かいこう
(うーん、体痛い。慣れない野宿はつらいな)
痛い部位を確かめるため、体のあちこちに手を伸ばす。
そのついでとばかりに、地面を敷かれた布をポンポンと叩く。
古くなった服を敷き布団代わりにして寝ているんですが、無いよりましとはいえ布団や草ベットに比べると寝心地はかなり悪いのです。おかげで疲れも残ってる感じ。
毎日ランニングしてたおかげで体力はまだまだあるんだけどね。
でも、そろそろ辿り着けたらいいな。
(お父さん、さらにやつれてないかい?夜ナニしてるのかな?魔物に苦戦してるなら起こしてくれても…)
今日も今日とて背中を押すオーラは強い。
本日の風と一緒に足を加速させる。
それだけなら良いことづくめだが、お父さんの無理して笑っているような顔が、僕の不安を煽っている。
しかし二人の幸せオーラは増大している。
そのうち二人の合体技が見れそうなくらい…。
昨日のピンク空間が二人の体から30センチくらいだったろうか。
今日はそれが広がりを見せて、2メートルと大幅に範囲を拡大している。
30センチでも背中を押すほどだ。
2メートルともなれば台風ですよ、タイフーン。
この短期間で二人の様相が様変わりしている。
一体ナニがあったんだろうか?
この時間を楽しんでいるみたいで二人の歩くペースは遅い。
歩幅を狭め距離が空かないように気を配る。
もちろん隣の彼女にもだ。
「キオク、昨日の続きをしてもいいかしら?」
そう言う彼女の手には石が握られている。
失敗した時用か、左手には隙間から覗いて見えるほど、たくさん握られていた。
(トスファはやる気があっていいね。ハマってる感じが見て取れるよ。こうやって自分から進んでやるようにする、これも大事なことだ)
彼女が集中できるよう、僕がしっかりと周りを警戒しとくとしよう。
…後ろの二人はそういう面では役に立ちそうにないし。
後ろを見なくても分かる。
互いに両手を取って見つめ合っている姿が。
心配していたのが馬鹿みたいだったと言われているようだ。
そう考えてしまうと余計にバカみたいなので、全て忘れることにして気を引き締める。
意識しないと存在を忘れてしまう左手の刀を力を込めて握る。(メメタァ)
石を拾うため時々立ち止まる彼女に歩調を合わせながら、周囲への警戒を忘れない。
だが昨日と同じように僕らの足音だけが森の中に響いていた。静かな時が流れていた。
3時間くらい歩いただろうか。
その途中で見えた崖を目指して、急な坂道を登っていた。
顔を上げて進んでいくと、ぽっかりと空いた穴が徐々に見えてきた。
「ん?あれは…」
洞窟の入り口に人が建てたと思われるかがり火のようなものが…。もしかしてあそこがそうか?
側まで寄ると、その大きさが良く分かる。
身長の2倍以上か――4メートルはある洞窟の入り口。その横には二つのかがり火とみて間違いないだろう。
3人に警戒するよう伝えてから、内部へ声を送る。
いきなり突入するほど脳筋じゃないぜ!
反響した自分の声が消えた後、手を当て耳を澄ませる。
(ん……声が、人の声が返ってきた!当たりだな!)
だけど安心するのはまだ早い。人に化ける魔物がいないとは限らないからね。
これも前に読んだラノベのおかげだな!ありがとう、慎重の人!
杞憂でした。普通に人でした。
ま、まあ?慎重が悪いわけではないからね?
かつて住んでいた洞穴を思い出す。
大きな空間一部屋に、人が通れない横道がいくつかと構造は違うが、一つだけの明かりがそう思い出させた。
(ふーむ、男3人か。腐脳だと厚い展開だな!HENTAIでも厚くなる想像しちゃうな)
けど、ここの人たちはそんな心配はいらなかった。
目に活力が無い。本能すら忘れてしまったようなただの生ける屍。3人をそう捉えてしまうほど彼らから生を感じなかった。
キヲクが慎重になっていた理由の一つ。返ってきた声から気力を感じなかった。
たまたま上げただけの声をこの世界観から人の声として思い込んでいた。
願望もあったのかもしれないが、それ故に彼は警戒を忘れない。
(うん?魔力が微量だな。元々そうなのか、それとも他に要因が?)
魔物ほどの魔力はない。
量を変化させられるなら話は別だが、それならフウマあたりは物語的にパワーアップしていたのではないだろうか。
こういうのを漫画の読みすぎという。
しかしキヲクは魔物にそんなことは出来ないと決めつける。
――――正解!
ともかく彼らにも魔力の使い方を教えよう。
……こんな状態に人たちに教えられるかどうか疑問だが。
座り込んで何の反応も見せない3人をじっと見る。
肩は動いているから生きてはいるようだが、時々聞こえる唸り声がゾンビのようだった。
骨のような顔にも変化がない。
「それじゃこの人たちに……」
「お、お前ら!な、何モンだ?!」
僕らの背後からその声は聞こえた。
(む、もう一人いたのか。食料でも採りに行ってたのかな?この人はまともな状態みたいだけども)
おばあさんから手に入れたものだろうか。トスファと同じ籠を背負っているようだ。
その顔はこちらをひどく警戒していて歪んでいる。
「僕たちは……」
事情を説明しようとしたんだけど、その前に彼が何かに気付きその顔が青ざめる。
そして彼女を見て叫ぶ。
「お前のその髪…忘れもしねぇ。あの時の!」
指を差されたトスファは何のことだか、首を傾げている。
――が、ご両親は何か思い出したようだ。
ここでの雰囲気と相まって、出会った時のような表情を更に青ざめさせている。
(まさか、この人がトラウマの相手か?彼女は忘れているみたいだけど、このままではまずいな)
脳裏にフウマの姿が思い出される。
…彼女を同じようにしてはいけない。
「ちょっと来ていただけますか?」
「な?!おい!やめろ、離せ!!」
強引に彼の腕を取り連れて行こうとする。その際、来ないようにと3人を手で制しながら。
それでも来ようとしていたトスファに向かって、預かってと刀を放り投げる。
彼女の目が宙の刀に向いている隙に彼を外へと連れ出した。
「……お前もアイツラの仲間なんだろ?!」
(アイツラ…トスファたちのことか?…とりあえず話を聞きだすか)
怯えているようにも見える彼を安心させるため表情を和らげる。
危険はないことを示そうと、何も持ってないと手を広げる。
「そうですが、何か?」
「やっぱりそうかよ!この化け物め!!」
(違ったわ。魔物の方だったわ。ということは…)
射貫くような目をしていたようだ。
僕が口に出す前に彼の体がビクッと震えた。
「彼女の力を見たんですね?」
「そうだよ!どのくらいになるか分からねぇが、ヤツが子供の時にな!」
(やっぱりそういうことか。何も知らなかったからトスファを同じものとしか見れなかったんだな)
空はどこまでも青い。
(理解が及ばないようなことに対し、考えを放棄し理解しようとさえしない、か。フウマの言ったとおりだな)
答えを求めた空にはフウマの顔が浮かぶ。
それだけだったが、僕は縦に首を振った。
僕から体ごと背け、肩を震わせている彼を見る。
(けどしょうがないよな。誰だってそういうのはあるんだ…。僕だって…僕だって……?あったっけ?)
1分ほど頭を悩ますも、全く出てこない。
それよりも先に考えることがあるはずだと、思考が移行する。
(それよりもどうするかね?このままじゃ教えるに教えられない。どうすれば彼の心を救える?)
右手をじっと見る。
自然と笑みがこぼれた。
そう、今のこの世界で人々はみな心に闇を抱えている。負がこの世界を覆っている。そこに光射すもの…それは……。
愛!英語で言うと、らぶあんどぴーす!!
「これからあなた方のお世話を任せてもらいましょうか」
「……は?」




