それぞれのおもい
準備はこんなもんで良いかな。
いやいや、これから向かうのは未知の場所なんだ。しっかりと確認しないと…。
(えーと、刀よし!ジャージ…着てる!籠…背負ってる!他なにかあったっけ?)
指差し確認を終えた後、3人の様子を窺う。
女性陣がそれぞれ必要だと思うものを用意している。
みんなも似たようなもんだし、こんなもんか。
お父さんの籠だけいろんなものが詰め込まれてるけど…。
荷物持ち:戦闘で使わないメンバーにいらないものを持たせること。また、その人。(個人の意見です)
「では、行きましょうか」
ビシっと決めた顔で出発を促したつもりだが、口が勝手ににやけてる。
ダメだ…どうしてもスキルが発動してしまう。
オラ、ワクワクすっぞ!冒険、これこそ漢のロマン!何が待ち受けているのか楽しみだね!
みんなもそれは同じ様で、ウキウキしながら家を出た。
(どうしてでしょう?気持ちが落ち着きませんわ。
お母様は何を考えているの?一体…)
(どういうことなんだ?)
僕とトスファはそろって困惑していた。
それに…拘束されている感じがして、両サイドに歩調を合わせるのが大変だ。
分かりにくいと思うので説明しますと…。
現在の隊列 父 手 母 手 僕 手 娘
となってまして…横一列!歩道でやると迷惑なやつ!しかも手までつないで。
いやこれ、ちゃんとした道ならともかく、全く人の手が入ってない道でやったら歩きにくいでしょ…。
母ご機嫌、娘不機嫌、どうしていいのか分からない男二人…。
カオスが音を立てて迫ってきていた。
「…何をお考えですか?」
娘さんに聞かれないように小声でね。不機嫌すぎて聞こえないかもだけど。
「あら?責任、取ってくれるんでしょう?」
「せ、せきにん?!」
(なんでそこだけ聞こえてるの娘さん?!今の状況だと意味深に聞こえるんじゃ?)
(どういうことですの!どういうことですの!!どういうことですのぉおおおおお!!!
まさか本気でお母様と…?朝のアレはそういう事ですの?!
まさか、まさか……!これが話に聞いた……おやこどん!!)
互いに耳の傍まで顔を近づけて話していたのに、ピンポイントで聞こえているトスファ。
彼女の怒りゲージが溜まっているのが見える。
もう少しで超必が打てそうだ。
※超必とは超必殺技の略である。主に格闘ゲームで使われる。
左右から不穏な空気が流れ始める。
お父さんは遠くを見てこちらを見ようとしない。巻き込まれないように注意しているようだ。
楽しそうに花が咲いて見えるお母さん。足捌きが浮いているかのように軽い。
下を向いてゴ〇キのような殺気を漂わせるトスファ。彼女が通ったあとには押し込まれた足跡が残っている。
この極限状態ともいえる中、僕は一つの結論に達した。
(僕は試されている…?口だけでは信じられないと…。行動で示せと、そうおっしゃるのですね?)
左を見ても答えは返ってこない。
それなら、と右を見る。
(しかし、この状況でどうすればいい?僕の両手は塞がっている。かなり制限されたこの状況で何が出来る?)
(ふふ、この子たち楽しいわぁ。見てて飽きないもの。
それに何だが興奮しちゃう。弟か妹…出来ちゃうかもね)
母は左側から見えるように、舌を出してペロっと唇を舐める。
目が大きく見開かれているせいで小さくなったように見える眼球が、獲物を見下ろしている。
(ひっ…。こっちを見る目が怖い。私はまた何かしてしまったのだろうか?
キオクには下手なことしてないし。いやむしろ仲良くしてるつもりだし。
神よ…私への試練はいつまで続くのですか?)
ゆっくりと流れる景色は誰の目にも止まらない。
もぞもぞと動いている植物さえも霞んでいる。
(そうだ!もうこれしかない!)
一瞬の閃き――それを逃さず、しっかりと頭に留めることができた。
「トスファ、ちょっとごめんね…」
手の握り方を変える…これぞ奥義、指固め…!またの名を――――
(恋人つなぎだぁあああああ!!!)
互いの指と指を交互に絡めて、優しくかつ適度に力を込める。
その瞬間、扉を開けたみたいに光が開けた。
(この繋ぎ方…今までよりも深くキオクのことが分かる。伝わってくる彼の想い。
『心配しなくても君だけだよ』
キャーキャー!面と向かって言われたら照れてしまいますわぁ!)
トスファは右手で頬を押さえているが、そんなことで暴走が治まるわけもなく、行き場を失った力が左手に集中する。
(痛い痛い痛い!この繋ぎ方でそんな力入れたら痛い!
――て僕が握力で負けてる?!鍛えてるはずの僕の握力が?!この世界では魔力>力なのか?!)
思考すら許さない―――意識をこちらへと向けようとするかの如く、ぶんぶんと振り回されるキヲクの右腕。
ミシミシと音を立てる右手が、救いを求めて指を目一杯伸ばしていた。
(あががが、骨が悲鳴を?!)
肩にも相当の負担がかかっている。
意味のない行動かもしれないが、それでも痛みを緩和するため、左手で肩を押さえようと母の方へ顔を向けるが――――
(今夜は二人に任せるとして…でもそれだと声が出せないわね。交代して二人が寝てるときに?それはそれでいいわねぇ…)
父の方ばかりを見て、キヲクの方に全く注意が向かない。
それどころか、絶対に離さないと握る手に力が入っている。
キヲクは助けを求めて、前のめりで父の方へ体を向けるが――――
(嫌な予感がする…。ああ、夜よ!早く来てくれ!一刻も早くキオクに相談したい!このままでは頭がおかしくなりそうだ!)
思いは通じない。
父は明後日の方向を見ている。
4人の視界は完全に霧の中だった。
彼らは忘れていた。今歩いている場所が未知の道(激ウマ)であることを。
そして気が付かなかった。今まで見たことが無い魔物がいたことも。
『グルルゥ、エモノ、ヒサビサ』
『オレ、クウ!アイツ、クウ!』
『キメタ!ヨワソウナ、メス!ハヤイモノガチ!』
魔物たちに知能があればこんな感じだろうか?
だが本当に知能があれば、こんなことにはならなかっただろう。
彼らの目は暴れ馬の尻尾のように荒れ狂う金色の髪に向いていた。
だが、勇んでそれに飛び掛かっていった彼らの行方を知る者はいない。
魔力を失った体は静かに土へと還っていった。
残されたのはそれぞれの思いが交錯する和気あいあいとした雰囲気のみであった。
(あがが…砕ける、砕けるぅうううううう?!)
誰にも気づかれない叫びは、森の中に静かに溶けていった。




