ぬくもりを
3人には上手いこと事情を説明した。
トスファは良く分かっていないようだったが、二人は察したようだ。この話を快く承知してくれた。
僕らを魔物の仲間と疑っている彼にも、おかしなことをすれば身ぐるみはがして外に放り出せばいいと告げた。
……仮の話でも出来ないと思うけど。
こうして8人での生活が始まった。
お母さんが食事を作り、トスファが片付けを。僕とお父さんで体を拭いてあげたりトイレに連れて行ったり等そちらのお世話を。
慣れないことではあったが、彼らの顔を見れば頑張れた。
何より一人ではなく家族と一緒だったから。
それから10日ほど経った。
どうしても心配してしまうのが父親なのだろう。
寝るときにはこれまでのように見張りを置くようにしていた。
お父さんと二人、みんなの目覚めを見届けた後、その日の分の食料を採りに行く。
起きていれば二人を残しても問題ないと、彼は確信している。
何となく尋ねた時に声が震えていたのは気のせいではないだろう。
(ん?トスファ?一体何を?)
籠一杯に様々な形の植物や怪しい色の木の実を詰め込み戻ってきた直後、男3人に囲まれている彼女の姿が目に入る。
お父さんが心配そうな顔をしていたが、お母さんの背が見えるとその顔が引き締まった。
(ハハハ…。―――何か話してる?)
「……そうして二人は旅立ったのですわ」
(なるほど、お話を聞かせているのか)
彼らの表情は温かみを取り戻していた。トスファの話を子供のような顔で聞いていた。
この世に絶望し、生を諦めた彼らはもういない。今では自分で生きるために自ら動いている。
ここでの生活なら僕たちの助けはもういらないだろう。
「アンタら、何が目当てだ?」
互いに胡坐をかいて並んで座っていた。
2メートルほど離れているだろうか。
彼…名前聞いてないのでモブAさんとしよう。
モブAさんにはここでの生活がてら少しずつ説明した。
だが心にはまだ闇があるようだ。
こんな世界だからね、簡単にはね。
「……アイツラはクソみたいなオレをアニキって慕ってくれていたんだ」
(おや?勝手に語りを……いや、聞いてくれる人がいなかったんだろうな)
彼はこちらを見ていない。独り言のように喋っている。
僕は壁に背を預け、耳だけを傾けた。
「生きるため、他のヤツから奪ったこともある。…いつか報いが来ると分かっててな」
(生きるために仕方なかった、自分の中で言い聞かせてたんだな)
「報いを受ける時が来た。マモノに襲われたときそう思ったよ。同時にこの地獄から解放される、ともな」
(死を簡単に受け入れるほど追い詰められていた。耐えられないほど抱え込んでしまったのか…)
「手を伸ばしたら誰かが掴んだんだ。気づいたらあの子がいたんだ…」
彼は完全に下を向いていた顔を少しだけ上げていたが、視線は下を向いたままだ。
僕はあの子と聞いて、その顔を覗き見た。
(トスファに助けられたと。でも彼女は子供だった。ただの子供が魔物を倒せるわけがない、彼はそう思ったんだろう)
彼は全身を震わせている。
「弱かったんだよ、オレは…。だから逃げたかった。だからあんなこと言ったんだ…」
(その現場に彼女の家族もいたんだな。二人が話さなかった…つまりトスファも心に傷を負った、そう考えられる。今は忘れているようだけど…)
彼の――上半身を支えるため股の間に置いた拳に力が入っている。
それをグッと押し込んで顔をこちらに向けた。
その目尻には涙が見えた。
「本当は感謝してるんだ!ぬくもりを、ありがとうって…」
「……大丈夫ですよ。分かってますから。見たでしょう?笑顔が溢れていたのを」
(みんな笑ってた。あの家族がそれをもたらした。彼女も何の闇もない笑顔をみんなに振りまいていた)
だから今の僕も自然に笑顔になっている。
しかし彼は顔を逸らす。
「…アイツラももう大丈夫だろう。オレがいなくても…」
「また逃げるんですか?言いましたよね?戦う力がみんなにはあると」
「……だけどオレは…」
また下を向く。
これまで一度も上を見ない彼に、優しく語りかける。
「あなたも見たでしょう?二人の戦いを」
ここに来たばかりの頃、食料を採りに行く際、彼にも同行してもらっていた。その時にお父さんとお母さん、二人の戦いを見ているのだ。
「あの二人も最近の話ですよ、戦えるようになったのは。それに交換所のおばあさんご存じでしょう?あの人もです」
「!!あのばあさんがか?!」
彼の今までで一番驚いた表情を見たかもしれない。
「実際に戦ってはいませんが、戦えるだけの力と能力があります。会うことがあったらびっくりすると思いますよ。その変貌ぶりに」
ちと大げさだったかな。間違いではないと思うけど。
「…オレにも出来るのか?」
「この空の下で暮らしたいと思いませんか?」
少しだけ躊躇ったが、彼は上を見上げる。
初めて見たかのように目を細め呟く。
「分かった。オレはアンタを信じる」
そこにはっきりとした意志を感じ、手を差し出した。
契約完了!あとは3人に任せるとして…。
「彼女には、トスファには謝罪やお礼は言わないでくださいね」
「それは…どうしてだ?」
「忘れているみたいです。なら無理に思い出させることはないでしょう」
彼女のトラウマを解消するにはこの選択はダメかもしれない。
けど無理につらいことを思い出させる必要はないじゃないか。僕はそう思う。
…彼女には笑顔のままでいてほしいんだ。
「…彼女の両親にならいいだろうか?」
「それなら、問題はないかと」
もう一度手を差し出す。
彼は今度はすぐにその手を掴んだ。
「ここで二つ目のお話が終わりです。続いて…」
(まだお話続いてたのか。なんだか知識を披露するオタクみたいだな。…僕もあんな感じだったのかな?
でもホント楽しそうに話すな。モブさん方も楽しそうだし)
身振り手振りを交えて夢中になってお話に入り込むトスファを、一緒にその世界を楽しむように、体が勝手に動いている男3人がじっと見ている。
その6つの目に映る彼女の表情をキヲクは知っている。
だが、今のキヲクの顔を彼女は知らない。
(みんな楽しそうだし……何だろう。いや、気のせいだろう。うん)
自分でも良く分からない納得をする僕なのでありました。




