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はじまり  作者: 新戸kan
12/69

ごほうび

実際にありましたらその部分は変えます。

自分としてはちゃんと調べたつもりなのですが。

 前回の『はじまり』は!


 ほうかごのきょうしつで見つめ合う二人…。ゆうひだけがきょうしつを照らし二人を優しく包む。それはまるで二人を祝福しているかのようだった。

 それに背中を押されたかのように距離を縮める二人。それはまるで二人の心の距離を表しているようだった。

 彼が私の肩に手を置き、熱いまなざしを向ける。その瞳からは決意のようなものが感じられた。それはまるで…略しますわ!

「僕はせんせいだ。だけど、おしえごである君のことが…君のことが!」

 その言葉を聞いた私はそっと目を閉じる。そして――――


 そして二人は熱く燃え滾るような一時を共に過ごすのですわ!

 ああ、いい!いいわ!!素晴らしいかいそうというものですわ!!


 トスファは口を開け涎を垂らしている。そのだらしのない口に引っ張られ、目も蕩けさせている。

 キヲクはそれを見て、引くことなく冷静に分析していた。



(ふむ…これはあれだな。雑念や邪念といったものが彼女の集中を妨げているな。これは精神の鍛練が先だな)


 しかし僕も精神系は苦手なのだ。

 苦手なものを教えられるのか、だって?

 ふふ、僕を誰だと思ってる?そういうときはこうするんだよ!

「上手くいったときはご褒美をあげよう!」


 その言葉でトスファの体がぴくっと反応したのを見逃さなかった。

 狙い通りだと、わざとらしく口角が上がる。


 これだと余計雑念が生まれるんじゃないかって?違うんだよ、逆なんだ。

 彼女みたいなタイプの場合、こう言ってあげた方が逆に集中するんだ。

 何故かって?僕が同じだったからだよ!

 …言ってて恥ずかしいな。



「…ごほうび?」


 ゆらりと振り向いたトスファの目は怪しく光っていた。

 だが自分の策に溺れているキヲクにはいつも通りの彼女に見えていた。


「ああ、なんでもね!」

 こうやって言うと、ん?って反応する奴いるけど、異世界なら大丈夫だろ。


 …そう考えていた時期が僕にもありました。


 不敵な笑いを浮かべている二人。

 彼らを見守る木々がざわざわと枝を揺らし始めていた。






「火が!火が手のひらに!どうすればいいのです?!」


 上に向けたトスファの手のひらには赤い球体が存在していた。

 その中では赤い火が円を描くように周り続けている。

 収まりきらないのか、その一部が炎のように黄色く燃え出ていた。

 

 彼女は慌てた様子を見せてはいるものの、熱さは感じていないようだった。


 ややパニック状態になって右手を振り回してる彼女。

 だけど、火の玉は付かず離れずといった感じで、彼女の手から離れない。


 キヲクは危険を感じながらも打開策を求めて、視線を彷徨わせていた。



「え、えーと…あ!あんなところに都合のいい魔物が!投げつけるんだ!」


「ええーい!ですわ!」


 とても運動ができるとは思えないようなゆったりした動きで魔物に向け腕を振る。

 そんな遅い動きにもかかわらず、火の玉は野球選手もビックリの豪速球で魔物に飛んでいく。

 周囲の空気を取り込んで炎の勢いを増しながら、轟音を唸らせ更に加速した。



(おー燃えとる…)

 ――――って簡単にやったな?!ご褒美効果すごすぎだろ?!


 最後の叫びをする間もなく命を終えた魔物は元がどんな姿か分からない。

 キヲクの目の前にはすでに肉塊となったソレが炎に包まれていた。


 キャンプファイヤーを眺めているのかのように呆然としていたキヲクだったが――――


 あーー消火しないと森林火災に?!

「つ、次は水!水を思い描いて燃えてる魔物にかけて!」



「分かりましたわ!そーれ!」


 トスファは先程と同じように水の玉を作り出した。

 それを緩い動きで投げると、火の玉の時とは違い、弧を描いて飛んでいく。

 それが中空で水風船が割れるように弾け、玉の大きさに釣り合わない大量の水が出てくる。

 濁流にのまれるかのように炎は瞬く間に消えた。


 役目を終えた水は消えるように地面に吸い込まれていく。

 あとには黒くなった地面だけが残っていた。



(ふー消火完了っと…)


 熱さでかいたわけではない額の汗を拭う。

 その腕に付いた汗をその時の感情と一緒に振り落とす。


 それにしても、いきなり二つもか。

 これなら全属性いけるな!そしていずれは2属性合成魔法も…。

 おや?トスファさん?目がギラリと輝いてますよ?どうされたんですか?


 いつものように妄想に入ろうとしたが、視界の隅に青く光るものが紛れ込んでいた。


「ごほうび……ごほうびですわあ!!」

 うふふふ。何にしましょうか?

 やっぱりアレしかないですわよね?アレしか!


 トスファはゾンビのように手を前に構え、これまたゾンビのようにゆっくりと迫っていく。

 捕食対象のキヲクは何もできないモブのように後退っていた。



(いかん!身の危険を感じる!一体何をねだる気なんだ?!)


 彼の脳は薄い本に影響を受けすぎてピンク色に染まろうとしていた。


 これはまずい。何とか話を逸らさないと…そうだ!

「今のではまだ駄目だよ?魔力を頭で想像したものに変えただけだ。自在に操れるようならないと…さっきのは投げつけただけだからね」

 投げるのではなく自らの意思で標的へ向け飛ばす。その方が魔法っぽいしね。




(おー…、かなり離れたところにいる魔物が燃えとる…)

 いつもなら説明セリフ乙って言うんだけど。あ、消火まで完璧だー。


 人差し指を立ててそれっぽく説明した格好のまま、キヲクの体が固まっていた。

 トスファは彼の言葉を受けてすぐさま行動に移した――――その結果だ。



 時間にしてものの数分といったところか。こっちの時間基準は分かりませんがね。

 ――――ってこれじゃ時間稼ぎにならNEEEEEEEE!


「ごほうびって言いましたよね?なんでもって言いましたよね?」


 再度詰め寄るトスファは野獣の眼光を見せていた。

 彼女の言葉からは色欲しか感じられないキヲクだった。

 しかし余裕を見せるのが我らがキヲク。

 ――――ハァ。



 ん?今なんでもって……セルフで言ってんじゃねーよ!自分がそれ言ってどうするんだよ!

 てか、後先考えずそういう事言うのやめろよ!


「もしかして……うそですの?」


 あああ、なんか闇落ちオーラを感じる。

 僕の彼女がヤンデレすぎる件について、ってラノベありそうですな。


 目の前で腕をだらりと下げて、大げさに落ち込んでいるトスファを目の前にしてもこれだ。

 目に入る頭頂部からもその落ち込み様が分かるだろうに。

 ――――ハァ。



 いや、そうじゃなくて。

 このままだとフウマみたいになっちゃうんじゃ?

 えぇーい!覚悟を決めろ僕!


 さわやかな笑顔を作る。

 女友達の驕り催促から逃れるために手に入れた匠の技。

 もちろん使ったのはこれが初めて。


「もちろん、忘れてなんかないよ?それでトスファはどうしてほしいんだい?」

 なんか僕が言いそうにないことを言わされてる感がががが。黒歴史になりそうですよ。



「……口づけを」

 私たちは結ばれた二人!それなのに、それなのに!まだ一度も!されてませんわ!


 心意気とは裏腹に、彼女は顔面を真っ赤にし目を逸らして、望みを告げる。

 キヲクはボケーっと突っ立って、目をぱちくりとさせていた。



 えーと……?クチヅケって?


 脳内辞書検索!口づけとは。

 ① 唇で触れること。接吻せつぷん。キス。くちつけ。

 ② 言い続けにすること。くちぐせ。


 なるほど!2番だな!

 いや、さすがにそれはないわ。

 どう考えても1だろう。これはさすがに勘違いしないわ。

「……目を閉じて」


 言われたとおりに目を閉じるトスファ。その唇は震えていた。

 キヲクは彼女が見えていないことを確認してから、胸の高さにある彼女の肩にそっと手を置いた。




 ああ、彼の優しさが伝わりますわ。触れているだけで彼のすべてが伝わってくる。

 私たちは今!本当の意味で結ばれたのですわ!


 事を終えたトスファは頬を両手で押さえている。

 熱くなった顔は感触を思いだす度に更に熱くなる。



 ふぅ…。あっちじゃこんなこと女友達ともしないけど、海外じゃ普通にあるみたいだしな。

 しかしトスファも甘えん坊だよな。子供っぽいところとか。

 おでこにキスなんて初めてしたわ!もう心臓バクバク!DTにはなかなかの試練だったわ。

 それにお姫様もお気に召したようで何よりです。


 違う。そこじゃない。

 ――――ハァ。

 

 む…木々たちがそのざわめきで以てブーイングしてるな?

 君たち、もっとよく見たまえ!1のところに書いてあるだろう?『唇で触れること』と!

 うおっ!なんか余計に激しく…おや?



(うふふ、あはははは!もっと、もっとよお!!私たちをもっと盛大に祝福なさい!!)


 トスファが両手を上にあげ、その祝福を一身に浴びようとしているようだ。

 しかしその手から溢れる魔力が風と合わさり、竜巻のように渦巻いていた。



(彼女が風を操っていたのか…。テレビで見たことあるつむじ風みたいになってる)


 う……なんかスイッチ入ってる?

 似たようなの見なかったか?

 確か…ナディも。


 激しく靡いている服と相まって、ナディとトスファの姿が重なる。

 背の高さ以外は、イっちゃってる顔を含めて一致していた。

 

 しかしわずかな思考の時間すら許さんと、その激しさが勢いを増している。


(おいおい…これヤバくないか?)


 複数あったつむじ風がそれぞれの距離を狭めていた。

 それらは決して反発することなく、絡み合うように一つになろうとしていた。


(台風発生レベルでは?!早く止めないと…!けど、どうやって…?!)



 ピコーン!鮃板!


 悩んだ時間わずか3秒。驚きの閃き力を発揮。




 彼女を刺激しないよう後ろから近づき…そしてガバッと!

 それが華麗に決まったところでとどめの一撃!

「ほら…怖くない。怖くない。ねっ?」

 耳元へのささやき攻撃だぁ!!


 なぜこんな手段とったし?!傍から見たら変質者やん!これは言い逃れできない案件ですよ!


 行動を実行してから気づく。

 体のあちこちで汗が滝のように噴き出ている。

 今も近づいてきている恐怖の風とは別の物を感じ、顔が青ざめていく気がする。

 

 そんなキヲクの腕にトスファの手が触れた。


 そんな…後ろから抱き着いてくるなんて!お外でこんな…!

 王子様は時々情熱的で大胆ですわね!

 私をどうしたいのかしら?


 期待に胸が膨らみ手に力が入る。トスファは愛おしそうに彼の腕に頬を摺り寄せていた。



(風が…止んだ?なんとかなったのか…?)


 ふぅ…これは反省すべきことだな。彼女の魔力を見誤っていた。いや素人考えだったと認めよう。

 まるで自然そのものを操っているみたいだったな。

 確かにこれは封印しないと世界を相手にするのも容易な魔力では?妬ましい!

 そういえば彼女が魔物相手に使っていた魔力吸引するやつ…あれは封印の元となったやつでは?

 それだったら逆も可能?

 例えば僕の魔力を元に戻したりとか…。

 いや時代が違うし無理か。

 でもスライムちゃんといちゃついてた時に脱力したのは多分それだから…。


「……キオク?キオク!」


 おっと!妄想力が遺憾なく発揮されていたわ。えっと?何してたっけ……?


 そこでようやく自分以外のぬくもりと匂いに気付く。


 うぉっい?!彼女に抱き着いたままじゃねーか!あばあば…。


 頭が錯乱し体が動かない。

 だけど彼女は怒った様子を見せず、僕の姿を確認するためか、目一杯首を動かしてこちらを見ようとしていた。



「続き……しませんの?」


 つづき?

 ああ!そうか!魔法教えてたな!

 でもどうする?また暴走したら…?

 と…その前に。離れろよ?!なに彼女の体を堪能してんだよ?!


 思いと行動が一致しない。

 次々に上書きされているせいだ。


 でも女の子の体ってなんでこんなに柔らかいんだろうな?

 それにいい匂い…お風呂ないのに。

 もうずっとこのままでいたい…。


 DA・KA・RA!やってるのは変質者のソレだから!とりあえず離れるんだよ!


 がばと手を離し、距離もとる。

 高めのDT力が思いの力を凌駕した。

 


 なぜ離れてしまうのですの?私はお外でも構いませんのよ?


 彼女は一瞬悲しそうな視線を送るが、すぐにいつもの顔になる。


 そうでした。彼は王子様でしたわね。お外だとはしたないですものね。

 ご褒美もいただきましたし、あまりわがままを言ってはダメですわよね?

「次はどうしましょう?」



 キヲクは面食らっていた。

 一瞬彼女が何を言っているのか理解できなかった。

 彼女が向けてくる笑顔にも。



(へ?ああ、次ね)


 怒らないんだな。これもスキンシップの一環ってことかな。

 まぁなんにせよ助かります。


 しかし困ったように頬を掻いている。彼の表情はなかなか優れない。


 でも、次かぁ。このまま続けるのは危険な気がするな。一度プランを練り直した方がいいかもしれない。

「続きは明日にして…食べるものでも取ってこようか。ほら」


 トスファの顔がぱあっと更に明るくなった。

 それが感染したようにキヲクも笑顔になる。



 青々とした空が照らす森の中を繋がった二つの影が動いていた。


 その二つの影が通った後には、燃やされた何か、水圧で潰された何か、風で切り刻まれた何かが残っていた。

 そしてそれらは人知れず土へと還っていった…。



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