そらのしたで
『なぜだ?!どうしてまた……』
『……、貴方のせいじゃないわ…』
『…いや、この子だけは…!』
目覚めたら、涙を流していたことに気付いた。
夢を見たんだ…。悲しい夢。
だけどそこにはぬくもりがあった。今この人たちといるときに感じるものと同じものが…。
頬を伝う涙をそのままに、側で寝ている3人に顔を向ける。
どうしてだろうね。
悲しかったはずなのに自然と顔が緩むのは…。
「アニキ!アネさん!見てくだせぇ!!」
慌てて顔を隠し、目の下を拭く。
ゴシゴシ擦りすぎてちょっと痛い。
(誰だよ、人のシリアス邪魔する奴は…。って…おお!)
モブ四天王の髪がカラフルに!体からも魔力が行き渡っているのが見て取れる。
トスファ一家もそうだけど、メッシュみたいに一部別の色とかにはならないのかな。
そろぞれ赤、青、緑、藍と一色に染まっている。
もしかして色で強さが変わったりとかするのだろうか?
どれどれ…。
大体20前後ってところかな。誤差の範囲ってやつだ。
暗いところにいると忘れやすいが、お父さんとお母さんの髪は同じ色だったな。
やはり女性の方が魔力が高いのかね。
それよりも…。
「アニキとアネさんって誰のこと?」
まさかとは思うが…。
「何言ってんで?アニキ!」
僕のことだった。
明らかに年上な人たちにアニキ呼ばわりされるのは正直困る。
こういう展開を見たことあったけど実際呼ばれると、なんかこう…むずかゆい?慕われてる感はビシバシ感じるから良いけど…。
30代に見えるようになった彼らの顔から眩しい光を感じる。
誰かさんみたいに目がキラキラ輝いているせいだ。
で、僕がアニキならアネさんは隣で寝ている…?
耐え切れず顔を逃がした先にいる人物は眠そうな瞼を擦っている。
「ぅん…朝から騒がしいですわね…?」
「お目覚めですかい!アネさん!」
当たり前のように隣で寝ているトスファさん。久々だからね、しょうがないね。
彼らが見張りを買って出てくれたおかげで家族4人で寝れました。
洞窟を出てからは初めてじゃないかな?
目を覚ました3人は驚きよりも喜びの方が強かったようだ。
女性陣はその感情のままに彼らに抱き着いていた。
それを正面から見ていた男性陣の眉が吊り上がっていたことを彼女らは知らない。
さて…4人とも無事に魔力を扱えるようになったわけだし、一旦戻るべきだろうか。他に情報がない以上、下手に行動するのは良くない。おばあさんが別の情報を仕入れてる可能性もあるし。
みんなで円を作って朝食を取る。
8人もいると机がかえって邪魔となるので、それぞれが皿を手に持っている。
キヲクは上の空で食事を口に運んでいた。
「アニキたちはあの人たちとお知り合いで?」
(あの人たち…?もしやイベント発生フラグか!)
一瞬眉がぴくっと動く。
「あの人たち、とは?」
普通に返してるように見えるけど内心ひゃほーいだからね。
移動が少ない方がサクサク進む、そういう展開が好き!
お目目がパッチリと開き、誰の目にも顔が変わったのが分かる。
残っていた朝食も一気に口に放り込んだ。
「世を救うものを神が使わした。その名を救世者って謳って人を集めてる人たちでさ」
(急に胡散臭い話に…。良くある話だよな)
ああ…とやや気落ちする。
口の動きも緩やかになる。
それでも他に情報がない以上、考えないわけにはいかない。
(しかし、何かしらのそれを証明するものがあるはず。
でなければ今のこの世界で人を集めることなど…)
まだ細かくしきれていない草を無理やり喉の奥に送り込んだ。
「それはどこで?」
「アニキたちは旧市街から来られたんでしょう?でしたら一度戻ってからの方が近いかと思いやす」
結局戻るのか…。ま、ついでだな。
「一緒に行きましょうか」
「へ?自分らもですかい?」
「今、旧市街はトスファのおかげで魔物が少なくなっています。こんな暗いとこで暮らすよりは良いかと」
人が増えていけばそのうち街として機能するようになるだろうし。帰り道で彼らに実戦を経験させるのもいい。良いこと尽くめじゃないか!
人それを打算というのではないだろうか?
しかしこの場に彼の真意を知る者はいない。
髭面のむさい4人の男たちはみなそろって、目の下を拭う。
「アニキ…何から何まで」
(完全に見たことある展開だわ…。いやでも、悪い気はしないね)
こうして8人パーティーが完成した!
洞窟を出て、何事もなく夜を迎えた。ちょっとだけ残念。
「ふんふふーん!」
(トスファはご機嫌だな。何せ久々だからね。僕は大丈夫かな?)
(久々にキオクに振舞うのですわ!気合を入れて作りませんと!
あの生活の日々、心苦しかったですが私は耐えました!その想いも込めて!)
トスファはシュバババババと謎の効果音付きで目にも止まらぬ動きで仕上げていく。
あまりの速さに腕が8本にも見えたという。
「完成ですわ!」
(きましたね。久しぶりだから耐性下がったとかないよな?)
手がなかなか伸びず皿をじっと見ていたら、背後から迫る影に気付かなかった。
「……これがアネさんの…。アニキ!失礼しやす!!」
「あ……」
後ろから伸びてくる手。ちらっと見えた青い髭。
(モブCさんがつまみ食いを…南無)
「ふむふむ、これはなかなかの……」
「モブシィィイイイイイイイイ?!」
(倒れるよね。初見さんはみんなびっくりするよね。って今の叫びなんだよ?)
泡を吹いているモブシィィイイイイイイイイさんを心配そうに見ているのは、何も知らない男3人だけ。
引きつった顔が彼女の料理を評価しているようだ。
「あ、アニキはいつもこれ食ってたんで?」
他の3人は警戒しまくってるね。それが正解だけど。
「ふふふ、選ばれた者だけが食せるのだよ!」
数々の犠牲のもとにね。とは口には出さない。
なんでって、今は咀嚼してるからね!食べながら喋るやつはギルティ!
(そうですわ…。これはキオクのために作ったもの。意地汚い真似はダメですわ。他の方の分は別に用意しますのに)
「トスファ、次を」
そう言ってお母さんに目配せを。
全滅しちゃうからね、マジで。彼女には僕専属になってもらわないと。
(もう!それではみなさんの分が作れませんわ!キオクのく・い・し・ん・ぼ!)
キヲクがおかわりを求めたのは、彼女が他の皿を手に取ったからに他ならない。
それを見た彼がギクリとしたのは彼女の目には入らなかった。
賑やかな夜だった。
今までの鬱憤を晴らすかのように、男たちは騒いでいた。ここが外だということを忘れて。
これが当たり前なんだ。
もしこれを自らの欲のために使う者がいるのなら容赦はしない。相応の報いは受けてもらう。
よくある展開を思い出しながら、僕は悪い顔をしていた。
天高く伸びる炎を囲む8人。
そのいくつかの影は傾きが変わるまで動きを止めることは無かった。




