す
久々の我が家だー!
そうでした、居候でした。忘れちゃうよね、この設定。
彼らにもこの感動を味わってもらいたい。なので、さっそく…。
「無人だからどこの家でも使って良いと思うよ」
ですよね?お二人さんとファザーとマザーに確認がてら顔を向ける。
正確に数えたことは無いが、二-三十はありそうな街だ。
二人のように覚えている人は少ないだろうが、一応許可的なものは欲しい。
(あれ?ドーターだけ首傾げてる。何かあるんだろうか?)
二人が頷いているのを見て、モブAさんが僕の手を取る。
彼の濡れた赤い目がせわしなく僕らを見ている。
「みなさん、ありがとう!いつか必ず返すんで」
「いいからいいから。それより、気を緩めすぎちゃダメだよ。魔物はどこにいるか分からないんだから」
おまいう。一番緩んでるやつが言っていいことじゃない。
手を振って4人と別れる。
彼らは角を曲がって姿が見えなくなるまで手を振っていた。
その後も騒がしい声が聞こえてきていた。
僕らも笑いながら家へと入った。
荒らされた様子はないな。何日も空けてたけど何も変わってない。
他に人が来た形跡でもあれば、と思ったんだけど。
それなら次の目的地は決まりだな。明日以降、準備ができたら向かおう。
果たしてどんな人たちやら…。
一人寝室に籠って、慣れない手つきで作業をする。
時々、痛みを訴える声が漏れていた。
家庭科は苦手だったんだよ…。
「キオク、何してるんですの?」
丁度指を咥えていた時にトスファが入ってきた。
何となく恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「どうかしましたの?」
変に思われないよう自然に、あくまで自然に見えるよう口から指を抜く。
人差し指には必要以上の唾液が纏まりついていた。
「?」
なんて言おう?カタカナ語はあまり広めたくないな。実際に使って見せるか。
「こうやって使うものだよ」
フードってやつです。できたのは防空頭巾みたいですが…。
異世界といえど服がある以上、裁縫道具はあるようでお母さんから借りた。
僕たち目立つ頭してるからね。隠しといたほうが次行くところは都合がいいと思う。
「キオクは物知りなのですね。ところでお願いがありまして…」
(ご褒美ではなくお願いとな?珍しいな、何だろう?)
続きを促すと彼女は恥ずかしそうに頬を染め、ちらちらとこちらを窺う素振りを見せる。
「いろいろと教えてほしいのです」
(ナニをだろうか?ちょっとドキドキしてしまうんですが?)
「…私、ずっと洞穴暮らしだったでしょう?知らないことが多いのです」
(彼女の知識は主にマザーからみたいだもんな。本とかもないみたいだし。
箱入り娘ならぬ穴入り娘か…。なんか、えっっ…)
「キオク?どうしたのです?」
(やべ!変なこと考えてたわ。たまってるってやつなのかな?)
また熱くなる頬を押さえ、感情も抑える。
最近平静さを装うレベルも上がってきたようだ。
「僕が知ってることなら」
「嬉しいですわ!でしたら先程のいえなんですけど…」
(ああ、そういうことか。なるほどね)
ここで先程の疑問が解決する。
限られた世界しか知らなかった彼女のことを、僕もまだまだ知らないんだなと痛感する。
「ここみたいに人が住むところだよ。家がいっぱいあると街になるんだ。旧市街ってのは昔、人が住んでた街ってことになるね」
「ふむふむ。それでしたら王子様が住むおしろというのは…?」
「ここよりもさらに大きい家さ。たくさんの人が住めるくらいのね」
大袈裟に両手を大きく広げ、いかに大きいかを表す。
(おおざっぱすぎる説明だけどこの方が分かりやすいかなって…)
「キオクはそのおしろに住んでいたのよね?」
「そうだよ。この家が何個入るか分からないくらい大きなお城にね」
即答できるほど上手くなってきました。さぎすきるだけがレベルアップしております。
「……いつか私も行ってみたいですわ」
言っちゃいましたわー!つい私から…。恥ずかしいですわ…。
難聴系主人公だったら聞こえていない呟きは僕の耳に届いていた。
その内容を精査する間もなく、僕も呟きを漏らす。
「…そうだね。いつか一緒に…」
あれ?僕は何を言って…。
口から漏れた息を押さえ込もうと手で押さえるが、ギラギラした視線を感じ、恐る恐るそちらに目を向ける。
「聞きましたわ!必ず守ってくださいましね!」
しまった…。なんという失態。話を逸らす、全力で!
「ぼ、僕からもお願いがあるんだけど」
「なんでも聞きますわ!」
言わねーよ?同じネタは使わない主義なんで。嘘です。
一つ咳払いをして、いろいろと濁す。
これは大事なことなので真剣な顔で彼女を見据える。
「その話し方、やめないかな?」
「えっ…?」
ずっと気になってた。お母さんの話を聞いてから。
思い込みが激しい彼女は女王を演じて喋ってる、そう思うようになった。何より…。
「本当の君が知りたい」
「…ほんとうのわたし…?」
何よりも――――
(お母さんとキャラが被っちゃってる気がする!いや向こうが後だけども!時々どっちがしゃべってるか分からない時があるからね!CVなしだと!)
「僕と二人の時だけでも、ダメかな?」
そうやって慣れていけば自然に元に戻るんじゃないかな?
わずかな間があった。その間の彼女の反応は先程と同じものだった。
「……分かりましわ。…分かった。これでいい?」
「うん。ありがとう」
二人っきりの時は甘えた私が見たい。そういうことかしら?
もう!回りくどい言い方しちゃって!おかわいいですこと!
(ふぅ…これでいろいろと何とかなったかな。でも何だってあんなことを…。
ん?あれ?他にも変なこと言わなかったか、僕…?どさくさに紛れて…)
「キオク!私も手伝いますわ!…手伝う」
そうすぐには無理みたいだな。でもなんか……可愛いね。
(だぁー!なんか最近おかしいぞ!なんかこう…なんかこう……!)
両手で頭をかきむしる。
それでもむずかゆさは消えない。
あーーーー!!こういうときは…!
「ちょっと待っててね!」
素振りしかない!!これしかない!!
外に出ていこうとしたら腕を取られた。
そちらを見ると彼女が…。
「私も一緒に…」
「……うん」
赤くなってる彼女の顔がまともに見れなくて、空返事してしまっていた。




