たびだち
昨夜はお楽しみでしたね。…僕以外が。
現在の皆様はまるでピクニックに行くかのようにルンルン気分で支度をされています。
溢れんばかりに籠に突っ込まれた衣類や日用品などが、遠足前日のワクワクを思い出させた。
僕ですか?
元々荷物はこの刀しかないので準備なんて必要ないんです。
手伝いもいらないそうです。
こういうときだけ活かされる王子様設定!
…このままだとモブにまで降格しそうです。
「これはどうする?」
「必要ないものは極力置いていきましょう」
「これは必要ですわ!これは私とキオクとの…」
「その話詳しく!」
(みんな楽しそうだな…。時々でいいから思い出してください。僕のことを…)
キヲクは体育座りで3人の和気藹々とした様子をじっと見ている。
その丸まった背中が淋しそうに小さく見えた。
「キオク!」
(ああ、トスファ…。君だけだよ。僕のことを大事に思ってくれているのは)
僕は君の想いに応えられているのだろうか?
いや…共に過ごした時間はまだ少ないけど、きっと心の距離はもうすぐ傍にまであるはずだ!
だって僕たちは友…。
「これで遊んでいてくださいまし!」
トスファはキヲクに何か差し出すと、さっさと戻って行った。
ぽつんと残された彼は手元と彼女の背を見比べていた。
(えっと?葉の付いた木の枝でどうしろと?あ!そういうことかぁ!――――僕は…)
キヲクは徐に葉を毟り始める。その背中が更に丸くなったように見える。
(いる。いらない。いる。いらない。いる。いらな…)
葉を掴んだ手が引っ張る寸前で止まり、顔を上げる。
その瞳は濡れているようだ。
僕何か悪いことしたかな?調子乗ってたとかかな?泣いてもいいですか?
(いや、これも一つの精神修養!これを乗り越えた先に輝かしい未来が待っているはず!僕は負けない!負けるもんかぁああああ!!)
「キオクー?行きますわよー?」
ここで共に旅をする僕の仲間を紹介するぜ!分かりやすく数値化した魔力も載せておくぜ!
ちな、個人的な意見な!
お父さん 魔力:30
お母さん 魔力:50
トスファ 魔力:*#9%$9@9¥
あれ?トスファだけ文字化けかな?
でもさすがといったところでしょうか!圧倒的じゃないか!
ゲーム世界転生物で宙にモニターが…みたいなのありますが、残念ながらこの世界にそんなものはありません。
僕の脳内です。
…恥ずかしいけど、ちょっとだけ、だよ?
では続けて主人公、僕の魔力をドドドン!
キオク 魔力:5
内容に間違いがあったようです。訂正したのはこちら!
キヲク 魔力:5
なるほどー。『ヲ』が『オ』になっていたんですねー。
なんでだよ?!どういうことだよ?!これじゃ兄貴にゴミ扱いされちゃうだろ!もうちょっと色付けてくれてもいいじゃん!忖度してよ忖度!
ちなみにこの近辺でよく見かけられる魔物の魔力の平均値は10です。
どう見ても最弱です。本当にありがとうございました。
封印される前の僕の魔力はどれほどのものだったんだろうなぁ…。トスファには敵わないでも2番目くらいにはなれたんじゃないのかなぁ…。
あの時もっと慎重に行動してれば、ここまで持ち越せたんじゃないのかなぁ…。
これが無いものねだりというものか…。悲しい。
遠くの景色が収まった視界には仲睦まじい親子の姿もあった。
まぁとやかく言っても何も始まらないので、せめて今後の方針をビシっと決めてリーダーシップだけでも発揮しなければ!
「ところでどこに行くんですの?」
(トスファさん、ナイスアシストありがとうございます!あとは僕がシュートを決めるだけです!)
意気込んで籠を背負った3人に声をかける。
「まずはあのおば…」
「トスファがお世話になっているおばあさんのところに行ってみようか」
(おとうさぁあああああん?!そんなに僕のことが嫌いなんですかぁああああ?!)
もう良いよ…。僕はPTメンバーの後ろからついていくイベントモブキャラで…。
足が妙に重くなり、トボトボとみんなの後をついていく。
下を向いていたため気づくのが遅れたが、隣に人の気配を感じそちらを見る。
「キオク…いつもの…」
差し出された手が光り輝いて見えた。
(トスファの優しさが伝わってくる。手のぬくもりがこんなに心地いいなんて。すさんだ心が癒されていくよう…)
「ほぅ…?いつもの、とな?」
(お父さん、怖い怖い!僕の6倍は強いんですからもっと心を大きく!お母さんもニコニコしてないで止めて!)
彼らが魔力使い方を覚えて、丸一日以上経った。
全身の至る所にある皺や垂れた皮膚で、年齢以上に年取って見えていた二人はもういない。
肌の艶や張りは20代にも見える若々しい容姿を取り戻していた。
キヲクを見つめる父の目は戦う男の目をしていた。
癒しと恐怖の板挟みに(物理的に)あっているキヲクを見る母は、文字通り優しい母親の顔をしていた。
「そういえば寝るときはどうするんですの?あそこは狭いですし」
「確かに外で寝るのは危険だな」
(お父さん、何故そこで僕を見るんですか?僕より危険なのは魔物でしょう?)
「二人ずつ交互に寝るのはどうかしら?丁度男女で分けたらあなたも安心でしょう?」
お母さん、ナイス案です。
お父さんと二人ってのはアレですが、信頼を得るチャンスでもありますし。
でも今日は考えがあるんだよな。言ってもいいかな?それくらい良いよね?
家庭で肩身の狭い父親のように口を挟んでいいのか悩んだが、勇気を振り絞って声に出す。
「あの…今日は良いとこがあるんです…。」
「…旧市街か。大丈夫なのかね?」
信用が無さ過ぎて辛い。トスファにタスケテビーム!
2本の指を突き立てた両手を額に付ける。その姿を見れば信用はないのではないだろうか。
「大丈夫ですわ!あそこにいたヤツラは滅してやりましたから!」
(やっぱりそうだったのか…。そうだと思ってたから旧市街を提案したわけだけど、それでもちょっと…)
一歩身を引くと、旧市街がある方向を見ているお母さんの姿が目に映る。
「…あそこには私たちの家があるはずですわ」
(む…ということは魔物に追われて洞窟暮らしになったと。それなら二人も思うところがあるんだろうな)
いつか話してくれたらなぁと思っていたら道すがら話してくれた。
というか勝手に語りだした。
魔力が人の性格まで変えてしまうのは確定で良いような気がした。
「…久しぶりだな」
「ええ、そうね…」
そう口にした後、二人は黙り込んでしまった。その目には赤く染まる建物が映っていた。
二人はこの街で幼少期を過ごしたそうだ。その後いろいろあって洞窟暮らしになったらしい。
そのいろいろっては話してくれなかった。皆様にとっては話したくない出来事だったのだろう。
僕とトスファもしばらくの間、赤さが増していく街を見ていた。
「こっちだったな」
「こっちですわ」
二人とも違う方を向いているんだが?道中、魔物との戦いでは息の合ったコンビネーションを見せていたのに…。
言葉を同時に発した二人だが、指の向きは逆方向を指している。
二人はこれまた同時に振り返って、睨むように見つめ合っている。
今二人の間には火花が見え隠れしてますが…。これはまずい予感がする。
「あなたってそういうところありますわよね?」
「そういうお前だってこういうときだけ文句言うよな?」
二人の魔力がみwなwぎwってwきwたwってやつです。
お父さん…相手の魔力が見えないせいもあって全く引く気が無い。普通にやったら負けますよ?
言葉に熱を込め、その影響かはたまたその逆か、戦闘時のように体に魔力を帯びてきている。
というのも――――そういうものなのか、まだ練度が低いせいか、通常時の魔力は体の外にまでは出てこないようです。
…彼女は常に溢れていますけどね
二人のやり取りを見ていたトスファに顔を向けると、彼女は首を横に傾けた。
(おっと、二人して静観してる場合じゃないね。魔物が隠れてる可能性がないわけではないからね。消耗した時に襲われたら大変だ。止めないと!)
「ふふふ」
(トスファは何を笑って…。二人も彼女を見てるな。何か分からんけど助かったか?)
トスファは視線が自分に集中しているのに気づき、口を手で隠す。
「ごめんなさい。二人がそうやってるの初めて見たから…」
(そうか…。今までは生きることで精いっぱいだったもんな。…それにトスファを見れば分かるよな。どんな家庭だったか)
今わかったよ。
二人は解放されたんだ。彼らを取り巻いていた世界から。
だからつい、はしゃいじゃっただけなんだよ。
ケンカするほど仲が良いっていうし。これはこれで良いんじゃ……。
キヲクが顔を向けた先には一つに重なった二人分の影があった。
(あれー?!いつの間にかお父さんが文字通り尻に敷かれてる?!ちょっといい話してる間に…)
この瞬間、お父さんの家庭での立ち位置が決まってしまいましたとさ。




