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はじまり  作者: 新戸kan
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わかれみち

 暗闇の中で穏やかな寝息に紛れて苦しそうな声がしていた。 



うーん…。



 そしてその戦いののち少女は人々に魔力を分け与えた。


 そしてその戦いののち少女は人々に魔力を分け与えた。

 

 そしてその戦いののち少女は人々に魔力を分け与えた。分け与えた。分け与えた。分け…。



 だぁーー!!起きればいいんだろ、起きれば!


 睡眠を妨害された怒りに任せて体を起こす。

 その勢いで寝床がやや揺れたが隣の少女は起きなかった。


 大体なんだよ!同じとこを何回も何回も!エコーまでかけやがって!

 次はこの部分を解釈しろってか?


 怒りは収まらないが素直に考え始める。そうすれば邪魔の入らない睡眠が考えてのことだ。


 えっと?分け与えただっけ?

 確かに彼女の魔力はあまりにも強大なものだ。

 だけども。

 今この世界にどれだけの人が生き残っているのか分からないけども、さすがにすべての人に分け与えるのは無理なのでは?干からびちゃうぜ。

 それに…そもそもの話そんなこと出来るのかってことよ。

 これもアレだよな。捻じ曲げられ案件だわ。

 分け与えたのではなく、使い方を教えたんだよ、きっと。


 これでいいですか?では!おやすみなさい…。


 自分を納得させるため投げやり気味に結論を出した。

 その結果、穏やかな寝息がハーモニーを奏でていた。





 その日の朝食はほのぼのーとしていた。

 それはとても洞窟の中での食事とは思えないものだった。


「ふふ、こうして見ると二人はまるで兄妹みたいね」


 お母さんが僕とトスファを見てそう言ったわけですよ。

 確かに?遺伝的なつながりがあるわけですから?似ていてもおかしくないわけですが?


 まただよ…。またドス黒いオーラが隣の席のお姫様からダダ洩れですよ…。僕と兄妹扱いじゃダメなんですか?


 トスファは机の上で作った拳をプルプルと震わせている。

 ぎりっと食いしばったような音がしたが、気のせいではないだろう。

 

 私とキオクが兄妹?!お母様は何おかしなことを口走っておられるのでしょう?

 お父様は認めてもお母様は認めてくださらないと?

 お母様がそのつもりなら私にも考えってものがありますわよ?



(う…なんか空気がまずい。洞窟だからじゃなくてだよ?雰囲気の話だよ?)

 二人は気づいてないが僕には分かる。

 空気の違いが判る男なんで!

 とにかく彼女を鎮めないと…。昨日のアレで!


 トスファのサラサラな前髪をかき上げて額を出す。


「そうなんですよ!(おでこ)ε`○)」

 

 

「あら!」


 母は開いた口を手で隠しながらも、嬉しそうな声を出す。

 目の前で行われた行為に釘付けだった。


 ふぅ…お父さんの顔が魔物の顔になってる以外はこれでおっけーだな!

 おっけーだよね?そうなんだよね?!


 隣の母に合わせて笑っている父だが、目が笑っていない。

 彼の視線はキヲクが動けば、それに合わせるように連動している。

 キヲクが目を逸らしていても、こっち見ろとばかりに無言の圧をかけ続けている。



 二人の前でなんて……でもこれでお母様も認めてくださいますわよね?

 いえ…きっとお母様は試してらしたのね!

 さすが私のお母様ですわ!


 感触を思いだすように額に触れる。


 それにしても…王子様は強引な手を使われるのね…。

 でもでも!そこがイイのですわ!



(僕がいる側と彼女がいる側で空気が…空気が違いすぎる!)


 トスファとその正面にいる母の周囲はキラキラと輝いているような明るい雰囲気があった。

 一方、キヲク側は不倫がバレた時の親御さんへの謝罪伺いのような重たい空気が流れていた。

 そこには目に見えない壁が確かに存在した。


 どうしてこうなった?僕はただ、ほのぼのしたかっただけなのに。

 こうなったら練りかけプランを実行に移すしかない!

「お二人にお話があります!」


 スッと立ちあがり、言葉で注目を集める。

 トスファは驚いた顔で僕を見ていた。


 聞いたことがあります。

 これは結ばれる二人の前に訪れる試練…。『おとうさん、ぼくにむすめさんをください』では?

 二人はもう認めてくださっているようですが、王子様は自分の口から宣言したいと。そういうことでしょうか。

 王子様は誠実な方なのですね!


 隣から<目からキラキラびーーむ改>が送られてくるが、それに構っている余裕がキヲクにはなかった。



「お二人はトスファの力についてご存じですか?」


 こう切り出し、二人を見る。


 ふむ…二人の反応は…。


 顔を見合わせてはいるが口元は動かない。


 話しても良いのかという迷い、戸惑い…そういったものが感じられるな。


 彼女のことで過去に何かあったか?なんとなく想像は出来るが…。

 だけどそれは聞く必要のないことだ。話したくないことは誰にでもあるのだから。

 僕だって今まで様々な黒歴史を作ってきた。

 絶対に誰にも話さない!絶対にだ!

 

 しかしこのままでは話が進まないので、自分から進める。


「彼女の力は魔力と呼ばれているものです。魔物を倒すことのできる力なのです」


「……!どうしてそれを?それに…確か君の国はマモノによって滅ぼされたと?」


(む…ツッコまれたか。鋭いな。だがそれは想定内…!)

 前もって回答を用意するのがデキる男!


「研究している最中だったのです。民を犠牲にするわけには行かないので発案者である自分が被験体となって」

 これで国が滅ぼされた理由も説明してっと。

 最初に言わなかったのは隠してたことにしよう。うん。

「僕はまだ上手く扱えないので魔物を倒すことは出来ないのですが…」


 わずかな間があった。

 おそらく気付いたはずだ。


「…それで君は何が言いたいのかな?」

 話を進めてくれてありがとうございます。

 だらだら話し続けるとぼろが出そうだからね。

 そうなる前に本題を、っと。

「ご自身では分からないのかもしれませんが、お二人にもあるんですよ。魔力が」

 そりゃ、驚くよね。いきなり言われたら。自分もそうだったし。


 二人は目を大きく見開き、何か言いたそうに口を開けている。

 しかし言葉が発せられることは無かった。


 見て欲しいと、両手で目を指差す。


「僕に魔物を倒す力はありませんが、魔力を見ることは出来るのです」


 自分で倒す力がないと言わざるを得ないのが悲しい。

 紛れもない事実だけどな!なんて世だ!

「お二人の魔力は魔物より上なのです。扱い方さえ覚えれば魔物を倒すことが可能かと」

 困惑、希望、期待、不安…様々な感情がお二人を包んでいますね。

 あ、魔力は見えても感情は見えてません。なんとなくそんな感じかなって…。


「ヤツラは敵です。人類の天敵として現れた魔物に対抗するべく、神が人々に力を与えていた。それが今は眠っているだけです」


 ちょっと厨二臭い感じがするし、敵っては言い過ぎか?

 でも魔物が敵なのはよくあることだしなぁ。



 てき?

 …は!お母様のお話第57話!

 姫様!ヤツはてきです!あなた様から彼を奪うてきです!

 …そういうことだったのね!



 押しすぎは良くないな。ちょっと様子を見るか。


 二人は見合わせたり、下を向いたりとせわしなく顔を動かしている。

 僕はそれを黙って見ていた。


(後は二人が今の状況を何とかしたいと思ってくれれば…)


 その沈黙の間、話が分かっているのか分からないトスファに時々視線を返す。

 どうも自分の世界に入り込んでいるようだ。

 でも彼女のその顔を見たら――――何となく…何となく、上手くいく気がした。




「君は娘の代わりに私たちが戦えと?」

 ま、そう上手くはいかないよね。


 元々垂れ目だった、そう思わせる覇気のない目をしている。

 娘以外を映す――――いつも通りの目だ。

 お母さんも目を伏せ、こちらを見ようとしない。


 …そういう事が言いたかった訳じゃないんだけど、どうするかな。


 諦めず考えを巡らすと、何かが浮かび上がってきた。


 A 熱く語る。

 B 煽る。


 ナンダその選択肢は?Bとかありえないだろ!

 試しにBを選ぶとどうなるのか、妄想開始!

 「あれれー?怖いのかなぁ?」

 「でもトスファはもっと怖い思いをしてきたんだよ?」

 「男のお父さんがいつ頑張るの?今でしょ?」

 「やったね、パパ!明日はホームランだ!」

 訳が分からんぞ…。あと、うぜぇ…。


 がっくりと首を垂れる。



「君の言いたいことは分かる。今の私たちは娘に頼っている状況だからね」


(あれ?なんか始まってる?)


 顔上げると、首を隠すほどの顎髭が動いていた。


「でも国を滅ぼされた君なら分かるだろう?ヤツラの怖さが」


(すみません、それ嘘なんスよ…。元王子なのは間違いないんスけどね)


「今でも覚えているヤツラと初めて対峙した時のことを」


(むしろ興奮してた自分はおかしいってことでしょうか?)


 お父さんも興奮し始めたのか立ち上がっている。


「それでも前へ進まなければならない。君はそう言いたいんだろう?」


 何故だろうか?トスファに近いものを感じる。

 さすが親子という言葉で済ませていいんだろうか?


「だから私は一歩踏み出す!そう決めた!その為にも自分たちも戦おう!」


「そうです、それでこそです!」


 二人が感動の涙を流して抱き合っている…。

 ナニコレ?さすがの僕でもついていけないんですが?


 娘とは比べものにもならないが、二人の目には光が宿っている。

 涙で濡れたからではない。

 その視線の先には、娘がいる。瞳を輝かせてキヲクを見ているトスファが。




 えーと?そういう事で良いのかな?

 どういうことだってばよ!てのはナシで。

 そろそろトスファさんに返ってきてもらいますか。

「トスファ…君が二人に教えるんだ」



 どうしてこうなったのでしょう?

 私が二人に教える?考え事をしている間に何かあったのでしょうか?


 キヲクを見て真似ているのか、それとも影響を受けてしまったのか――――トスファは顎に手を当て考えている。

 視線を彷徨わすところまでそっくりだった。


 もしかして私たちが試されている?家族となるのにその心を試すと。王子様と女王、その家族としての気高き心を!


「始めましょう!お父様、お母様!」

 

 娘に気圧されながらも、やる気を見せている父母。

 その様子を見たキヲクは満足気に頷いていた。


 彼女が他の人間に教えることによって、自身の魔力と向き合わせると。

 ついでにご両親も魔物を倒せるようになれば一石二鳥!

 これはぱぁーふぇくとではないだろうか!


 彼女に任せて僕はちょっと席を外させてもらいましょうかね。


 向かうのは左奥側にある彼女の部屋。


 その片隅に置かれている私物を取りに行く。




 僕だってまだ諦めてないんだからね!

 何をって…僕無双だよ!その為の素振り!

 決して道場での日課が染みついてて稽古しないと気持ちわりぃって訳では断じてない!

 …別に悪いことじゃ無くね?


(あれ?まただ…。僕は何を忘れている?)


 柄の感触が僕に何かを思い出させようとしていた。

 それが気になり素振りを止め、手の肉刺の痕を見る。


 しかしそれは、どこにも引っかかることなく消えていった。


 それにしてもこの刀…なんだろうな?ナタカの元には今もあるんだろうか?

 彼女が持って行ったはずの刀が今は僕の手元にある。これは何を意味しているんだろうか?

 ラノベ的には意味あることなんだろうけども…逆に意味ないパターンもあったりするよな?


 おーっと!稽古中の考え事は精神修養には良くないな。集中集中!


 稽古に没頭していた僕はトスファがどんな風に教えていたかなんて知る由もなかったのですよ。

 そしてそれを後悔することになることも…。



 星々が各々にきらめく夜空の下、風を切る音を止めたのは少女の声だった。

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