でかっ
「まだまだかかりそうだし、今日はここまでにしよう」
お父さんが地図を見ながらそう提案する。
手元に集中している自分たちに歩調を合わせているせいか、思ったより進めなかった。
魔物がでていれば更に、といった感じなのだが現れたのはあの一体だけ。
他の場所に向かった時もそうだが、魔物の数は僕の想像よりずっと少ない。
2,3歩歩いただけでエンカウントするRPGとか勘弁だけどな!
「できましたわー!!」
いつものように二人で見張りをしていた時だった。彼女が突如として叫ぶ。
「キオク、ほらこれ!」
羽が生えたかのように軽い足取りで駆け寄ってきた彼女。集中するために座っていた僕に合わせて腰を下ろす。
その手の平には何の変哲もない石が置かれている。
ひょっとして封印が?
もともと魔力量が少ないせいか、見るだけでは全然分からない。
消滅してないってことが証明になるんだろうけど。
僕の反応が彼女の期待していたものではなかったのか、頬を膨らませて拗ねてみせる。
なんか可愛い。かわぶたみたい。
「ちゃんと見ててくださいましね!」
興奮してるせいか、口調の事をすっかり忘れている。
もしかしたらこっちが素なのか?
彼女は膝で立って、新たに拾った石を右手に置く。
僕はそれを覗き込むようにして見ていた。
あ、いつもと違う。
いつもだったら対象から光が溢れ彼女の手へと消える。
けど今回は…石から溢れた小さな光は彼女の手には収まらずそのまま消えていった。そして彼女の手には石が消えずに残っている。その石からは微かではあるが魔力を感じる。
これは…封印できたということでいいのだろうか?
「こうではありませんの?」
座ったまま手に取った石を無言で見ていた。
そんな僕を不安そうな顔で見る彼女。その視線の意味にも気づく。
これが正解なのか、僕には分からない。けど、ここは…。
「うん、よくやったね!」
褒める!とにかく褒める!
ここでそうじゃないと否定するのは簡単だ。
だけどそれじゃダメだ。努力を否定する、一番やってはいけないことだからね。
それに魔力が残ってる以上、命を奪うまではいかないはずだ。封印じゃなくてもこれはこれで良いんじゃなかろうか?
彼女の髪をクシャクシャと乱暴に撫でる。それだけ気持ちを込めて。
彼女も嬉しそうに目を細めた。そして…。
「ご褒美がほしい…」
きましたか、ご褒美とやらが。
しかし、ここは回避させていただく!
「いや、まだだよ。封印を解く、それも出来るようにならないと」
本気5割言い訳8割、計算オカシイネ。
でもそれができれば僕の魔力も…。
しかーし!!そんなに甘くないのが今日のトスファ。
「イヤ!ご褒美が先!」
もしかして今まで我慢してきたとか?たまってるってやつなのかにゃ?
変な考えを巡らせる僕をよそに、彼女は四つんバインでじりじりと迫ってくる。
「…ちょうだい」
少しずつ後退するも後ろには木。
これはマズい。
いやご褒美をあげることは別に良いんだけどね。何をしてあげたらいいのか分からないのよ。
というのもだんだんハードルが上がってきてるような気がしてね?もしガッカリされたらね?
こういう時だけ生かされるDT設定。つまり自分のネタが尽きた。
「キオク……」
何かの覚悟を決め、彼女の肩に手を置いた。
その時!
「あのー、すみません」
弱弱しい声が!正直助かった!
声をかけてきたのはやせ細った黒髪の男性。目が髪で隠れててどこのギャルゲー主人公だよ、って感じ。
「お取込み中すみません。救世者の方ですか?」
(は……?…しまった!フード被ってない!)
無意識に髪を触る手からは、水をかぶって洗っただけなのにサラサラ感を保っている触感が伝わってくる。
(ごまかそう。それしかない!)
「違いますわ!この方は王子様よ!」
(トスファさん、一体何を?!いやそれしかないか?)
彼女はいつの間にか立ち上がっていてこちらに両手を向けている。
催促しているようには見えないので、そっと立ち上がったが、何故か集中線が自分に向いている感覚を覚える。
ババーンとか聞こえたのは気のせいだ、気のせい。
「そ、そうなんです。できれば内緒に…」
「そうでしたか。知らないとはいえ失礼しました。それでどちらまで…?」
なんかゆるい。この人の印象が固定されてしまうほどゆるい。ゆるゆる。
喋り方やその速度――言葉を発するたびに彼のイメージが固まっていく。
動作にもそれが表れている。
視線が上がって気づいたが、彼はトスファほどの身長しかない。
モブさんたちもそんなものだった。
この環境下では栄養が足りないのだろう。だから僕ほどの背丈は珍しいのかもしれない。
ちょっとした優越感に浸る。
「もしかして、あなたも…?」
「はい。よければご一緒させていただけると」
一人くらいなら問題ないかな?
「ぜひ。多い方が心強いでしょう」
「それは、よかった。では…」
そう言った彼の後ろから誰かがおずおずと出てくる。
「デカッ!」
思わずそう言ってしまった。
彼の後ろにどうやって隠れていたのか、姿を現したのは彼と同じ黒髪の女性。
いろいろとデカい!とにかくデカい!SUGOIDEKAI!
自分の首の傾き具合から、兄貴と同じくらいの背丈だろうか。
僕の中から何かが消え去り、それ故にぼうっと彼女を見つめていた。
「娘の……」
「…ドア、です」
そう言ってまた隠れてしまった。
それに対し僕は…。
ドア?扉ってこと?…話の流れ的に名前?
「すみません。人に不慣れなもので…」
首を左右に傾げまくってる僕を見たんだろう。決まりが悪いのかゆるゆるさんが謝罪する。
「あ、いえ!僕はキヲクです。こっちが…」
僕も慌てて自己紹介し、彼女を…彼女を……ん?
トスファはゴゴゴといつもの威圧感を放ちながらジトっとした目でこちらを見ている。
キオクはずっと見てましたわね。一部分を!食い入るように!
私だってまだまだ成長しますわ!お母様の娘ですもの!
そういえば揉めば大きくなると。それも男性の手で……。
…ご褒美は決まりですわね!
うっ…この何度も味わった感覚は…100%当たる嫌な予感!
今度は一体何を企んでいるんだ?
今度はゆるゆるさんが首を傾げている。
片や不敵な笑みを浮かべニヤニヤし、片や顔を青くし暗い表情で下を向く。
ゆるゆるさんでも変わった二人と捉えていた。
その空気にいち早く気づく。
これ以上変人と思われてはまずいのだ!
「き、今日のところはお疲れでしょうからもう寝た方が。話は明日にでも」
キヲクが手を向けた方には、今日は静かに眠る父母の姿が確認できる。
「そうさせてもらいますね。それじゃドア…」
「ん……分かりました」
彼らの背を見て、キヲクは顎を拭い、滴る汗を拭き取る。
(ふぅ、とりあえずこの場は何とかなったか)
な っ て な か っ た!
獲物を狙う捕食者がこのチャンスを逃すはずがない!
背後には目のあたりがギラリと光っている人影があった。
「キオク…ご褒美!」
僕の戦いは始まったばかり!この危機を僕は乗り越えられるのか!




