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はじまり  作者: 新戸kan
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ふたりのじかん

 その日の夜。野営の準備をご機嫌で始めた女性陣とは違い、男たちの顔は死んでいた。


 それは初めての野外泊からくる不安などではない。

 彼女らの機嫌の代償を彼らが払っていたのだ。


(右手の感覚が無い…。触った感じ骨は無事みたいだけど。取っててよかったカルシウム!)


 右手は今まで見たことがない色をしていたが、深く考えずに彼女らの姿を追う。


(いかんいかん、二人だけに任せてちゃ男が廃る。それにキャンプの知識はばっちりだぜ!円盤もこっそり買ったしな!さ、木を集めて火を起こしましょ!)



 娯楽は決して無駄なことではない――そう証明するためにも、僕は火を起こしてみせねばならん。


 そんな思いとは裏腹に、足はダンスでも踊りだしそうなほど軽やかにステップを刻む。


 3人とはやや離れて、枯れ枝を拾う。

 僅かではあるが、枯れていても魔力は残っているようだ。


(おや…?この辺りにもあるのか?)


 微かに聞こえてくる水の流れる音。

 川でもあるのだろうか。それならトスファを誘って汲みに行くのもいいかもしれない。


 片手では持ちきれなくなった枝を抱えて、いそいそとみんなの元へ戻った。





「どこに行っていたんですの?心配しましたわよ!」


 僕の足元には枝が散らばっていた。

 その音で火を囲う3人が気づいたのだ。


(うわーきれいなひだなー。ソダネー。トスファに魔法教えてたねー)


 それならと、トスファを誘おうとするも、彼女は両手を合わせて桶に向けている。

 中指を外に向けやや広げて、そこに開いた隙間から先程聞こえてきた音と同じ音が聞こえ始めた。


(水も魔法で…。いつの間にそんなに器用にできるようになったの?

 いやそれよりも――――)


 肩がぷるぷる震える。


(魔力便利すぎじゃね?!ちーとや!そんなんちーとや!次のクール始まる前に僕もキャンプしたかったんや!)


 心の中で小さな僕が駄々っ子のように手足をばたつかせている。

 そうしなければ、リアル僕が同じ真似をしていただろう。



 8割ほど満たされた桶をお母さんに渡すと、代わりに別のものを渡されるトスファ。それを持って、駆け寄ってきた。


「キオク、これお願い」


 手渡された皿には道中拾った食材が載せられていた。


(わーい!ふふ、アニメ見て学んだキャンプ飯、その実力を見せてやる!)


 木の実の皮を剥くだけの簡単なお仕事です。誰にでも出来ます。時給プライスレス。



(そんなこったろうと思ったぜ。この扱われ方にも慣れてきたな。そんで慣れてない人が横に…)


 へたの方から剥くのがコツらしいので、手はそちらを探りながら、目は隣の人物へ向ける。


(体を震わせてる。ここに来るまで余裕が全く無くて、何が起こったのか分からなかったんだが?)


 申し訳なさを感じ、気遣うように顔を覗き込む。

 明かりのせいか頬がこけているように見える。

 重そうな目蓋は眠気からではなさそうだ。


(お父さんのメンタルヤバいな。今日は止めといた方が良いか?)


 視線を感じる。

 それは僕が中心ではなかったが、あまりの眼圧に脇に映る自分にまで影響を与えていた。


(うっ…?!お母さんの目もヤバい。獲物を狙う目をしている。そしてその先にあるのは…)




「今日はお二人にお願いがあります」

 食事時、そう切り出す。前々から決めてたことがあるのです。

 

「今日から僕とトスファ、でいいですか?」


 当然の権利のように隣にいるトスファに顔を向けてから、再び正面の二人に向き直る。


(お父さんの反応は…あれ?!思ってたのと違う?!まるでこれから死地か地獄へ向かうような顔してる?!

 お母さんはというと、吹き荒れる笑顔の嵐!この差はなんだ?!)


 戸惑いを感じている僕に更なる視線が隣と正面から――――正面から?


(お父さんが裏切ったなって目で見てくる?!いやこれにはわけが!)


 いかにも慌ててますといった手の動きを加えて説明しようとすると、浮ついた声がそれを止めた。


「どうしてかしら?」


 何そのとりあえずで聞いとこうみたいな。隠しきれてませんよ、お母さん?

  

 妙にテンション上がってるお母さんはほっといて、言い分を開始する。


「ここは僕たちにとって未開の地です。どんな魔物がいるか分かりません」


 今日は遭遇しなかったよな?もし出くわしてたら横一列隊形維持できないしな?


 これには3人とも頷いていた。


「僕は戦闘ではお役に立てないので、お父さんの負担が増えてしまいます」

 一応こういったわけもあるんですよ、お父さん。悲しいけど事実なのよね。

「…本当にそうかしら?」

(はい?僕が戦えると?御冗談を。戦えるならあんな痴態はお見せしませんよ。う、虎馬さんが…)

 誤魔化してハハハと笑った声には、とても苦いものが混じっていた。


「ふーん…」

 なにその意味深なふーんは。あまりそういったのされると調子に乗るんですが?


 彼女は顎に人差し指を当てている。

 煽り耐性のない調子乗りがアップを開始したその時、僕の前に立ちふさがる者がいた。



「大丈夫ですわ!キオクは私が守ります!」

(頼もしい。勝手に世界ランキング1位は格が違うな!)


 無い胸を張っている姿が誇らしい。


「それに…」

「それに…?」


 不意に振り向きこちらを見るトスファに、ドキッとした。



「キオクは王子様ですから!いざという時は皆の前に立つ、それが王子様です!」

 トスファがいるのにそんな日が来るのだろうか?

 でも、そう言ってくれるのは素直にうれしい。


「ふふ、それじゃ後はお願いしてもいいかしら?ね、あなた?」

「そ、そうですね。危ないときはいつでも起こしてくれていいからね!」

(その時はお二人がいても逃げの一手ですよ…)


 腕を組まれて顔を引きつらせているお父さんにツッコミを入れる。

 そのまま顔を寄せているお母さんに妙な色気を感じてしまった。


 





「二人きり、ですわね…」

「…そうだね」

 この時間を有効活用する。その為にトスファと二人になったんだけど…。


 二人で静かに夜空を見上げる。ただそれだけでいい、そう思ってる自分がいる。この時間がすごく愛おしく感じる自分がいる。


 家族がいるってこんな感じなんだろうな。

 向こうでは5年前までは義父さんと兄貴の3人暮らしだったけど、厳しい二人だったからなぁ。アニメとか漫画とかこっそりでないと見れなかったからな。

 常に先生がいるって感じ?普通の家族ではなかった気がする。


 でも、堪能するのは今でなくてもいいんだ。平和になったらいつでも…。


 いやいや、帰るんだって!何考えてんだろう、僕は…。


 最近首を振る回数が増えたと思う。癖にでもなったんだろうか…。


 それよりも最初の目的を思い出せ。やらねばならぬことがあるのだ。

「トスファ、君に教えなければいけないことがあるんだ」


(この感じ…またせんせいですの?禁断の二人の物語が再開するのね!)


 考えたくないことではあるが…これから先、人同士で戦うこともないとは言えない。

 トスファなら余裕で勝てるだろうが、手加減できずに…ってことはあるかもしれない。

 そうなってからでは遅いんだ。


 今回教えようと思っているのは魔力の壁と、相手の魔力を封印するフウマの力だ。

 トスファの魔力なら大人数を守れる壁が作れるだろうし、封印が使えれば一時的な無力化ができる。


 ナディはフウマの魔力もトスファの一部と言っていた。だから彼女にも使えるはずだ。


 まぁ使えなかったときは、手加減を身に付けるように方向転換しよう。そっちでもかなり苦労しそうだが。


「それじゃあ始めようか!」


 不安は全く感じない――――彼の笑顔がそれを物語っていた。

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