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はじまり  作者: 新戸kan
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まもりたいのは

 男女が向かい合っている。

 いや、髪の毛の長さが違うだけで性別は判断できない。

 

 ただ、髪の短い方の体が拡大していく球状の光に包まれていって、徐々に姿が見えなくなっているのだけは分かる。


『…約束は守る!必ず戻るから…』

『…うん!待ってる……ずっと、待ってるから!』


 まただ…。最近よく夢を見る。

 夢は記憶の整理だって聞いたことがあるけど、全く身に覚えがない夢も見る。

 あれは…誰の夢…?



 キヲクは目蓋が重そうで半分だけ目を開けている。

 しかし脳は目覚めていた。


(また早く目が覚めてしまった…。これは昨日の続きをせねば…!)


 頭をブンブンと振って、脳の指令を体に送る。


 昨日一日中やっていたのにも関わらず、何の成果も得られませんでした!ってやつで…。

 でも自分では手ごたえを感じているのです。体に力がみなぎってくるっていうか…。

 こうしてる時間ももったいないね。早速外へ…。



「あ」

「あ」

 またやっちまったぁああああ?!ナンデ学習しないのかな、僕は?!

 ということは次は…。

「ふぇええええええええええん」

 どうやら今日も楽しい一日が始まるようです。




「準備は良いですか?では行きましょう!」


 必要なものを詰めた籠を背負った3人に確認をする。

 すっかりとお馴染みになった旅支度。

 みんな変わったところはないようだ。


 僕もトスファもまだ習得できていない。でも時間は待ってはくれない。

 もし救世者とやらが自らの良いように人々を利用しているなら、僕たちがそれを止めなければいけない。

 そんなのに頼らなくたって良いんだから。

 そうだ、彼女にだって…。




 二人とも集中して何かやってるわね…。

 でも……ふふっ。まるで張り合ってるみたいで、ホント面白い子たち…。


 母は振り返って後ろの二人を確認する。

 数分に一度はそうやって彼らの様子を確かめていた。

 その度に微笑を向けていたのだが、彼らから反応が返ってくることは無かった。

 それでも彼女は満足そうに隣を見る。


「あなた、頼りにしてるわよ?」

「大丈夫、私に任せてくれ!」


 突如腕を組まれても父は動じず胸を叩く。

 そして彼も後ろに笑顔を向けた。



(キオクも頑張ってますものね。私も早く使えるようになりませんと!)


 いい感じだ…。

 今まで意識してなかった体の動き。そして血の流れを意識する。無意識にやっていたことを自分で意識する。

 …それをイメージするんだ。


 魔力が体を駆け巡る。それを支えるのは想像だけじゃない。心だ。それら二つを以て魔力を制御する。

 そして今度はそれを外に……。


 ダメか。これが出来るようになれば多少の援護は出来ると思うんだけど…。


 キヲクの手には石が握られていた。

 いつもならトスファの手を握っている手。

 彼女は彼女で両手に石を握っていた。



 しかし、二人には感謝しないと。こうやって集中してできるのも二人の……。おや?

 前を歩いていたはずの二人がいない?へ?あれ?ナンデ?

「マヨッタ?」


 ぐるっと一周回ってみても、視界に入るのは石とにらめっこしているトスファと囲むように生えている木々のみ。

 他の人影なんて、てんで見えない。


 集中するあまり後ろからそれた?

 あ、いや分析してる場合じゃないわ。

「トスファ。ちょっとここで待っていよう」


 集中しすぎてとぼとぼと歩いているトスファに声をかける。

 少し目を離しただけでも、彼女の姿を見失いそうだった。



 はい?あら?いつの間にか二人きりに…?お父様とお母様は?

 もしかして二人きりになりたくて、私をこっそり連れ出したのかしら?

「もう!ダメですわよ!じゃなくて…ダメでしょ!」

 そういうことはいつでもできますのに…。


 怒られてしまった。僕の不徳の致すところです…。


 キヲクは肩を落とす。

 その口は尻に敷かれている夫のように反論を持たない。


 とりあえず下手に動くよりここで待機だな。気づいてくれると良いけど。

「トスファは続けてていいからね」

 僕は周囲の警戒をしよう。今の僕に出来ることを、てね。




(むむむ、まずい。これは非常にまずい)


 集中していても意識が逸れる。

 この欲求に逆らうことのできるに人間がいるのだろうか?いやいない!


(トイレに行きたい!しかし、今は二人だけ。どうしよう…?)


 キヲクは足を擦り合わせている。

 手を挟みたい欲求を、もし彼女に見られたらという妄想で何とか防ぐ。


 彼女は集中してるしその辺でしても?

 いや万が一気づかれたら…。

 こうしてる間にも尿意が……。


 いくつもの考えが思いついては消えていき、答えを導きだせない。

 しかしその間にも確実に近づいていく決壊。

 ぷるぷると震える体が、一つの真実を掴み取る。


 もう我慢ならん!

「トスファ、ちょっと行ってくるね!」

 急いでいた僕は彼女の返事を待たずに森の中へ。それだけピンチなのです!


 この年で漏らしてはいけない。

 我慢するくらいなら漏らせ――ではなく、漏らす前に出せ。出せば全てがスッキリする!


 そう、頭の中で誰かが言っていたんだ。




「ふぅ」

 同じ過ちは繰り返さない。

 いくらぎりぎりでも調べないとね。あの時の二の舞はごめんだし。


 目の前のはいきなり動き出そうとしない、かけられても怒らないイイでした。


 よし!スッキリ!急いで戻るべ!


 謎のポーズをとる。

 平日休みの時は兄貴と見ていたのだ。


 ――一人で空しくなったのか急いで戻って行った。



「トスファ、お待た……?!」

 魔物?!ヤバい、彼女気づいてない?!集中してて自分の声にも!

 どうする?!…とにかく魔物の注意をこっちに向けないと!


 以前確認できた二本足の魔物。

 やはり知性が無いのか、後ろからではなく、トスファの正面から迫ってきていた。


 魔物との距離は離れている。

 僕はとっさに石を拾い、それを魔物に向かって投げつける。

(彼女に当たってくれるなよ!)

 僅かな光を纏った石は、今にも襲い掛かろうとしていた魔物の目と思われる箇所に直撃する。

 そこからは同じような赤い光が涙のように流れていた。



 うし!当たった!我ながらナイスコントロール!

「こっちだよ!」

 注意がこっち向いた!でもすごく怒ってないか?


 魔物は目を押さえ、鋭い牙を晒して叫びをあげる。


 頭にまで響いてくる声にも怯まず、僕は相手の突撃に備え身構える。


 こちらを標的と定めたのか、唸りながら向かってくる。

 その声は怒りに満ち満ちていた。


 思わず鞘を握る手に力が入る。


「うるさいですわよ!」


 あ……。南無南無…。


 丁度彼女の横を通り過ぎようとした時だった。

 また失敗したのだろう。彼女に空となった手を向けられて――――


 片手間でいつものであっさりで倒される魔物さん。

 僕の助けいらなかったかな?

 いやでも、何もなくてよかった。


「トスファ……ごめんね」

 抱きしめていた。

 最近の自分は抑えられない、感情に負け感情のまま行動している。

 この感情は何?家族だから守りたい?それとも…?


 彼女はきょとんとしていたが、すぐに目を細める。

 予備の石がバラバラと地に落ちた。




 またこのパターンか?同じ過ちは繰り返さない。(キリッ)とはなんだったのか?


 汗が伝うのはこの壮大な空に照らされているからではない。

 しばらくじっとして温められたとしてもだ。汗をかくほどではない。


 見られてる。ああ、見られてるな。

 彼女は気づいてないようだが、僕には分かる。その視線は僕にのみ突き刺さってるからだ。


 ここは何もなかったようにそっと離れよう。そうしよう。


 スッと僅かに体を離した時だった。


「いやん。ここでするの?」

(ナニをだよ?!この子この状況でナニ言ってくれちゃってんの?!)


 離さないと、彼女の手に力が入る。


 いや冷静になるんだ。落ち着いて行動しよう。


 しかし体は正直で、汗は止まらない。

 何とか顔だけを二人の方に向ける。


 それも自然にね。あからさまだとバレるからね。


「イヤーオフタリトモサガシマシタヨハハハ」

 片言ですね。あからさまですね。動揺が伝わりますね。


 首が動いていた時も通常ではありえない音が鳴っていたようだ。



 お父さんがポンと僕の肩を叩く。

「娘を守ってくれてありがとう」

「ね?やればできるのよ?」


 一瞬で汗が止まった。

 嘘のような本当の話。


 なんだ……二人とも見てたのか。その後も黙って見てたとか人が悪い。

 でも、そう思ってくれたのなら嬉しい。僕も彼女の助けになりたいから。




 歩きながら石をいじる。そして考える。先程の光景を思い出しながら。


(投げた石が魔物の体を傷つけた…。そっか、魔力同士をぶつければいいのか。それなら今の僕にもできるな)

 試しに適当な石を拾い、木に向かって思いっきり投げる。

 結果は……石は普通に跳ね返ってどこかにいってしまった。


(あれ?普通だったな。なにか特別なことが起こったとかそんなことはない。魔力のない向こうの世界でもああなるよなって感じ。んん?どういうことだ?)

 再度いじってた石を見つめる。拾ったものと変わりない。それも試しに投げてみたが結果は同じ。

 魔物に投げた石だけ魔力含有量が多かった?いやでもその辺に落ちてる石ころは誤差レベルだし…。

 もしかして無意識にできていたんだろうか……。でもそれじゃ意味がない。そんな不確かなことじゃいざというときに…。

 よし!再開しよう!僕だってできるんだ。


 彼女が守るものを一緒に守るために…!


 広げた手には石の跡が赤くなって残っていた。



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