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はじまり  作者: 新戸kan
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 昨日は頑張った…僕、頑張ったんだよ?


 何回倒れたんだろうね?

 記憶が錯綜する効果付きだからね。数えるのは途中でやめたよ、ハハ!



 お尻が収まる程度でしかない椅子の上で、膝を抱えて背中を丸める。


(生きてた…。僕は今生きているよ!これが生の喜び!今日も頑張って世界を救おう!)


 少しだけ涙が零れた。

 そこへ割れそうになるほどの音を立て、目の前に皿が置かれる。



「キオク!お待たせ!!」


 僕の目の前にはトスファの作った料理が…。

 見慣れた光景ってやつですね!ヤバいですね!


 あの時の僕だったら青ざめていただろう。

 ニコニコ笑顔の彼女が悪魔に見えていたかもしれない。


 しかーし!昨日の僕の犠牲は無駄ではなかった!ありがとう、昨日の僕!


 僕は新たなスキル<トスファの料理に対する完全耐性>を手に入れたぞ!

 ふふ、また一歩世界平和に近づいたよ…。

 さて、お腹も空いてますし?いただきますかね。


(いただきます)

 余裕を込めた笑顔でトスファを見る。

 彼女は天使の微笑みで返してくれた。



「うっ?!」


 一口目で異変を感じる。


(そんな馬鹿な…?!スキルが無効化されてる?!…いや、違う!料理が進化している?!)


 手が止まらない。だけどこの感覚は昨日とは違う!


 頭の中が支配されていく。


(食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない。食べなきゃべつい。食べなきゃいけない。食べなきゃいけない)


 これは…強迫観念?!

 やめろ!僕は自分の意思で…。


 そこで意識は途切れた。



「ふふ、ふふふふ。ふふふふふふ!」


 意識を取り戻したら寝床の上だった。


(上等だコラァ!そっちが進化するならこっちは超進化だ!人類なめんじゃねぇぞ!ガルルルルルゥ!!)


 悟ったような笑い声を発した後、下の歯を剥き出しにして唸る。


 けどそれはすぐさま止め、傍の顔を伏せている彼女に笑顔を向ける。


 草にケンカを売るより先にフォロー!気配りを忘れないのが人気の秘訣!


「トスファ、今日もおいしかったよ!」

「…でも、また倒れて……」

「美味しくて倒れることは稀によくあるんだ!そういうのを、にちじょうちゃめしごとって、僕の国では言うんだ!」

「そう、ですの…?」

「ごめんね?続けて今日も迷惑かけるわけにはいかないから、残りは夜にいただくよ」

 本当なら昨日おばあさんのところへ行く予定だったからね。

 料理の方は筋トレと同じで毎日食べてれば大丈夫でしょ!


 両腕の上腕二頭筋に力を入れ強調する――――ダブルバイセップスのポーズをして、トスファに元気ぶりをアピールしてみせた。

 それを見た彼女は可笑しそうに笑う。

 僕も一緒になって笑っていた。





 元の住居である洞窟から旧市街までは、寄り道や余計なことをしなければ、お腹が鳴くまでには辿り着く。

 そこから動物の巣穴のようなおばあさん宅までは1時間ほどだろうか。

 時計がないから体感になってしまうがそんなものだろう。



 というわけで、今はおばあさんのところへ向かっているであります!

 今回は隊列を紹介したいと思うのであります!

 

 前列 僕 手 トスファ

 中列 お母さん

 最後尾 お父さん


 何故後列ではなく最後尾としたのか?それはですねぇ…。


 胸が後ろに向くくらい体を振り向かせる。


 ものすごく離れているからだよ!なんでそんな距離取ってるの、お父さん?!

 傍から見たら、魔物の襲撃を恐れて体を震わせながらついてきてるように見えるけども。

 でもその対象…お母さんだよね?!


 これ、お父さんが闇落ちしないかな…。なにか手を打たないとまずい気がする。

 うーん、と考えを巡らませるも、ピシィピシィと鞭の音が気になって集中できない。


 後ろを向かなくても何をやっているのか想像できる。


(お母さん、その鞭は装備品ですか?振るわれる対象は魔物ちゃんですか?それとも…)


 できるが、したくはなかった――――つい想像をしてしまい、身体がぶるっと震えた。


 それに合わせて鳴らされた音に恐怖を覚え、思考を切り替えることにした。



 実はもう一つ気になってることがあるんです。


 周りを見る。

 自分はいつもと変わらないように見ているつもりだった。


 風景がいつもと違って見えるんです。キラキラしてるっていうか。

 彼女と手をつないでるからリア充エフェクトでもかかっているのでしょうか?

 別にそんなんじゃないんですけど…。

 それに風景だけじゃなくて人物も…。


 キヲクの目にはメルヘンチックな御伽噺や少女漫画の世界みたいに、全てが光り輝いて見えていた。

 それらは思い思いに色づいていた。


(これはもしかして…?)





「おや、今日はどうしたんだい?こんな大勢で」


(やはりか…。でも特訓とかしたわけでもないのに急な展開だな)


 どうやら僕は自然に魔力が見えるようになったようです。

 まさかの食事のおかげ…?いや精神修行の成果か?

 どちらにせよ、目つきがやばかったからね、クセになる前に身に付いてよかったよ。


 キヲクの目は猫のように光ることなく、平時と何一つ変わらないものだ。

 それが理由か、彼は素直に受け入れていた。


「アイツラは大丈夫だったのかい?ここまで大変だったんじゃ…?」


 4人同時に押しかけて来たのは初めてだったようだ。

 おばあさんは戸惑いを感じているようだ。


 僕が説明するのが一番かな。下手に犠牲が出る前にね…。


「実はですね…」





「それは本当かい?にわかには信じられないが…」

「良ければ一緒に旧市街へ行きませんか?道中魔物がでれば証明できると思いますし」

「しかしねぇ…」


 おばあさんは所狭しと置かれた品々に目を向けている。


 ここへ交換に来るのはトスファだけじゃないんだろうな。命がけでここへ来ておばあさんがいないと知ったら…。

 これはしょうがないか。


(でもまぁ同行は諦めるが、心配事は減らさせてもらおう)

 

 一瞬だけトスファに目をやった。


「扱い方だけでも。このあたりの魔物なら身を守る力となるはずです」

「……わかったよ。こんな年寄りでも大丈夫ならね」

「それじゃトスファ…とお母さん、お願いします」

 さて、僕にはやらねばならぬことがあるので…。





 素振りかと思った?残念!男同士の話だよ。


 しかしこういう経験はないので何話したらいいのかな。困った。


 お宅を出てすぐのところで、男二人並んで座っている。

 片方からは話しかけづらい空気が漂っていた。



「……君には感謝しているよ」

「はい?!」

 いきなりでビビった。感謝されることしたかな?

「あの子が生まれてから、いやマモノが現れてからか…。こうやって家族で外に出られるなんてね」

 みんな思うところは一緒なんだな…。ある日突然日常を壊されたんだからな。

「これからはこれが当たり前になるんですよ。そのために僕たちは洞穴を出たんです」

「…ありがとう」

「お礼なんてとんでもない。それより何かあれば僕がいつでも話を聞きますよ」

「ふふ、何だか息子ができたみたいだよ」


 お父さんに肩を叩かれた。ポンポンと優しく、それこそ父親のように。


 それが嬉しくて僕もお父さんの肩に手を回す。

 二人で肩を組んで、どこまでも青い空を眺めていた。



 それを暗闇の中からじっと見つめているものがいた。

 荒い呼吸を繰り返しながら、青い目を光らせて――――



 こ、これは…。知らない間に二人の絆が更に強くなっていますわ!

 ああ、なんということでしょう!これが尊いということなのでしょうか!


 トスファは口と一緒に鼻を押さえていた。




「…ん?トスファ?終わったのかな?」


 変な空気を感じたので振り返ったら、彼女がいた。


(早いな。そんな時間経ってないよな?短い時の兄貴の説教タイムより早いぞ?)


「お母様が任せろっておっしゃいまして、私はどうしたらと」


 暇そうに体を揺らしている彼女を見て、不安が押し寄せてきた。


(げ…まじか。大丈夫なのか?これはどうしたら…)


 あ、またお父さんが震えだした。ここは、えーっと…。


 浮かんだのはこれまた一つの案のみ。

 僕の体も何故か震えている。


「そ、それなら3人で何か採りに行こう!ほら、立って立って!」


 気を紛らわせるのが良いと僕は判断する!決して逃げるわけではない!


 3人揃って光の侵入を拒む入り口に背を向ける。

 キヲクが声まで震わせていたため、父が足早に出発する。


(僕はお母さんを信じる!彼女はラスボスではないはずだ!)

 

 慌ててお父さんの後を追った。



 3人が遠く離れたころ、その穴から聞こえてきた声を彼らは知らない。


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