いつかくるひのために
二日目の夜です。昨日の続きをやります、ゴホッ。
…久々にめっちゃしゃべったせいで喉が…。
トスファから見えない位置で喉元を触る。
軽く発声してみても、喉に異常は感じなかったので話すぎただけが原因だろう。
昼食で木の実をポリポリしていた時以外ずっと喋ってた気がする。
6時間くらいか…?最長記録じゃね?
何となく反省の意味を込めて後頭部をポンと叩いた。
しかし今日も平穏な一日だったね。魔物とは一体何だったのか。
道中を振り返ってみるが、とても平穏とは思えない一日だった。
ドタバタが日常になってしまっている。
慣れというのはとても恐ろしいことなのだ。
いや、逃げているだけかもしれない。
思い出すのは1日近く前のこと――――
(これきっとアレだよね。昨日の夜のせいだよね。トスファが暴れまくったせいで魔物が警戒してる、もしくは狩り尽くした。以上!)
でも警戒してるって考えた場合、そうする本能なり知能なりがあるってことだよな。用心するに越したことは無いか。
少しは成長してきたのか、気を引き締めて今日の授業に入る。
「今日は魔力を封印する、これを覚えてもらいます!」
「……ふういん、ですか?」
言葉の意味が通じていないようで彼女はきょとんとしている。
動きでは説明しづらいので、まずはどういうことかと理由から話していく。
「今までは力を集めるって意識して魔物の魔力を奪ってきた。魔物相手ならそれでも良いんだけど、人相手だとそうはいかない」
「……ひと?他の人にこの力を使うの…?」
あ、やばい。やっぱ何かしらのトラウマがあるな。ここは上手く導かないと。
一瞬で変わる空気が危険を告げている。
嫌な汗をかきそうになる前に、注意をこちらに向けるため大袈裟に腕を振るう。
「…悪い人!そう、魔女みたいな悪い人に使うの!」
「お話に出てくるまじょ…」
ぴくッと反応し、彼女の目が前髪から姿を現した。
汗が伝うキヲクの顔を視界一杯に収めんと、彼女はそのまま上目遣いでしばし見ていた。
悪いまじょに攫われたお姫様を救うために王子様が旅をするお話。
二人は手を取り合ってまじょから世界を守るの!そのために必要なことなのね!
「頑張って使えるようになりますわ!」
僅か20秒ほどだった。
トスファの顔が劇的ビフォー――していた。
その変化にやや顔を引きつらせつつも、ホッと息をついた。
右手から伝わる心音が少しだけ速くなっていた。
またスイッチ踏んだのかな?ま、結果オーライ!
でも…根本的な解決にはなりませんよね?
いつか向き合わないといけない時が来る。
その時は僕が支えてあげないと!
手に力を入れ、言葉にも熱を込める。
「封印っていうのは相手の本来の力を出させないこと。つまり相手の戦う力を奪うんだ」
「魔力を封印すると戦えなくなる、ということですの?」
「うん。この地では戦いにおいては魔力がすべてなんだ。魔物に追いやられてるのもそのせい」
大袈裟に言ってるかもしれないけど、この方が分かりやすくていいだろう。実際戦いにおいてだけではない気がするし。(砕けかけた右手を見ながら)
グーパーグーパーと拳を開閉させる。
痛みはもうなかった。
握りなおした拳の甲を下に向け、何か持っているかのように彼女に見せる。
その手を開いてみせた。
「魔物は魔力を全て奪われると体が消滅してしまう。人にも同じことが当てはまるかもしれない」
僕も残りカス吸われたら消えるのかな…?つい怖いこと考えちゃうな。
ブルっと体が震える。
息と一緒に吐き出して、首を横に振る。
「いくら悪人でも命を奪うのは良くないからね」
大事なことなので分かってもらうため笑顔で。
彼女の場合、真剣な顔よりはこっちの方が効果がある――と思う。
「キオクはお優しいのですわね」
その優しさが私を虜にするのですわ!悪人よりも罪深いお方…。
彼女から溢れる魔力が色彩豊かに輝いている。
効果エフェクトか何かかと見間違えるほどに。
悪い予感がするときはどんな色でも暗いので、これは良い時の反応。分かってくれたということだろう。
「というわけで、さっそくいってみよう!力を集めるではなく、一部を残して奪う感じかな」
「でも何から、ですの?丁度いいマモノもいませんし」
「ふふ、それはこれだ!」
その辺に落ちてる石ころを拾い彼女に向ける。
しかし首が30度曲がった彼女を見るに、その意味は伝わっていないようだ。
「すべてのものに魔力が満ちている。命なきものにも」
この間の僕の痴態は無駄ではなかったのです!サービスシーンで終わらせないのが僕のちっちゃな意地!
「わずかな量ではあるんだけどね。でもだからこそ、加減が難しいんだ」
魔力だけを見ようとすると、石が透けたかのようにその中心に微かな光が見える。
その時の仕草は、顕微鏡を使って見ているような感じだろうか。
小さな石の魔力は数値で表すと1にも満たない。これを消滅させることなく魔力を奪えれば良いわけだ。
試してほしいと、トスファに石を手渡す。
彼女は手のひらに置かれたそれを見た後、優しく包み込む。
「やってみますわね」
握った手を首元辺りに寄せて、何やら考え込むように目を閉じる。
一呼吸の後、目を開けて手を広げてみせた。
石から極々小さな光が溢れ彼女の手の中へと消えていった。そして石は粉々に崩れてすぐに、跡形もなく消滅した。
「できませんでしたわ……」
「1回で上手くいくと思っちゃダメだよ。失敗を何回も繰り返すことで確実にできるようにするんだ」
失敗し放題だからね、失敗を恐れちゃだめだよと、肩を落とす彼女に笑顔で諭す。
本番で失敗するわけにはいかない。彼女が人の命を奪うことがあってはならないんだ。
だからと言って厳しくするのは違う気もするからね。最初は優しく、ね。
微笑ましく見守りながらも、気を緩めることはしなかった。
どうも今回は苦戦してるようだ。
始めて30分くらいだが、唸り声が時折聞こえてくる。
今までは加減するようなことは一切なかったからね。全力を出すよりも加減をする方が逆に難しかったりするし。
でも諦めることなく集中してやってて良い感じだね。すぐにできずに諦める子多いみたいだからね。
…僕の事じゃないですよ?
しかしホント集中してるなぁ。ご褒美とか言わないし。
…別に寂しかったりしませんよ?ホントだよ?
明らかに退屈そうな目をしていて背中も寂しそうに見えるが、他の言い訳を思いついたようだ。
それに僕にはやらないといけないことがある。
本来の仕事、見張りである!目を光らせて魔物をサーチ&デストロイ!
出来ませんけどね。
見張りは2時間おきに交代する。
時計もないし、星の動きで分かるわけもない。3時間だったり5時間だったりするときもあるほど、いい加減ではあるが。
しかし大事な役目である。
魔力で優っているとはいえ、寝込みを襲われたらひとたまりもない。
気配を消して近寄ってくる魔物がいる可能性もある。
そんなパーティーの命綱でもある見張りを言い訳に使うほど、キヲクは構ってほしかったのだ!
そんな彼が締めに入ります。温かい気持ちで聞いてください。
今日は魔物の襲撃はなかったものの、彼女が封印の力を習得することは叶わなかった。




