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はじまり  作者: 新戸kan
20/69

めしてろ

素人です。大目に見てください。てへぺろ!

 うん、交代制の割には良く寝れたな。稽古してたのが良かったのかな。


 両手を上に上げて背伸びの運動から。

 寝る場所が洞窟から家に変わっても、寝床は変わらない。

 布団はこの世界にもあるらしいが、持ち去られたか魔物のおもちゃにでもされたか、この街にはないらしい。

 あったとしてもこの草のベッドには勝てないと思いますが。


 わき腹の具合を確かめようとしたら、隣に目がいった。


(う……うなされている。お父さん寝ててもなんですか?これは起こしてあげた方が良いのだろうか?)


 寝ててもその背中は丸い。

 悲鳴に近い寝息が聞こえている。



 起こそうと手が伸びる。

 触れる直前、鼻がぴくっと反応した。


(おや、なんか良い匂いがするね。二人が朝ごはんでも作ってるんだろうね)


 鼻に神経を集中し、匂いの先を辿る。


 その匂いのせいで僕はお父さんを起こすのをすっかり忘れていた。

 そのおかげでお父さんは悪夢を満喫できたのでした。

 …ごめんなさい。



 これは…どういう事だろう?


 水の出ない台所に立っているのはお母さん一人。

 傍に置かれている木桶には水と道中採った草が入っている。


 お母さんはご機嫌らしく鼻歌を歌いながら食事の準備してる。

 硬い殻を素手で剥いているようだ。手際よく剥いて桶に放り込んでいる。

 取っ手に当たっても着水している様が熟練の技を感じさせた。


(これはトスファが歌っていた歌だろうか…。鼻歌から美しい歌声が容易に想像できる。親譲りなんだな)


 かたやその娘はというと…。

 隅っこで膝を抱え座り込んでいる。どよーんとした暗いオーラを纏わせながら…。


 なんだ、よく見る日常風景ってやつじゃないか。


 いやいや、お母さんの鼻歌とか初めて聞いたし、また逃避してんじゃないよ。

 とりあえず娘さんの方から窺ってみますかね。

「トスファ?なにかあったの?」


 言葉はすぐには返ってこず、やや間があった。

 言っていいのか迷っている――わけではないように見える。


「…いつものお母様じゃない……」


 確かにその通りではあるのだが、彼女自身いつもより激しく落ち込んでるよな。よほどのことがあったと思うんだが…。


 すぐには分からず、声を掛けれなかった。


「キオク…私の料理…どうですか……?」

 何故か恐る恐るといった感じで聞いてくる。

 その表情からはいつもの明るさが消えている。僕の顔も見ていない。


(トスファの料理…?食べたことあったっけ?うっ、頭が…)


「…やっぱり…そうなの?」


 僕の無言を肯定の意味で捉えたようだ。黒く暗いオーラが広がっている。

 腕に顔を埋めて表情が見えなくても、それが心を痛めているんだと教えてくれていた。


(これは…かなり危険だな。このままでは暴走してしまうのでは?)

 こういう時こそ指導者の出番!彼女の心、見事に癒してみせましょう!


 謎の自信を漲らせ、彼女の傍に寄って腰を下ろす。


 まずは、詳しく話を聞くところからだな。

 理由が分かれば対処は容易だし、誰かに話すことで解決する場合もある。

 聞き上手のフィニルと言われた僕の手腕を見よ!

「最初から話してくれるかな?ゆっくりでいいから…」


 こちらを向いてくれた彼女に、笑顔を向け言葉を促す。


「…朝の食事を作ろうと思ったのですわ。キオクのために…」


 嬉しいこと言ってくれるね。

 しかしそれが何故、今こんなことになっているのかはまだ分からないな。


「お母さんと一緒に作ろうとしてたのかな?」

「違いますわ!…お母様が私を止めたのです」


(止めた?なにゆえ?彼女が作るのに問題あるのか?)


 頭の中を疑問符が埋め尽くし、会話を止めてしまった。

 聞き上手とは一体……。


 彼女は目を逸らしている。

 今度は言おうか迷っているようだったが――――


「あなたが作ると全滅します!…そう言われたのですわ」


(まさかのメシマズキャラだった?!)

 ええっ?料理っていうほどのもんじゃないと思うんだけど?

 それとも僕が知らないだけでウデマエが必要な料理だったのか?

 草料理舐めてたわ…。


 困惑が僕を攻める。

 こういう時はどうしたものかと、脳が過去の事例を掘り起こす作業に入る。


「お母様は今まで一度もそういう風には言わなかったのに…だから私は…」


 これはもう、僕のキャラじゃないけどアレやるしかないのか?実際にやるとひかれる可能性が大いにあるアレを…。


 一つの答えしか浮かんでいなかったが、それは躊躇わられた。


「だから…私はもうダメなのですわ」


(いかん、躊躇していたら世界が滅亡してしまう!これも一つの世界を救う旅!やるしかねぇ!)


 口に出せば楽になるって誰か言ってたよね?


「大丈夫!君の作ったものなら僕はなんだって食べるよ!」

「でも、また倒れたら…」


 ん?またってなんだ?

 いや今はそんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。


 彼女の目じりには小粒の涙滴が見える。

 それが僕の口を動かす。


「何度倒れたとしても、何度だって立ち上がって食べ続けるよ!」


 あれ?自分で言ってておかしいこと言ってるなって思っちゃいましたよ?


 しかし彼女の周囲の影は薄くなっている。いつもの金色に輝く魔力が小さな粒となって見えている。


「私が…作っても良いの?」

「もちろんだよ!さぁ、涙を拭いて…」

 彼女からヤバいオーラが消えていく。それはもう、きれいさっぱりと。


 やったぜ!成し遂げたぞ!僕だってやればできるんですよ!




「それじゃ…キオクの分、お願いしようかしら?」


(いつの間に背後に?!お母さん、暗殺スキル持ちですか?!)


 一瞬ビクッとして、ガッツポーズをしたまま身体が固まる。唯一首だけが動いて、彼女の顔を捉えていた。


「ふふ、私の腕をお見せしますわぁ!!」


 汗を流している僕と、花が咲いたような笑顔のトスファを、頷きながら交互に見ているお母さんなのでした。





 今僕の目の前にあるのはトスファが作ってくれたものだ。

 ここへ来る道中で収穫した野草。それに拾った木の実を添えて。

 お皿はまだ残っているものがあったらしい。見た目は普通の陶器製と同じに見える。


 …普通だな。見た目はいたって普通。何の問題も今のところはない。

(でも、見た目が良くても味がってのはよくあるパターンだ。いわゆる使い古されたネタだな。しかしそれを覆すのがプロってもんですよ?チラッ)


 何もない天井を見上げる。

 ――――何も無いはずだが何故か悪寒を感じる。


 素人神が裁きを下す前に調子に乗るのやめよう。もう遅い気がするけど。



「では!いざ…実・食!」


 使い慣れた先の尖ったスプーンで草を突き刺す。

 ウチでは完全箸文化だったから初めはやや抵抗あったが、今は慣れたものだ。


(いただきます)


 うまいな。普通にうまい。なんだ、拍子抜けじゃないか。

 しかし手が止まらないな。うん、うまいうまい。


 何故か僕を止めようとするお父さんと、それを止めるお母さんの姿が目に入る。


 その時、僕は自身の異変に気付いてしまった。手が止まらない。自分の意思で。


(う…これは……)

 食べていたと思ったら、実は食べさせられていた?!

 うぅ…本能が言っている、これ以上はやめろと。

 けど、止まらない。手が止まらないんだ!


 口も意思とは関係なく咀嚼を続けている。この感覚はなんなんだ?!

 うまいから手が止まらない。手が止まらないから食べ続ける。いやうまいから食べ続けてる。訳が分からない。頭がおかしくなりそうだ。


「…そろそろかしら」


 それが最後に聞いたお母さんの声だった。チーン。




「僕は死にましぇん!」


 あれ?二度寝でもしたのかな?


 今朝見た光景。けど隣にお父さんはいない。


 丸窓から直接入り込む日差しが時間の経過を教えてくれる。


(――――って、あぁあああああああ?!)


 そういうこと?!

 これもしかして二度目?!記憶を失くすほどの威力?!


「…キオク、大丈夫……?」

 すぐ隣にはトスファが座っていた。

 そんな悲しそうな顔しちゃダメだよ…。幸せが逃げちゃうYO!


 ―――とは、恥ずかしいので口には出さない。代わりにおかわりだ。


「言ったとおりだよ!さぁ、次を持ってくるんだ!このままじゃお腹が減って夜しか寝れない!」

 これも精神を鍛えるため!これも修練の一環でございますよ!これを乗り越えた先に(胃が)強くなった僕が誕生する!


(ああ、最近言い訳が上手くなってきたなぁ)


「…でも」

「でももすもももないんじゃい!君の作ったものが食べたい!今すぐに!」

「…本当に?」

「僕が君に嘘ついたことがあるかい?」

 ありますね。むしろ嘘ばっかですね。あれ…僕ってサイテーじゃね?


 彼女から見えない位置で汗が流れている。

 しかし正面だけは守り通す。


「トスファの心が伝わってくる。だから食べたいんだ!」

「こころ…」

「そう!料理は心だ!」

「りょうりはこころ…」

 ここで追撃の一言で、さらに加速する!二人は誰にも止められない!

「つまり……愛ッ!!」

 決まった…。よくここまで走り抜けた。僕は頑張ったよ…兄貴…!



「あいって何ですの?」


(なんと!!そこでこう返ってくるとは!!これは予想GUY!)


 二人の表情がシンクロする。

 先に動いたのはキヲクの方だ。


 むむ、愛とは何か?哲学的な回答がお望みなのだろうか?

 しかし勉学よりも稽古を重んじていた自分には荷が重い。

 ここは強引GU舞way!

「あーお腹空いたなー。腰とくっつきちゃいそうだー、何か食べたいなぁ、チラチラ」

「すぐにお持ちしますわ!お待ちくださいまし!」


 わざとらしく口に出して見ていたかいがあったようだ。

 彼女は急いで隣の部屋にある居間兼台所に向かった。


(これでよし!)

 ――――じゃないね。僕の試練はこれからが始まりだね。耐えてくれよ…僕の体!


 気合を入れるため胸を掌で叩いた。


 その後、食事をする度に僕が倒れるせいで、世界を救う旅は今日一日何も進展はありませんでした。


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