まよいこんだら
モザイクとまではいかないが顔がはっきりしない。
けど、知っている子だと思う。
声とか仕草でそう分かる。
その子の髪が黒いのは立っている場所のせいではないだろう。
『ごめんね。そんな風には見れないから……』
『……』
『勘違いさせちゃったのかな。それなら私たちはもう…』
『……?!』
『やっぱり無理だよね。こういうのも変だけど、元気でね』
悲しそうで戸惑っているようにも見える顔がどんどん遠ざかっていった。
なんか嫌な夢を見た気がする。
おかげで気分最悪ですわ…。
今の目つきはすごく悪いだろうが、寝起きのせいではない。
そのまま隣の寝息に向ける。
「んん…いつも……いっしょ…」
(ふふ、一体何の夢を見てるんだか。幸せそうな顔しちゃってまぁ…。
うし!せっかく早起きしたし、朝から素振りでもしますかね!)
護身にはならないと思うが、一応念のためと、いつも側に立てかけてある刀を手に取る。
窓から入る陽射しは今日も明るい。
普段通りの爽やかな朝を迎えたようだ。
「あ」
「あ」
今見てはいけないものを見た気がする。
慌てて顔を逸らすが、目が合ってしまった以上、それは無駄なことでしかなかった。
挨拶する隙もなく、沈黙が辺りを支配する。
二人の仲が急によくなったのはそういうこと?!
ど、どうしよう。
いや見張りのこと忘れてて外に出た僕も悪いんだけど、こんな朝っぱらから…。
でもおはようのキスと考えれば…?僕も似たようなことはしたわけだし。
うん、何事もなかったようにしよう。
「ち、ちょっとその辺にいますね」
「え、あ、う、うん…」
互いの顔が引きつっている。
一人だけ気にしていない人物がいたのだが、この空気の中余裕のない彼らは全く気付かない。
キヲクはそそくさと二人に背を向けた。
明らかに、ですねこれは。ちょっと気まずいかも…。
「ふぇええええええええええん」
(な、なんだ?!家の中から…?)
「キオクゥー?!キオク、どこぉおおおおおおお?!」
トスファが子供みたいに目の下を両手で押さえて外に出てきた。
「ああっトスファ、どうしたの?!」
朝からそんな大泣きして…怖い夢でも見たのかな?
「め、目が覚めたら…キオクがい…いない、から…グスッ」
なんだ、そんなことか。…そういえば二人の時は起きるまで一緒だったな。
「ごめんね。早く目が覚めちゃったから…」
優しく頭を撫でる。
ちっちゃな子をあやす様にやさしく、やさしく…。
「う、うぅ……もっとぉ…」
「はいはい」
催促してくる彼女に失笑するのも、自然に行われる生活の一部のようになっていた。
毎度のことながら朝から賑やかな家族だね。嫌いじゃないけど。
いつの間にかさっきのギクシャクした空気は消えていて、みんな笑顔になってた。
「いやあ、しばらくネエさんのメシ食えねぇんすね」
8人で朝食タイム。
僕の分はもちろん専属シェフのものです。
トスファの泣き声が街中に響いていたらしく、4人は何事かと驚いて起きたそうだ。
その発生源を探してウチに来てそのまま―――といったわけだ。
で、トスファがアネさんでお母さんがネエさん、ね…。それでいいのかね?
まんざらではなさそうな顔をしているのでお母さん的には良いのだろう。
オービー扱いされるとその鞭が猛威を振るうだろうし。
う…?!一瞬だけ彼女の目が鋭くなったような?
詰まりかけた食事を何とか胃へを送った。
「それでその…救世者?の使いの人とはここで?」
「そうです。ばあさんのとこ行った帰りでした」
「それで髪とか見たかな?」
「それが…なんか布で隠してたのもあってよく覚えてないんですわ」
「もしかして、これかしら?」
トスファはそう言って、昨日作ったフードを被ってみせる。
さっそく役に立ったな。先見の明ってやつさ…。
「そうですそうです!そんな感じのを被ってて…」
わざわざ隠してるってことは知ってるってことだよな。ますます怪しくなってきた。
「そん時は断ったんですが、いつでも歓迎するって言ってこれを」
地図かな。よく捨てずに持っていてくれたものだ。
手渡されたのは一般的な紙とは違う触感だった。
獣皮か木製だろうか?
日焼けした紙のような茶色をしている。
端の方が丸まっていて厚みもある。
紙媒体を好むせいか注意が素材に向いていたが、そこに描かれていたものに目が留まると、そちらに興味が移った。
んん?これは本当に地図ですか?点と線しかないんだが…。
点のところにはなにやら文字が書いてある。
残念ながら僕には読めましぇん。目印を表してるんだと思うんだけど…。
見たことがない形の文字だ。異世界だから当然なのだが。
象形文字みたいに形で何かを表しているわけでもなさそうだし…曲線が多いな。
字が読めないのがバレると面倒くさいことになりそうなので、お父さんに渡しておこう。
トスファには着くまでには習得してほしいからね。
「では準備出来たら出発しましょう」
「オレらも…!」
「いえ、他の方のためにもここにいてもらえますか?」
8人は目立つし、向かう場所が怪しさしかないからね。
それに…戦いの匂いがプンプンするんだ。
相手がどれほどの魔力か分からないけどトスファがいれば…。
彼女からしても守る人数は少ない方が良いだろう。
なんか悲しくなってきた。
僕にも魔力があるはずなのにどうして何もできないんだろう?
戦うことさえできればみんなを…彼女を守れるのに…!
『力が欲しいか?』
なんて言われたら、はい/YESの選択肢しかないね。
せめて自分の身くらい自分で守れるようになりたいよね…。
そういえばあの時……槍使ってたな。そんで魔力使って先端を馬鹿みたいに太くして…。
偶々、本当に偶々あの時の光景が頭に浮かんだ。
それも鮮明に映し出されていた。
もしかしてあれは特殊な金属使ってる?この刀はおそらく向こうの世界のものだから、魔力を通さないとか?
……この世界では石ころにも魔力…。ちょっと試してみたいな。
「ごめんなさい。出発は明日にしましょう」
返事を待たずに、がばと立ち上がって外へと向かう。
みんなナンデって顔してたね。
でも理由は言いません。ヒミツ特訓は王道だからね。
今日もいい天気。絶好の特訓日和!さっそく石を拾ってと…。
手頃の石が探す必要もないほど、あちこちに落ちている。
そのいくつかは破損した家の壁の一部のようだ。
多分大切なのはイメージすること。想像が大事。ラノベで鍛えた想像力を見せてやる!
手が痛くなるほど強く握る。
力は必要ないはずだが、意識すればするほど力が入る。
痛みが強くなったあたりで手を開けた。
むむむ。……ダメか。こういうときは…。
何故ダメなのかを考える。
僕には魔力があるわけだから根本的な問題はない。だったら何故使えないのか?
僕は魔力のない世界で育った。だから魔力が無いのは当たり前のこと。
そう、頭が思い込んでしまっている。
そんなもの無いんだから使えるわけがない。本当は存在しないんだから。
それが僕の想像力の限界を決めてしまっている。
その殻を破るにはどうしたらいい?どうすれば魔力を信じられる?
……いや違う。
僕はまだ夢の中にいる?今ここにいることさえ現実だと思っていない?今までにない生活を送っていることで心が受け止められていない?異世界転移という在り得ない現実に心が浮かれ、今この世界にいるこの現実を受け入れてない。
これは心の問題…!
だからあの時、僕も簡単に死を受け入れようとした。
死ねばそれまでなのにそれを夢の中の出来事として捉えていた。
魔物に襲われた時だってそうだ。全く危機感がなかった。
力が抜けて手から石が落ちた。
その鋭い音が頭に響いた。
僕は……あのぬくもりさえ夢だと思い込んでいたのか…?みんながくれていたものを嘘だと?
手が勝手に拳を作る。
むぅ…なんか自分にイラっとした。それでつい顔を殴ろうと……してやめた。
いや痛いしね。こういうときは冷静なのよね。でも…。
両手で自分の頬を叩く。
痛い…けど!
うし!今までの自分は捨てる!これから真の僕が始まるのです!
やるぞ、やるぞ、やるぞぉおおお!!
一人燃えていた僕は一日中ずっと特訓をしていた。
それを陰から見守るトスファ…。巨〇の星かな?




