだろうか?
ま、いいや。話そうと思って探してたわけだし、声を掛けよう。
「……ドア?ちょっといいか――」
「……え?」
(き、着替え中だったあああああああ?!ああああ、やっちまったあああああ?!)
正に脱ぎたてだったようだ。
通過する途中だった皺の重なった服が腕に残っている。
(そうだよ。みんな身だしなみを整えていたじゃないか。何でそれを――――うっ?!これは…)
後ろからでも見えたその立派な横ファザーがなんとも…なんとも扇情的で。ついボケーと突っ立ていた。視線も逸らさずに……。
二人そろって、そのままの状態で硬直している。
しかし、身体は普段通りの活動を行うもの。
心臓から送られた血液が感情の高ぶりと共に温められ、ドアの全身が赤く染まっていく。
それがパクパクと口を動かし、彼女は何とか息を送り出す。
「あ、あの!み、み、見ないで…ください……」
体を隠すこともできない――これがドアにできる限界だった。
消え入りそうな声で訴える彼女に気付き慌てて視線を逸らす。
「ご、ごめんね?!え、えっと、ま、また後でね?!」
そう言って後ろを振り返ると、怒りマークを付けたトスファさんが立っていたのです。
「キ・オ・クぅうう?!」
後門の巨、前門の貧。
これはまずい、オコですよ。激おこですよ。
ドアとは違う意味で顔が赤い。
体を震わせている意味も彼女とは違うのだろう。
死を覚悟した。よくある展開を回避できなかった愚かな自分を呪った。
しかし、想像しなかった反応が返ってきた。
「見たいのなら、私のを……」
「いや!遠慮しとくよ!」
先程脳裏に焼き付けた映像がカムバックし、瞬時に見比べ、笑顔で、無茶苦茶いい笑顔で言ってしまった。
胸を開けようとした彼女の手がピタッと止まる。
摘まんだ形のままの手が震えていた。
(飲みたくて飲みたくて震えるのかな?)
と、表情を変えずに脳をシャットダウンする。
僕は考えるのを止めたんだ。
「怒怒怒どおしてですのおおおおおお!!!」
大きく振りかぶった頭から覗く目が、赤くギラっと光ったように見えた。
教訓、戦いとはいつも二手三手先を考えて行うもの。複数の選択肢を用意しておきましょう。




