表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

清楚なんて外だけで充分です 2

 雄助がアイスを買いに行った直後のこと。


「キンキンに冷えたスイカが冷蔵庫にあったんだけどさぁ、縁側辺りで食べないかい?」


 離れの二階から降りてきたその少女は、深緑のタンクトップにラフに切りそろえられたショートパンツ姿でミコトの前に仁王立ちしている。ちなみに片手には立派な得物を持っていた。20センチを超える中華包丁は最近じゃなかなか見ない。


 芯には作家の銘が入ってる正真正銘の業物だ。


「あー、雄助がさあ、アイス買いに行ったから待ってるんだよねぇ」


「えっ、そうなのかい? だが、それなら食べながら待ってるのはどうかな。氏もそのくらいで怒るような人じゃないし」


 少しばかり迷ったが、行かせた手前、さすがに待っていたいと思うミコトだった。


「んー、そうだなぁ。でも辞めとくわ、あいつに悪いし。誘ってくれてあんがと、みーこ」


「承知した。それでは切り分けて冷蔵庫へいれとくことにするよ」


 みーこと呼ばれた弥子みこは、そう言うと台所へ戻っていった。シャクシャクと小気味いい音と、種にあたるカチッという音がしばらく聞こえる。少し経って、スイカをのせたお盆を持ってくると、蚊取り線香を縁側に寄せて、その一角を陣取った。


「こういうのはやっぱ縁側ならではだよね」


 弥子はそう言いながら、口から種をぷいっと吹き飛ばす。種はクルクル回りながら放物線を描いてストンと落ちた。


「行儀わりぃなぁ」


「そう言いながらも寄って来てるじゃあないか。食べたくなったんだろう?」


「うるせえなぁ」


 軽口を言い合いながらも、ミコトはお盆に手を伸ばす。そして丁度よい大きさのを取ると、弥子の隣に腰かけて頬ばった。


「こう見せつけられて食いたくない奴なんて居ねえっつの」


 そう喋りながら、リズミカルに種を飛ばす。


 4分音符、付点4分音符と、ある音楽を頭の中で浮かべながら。


「革命かい?」


「当り。みーこは目ざといよなぁ」


「観察してるだけなんだがねー」


「さすが推理オタク……これで眼鏡をかけて紅白のスニーカーを履けば完璧なんだがな!」


 快活に笑って種をぷっぷっと飛ばす。もはや革命は瓦解した!(演奏記録:10秒)


「どこぞの天才チビッコ少年と一緒にしないでくれたまえよっ。こっちは作り手、あっちは探偵。領分が違う」


 鼻を鳴らしながら腕を組む弥子。ほどなくして具合が悪いのか、調子が狂うな、等とぼやきながら腕を逆にして組み直す。


「でもwanna be(志望者)だろ?」


「失礼な。本気も本気だよ。ただ、私は()()も大切にするだけだ」


 雅致とは【風流な趣】という意味を持つ。つまり弥子は粋を尊ぶ文学少女なのだ。


「ほんと掛詞すきねえ」


 そこで、話が切れた。


 ミコトは足の指先で砂地に絵を描きはじめ、弥子は塩気が欲しくなったと言って台所に下がった。


 戻ってくるとまた軽口合戦になったが、さっきよりも言葉は少なく気はあらくなってきた。


「こっちは別に行けなんてゆーすけに言ってねえって言ってるだろうがっ!」


「君のそういう態度が、彼をあんな遠路に行かせるように仕向けたんじゃないかと、私はそう言ってるだけだ」


 この2人は熱くなり易い。弁が立つのは弥子だが、勢いがあるのはミコトなので、いつもギスギスする。


「ホントお前ら、似たもの同士というか。喧嘩以外にすることねえのか、喧嘩マニアか、ミコト、みーこ」


 だからこそ、その原因が目の前にやって来ると、取り繕おうと必死になって言葉に詰まり、何も言葉が出なくなる。しおらしくなろうとヘタに空回る。その結果が、この惨状だ。


 2人とも下を向いて、目線が泳いで定まらない。言葉も出るには出るが、意味を持たない有声休止が大半だ。


「なんだかなぁ。ほら、アイス。みーこの分も買ってきたから3人で一緒に食べよ?」


 だから雄助はいつも、こんな立ち回りになる。


 彼女たちに振り回されながら、母親にも似た世話を焼く。


「ミコト、また膝で畳を歩いただろ。膝に畳の跡が付いてる」


 時にはクスッと笑わせ、


「それからみーこ、幾らなんでも塩かけ過ぎ。将来病気になるから止しなとあれほど……」


 勿論、フォローは欠かさない。


「まあ、こんなんだから貰い手が居ないんだけどな!」


「氏は重いからねえ、何がとは言わないが、愛が」


「うるせえ! 余計なお世話だ! それとなぁ……重い言うなぁっ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ