ごさん
翌朝、その事件は起こった!
「キオク!お父様とお母様が!」
(うん……?トスファ…?先に起きてるなんて…さっそく指導の効果がでたかな?)
――――にしても朝から騒々しいね。何かあったのかな?
眠気眼を擦りながら、もたもたと体を起こす。
彼女の慌て様を見ても、緊張感は全くない。
しかし体が後ろに倒れない程度には意識を持っていた。
予想をしてみよう。
昨日は魔力を扱えるよう訓練していた。その成果がきっとでたんだ。
その結果…髪の色が変わった!
黒髪だったのは魔力を扱えず体に行き渡らせてなかったからだ。
色は、そうだな…トスファの金から考えて、黄色……いやそれに近いオレンジとかかな。
――――とまぁ、朝から妄想力が仕事してるんですが、果たして何が起こっているのやら?
急かすトスファを気にせず、体を伸ばしてから立ち上がる。
いつもの朝の目覚めと変わらなかった。
「やあ、キオク!いい朝だね!」
「お食事、もう出来てますわよ?さあさ、トスファも」
「な…?!」
二人とも髪の色がオレンジに…当たってた…。
正確にはそうではないのかもしれない。
火の明かりでそう見えただけとも。
しかし自分の適当な予想が的中していた事実に驚愕し、そんなことは些細なことのように思えた。
そう、些細なことだ…。
(これはツッコミが必要なのか?)
お父さんはさわやかな笑顔で歯をキラッと光らせて、お母さんは喋り方がトスファそっくりだし…、何があった?!
お父さん…大した筋肉してないのに何ですか、その無意味なポージングは…。サイドチェストですか?
お母さん…そんな王族みたいな優雅な動きをしてなかったでしょう?どこのパンの人ですか。
トスファ…そんな二人を見て何度も頷いているのは何故なのぜ?
(もうヤダ、この家族…)
自然と下に向く顔を手のひらで覆うようにして支える。
脱力した腰は丁度椅子の上だ。
一つため息をついて気持ちを落ち着かせ、話を聞くことにした。
どうやら二人は夜通し特訓していたらしい。
徹夜明けテンションか…。キャラまで変わっちゃって…。
今も彼らは独自の世界観で思い思いに体を動かしている。
途中で路線が変わって別ジャンルになってしまったアニメを見ているようだ。
その白けたような目が冷静に捉えさせた。
気持ちの切り替えが上手いと、兄貴に言われたこともあるのです。
(いろいろ問題はあるけども彼女の教え方が良かったのかな?半日くらいでここまで変わるとは思わなかったけど)
そんじゃま、実戦行きますか!
いきなりだけど、いざとなればトスファがいるし。
獅子は兎を狩るにも全力で…じゃなくて落とす方か。ニホンゴムズカシイネ。
気合を注入するように膝に手を当て、立ち上がる。
僕の話を聞いて3人も気合が入っているようだった。
4人そろっての外出ナウ。
トスファはなんだか嬉しそうだな。初めてじゃないのかな、多分。
彼女は両手に両親状態で何度も首を左右に向ける。
ご両親も景色よりも娘の顔をよく見ている。
ご両親は久しぶりの外かもしれないし、その辺りは気を付けないとな。魔物と戦う前にダウンは勘弁だしね。
邪魔をしては悪いと彼女の申し出を断って後ろからついていった。
獲物を探しているのか、風景に合わない生物が移動をしていた。
(お、さっそく出てきましたよ、木に擬態したヤツ。動いたら意味ないだろ、それ。―――ここはお二人に任せて自分は魔力眼で見守ろう)
あ、魔力眼ってのは自分で名付けました。まだまだ自然には出来ないので、睨みつけるみたいになっちゃいますが。
事前の打ち合わせ通り、トスファにも手を出させない。
しかし不安な彼女は顔に出ているし、身体は少し震えている。
そんな彼女の手を優しく握る。
それに気づいた彼女と顔を見合わせた後、揃って前を向いた。
性格まで変わってしまったようで、ハイテンションな二人はそれに気付かなかった。
(さて、どうやって戦うのか…)
キヲクはやや目を細めて、青く光らせる。すると、二人の体が髪と同じ黄色の光に包まれているのが分かる。
薄っすらと体全体を覆っていたその一部が、同じ目的地に向かって移動しているように見えた。
拳に魔力…?自らの肉体を武器にするのか。
二人とも慎重に間合いを図っているな。
木の魔物は上下違う高さに位置する太い枝を腕のように振るい、枝分かれした細い枝を鞭のようにしならす。
移動する際、蛸の足のように使っていた太い根は、その反動から体を支えるために地面に突き刺さっている。
自身はその場を動かずに手を伸ばして捕食するようだ。
(ツルみたいなので捕まらないように動いて…二人で分散して一人に集中させないようにしている。夫婦ならではの連携か)
洞窟の中で何年も過ごしていたとは思えない機敏な動きで魔物を翻弄している。
自分も目で追うのがやっとだ。
(なかなか捕まらないから魔物は焦っているな。動きが散漫になっている。今がチャンスだ!)
二人も分かっている!同時に懐に入って…!
「おらおらおらおらおらぁー!!」
「無駄(ですわ)!無駄(ですわ)!無駄(ですわ)!無駄(ですわ)!無駄ァ(ですわ)!!」
(何故ですわだけ小声に?いやでもこれは…フルボッコやね…。タオルを投げてあげたいくらい。)
拳の形をした陥没が次々と魔物の体に出来ている。
その穿たれた幹からは樹液なのか体液なのか、緑色の液体が漏れている。
二人を見下ろしていた鋭い目つきのように開いていた穴からは赤い光が徐々に失われていく。
その光が完全に消えた後、石を飛ばしながら根が抜ける。支えを失った体が倒れ、地を揺らした。
その後体が黒く変色していき、手で摘まめるくらいの小さな玉の集まりとなって、個別に消えていった。
僕らは全ての魔力の玉が消えていくまで見届けていた。
その胸には感慨深いものがあった。
まさかいきなり倒してしまうとは嬉しい誤算ってこういうことだろうか?
「次イクゾー!」
「おー!ですわ!」
いかん、止めないと!二人にもスイッチあったのか!
「トスファ!感動してないで一緒に二人を止めてくれぇえええええ!!」
余韻なんてなかった。いいね?
膝に手を置き荒い呼吸を繰り返しているキヲクとは対照的に、3人は肩を抱いて円陣を組み喜びを分かち合っていた。
特にトスファは初戦終始ハラハラしていたので、抑えの切れた感情が止めどなく全身から溢れさせていた。
(何もしてないのに疲れた…)
あの後数匹の犠牲魔物がでました…。
もっと僕が早く止めていれば…すまぬ、すまぬ…。
ともかく、これで二人は大丈夫だろう。
彼らより強い魔物がこの近辺にいるかは分からないが、無理しなければ問題ないはず。
魔力が体に作用するのか身体能力も上がっているみたいだし…。
先程の動きを見る限り、逃げ出すのは容易だろう。
これでトスファがいなくても何とかなるかな。
二人を戦えるようにしたのにはもちろん理由がある。
その理由とは…僕とトスファの二人で旅に出ようと思っているからだ。
伝承にあるように彼女はこの世界の救世主だ。言ってみればこの世界を救うことを義務付けられているのだ。
でも彼女だけが魔物と戦う必要はない。
この世界の人々は二人のように魔力を持っているのにその使い方を知らない可能性が高い。ひょっとしたらかなり強い魔力の持ち主もいるかもしれないしね。
ということで人々に魔力の使い方を教えに行く旅に出る。これはその前準備というわけです。
僕も覚悟を決めてこのプランを進めてきた。
今その集大成をこのセリフに!
「お父さん!娘さんを僕に(預けて)くれませんか!」
なんか今都合のいい物音が…?こういうの多くない?
辺りを見回しても、何かが起こったような変化は見られない。
なにゆえに?
しかし疑問は彼女の言葉で掻き消えた。
「とぅんく…」
ずっとそのお言葉待っていましたわ…。
私の心はもう決まっています。後はお父様が肯定の返事をするだけですわ!
(マジでそれ口にするんだ…)
呆気に取られている僕に更なる追い打ちが!
「君に娘は任せられんな!」
「「えぇー?!」」
キヲクもトスファも腰を引いて顔を突き出しているような体勢だった。
『ア〇ゴくーん』
この間はなんだ?いやスルーで良いか。
僕もトスファも同じ反応だったな。
まさか断られるとは…。でも何故?
「マモノを倒せない者に任すことは出来ん!」
「ですわね。いくら王子様でもそれは譲れません!」
でも、僕たちにはやらなければならないことがあるわけで…ここは引き下がれない!
トスファと一緒に迫り、口を開こうとするが止められた。
「君の言いたいことは分かっている。この世を救う旅に出たいというんだろう?」
「大変危険な旅になるでしょう…。ですから……」
「「私たちも共に行きますわ!!」」
(は…?いきなり何言いだすの、この夫婦。トスファも何か言ってや……)
そう思って顔を向けた相手が悪かった。
「そうですわね!いつ如何なる時でも家族は一緒ですもの!」
「えっと…僕の意見を…」
「ああ!私たちは常に一緒だ!」
「ふふ、忙しくなりますわね!」
ダメだ、僕の話を聞いてくれない…。なぜこんなことに…?
伸ばした手が空しく空気を握握していた。
僕が妄想してた物語だと…。
ご両親と一時の別れを決め、旅に出る僕とトスファ。各地で人々に魔力の扱い方を教え、希望をもたらす。
そんな中、トスファの悲しい過去が明らかになる。その強大な力ゆえに周りから化け物扱いされていた彼女。悲しみに暮れる彼女を僕は親身になって支える。それは二人の心の絆をさらに深めることになった。
二人の旅は徐々に人々に認知され始め、気づけば僕たちに賛同する仲間が増えていった。
そうしてできた仲間たちと共に国を作ろうと決意する。
そして様々な苦難を乗り越え、その国はついに完成する。
トスファ王国と名付けたその国へ二人を招こうと迎えに行く僕とトスファ。
しかし、彼らの手には魔の手が迫っていた。僕たちは果たして間に合うのだろうか…!
次回 永遠の別れ に… はじまり、はじまり!!
最後だせぇ……。あとネタバレはやめろ!
妄想している間に洞窟に帰ってきていた。
「では明日、準備ができ次第出発しよう!」
「もうここには戻ってくることはないかもしれませんね…」
「大丈夫ですわ!どこにいても私たちは家族なのですから!」
僕をおいて盛り上がってますね…。妄想とはいえ二人を亡き者にしてしまった罰でしょうか?
どこか寂しさを感じて肩を落として座っていた。
「最後の二人きりの夜…楽しみましょうね?」
耳元にかかった吐息で体が震える。
(ちょ!?言い方もう少し考えてください!お父さんにぼこぼこにされてしまいます!)
都合よく顔を覆っている影のせいで二人の表情は見えないが、少なくとも目がギラリと光っているのだけは分かる。
「最後の夜…そうかもしれないねぇ…。キオク?存分に楽しもうじゃないか?」
「うふふ、みんなで楽しく、ね?」
(二人ともまたキャラ変わってますよ!?)
二人から肩に手を回され、頭が彼らの背より低くなる。
左右から感じる視線に耐え切れず、手を振り払う。
「ぼ、僕はもう一人でも寝れるお年頃ですから!おかまいなくぅー!!」
素振りしても拭えなかった恐怖のせいで、一人淋しく洞窟の隅っこで怯えるようにして眠りにつくのだった…。




